美衣子達の帰国
翼の国ウイングスで烈風剣。
大地の国グランバールで大地剣。
そして、光の国ライトニングフィールドで聖麗剣を手に入れた美衣子達。
これでジースが持っている雷光剣と合わせて、ようやく四つの聖剣を全て集める事ができた。
綾乃を仲間にした後、聖なる神殿で疲れを癒すと、レナが名残惜しそうに話がしたいというので、それならばとゆっくりと出発する事にした。
ちょうど、美衣子もレナに聞きたい事がある。
神殿の一室。テーブルの上にはお菓子と紅茶が並び、一同勢揃いしていた。
レナが着席する。
「皆さん、お集まり頂きありがとうございます。どうですか? ゆっくりお休み頂けましたか?」
「うん〜。良く眠れたよ〜〜。ありがとね〜」
美衣子達は戦いで服と体が汚れてしまったので、お風呂を頂き、ふかふかのベッドで横になった。
疲れもあってか、すやすやと眠ってしまったようだ。
服は予備の戦闘服を着ている。
「それは良かったです。では、改めて美衣子さん、真の救世主の試験、合格おめでとうございます。わたしも、嬉しいです」
「ありがとうレナ。なんか照れるな」
「僕らからもおめでとう! やっぱり君は救世主の力を持っていたんだね。それに、ミーアノーア様とサイーダ様の魂と会っていたなんて」
「うん、わたしが一番驚いてる。それに、サイーダ様から回復魔法の方法を教えて頂いたから、これからもみんなの役にたてるように頑張るよ」
「その聖麗剣はミーアノーア様の思いが詰まった剣です。大切に使って下さいませ」
「うん、分かったよレナ。あ、そうだ。わたし、あなたに聞きたい事があるんだった」
ここでレナは表情を変えた。
一瞬目を閉じ、真剣な顔を見せる。
「はい。あの部屋に飾られていた木彫りの文字の事ですね。わたしも、あなた方にお話しなければと思っていました」
「木彫りの文字?」
美衣子とレナ以外の戦士達が興味を示した。
美衣子がその文字の事を話す。
「うん。救世主の試験の部屋の壁に飾られていたの。〈選ばれし女王と、選ばれし救世主が造る国。それこそが、真の楽園〉って」
「……! みーこ、それって」
「mirikoworld。ううん、聖空間全土に広がっている伝説よォ!」
「うん。ボク達も小さい頃から聞いた事があるよ」
「はい、そうです。では、その伝説についてお話しますね」
興奮していたパンパン達は静かになり、レナの方を向いた。
レナは小さな咳払いをし、穏やかに語り始めた。
「では、この国についてからです。今は光の国と呼ばれていますが、かつてはパラダイスワールドにおいて牙龍の谷と言われていました」
ここでちょっと説明しよう。パラダイスワールドとは、一千年前のmirikoworldの呼び名で、牙龍の谷はその南西部に位置する、闇に囲まれた谷だった。
詳しい事は〈mirikoworld外伝〜初代救世主ミーアノーアの異世界英雄譚〜〉を読んでね。
「水仙人様から聞いた事があるわ。牙龍の谷はミーアノーア様が聖なる龍から聖麗剣を受け取った場所だって」
「はい、そうです。ファイヤーストーンの光でようやく闇の力から解放された牙龍の谷は、聖なる龍を乗せてこの場所に落ち着きました。しかし、聖なる龍の命は残り僅かでした。龍は亡くなる前に自分の記憶と力を持たせた人の女性を造り、遺しました。その女性は神子と呼ばれました」
「そんな事が……」
「神子はまず自分の事を、他の国の人々に知らせに動きました。やがて、聖なる龍の力を持つ女性の事が噂になり、神子に会いにさまざまな人がこの大地を訪れます。神子は憧れの存在となり、神殿が建てられました。ある日、神子は予知夢を見ます。これはもともと聖なる龍が予知の力を持っていたからですが。それは、いつか現れる救世主と女王が協力して、平和な世界を築くだろうという夢でした。それが、聖空間に広がる伝説のきっかけとなった出来事です」
レナは一気にそこまで喋り、一呼吸おいた。
美衣子達は時間を越えた夢のような話に、聞きいっている。
「神子はすぐさま人々にその事を伝えます。しかし、自分が生きている間に、救世主が現れるとは限りません。女王サイーダ様も、その時はまだ、眠っておられる状態でした。そこで、純粋な魂を持つ子供に神子の力を引き継がせ、神官として神殿を守りつつ、救世主の出現を待つ事になったのです。ミーアノーア様が亡くなられた後、聖麗剣は龍の魂に引かれ、この地へ帰って来ました。神子は闇に気付かれないよう、剣を神殿の中に隠し、神官に後を託しました。こうして、何人もの神官が、神子の力を受け継ぎながら、この地を守って来たのです。ダークキングに壊されたパラダイスワールドを、mirikoworldという名前にしたほうが良いとサイーダ様に助言したのは、わたしの二代前の神官です。この時から、美理子様がクイーンになられる事が、予言されていたみたいですね」
その時、ずっと黙って話を聞いていた美衣子が、レナに問いかけた。
「レナ、あなたはずっとわたしを、救世主を待っていたのね」
「はい、美衣子さん。こうしてあなたとお話できる日を、わたしはずっと待っていました。その夢が叶って、わたしは今、とても嬉しいです」
「レナ……」
レナが席を立ち、美衣子に握手を求める。
美衣子も立ち上がった。
