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逆転!シルバーウルフ

 戦いが再開されてから、すでに20分が過ぎようとしていた。

 向こうではワンメーが素早く動き回り、玉蘭が投げるブーメランなどかすりもしない。

 そして玉蘭が当てようと焦っている所へ、足元からカン&リースの必殺牙攻撃。

 最後にワンメーの体当たり。

 動物トリオのこの技は、敵の動きを見ながら、自分たちの気持ちを合わせないといけない。その為普段は失敗する事もあるのだが、今日は気持ちがいいほど上手くいった。

 そんな玉蘭を横から椎名がなじる。


「玉蘭、何やってるの。そんな攻撃ぐらい避けなさい!」


 だが、椎名は後から悔やむ事になる。

 動物トリオを馬鹿にした事で彼らを怒らせ、手痛い反撃を食らう事になるのだから。

 実際、ワンメー、カン、リースは物凄く怒っていた。


「何よォ。アタシ達を馬鹿にしてェ」

「そうだよ」

「ボク達の〜〜、強さを〜〜、思い知らせてやろうよ〜〜」

「オッケー!」


 動物トリオの動きが止まる。

 と、同時に彼らの毛が逆立つ。


「な、何が起こるの?」

「さぁ」


 驚く椎名と玉蘭。

 次の瞬間、二人は口をあんぐりと開けて立ち止まってしまった。

 動物トリオの体が光っている。

 気が充満して、溢れ出しているのだ。

 三匹はそのまま一つに重なる。


「合体! 聖獣シルバーウルフ!」


 パアアアアア……。


 身体中から光が満ち溢れている銀色の狼。

 なんだ、ただの狼じゃん、と思っている方もいるだろう。

 が、それは違う。

 シルバーウルフは、三匹の良い所が混じっているのだ。

 ワンメーの素早さに、カン&リースの牙、そして、最大の武器である一撃の針の爪。

 一撃の針とは、敵を一撃で倒すと言われる毒針だ。


「あ……」


 玉蘭と椎名は、完全に動きが止まっている。

 視線はもう目の前のシルバーウルフに釘付け。

 そんな二人に渇を入れようと、アージェスが叫んだ。


「ぼうっとするな二人とも。仕掛けて来るぞ!」


 ハッと我に返る椎名達。

 慌てて身構える。


 ダッ!


 仕掛けたのはシルバーウルフの方が早かった。


 ビュン。


 椎名と玉蘭。二人の目もついていけない程駆け回る。駆け回る。

 そのスピードは先程とは比べものにならない。

 敵の二人も必死に追いかけるが、その武器も当たらない。

 こうなったらもうこちらのペース。

 シルバーウルフは気配を消し、二人の背後に忍び寄った。


「はっ……!」


 椎名が気づくが、時すでに遅かったようだ。

 シルバーウルフ最大の武器である、一撃の針の爪が近づいて来ていた。


「痛ッ……!」


 容赦もなくそれは玉蘭の背中に、


 ブスッ。


 深々と突き刺さった。

 彼の手からブーメランが落ちる。

 そして彼の体も倒れた。

 顔面蒼白。完全に血の気は失せている。

 まさに一瞬の出来事であった。


「玉蘭ッ!」

「うう……」


 震える手でブーメランを握る。

 まだ、玉蘭は生きていた。

 椎名に手伝ってもらい距離を取り、ふらふらと立ち上がる。


「さすがデス隊。一撃では死なないようだね」


 シルバーウルフが走る準備をしている。

 ブーメランが投げられた。


 フッ。


 当たった。と思ったシルバーウルフの姿が消えた。


「残念ながら、残像だよ」


 シルバーウルフはもう目の前にいる。


「玉蘭、逃げて!」

「君は強かったよ。だけど、さよならだよ」


 シルバーウルフの牙が、玉蘭の首を噛む。

 血が流れた。

 玉蘭はピクリと痙攣して倒れ、動かなくなった。


「あ、あ、嫌あああっ!」


 残った椎名もピンチにさらされる。

 何とか一つ目の攻撃は避けた。


「はあ、はあ、はあ……」


 二つ目、三つ目と攻撃を避けて、後ろへと逃げて行く椎名。

 だが、その後ろがまずかった。

 なんと、城の塀にぶつかってしまったのだ。

 つまり行き止まりだ。


「あ、ああ……」


 後ろは壁。

 前はシルバーウルフ。

 絶体絶命のピンチが、彼女に迫る。


 ブルブルブル。


 彼女の体に、これまで感じた事のない衝撃が走った。


「震えている。こ、このわたしが……」


 この時彼女は理解した。

 動物トリオの本当の強さを。

 決して弱いなんて、馬鹿にしてはいけなかったと。

 それでも、彼女は最後の力で戦おうとした。

 自信があった訳ではない。

 最後なら最後らしく、戦士として、デス隊の一員としての誇りを持って死にたかった。

 一撃でもいい。最後に一花咲かせたいという思いが、今の椎名を支えていた。


「わ、わたしはダーク帝国デス隊、疾風(はやて)の椎名!」


 そう言って彼女は飛び出し、そして、


 ブスッ。


 激痛が彼女の体を貫いた。

 手に持っていたヌンチャクも、シルバーウルフには届かないまま。


「アージェス……、様……」


 アージェスを見つめながら彼女は息絶えた。

 その死に顔には、デス隊としての使命を終えた一種の安堵感みたいな物が現れていた。


「玉蘭、椎名ッ!」


 アージェスが嘆く。

 自分の大切な部下が、二人も殺られてしまったのだ。


「許さんぞ。お前……!」


 剣を構えた。

 美衣子が危険を察し、シルバーウルフの元へ走る。


「ブラッディ・クロス!」


 十字型の黒い気が、シルバーウルフに直撃する。

 合体は解け、ワンメー、カン、リースが地に転がる。


「みんな!」


 美衣子が三匹の様子を見る。

 気絶しているようだ。

 回復魔法でケガを治す。

 美理子達もこっちへ来た。


「ワンメー達は、このまましばらく休ませておきましょう。それよりも………」


 アヤの言葉に美衣子は頷く。


「アージェスと、朱利架を何とかしないと」


 聖戦士達は二人を見た。

 黒い気を纏い立っている二人。

 怒りが混じり、朱利架の肩が震えている。

 椎名と玉蘭の勇ましい死に方に、奮い立ったのだろう。


「うおおおおおっ!」


 突然発狂した。

 赤い目に、涙が浮かんでいる。


「朱利架、殺れ」


 アージェスの言葉を受け、斧を構えやって来る。


 ザッ。


 ジースが前に出た。





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