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母の記憶

 一体どこから、その闇はやって来たのか。

 遠い大地の彼方まで、黒く染めて行く。

 空の上に浮かんでいる月までもが、暗い光を放っている。

 ため息が、また一つ洩れた。

 アージェス・サタン。

 闇の申し子として生まれ、この地に君臨した彼の18年間は、長い戦いの歴史でもあった。

 何もかも壊したくなる程の、欲望と破壊の日々。

 父の権力に惹かれ、ただがむしゃらに走り続けてきたこの運命(みち)ーー。

 だが、彼の心の奥底には、いつも何かが引っかかっていた。

 そう、彼はいつも、何かを求めていた。

 決して、周りにいた者達には、そんな思いを教えた事はなかったが。

 風が温もりを運ぶように、水が潤いを与えるように、優しく、温かい力。

 美理子が教えてくれた光。

 小さい頃からずっと、アージェスは孤独だった。

 愛を感じた事も、他人に優しくしてもらった事も、記憶の中に封じ込めて来た。

 いつから、こんな風になってしまったのだろう。

 それは、彼がまだ、2、3才の子供だった頃。

 無邪気で、天真爛漫で、可愛げもある少年だった頃。



 その日、彼は母親に手を引かれて、街へ買い物に出かけていた。

 母親の名はアンナ。

 小柄だが、優しく美しい母だった。

 街には端から端まで、ずらっと店が並んでいる。

 別名ウイングス通りと言われる、聖空間でも名が広まっているところだ。

 ウイングスは当時から、特に高価で値打ちのあるものが多く、この通りはいつも人混みの多い場所だった。

 アージェスは人の間をくぐり抜け、母の後について元気に歩いて行く。

 急に、アンナの足が止まった。

 入り口を通り、カウンターへ向かう。

 どうやら道具屋のようだ。

 アージェスの見ている前で、アンナは沢山のお金を払った。

 500ゴールド。

 道具屋にしては高い値段だ。

 よほど値打ちのある物なのだろうか。

 アンナは、それをそっと、アージェスの首にかけた。


 〈魔よけのスター〉


 星形をした金色のペンダントで、魔の力を封印する効果がある。

 母親は笑顔でアージェスに言った。


「アージェス。これは母さんから、あなたへのプレゼントよ」

「あ、うん。ありがとうママ」


 アンナの笑顔につられて、アージェスもニッコリ笑う。

 この頃のアージェスは、本当に無邪気で、可愛い少年だった。

 だが、彼はまだ知らなかった。

 自分が魔の血を引いているという事実に。

 母親がウイングスの住人で、父親が闇の国王だという事に。


 聖空間の四国の一つ、翼の国ウイングス。

 昔から他の国々との交流が盛んで、どこよりも情報が早い先進国だった。

 何よりも道具や武器、薬などのアイテムが豊富で、一旦ここに立ち寄ってから旅に出る冒険者達も多い。

 アンナの住む東の村は、そんな商店街の近くだった。

 だから何か欲しい物があればすぐ行けるので、村の人達は重宝していた。

 だが、そんな東の村は、一度だけダーク帝国に占拠された事があった。

 まだmirikoworldがブラックグラウンドと戦っていた頃、勢力の小さかったダーク帝国が、ウイングスの東の村に手を伸ばして来たのだ。

 東の村がウイングスの村の中で、一番小さかったという事もあってか、村人達は簡単にダーク帝国の条件に乗ってしまった。

 その条件とは、ダーク帝国の力をもっと増幅させる為、村の人達数人を、生け贄に差し出せという、とんでもないものであった。

 アンナは、そんな数人の生け贄の中の一人だった。そして彼女は、殺される代わりに、国王アルビネット・サタンの子供を身ごもってしまう。

 あの時、アンナも、そしてアルビネットも、一人の人間として、お互いを愛してしまった。

 それは許されぬ恋だったのかもしれない。

 事実、アルビネットは魔の国王という一面を持っていた。その東の村への残酷な仕打ちに耐えかねて、アンナはダーク帝国を飛び出した。

 そして、生まれた息子アージェスを、ダーク帝国に気づかれぬよう、ひっそりと育てていた。

 幼い息子を連れて、アンナは店を出る。

 が、アンナがもっとも恐れていた事が、その時起こったのだ。


 ドッカーン。


 ウイングス通りを突然襲う稲妻。

 人々が逃げ惑う声が聞こえる。

 そして、アルビネット・サタンの声もまた、響いていた。


「フハハハハハ。久しぶりだな。アンナよ」


 自分に向けられたその声に、アンナは立ち止まった。

 アージェスは、母親の背中に隠れ、震えている。

 アルビネットが、道の真ん中に立っていた。


「アンナ。もう一度わたしの下に戻ってこないか? 今なら息子と二人、可愛がってやろう」


 アルビネット・サタンの申し出にアンナは毅然として答えた。


「お断りします」

「な、何!?」

「わたしがそちらに戻っても、あなたはこの村への仕打ちを止めてはくれないでしょう。それどころか、息子アージェスを使ってダーク帝国を立て直し、もっと酷い悪行をするのは分かっています。そんな男の所には、二度と戻る気はありません」


 アンナはこの時、息子アージェスだけは渡すまいと決意していた。

 自分とアルビネットの犯した過ちで、この子を苦しめたくはない、そう思っていた。

 だが、アルビネットは、自信ありげに笑った。


「フハハハハハ。アンナよ。わたしもお前がそう言うだろうと予想していた。だが、わたしにもプライドという物がある。息子だけでも、渡して貰おう!」

「えっ!?」


 突如、道に亀裂が入り、大きな音を立てて揺れ始めた。その揺れの為、アンナとアージェスは、その場で動けない状態となる。


「さぁ、アンナ」


 アージェスを連れて行こうと、アルビネットが手を伸ばす。

 その手をアンナははねのけ、アージェスを、しっかりと抱いた。


「嫌です! この子は、渡さない!」


 その瞬間、アルビネットの手が、アンナの頬を殴った。


 バシイッ!


 アンナは、アージェスを抱いたまま倒れる。


「アンナさんっ!」


 村の人達が、彼女を助けようとするが、ダーク帝国の兵士にやられ、その場に倒れ込んだ。


「さあ、アージェス。父さんだ」


 アルビネットはそう言うと、アージェスを抱き上げた。


「駄目えええっ!」


 アンナが起き上がり、アルビネットの足元にしがみつく。


「その子を、その子を返して!」

「何故だ。この子は、わたしとお前の子ではないか」

「それはそうですが……。だけど、アージェスは闇には落とさせない!」

「ほう。これでもか?」


 言うが早いか、アルビネットは、アージェスの首の〈魔よけのスター〉をちぎった。


「あ、ああ……」


 魔よけのスターは粉々に砕け、欠片が地に落ちる。


「アンナ。アージェスは連れて行くぞ」

「待って! その子を返して!」


 アンナは叫び、後を追いかけるが、邪兵士達に行く手を阻まれる。


「アージェスぅぅぅぅ!」


 アンナの叫びは涙と共に、闇の彼方へと消えていった。





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