聖戦士達の怒り
美理子が右手の人差し指に意識を集中する。
シュウウウウウ……。
空気中の水蒸気が集まって来る。
やがてそれは一本の光線となり、椎名に向かって発射された。
「アクアビーム!」
水の光線は椎名の体を僅かに外れ、遠くに飛び散った。
それを合図にしたかのように、うさちゃんの攻撃が始まる。
目を閉じて、気を高める。
彼女の後ろに見えるのは、無数の星のビジョン?
いや、あれは宇宙。銀河系に煌めくたくさんの光の粒。
うさちゃんの両手が光り出す。
そして、目を開けて放たれた物は、
「スターライトイリュージョン!」
まるで流星のような激しい光の光線が、朱利架に向かって行った。
これがうさちゃんの、セビュン・ボティス、ファンタジードリームスに次ぐ第三の必殺技。
彼女の本当の実力が発揮されたのだ。
ダッ!
朱利架が、その攻撃を避けようと早足で逃げる。
「くっ……」
しかしうさちゃんも負けてはいない。
数打ちゃ当たるという位に、次々飛んで行く光の光線は朱利架を逃さず、その体に命中した。
「朱利架!」
その場に倒れる朱利架を見て、椎名が叫ぶ。
そして彼を助けに行こうとした。
けれど、その前に美理子が立ち塞がる。
「!!」
椎名の隙を逃さず発射された美理子のアクアビーム。
見事に決まった。
「朱利架! 椎名!」
玉蘭の叫び。
だが、二人とも動かない。
美理子は、倒れた彼らの懐から美衣子を救うという解毒剤を取り出した。
そのまま美衣子の元へと駆け出す直前。
後ろから何かの気配がする。
この気は、まさか?
「危ない!」
ジースが美理子の体を横に弾き飛ばす。
朱利架の斧が、地面を裂いた。
やはり、思ったとおりだ。
朱利架と椎名、あの二人はまだ、倒れてはいなかった。
さすがはダーク帝国で王子アージェス・サタンの側近としての名誉を与えられているデス隊のメンバーである。
「美理子!」
立ち上がった女王、美理子にジースが言う。
「美理子、ここは俺が何とかする。その間に君は、早くみーこにその解毒剤を飲ませるんだ!」
「分かったわ!」
今は少しの時間も惜しい。美理子はジースの言うことを聞き、美衣子を助ける方法を取った。
「そんな事、させるもんですか!」
椎名と朱利架、二人のダブル攻撃。
「アヤ、俺達も」
「ええ!」
美理子に美衣子を任せ、ジースとアヤも出撃して行く。
「邪兵士達よ!」
アージェスの命令により、邪兵士達が美理子の邪魔をした。
「アージェス、あなた……」
邪兵士に行く手を阻まれ、美衣子の所にたどり着けない美理子が、アージェスに文句を言う。
「どうした? 俺と玉蘭は確かに手を出さないと言った。が、邪兵士の事は、何も言ってないぞ。つまり、邪兵士はいくら動かしてもいいって事だ」
「くっ……」
汚い。これがアージェスの、ダーク帝国のやり方か。美理子は、ぐっと唇を噛んだ。
「いいのか女王よ。メシアが死ぬぞ」
「分かってるわよ!」
美理子の怒りが頂点に達した。
気が、膨らんで行く。
「アイソトニックブリザード!」
目の前の邪兵士を吹き飛ばした。が、邪兵士はまた現れる。
「邪魔しないで!」
後ろにいた邪兵士に手を捕まれて動けなくなる前に、美理子は解毒剤を空に放り投げた。
「パンパン、綾乃さん。お願い!」
綺麗な放物線を描き解毒剤は二人の元に降りて来た。
美理子のコントロールはなかなかだ。
二人は見事にキャッチする。
そしてすぐさま調合し始めた。
邪兵士は美理子を押さえつけ、半数はパンパン達の邪魔をしようとする。
ビュン。
うさちゃんのナイフが飛んで来た。
誰にも邪魔はさせない。
「ワンメー、カン、リース。フェア、リィ。ジェル、マーキス。わたし達で邪兵士をおさえるのよ!」
「分かった!」
うさちゃんの指揮にみんなが従う。
美理子は邪兵士に拘束されて動けない。
「みーこ、みーこ」
調合し終わった解毒剤をパンパンが美衣子に飲ませようとする。が、口元に持っていっても、彼女は意識がなく、飲み込む事ができない。
「一体、どうすれば……」
もう時間がない。
パンパンは少し考えた後、綾乃に少し横を向いていて欲しいと頼んだ。
その顔は赤くなっている。
綾乃はそれで、彼がこれから何をやろうとしているのかを理解した。
アージェスと玉蘭も美理子達の動きが気になってこっちを見ていない。
綾乃が横を向いた後、パンパンは解毒剤を自分の口に含む。
そして美衣子の頭部を右腕で持ち上げ、
チュッ。
口移しで解毒剤を美衣子の喉に流し込んだ。
そうっと唇を離し、美衣子の顔色を見てみる。
青白かった顔に、少しずつ血色が戻ってきた。
解毒剤は効いているみたいだ。
やがて、
「う、ううん」
パンパンの膝の上で、美衣子は目を開けた。
どうやらギリギリの所で、彼女の命は救われたらしい。
「みーこ!」
「美衣子ちゃん!」
パンパンと綾乃が嬉しそうな笑顔で覗き込む。
美衣子は訳が分からない。