「美衣子さん。女王美理子様と共に、平和な世界を実現させて下さい。その時を、楽しみに待っています」
「分かったわ。レナ、任せて!」
レナの顔がパッと明るくなる。
手を離し、すがすがしい笑顔を見せた。
嬉しさが、言葉にもにじみ出ていた。
「ありがとうございます! それと、皆さんもわたしの話を長々聞いて下さって感謝してます」
パンパン達も全員椅子から立った。
別れの時が近づいているのだ。
そして神殿から外に出る。
旅の小舟の前。
全ての荷物が積み込まれる。
見送りに来たレナは寂しそうだった。
「美衣子さん、また会えますよね」
「もちろんよ。同じ空の下だもの」
「そう、ですよね」
「ところで、レナはこれからどうするの?」
「わたしは、ここを守りつつ、新たな救世主の物語を、人々に伝えていこうと思っています」
「それってつまり〜〜、みーこの事だよね〜〜」
「ええ。そうですね」
ワンメーとレナの会話に、美衣子は一気にプレッシャーに襲われた。
「うわ〜。みーこ、これは頑張らなきゃ」
「ちょ、止めてよパンパン。今心臓バクバクなんだから」
「大丈夫よ。大切な彼が、フォローしてくれるって」
「そうそう」
「もう、妖精達まで!」
「ハハハハハハ!」
楽しい笑い声が響くが、そろそろ出発の時間。
旅の小舟に、みんな飛び乗った。
「レナ、今までありがとう! また会おうね!」
「はい! 皆さんもお元気で」
手を振るレナが小さくなっていく。
小舟は空高く舞い上がり、見えなくなった。
旅の小舟の、甲板の上。
「mirikoworldに、帰って来たんだね」
パンパンが感慨深げに言う。
本当に、色んな事があった。
優しい人達もいた。
そのおかげで、聖剣を集める事ができたんだ。
もうすぐ、懐かしい大地に着く。
美理子達は元気だろうか。
襲われたと聞いたけど、大丈夫だろうか。
不安もあるが、今は喜びのほうが大きい。
「ああ……!」
仲間達の下へ戻れる嬉しさで、美衣子達は身を乗り出す。
小舟は、聖地ミリルークへと降り立った。
目の前にあるのは、ミリルークの城。
外の物音を聞きつけ、美理子達も駆けつける。
そして、
「みーこ!」
「美理子!」
およそ二週間ぶりの再会だった。
「久しぶりね。元気だった?」
「うん。ジース達もわたしと一緒に、しっかり城を守ってくれた。それより、無事に三つの聖剣を集められたみたいね」
「うん! ほら、これがそう」
美衣子が、大事そうに二つの剣を見せる。
「こっちが烈風剣。そしてもう一つが大地剣」
はい、と彼女が女王美理子に剣を渡そうとした時だ。
ピカッ!
二つの剣が同時に光り出した。
まるで持ち主を探すように。
そして、烈風剣はアヤ、大地剣は美理子の所に来る。
二人がそれを手に取った時、光は消えた。
「ほう。正に聖剣。自らの意思で持ち主を選んだようじゃな」
「水仙人様」
「元気じゃったか。みーこ、パンパン。それにワンメー、カン、リース、フェア、リィ」
優しい口調の水仙人。
「はい」
美衣子達も笑顔で答えた。
「そうか。それじゃ、中に入ろう。旅の疲れもあるじゃろうし」
「はい!」
美衣子達は、小舟の中の荷物を抱え、城の中に入って行った。
やがて、日はかげり、空に満天の星が散らばった夜。
城の中では、盛大なパーティーが開かれていた。
聖剣が四つ揃ったのと、美衣子が真の救世主になったのを祝うパーティーである。
その席で美衣子は、今回の冒険の事を詳しく話し、綾乃を仲間に紹介した。
最初綾乃は緊張していた。ダーク帝国の秘書だった自分が、女王達に受け入れられるだろうかと。しかし、心配は無用だった。美衣子が選んだ人なら大丈夫と、美理子達が笑ってくれたのだ。これで綾乃は安心し、気を許した。
美理子も、アージェスの事を話す。
だが今夜は楽しい宴。真面目な話もいいけれど、たまには羽目も外したい。
ジースとアヤが華麗なダンスを披露する。
未成年の子は酒の代わりに、ジュースが入ったグラスで盛り上がっている。成人の年齢は聖空間のルールで20才。結婚できる年は男女共に18才以上となっていた。本来はmirikoworldだけのルールだったのだが、聖空間全体で統一しようという事で、聖空間の中でも特別な国として認識されているmirikoworldのルールを採用したのだ。
楽しいひとときはみんなが疲れて眠りにつくまで、延々と続いていた。
魔空間の彼方、遥か大きな大地が広がる。
住む生物は鋭い眼光で、こちらを見ていた。
魔城の中。
アージェス・サタンはすでに地下から出され、父アルビネットの前にいた。
その体から放出される気は、今までのものとは遥かに違っていた。
果てない憎悪。
もはや美理子への思いも失せていた。
完全に闇に支配されている。
「アージェス」
「はい」
「綾乃が、奴らの仲間になった」
「………」
「それだけではない。奴らはすでに四つの聖剣を手に入れている。このままでは、いつこのダーク帝国に攻めて来るか分からん。そうなる前に、奴らを倒すのだ」
「……はい」
アージェスは父に背を向け、部屋を後にする。
今は、アルビネットの操り人形に過ぎない。
洗脳されて心を失い、ただの戦闘マシンと化している。
戦いは、彼の心を置き去りにして、次のステージに進もうとしていた。




