VSデス隊
綾乃のスネーククラッシュを、デス隊の面々はサッと避け、勢いよく襲いかかって来た。
人数は全部で三人。
紅一点、女性が一人いる。
「美衣子ちゃんッ!」
綾乃の叫び声にジースがそちらを向くと、デス隊の男二人に美衣子が力ずくで押さえられていた。
だが、さすがメシア。まず肘鉄を後ろの男のみぞおちに当て、今度は目の前の男に回し蹴りを食らわせた。そしてトドメに二人にフレィムガンをお見舞いする。
「ギャアアッ!」
短い悲鳴が聞こえ、男二人は倒れる。
「みーこ!」
ジースが駆けつけた時には、もう美衣子は清々しい笑顔で立っていた。
だがーー、
「!!」
突如、美衣子が宙ぶらりんになる。
気絶したと思われたデス隊の一人に、足を捕まれたのだ。
「何するのよ! このスケベ!」
美衣子の強烈なキックが男の顔面に決まる。
今度こそ男は完全にダウン。
でも、彼女を襲ったのはもう一人いるのだ。
彼は、空から巨大な斧を持って飛び降りて来た。
美衣子がそれに気付き、聖麗剣を構える。
ガチーン!
剣と斧がぶつかり合う、鈍い金属の音がした。
グググッ。
力比べが始まる。
だけど、男と女の力の差は、やはりある。
美衣子の顔に疲れが浮かんでいるのは、側にいるジースなら一目瞭然であった。
何しろその男は、持っている斧も大きければ、体つきも大きい。
背丈は190㎝はあるだろうという所に、鍛えられた腕と脚。まさにマッチョマン体型だ。
「くっ……」
下になっている美衣子から、苦しそうなうめき声が漏れた。男は、聖麗剣もろとも砕こうと、ギラギラその目を光らせる。
とうとう、美衣子が力尽き、膝をつく。
それをチャンスと見たか、男の斧が急降下で降りおろされた。
と、その時、
ビュン。
一瞬光が走ったみたいに輝いて、一本の剣が男の斧に命中し、手から離した。
「ジース!」
危ない所を助けてもらった美衣子は、剣を拾ったジースに駆け寄る。
「大丈夫か? みーこ」
「うん、ありがとうジース!」
二人は笑顔で話すと、そのまま同じ方を見た。
さっきの男。
美衣子にトドメを刺そうとした大男が、こちらに向かって来ていた。
ザッ、ザッ、ザッ。
足音に、緊張感が漂う。
「みーこ、後ろに下がっていて」
「えっ、ジース?」
ジースがサッと美衣子の前に出て、身構える。
「君は今や女王美理子と並んで、この国にとっては大事な人。そんな人をこんな所で、死なす訳にはいかないのさ」
「ジース……」
美衣子に笑顔を送ると、ジースは男に挑みかかっていった。
その剣のキレは、四年前と全然変わらず、衰えてはいない。
むしろ、腕は上がっていると思っていい。
そんなジースに、すぐ横で、これまた美理子をデス隊の女から守るように戦っていたアヤが声をかける。
「ジース。元気なのはいいけど、あんまり無茶しないでよ。あなたはわたしやディーンにとっても、大切な人だから」
「ああ。分かってるよアヤ」
愛しあっている男と女の感情が伝わって来る。
そんな二人を、一瞬美衣子は羨ましく思った。
(眩しいな二人とも。わたしもいつか、パンパンとあんな風になれるんだろうか……)
ほのかな18才の乙女心であった。
ガチーン!
大男の持つ斧と、ジースの雷光剣から火花が散る。
お互いの武器が重なっては離れ、重なっては離れ。
円を描くような綺麗な攻防が繰り広げられる。
ダッ!