ただ、パンパンの顔が凄く近くに見えたのと、モチッとした柔らかい頭の下の感触から考えると、
「ぱ、パンパンの膝枕ッ!」
との結論に至り、美衣子は慌てて飛び起きた。
恥ずかしさで頬がポワッとしている。
「え〜〜。もうちょっとこのままでも良かったのに」
と言うパンパンの残念そうな声を聞きながら綾乃が説明する。
「美衣子ちゃん。実はあなたは、あの玉蘭が投げたブーメランの毒にやられて、生死の境をさ迷っていらっしゃいましたの。解毒剤は、あの女、椎名と、大男の朱利架が持っていたのです。それをクイーン美理子様が奪って下さいましたの」
「じゃあ、美理子がわたしを?」
「いいえ。直接あなたに解毒剤を飲ませたのは、パンパン君ですわ。それも特別な方法で」
「ちょ、ちょっと綾乃。ストップ! それに、まだ怒りが治まっていないみたいだね」
全てを言いかけた綾乃をパンパンが止める。
綾乃は、心を落ち着かせようと深呼吸した。
「ええ、わたくし自身に腹が立っているのですわ。デス隊の事も良く知っているのに、美衣子ちゃんをこのような目にあわせて。でも、もう大丈夫。美衣子ちゃんも気がついたし」
「怒りって? もしかして綾乃さん、わたしに……」
「あ、違うよみーこ。綾乃は怒りモードになると、ダーク帝国にいた時の喋り方になるらしいんだ。君に怒っている訳じゃないよ」
「ええ。あなたは悪くないの」
「そうなんだ。癖みたいな物かな? それよりごめんなさい。迷惑かけて」
「いえ、いいのよ」
「それと……」
美衣子に見つめられて、パンパンはドキッとする。
「パンパン。特別な方法って何?」
「そ、それは……」
しどろもどろになるパンパンに代わって、綾乃が美衣子に伝える。
「パンパン君はね、口移しであなたに解毒剤を飲ませたのよ」
「え?」
「く・ち・う・つ・し」
「えええええっ!?」
一気に顔が赤くなる。
パンパンも真っ赤になっていた。
まともに顔が見れない、恥ずかしい、けれど。
「ありがとう、パンパン……」
「うん……」
そんな二人を微笑ましい様子で見つめていた綾乃だったのだが、急に真面目な顔つきになった。
「二人ともそろそろいい? まだ美理子様達がダーク帝国と戦っているの」
美衣子が綾乃の隣に来て戦いを眺める。
ジースが、朱利架の斧を剣で受けとめていた。
いくら朱利架の体格がよく力があったとしても、ジースだって戦い慣れた立派な剣士。
そう簡単に潰れる訳がない。
ガキーン!
そのまま朱利架の斧を遠くへ弾き飛ばす。
「くっ……」
朱利架は、その斧を取りに向かおうとした。
その隙を見抜き、ジースの剣が襲う。
ダッ!
素早い動きでその攻撃をかわし、朱利架は斧をその手に取る。
「ハアハア……。なかなかやるな……」
「お前もな……」
二人の見事な戦いぶりは、周囲の者も感心してしまう程だった。
隣で、これまた壮絶な戦いを繰り広げていたアヤと椎名まで、戦いを一時忘れ、見入ってしまっていた。
「ジース……」
「朱利架……」
二人の男は互いの思いを燃やし、一進一退の攻防を繰り広げて行く。
カチーン。
ドバババババ。
他の仲間も頑張っている。
邪兵士達の群れをうさちゃん達が翻弄していた。
(みんな……)
自分を助ける為に頑張ってくれたんだ。
今度は、わたしの番。
そして美衣子は、捕まっている美理子に気づいた。
(美理子!)
彼女は何とか邪兵士を振りほどこうとするが、相手の力が強いのか、どうにもできない。
美衣子は、グッと拳に力を込めた。
「フレィムガン!」
美理子を捕らえている邪兵士を吹き飛ばす。
途端、仲間達が美衣子を見つめた。
「みーこ!」
「みーこォ〜〜!」
みんなして凄い笑顔で集まる。
相当心配していたのだ。
美衣子と美理子は涙で抱き合う。
「良かった! みーこ、生きてた!」
「ごめん美理子。心配かけて」
「ううん。あなたが無事なら、それでいいの」
「ありがとう美理子。それに、みんな!」
聖戦士達も美衣子と美理子を中心にして、大きな輪で抱き合う。
本当に嬉しそうだ。
その一団を悔しげに見つめる男がいた。
デス隊がその男の側に戻る。
アージェス・サタン。
今、最も危険で好戦的な男。
その殺気を察して、美理子達が振り向いた。
「さすがだな美理子。我が信頼するデス隊の隙を見抜き解毒剤を奪って、メシアを救うとは」
「………」
「そして救世主。美衣子と言ったか。お前が目覚めたからには、俺達も本気の戦いをしなければならないな」
アージェスが、腰の二本の剣を抜く。
空気の流れが、変わった。
玉蘭も、朱利架も、椎名も、ギラッと目を光らせる。
(仕掛けて来る)
アージェスが、一歩前に出た。
戦士達と睨み合う。
残りの邪兵士も、アージェスの命令を待った。
「さあ、戦いの続きをやろうか!」
アヤVS椎名。ジースVS朱利架。動物トリオVS玉蘭。
そして王子アージェスと、それを守る邪兵士達に挑もうとする美衣子達。
一瞬の沈黙の後、ゴングは鳴った。




