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サイーダの死

 ざわめきの中、人影がうごめく。数人並んだ列の間を、美理子が歩いて行く。

 女王サイーダは、ベッドに横たわっていた。

 蒼白い顔で美理子を見て、言った。


「美理子、こちらへ」

「はい」


 意を決したように頷くと、美理子はサイーダのベッドに近づく。


「他の者は、外に出て」

「はい」


 サイーダの命令により、他の女官と戦士は全て部屋の外に出て、残ったのは美理子だけとなった。


「美理子……」


 サイーダが手を伸ばし、美理子に綺麗に折り畳まれた紙を手渡す。

 血の跡がついていた。


「これは?」

「私の胸を突き刺した矢に巻き付けられていた手紙です。呼んでみて」


 サイーダは肩で息をしている。

 傷が痛むのか、胸を押さえた。

 美理子は手紙を開く。


 〈miriko worldの諸君。はじめまして。我は黒い力を操る者。前に諸君らが倒した、悪しき闇の力を復活せんが為、我はこの大地を変える。

 その為にまず、諸君らの指揮官、女王サイーダの命を貰う。じきに、光が闇に変わる時が来る。その時にまた会おう。

 ダーク帝国国王、アルビネット・サタン〉


「こ、これは……!」


 美理子の、手紙を持つ手が震えている。

 この手紙に書かれている、あまりに強烈な内容に、驚きと怒りが込み上げているのだ。


「新たな敵の登場と言っても、差し支えないわね」

「新たな敵……。と、ところでサイーダ様、ダーク帝国とは一体?」


 動揺を隠し切れない美理子とは裏腹に、冷静な口調でサイーダは言った。


「この聖地mirikoworldがある聖域は、聖空間。mirikoworldと分かれたブラックグラウンドがたどり着いたのが魔空間。そしてダーク帝国とは、魔空間に存在している大きな闇の勢力ですよ」

「ええっ!?」


 驚きの声を上げる美理子。

 自分の知らなかった、新たなる違う世界の事を知ったのだ。


「美理子……」


 真剣な顔のサイーダの瞳が、美理子を見つめる。


「は、はい」

「美理子、これからは、あなたがこの地を治めるのですよ」

「えっ、えええっ!? サイーダ様!?」


 突然の女王の申し出に、驚き、戸惑う美理子。

 一瞬、自分は何を聞いたのかと、耳を疑った。

 サイーダは話を続ける。


「美理子。私は、自分の体が矢で貫かれた時に、これが敵の作戦の第一歩だと感じました。だから美理子……。うっ、ゴフッ」


 サイーダが右手で口を押さえた。

 赤い血が飛び出す。


「サイーダ様っ!」


 美理子がサイーダの体を支えた。

 呼吸が、前よりも荒くなっている。

 美理子は、サイーダの最後を感じた。


「だめです! サイーダ様、いなくならないで下さい!」


 耐え切れず、美理子は涙を流す。

 サイーダは、あくまで冷静だった。


「泣かないで美理子。私は、覚悟はできていたのです。そう、あの時に。水仙人と、話し合った時にもう、ね……」

「水仙人様、と……?」

「ええ。水仙人。いいえ、お父様と」


 サイーダはゆっくりと語り始めた。



 それは、今朝の出来事。朝食を終えたサイーダは、水仙人と話をしようと彼の部屋を訪ねていた。ダークキングとの決戦後、二人とも、自分たちの限界を感じていた。長く生きすぎたせいでもある。体力が、無くなってきていた。

 サイーダは、水仙人に、美理子に女王の座を譲るつもりだと話す。美理子が、人間界とmirikoworldを繋ぐゲートを開く事ができたのは、自分の力に反応したからだと確信していた。


