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デス隊との決着

 朱利架のスピードは、前より上がっている。

 椎名と玉蘭、二人の仲間が消えた怒りのせいか。

 それとも、ここで頑張らなきゃ申し訳ないという思いのせいか。

 いずれにせよ、残ったデス隊は朱利架たった一人。

 それに立ち向かうのは、さっきまで相手をしていたジース。


 ビュン。


 斧の動きがまるで風を切るように迫って来る。

 ジースは、ひたすら回避戦闘に追われていた。


「ジース!」


 アヤが心配して声援を送る。

 それに応えたジースが、ニコッと笑いながら右手の親指を立てた。

 アヤの顔に笑みがもれる。

 何故なら、今ジースが示したのは、大丈夫というサインなのだから。


(大丈夫、大丈夫よね。ジースは強いから)


 それでも女心としては、少し心配な心境なのであろう。

 彼女は胸の前で手を抱き、祈るポーズを見せた。


(勝って、ジース。みんなの為に……)


 ビュン、ビュン、ビュン。


 朱利架が斧を振り回す。

 円を描くみたいなその動きにつられて、風が小刻みに回転し始めた。


「フンフンフンフン、フウン!」


 斧は目にも止まらぬ速さで回転している。

 小石や砂まで風に吸い付けられ、空に舞い上がっていった。


「!!」


 ジースはすぐさま気づいて、その場を離れようとした。

 だがーー、


「フハハハハハ。逃げても無駄だ。お前はもう俺の術中にはまってしまったのだあっ!」

「何ッ! こ、これは……」


 見ると、ジースの足元に小さな竜巻が発生していた。

 足が絡み取られて、動きを封じられてしまう。


「うっ」

「フフフ。行くぞ!」


 朱利架は、斧の回転を止め、今度は斧を突き上げた。

 一気に、竜巻が巨大になる。


 ゴゴコゴゴコ。


「ジース!」

「うわああああっ!」


 竜巻はジースを閉じ込めたまま、天まで伸びた。

 朱利架が微笑む。


「フッ。馬鹿な奴よ。その竜巻からお前はもう一歩も出ることはできない。さぁ、そのまま死ぬがいい!」


 風で体が回転して、服が破ける。

 息が苦しく、意識がボーッとしてきた。


「そろそろか」


 ジースが静かになったのを確認して、朱利架が竜巻を消す。

 空高く上がっていたジースの体は、一直線に落ちて来た。


「まだだ!」


 ジースは雷光剣を地面に真っ直ぐ突き立て、その反動により激突を避けた。さらにそのまま、朱利架の顔面にキックを浴びせる。

 ジースが落ちて来た所にトドメを刺そうと待ち構えていた朱利架は、不意をつかれ吹き飛ぶ。

 驚いた朱利架は言った。


「お前、気絶したふりをしていたのか?」

「正直ヤバかったけどな。お前の目を誤魔化す位の事はできただろ」

「くっ。しかし、俺の竜巻の威力で、だいぶダメージを受けたんじゃないか? それでどこまで戦える?」

「……ああ、そうだな」


 朱利架の言うとおり、ジースは剣を支えに立っている。朱利架も立ち上がり、斧を構えた。


 ダッ!