ジースが相手の懐に飛び込んだ。
そのまま剣で横一線に斬った、はずなのだが、
パサッ。
切れたのは服。
いや、うっすらと血がにじんでいる。
でもかすり傷程度だ。
大男は、体格は大きいが、動きは素早い。
ジースも苦戦を強いられていた。
「ジース!」
美衣子が助けに入ろうとした。
が、その時、気絶していたもう一人のデス隊の男が、むっくりと起き上がったのだ。
「!!」
男は手に持っていたブーメランを投げる。
ビュン。
美衣子の右腕をかすり、それは男の元へと戻る。
その時、男の顔が僅かに笑ったように、美衣子には見えた。
瞬間ーー、
美衣子の視界がぼうっと白くなる。
自分が前のめりになるのが、彼女には分かった。
そのまま意識は途切れる。
「美衣子ちゃあん!」
綾乃がすぐさま駆けつけ、声に気づいた仲間達もこっちを見た。
「フハハハハハハ」
ブーメランを持った男が不気味に笑う。
ジースと戦っていた大男、アヤと美理子の側にいた女も、その男の近くに来て、
「アハハハハハ!」
「クスクスクスクス」
三人して大笑いを始めた。
そしてようやく喋り出す。
「どうかな?この玉蘭の毒の舞いは?」
「毒だって!?」
蒼白い顔で美衣子の体をそっと抱き寄せた、パンパンが突っ込む。
「そう。玉蘭が持つこのブーメランの刃には、大量の毒が塗ってあるのよ。それが証拠に、玉蘭はちゃんと手袋をしているでしょ。ああ、忘れてた。自己紹介まだだったわね。わたしの名は椎名、そして、この大男は朱利架。よろしくね」
パンパンの問いに、女が答える。
そして、三人のデス隊の側にいつの間にか来ていたアージェスが言った。
「フッ。相変わらず遊びの好きな奴らだ。殺すならさっさとやればいいものを。そこをわざとジワジワといたぶる。お前達の悪い癖だ。ま、そこがお前達をデス隊のメンバーに選んだ理由といえば理由だけどな。それはともかく、おい、美理子」
「な、何!?」
いきなり自分の名前を呼ばれて、不機嫌な美理子。構わず、アージェスはニヤリと笑いながら続けた。
「そこに倒れているメシアは、あと30分もすれば真っ直ぐあの世行きだ。とにかく、この玉蘭の放つ毒は後味が悪くてな。これを受けて起き上がった者はいないという代物だ」
「な、何ですって!?」
「フッ。まあ、このまますぐには殺さん。解毒剤は椎名と朱利架の二人に預けてある。この二人の持つ薬を調合してメシアに飲ませれば、そいつは助かる。だが、時間内に二人を倒さないと命は無いぞ。さあ、どうする?」
「あと30分……」
「俺と玉蘭は手を出さない。これはゲームなんだ。メシアの命を賭けて戦うゲームなんだ。どうだ、面白いだろ。目の前で人が死ぬのを見るのは。ハッハッハッハ!」
「狂ってる……」
美理子は、この時初めてアージェスに対する怒りを感じた。
彼が魔城に連れ戻されてからおかしくなったという事は、薄々分かっていたが、今はそんな事よりも、目の前の親友を救いたい。そう思っていた。
「許しませんわ、あなた方。よくも、美衣子ちゃんを……!」
綾乃が鞭を構え、デス隊を睨む。
彼女は怒りモードになると、ダーク帝国にいた時の喋り方に戻るみたいだ。
味方になったとはいえ、闇の国で長い間過ごした女性。
性格も高飛車になる。
少し怖い。
そんな綾乃をアージェスが嘲笑う。
「ほう、怒ると元の口調に戻るのか。さすがは父上の元秘書だった女だ。今からでも、戻って来て構わんぞ」
「お黙りなさい!」
綾乃はますます怒りが増した。
「さぁ、お仕置きの時間ですわよ」
鞭が敵に狙いを定めた時、美理子が止めた。
「待って綾乃さん!」
「えっ、美理子様!?」
怒りを抑え切れない綾乃を、美理子は諭す。
「綾乃さん。あなたはパンパンと一緒にみーこを守って下さい。気絶した彼女を一人にするのは、危険です」
美理子とて頭に血が登っていた。しかし、あくまで女王の立場として、冷静に判断しなければならない。綾乃は理解した。
「分かりましたわ。あなた様がそうおっしゃるのなら、この怒りを収めましょう」
綾乃はそう言うと、鞭をしまった。
美衣子はパンパンと綾乃が守っている。
美理子が椎名、そして朱利架を見る。
他の仲間達も。
「さあ、ゲームとやらの開始よ!」
戦士達の怒りに、火がついた。