「本当に、それでよろしいのですな。サイーダ様」

「ええ。私達は、あまりに長く生き過ぎました。ダークキングを倒すという、悲願を達成した今こそ、若い人達に後を託すというのも、悪くないでしょう」


 女王サイーダの決意を、水仙人は黙って受け止めた。そして、今まで頑張ってきた女王を、そっと抱きしめる。サイーダも、嫌がる素振りは見せなかった。


「ありがとう水仙人。いいえ、お父様……」


 水仙人は驚くと同時に納得した顔をして、


「やはり知っていたのですか。サイーダ様」


 と言った。

 サイーダが笑う。


「ええ。魂の石の、お母様から聞きました。お父様が、お母様と共に、ずっと闇と戦ってこられた事。そして、私を守る為、仙人の力を手に入れた事。父と名乗らなかったのは、私の身に危険が及ぶのを防ぐ為だったと……!」

「そうか……」


 水仙人の、サイーダを抱く手に力が入った。


「お父様……」

「女王。いやサイーダ。今まで真実を語らずに済まなかった」

「いいえ、お父様」

「ダークキングを倒すのは、ミーアノーアの、わしらの願いじゃった。その願いが叶った今、いつ死んでもいいとわしは思ってる」

「そんな……」


 水仙人がサイーダから離れた。

 今度は目をじっと見つめる。


「サイーダ。お前が美理子に後を託すというのは、悪くないとわしは思う。ただ、わしらはもう長くはない。後悔は、しないようにな」


 もう一度、サイーダの覚悟を問う。

 サイーダは、力強く頷いた。


「分かりましたお父様。私達のうち、どちらかが先に逝っても、後悔しないように生きます」

「うむ」

「若い人達に後を任せて」

「導いてやろう。あの時、予言された通りに」


 そして二人は、もう一度強く抱きあった。



「水仙人様が、サイーダ様のお父様……」

「そうじゃ、美理子」


 部屋のドアが開いて、水仙人が中に入ってきた。

 女官達が気を使って、呼んでくれたのだ。


「わしはサイーダと約束した。どんな事があっても後悔しないと。美理子、サイーダの最後の願い、聞いてやってくれんかの?」


 それは紛れもなく父親の顔だった。美理子は涙を拭き、サイーダを見る。

 弱々しいが優しい笑顔。この人の為に、自分ができることはただひとつ。


「サイーダ様。分かりました。何処までできるか分かりませんが、わたし、サイーダ様の後を継ぎます」

「美理子、ありがとう……」


 女王サイーダが、美理子の手を握った。


「あなたに、私の、全ての力を、捧げます」


 ビシュウウウウ。


 気が充満している。

 金色の光が、部屋中を輝かせた。

 美理子の体の中に、パワーが溢れてくる。


「サイーダ、様……」


 暖かい光に包まれながら、美理子はサイーダの微笑みをしっかりその目に焼き付ける。

 もう、会えないかもしれないから。

 やがて光が消える。


「美理子……、お父様……、みんな……」

「サイーダ様っ!」

「ありがとう。楽しかった……。それからお父様……。先に逝く娘を、お許し下さい……」

「サイーダ……!」


 美理子と水仙人に見守られ、今サイーダの瞳が閉じた。

 その顔には、悔いは残されていない。

 温かく、安らかな笑顔だった。

 女官や戦士達が部屋に入って来る。

 すぐにすすり泣きが響いた。


 美理子は、水仙人にサイーダから渡された手紙を見せる。水仙人の顔つきが変わった。


「また、新たな闘いの始まりじゃな」


 美理子を促すように、水仙人が言う。

 美理子が頷いた。


「負けるでないぞ。サイーダ様が託した事、お前さんの心にしっかり受け止めておくのじゃ!」


 まるで自分にも言い聞かせているようだ。

 悔しい気持ちはある、がーー、


「水仙人、わたし負けないわ。新しい女王として、わたし戦います!」


 美理子の決意を聞いた水仙人も笑った。


「そうじゃ。そして、戦士達も復活じゃ!」


 そして、美理子達の新たなる戦いが始まろうとしていた。





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