 再び、斧の猛攻が始まる。ジースは剣でガードしながら隙を伺うが、逆に剣を弾かれてしまう。


「今だ!」


 斧の一撃が、ジースの腹を斬った。

 赤い血で地面が染まる。

 ジースはそのまま倒れた。


「嫌あああっ! ジースぅ!」


 アヤが悲鳴を上げてその場で泣きじゃくる。

 綾乃が側に来て、彼女を落ちつかせた。


「大丈夫よアヤ。あなたの大切な人は、こんな所で負けたりはしないわ。だから前を見て。ちゃんと彼を信じて応援してあげなきゃ」

「う、うん……」


 綾乃の言葉通り、ジースはまだ死んではいなかった。

 懸命に立ち上がろうとする姿が、アヤの胸を打つ。

 そして、美理子の心に響いた。

 美理子の中から、サイーダから受け継いだ力が溢れ、ジースを包む。


「美理子……」


 優しい気が、ジースの傷を癒していく。

 が、邪兵士の邪魔が入り、完璧に彼の傷を治す事はできなかった。

 それでも、ジースは立ち上がり、剣を拾う。

 朱利架は後ずさりをした。


「雷光剣よ。俺に力を貸してくれ!」


 ジースの祈りに応え、雷光剣が輝き出す。

 今度は、朱利架がガードの構えをとった。

 ジースはありったけの気を込め、必殺技を放った。


「雷光、衝撃波!」


 雷の光が集まった強いエネルギーが、朱利架の斧に当たる。朱利架は気を溜めて、衝撃波を押し返そうと踏ん張った。


「ぬうううううんっ!」


 だが、ジースの思いを込めた衝撃波だ。はっきり言ってデカい。朱利架の顔に苦痛の色が見えた。


 ボキッ。


 斧が折れた。

 衝撃波ごと朱利架の体は飛ばされる。

 地面には引きずられた跡が残った。

 仰向けのまましばらくピクピク痙攣していたが、やがてふらふらと立った。

 だが、もう戦えないだろう。

 最後の気力というものか。

 折れた斧の柄を拾い歩いて来る。


 ビュッ。


 気合いを入れた斧の最後の一振り。

 ジースの肩をかすめた。

 ジースは腰を落とし雷光剣を真っ直ぐ朱利架の腹に突き刺す。

 流れる赤い血が勝利を刻んだ。

 声もなく朱利架は倒れ、そのまま目を閉じた。


「ジース……」


 アヤが駆けつけた時、ジースは意識を失いかけ、倒れそうになっていた。

 すぐアヤが彼を支える。


「大丈夫?」

「……ああ」


 心配する彼女を安心させようと、ジースは微笑んで見せた。

 アヤは涙目になっている。


「……馬鹿」


 彼女はジースを木陰に横にする。

 美理子や美衣子が手を離せないと知った女官が城から飛び出し、ジースを手当てする。

 パンパンがアヤに向かって言った。


「アヤさん、そのままゆっくりジースと休んでいて。後は僕らに任せてよ」


 パンパンは美衣子と美理子の元へ行く。

 二人は残った敵、アージェス・サタンと睨み合っていた。

 邪兵士は全て、うさちゃん達によって片付けられている。

 アージェスが自信満々に言った。


「まさか、デス隊がこんなにあっさり殺られてしまうとはな。さすがは長い戦いを経験しているmirikoworldの戦士達と言えよう。が、俺は闇の洗礼を受け力を上げている。お前達が束になってかかって来ても俺は倒せまい。もし、そんな愚か者がいるのならかかって来い! 一人残らず切り刻んでやるわ。ハーッハッハッハ!」


 その態度に腹がたった美衣子と美理子は叫んでいた。


「アージェス。わたしは今でもあなたに好意を抱いています。けれど今は、あなたのその闇の力を封じる為に全力を尽くします」

「わたしは、何故美理子があなたを好きになったのか分からないけれど、ただ一つ言える事は、彼女の為にも、あなたを止める事が先決だと思うの。それがわたしの美理子への友情の証であり、今まで一緒に戦ってくれた感謝の気持ちでもあるの。だから、あなたには負けない!」


 二人の決意は固かった。

 その思いは他のみんなにも伝わったらしく、聖戦士達はみな、ジースとアヤの所に集まりつつあった。

 動物トリオの三匹も、綾乃が抱いて移動させていた。

 つまり、アージェスとの戦いは、美衣子と美理子二人に任せるという事であろう。

 パンパンも、名残惜しそうに離れた。


「みーこ。危なくなったら、助けに来るからね」

「うん、パンパン!」


 三人の息づかいが聞こえる。

 徐々に間合いを詰めているようだ。

 勝利を掴むには、相手の一瞬の隙をつくしかない。

 パンパン、うさちゃん、綾乃、ジース、アヤ。小人達、妖精達。

 みんなが見守る中、三人が動き出す。


 ダッ!


 アージェス・サタンが、美衣子が、美理子が、風を切って勢いよく飛び出して行く。

 彼らの操る剣は大きく弧を描いて、火花を散らしていた。
















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