パンパン達の戦い
「はっ……」
何かを感じて、パンパンは空を見上げた。
遠い空は雲もなく、晴れ渡っている。
ライトニングフィールドの大地の輝きで、尚更眩しく感じるのか。
その空から、何か悪意に満ちた力が来る事を、パンパンは予感していた。
「どうしたのォ〜〜、パンパン〜〜?」
ワンメーが心配そうに彼を見つめる。
しかし彼は空を見上げたまま黙っていた。
その顔は、どこか怒っているようで、不安な表情だった。
「……来る」
パンパンの口がそう語った。その途端、
ドッカーン!
砂煙を撒き散らし、何かが空から降ってきた。
うっすらと笑みを浮かべたその顔。
見覚えがある。
それは静かに近づいて来た。
パンパン達の顔色が変わる。
「お久しぶりですわね。mirikoworldの戦士の皆さま方」
赤い口紅が印象的な唇で、その女性は告げた。
その過激な衣装と、長いロングヘアーは変わっていない。
ダーク帝国、国王秘書、綾乃の到来だ。
綾乃は、不気味な微笑みを浮かべ、じわじわと近づく。
「この前は、あなた方との戦いで、無様に負けてしまったわたくしですが、今度はそうは参りません。今度は、あなた方が地獄を見る番なのです。お覚悟!」
ビュッ。
綾乃の操る鞭が、彼女の言葉が終わると同時に飛んで来た。その攻撃を避けきれず、パンパンが吹き飛んでしまう。
「パンパン!」
すぐに妖精達が駆けつけた。
「大丈夫?」
「うん」
フェアとリィに笑顔を見せ、立ち上がるパンパン。その間、ワンメー達は必死に綾乃と戦っていた。
ビュッ、ビュッ。
鞭の間を避けながら、ワンメーが綾乃の懐へ飛び込む。
ドカッ。
ワンメーの体当たりで綾乃が怯んだ隙に、カンとリースの噛みつき攻撃。が、綾乃が気づいて、二匹の攻撃を避けた。
「今度は、僕らの番だ」
パンパンと妖精達が一体となり、美しい音楽を奏でる。
妖精が吹くオカリナの効果で、綾乃が眠りそうになっているが、倒れない。眠い目をこすりながら耐えていた。
「くっ、こんな攻撃……!」
パンパン達の演奏を止めようと、綾乃が仕掛けた。
「ウェイビーストーム!」
ドッカーン。
パンパンと妖精達は、弾き飛ばされた。
だが、いくら目の前のパンパン達に攻撃を仕掛けても、綾乃の心の中は空しさが漂っていた。
(違う。何かが、何かが足りない)
そして彼女は、目の前の戦士達の数に注目した。
(はっ、そうだ……)
思い出したかのように、綾乃はパンパン達を問い詰める。
「あなた方、あの小娘は? あの美衣子とかいう小娘は、どこにいますの?」
綾乃は完全に苛立っていた。
バシッ、と鞭で大地を叩くと、眉を吊り上げて言い続ける。
「あの時、わたくしをコケにしてくれた、あの憎い小娘は、一体どこですの?」
だけど、パンパン達がそれに答える訳がない。
もし、美衣子の居場所をしゃべってしまったら、綾乃はすぐさまそこに向かう。
そしたら、彼女の命は? 救世主の資格試験は?
仲間達は、美衣子を守る為に立ち上がった。
パンパンが綾乃に言う。
「綾乃。彼女の居場所は教えられない。その前に僕達が、お前を倒す!」
「くっ。いいでしょう。あなた方を倒した後、ゆっくりと探す事にしましょう」
綾乃と戦士達の激突。
これはもう、自分たちだけの戦いではなく、美衣子を守る為の戦いでもあるのだ。
だけどパンパン達は、心のどこかで信じていた。
彼女が無事、救世主として、ここに帰ってくる事を。
だからこそ、これ以上、綾乃を先に進ませる事はできないのだ。
綾乃の放つウェイビーストームが、大地を這って押し寄せる。
ゴゴコゴゴコ。
物凄い音だ。
大地は避け、砂煙が舞う。
目に映る物全てを、押し潰そうという勢いだ。
「はっ!」
パンパン達も負けずに応戦する。
彼らのスピード感溢れるエネルギッシュなサウンドが、綾乃の技と激突する。
ドッカーン。
お互いに一歩も譲らない、力と力のエネルギー。
ついにそれは大爆発を引き起こした。
回りにいた者全て吹き飛ばされる。
「うっ、ううん」
綾乃が気絶から目覚めて、身体を起こす。
mirikoworldの戦士達は、まだ倒れたままだ。
「さぁ、トドメをさしてあげますわ」
ゆっくりと綾乃が近づく。
倒れているパンパンの背中に、不気味に映る影。
ここで綾乃は少し迷う。
悲しげな瞳だ。
(この者達も、あの娘を守るため頑張っているのね。しかし、わたくしもアルビネット様のために……)
鞭を握り直す。
綾乃の必殺技、ウェイビーストームが、今まさに炸裂すると思ったその時、
ビュッ。
「な、何者ですの?」
綾乃の右手の甲に刺さった一条の羽。
完全に彼女の技は防がれてしまった。
羽はそんなに深く刺さった訳ではないが、綾乃の動揺は大きい。
人影が近づく。
その人物は綾乃に向かって、少し怒りのこもった声で、でも落ち着いた口調で言った。
「これ以上、この方達を傷つけるのはおよしなさい。ここは神聖なる大地。あなたのような汚れた人が来る場所ではありません!」
綾乃は、キッと目を光らせてその人物を睨む。
そして手の羽を抜き、その人物に投げつけた。
「汚れている、ですって? このわたくしが?」
綾乃は怒りを隠さず、目の前の人物に食ってかかった。
相手は黙ったまま、綾乃を見つめている。
その態度が、尚更綾乃には腹立だしく思えた。
「どうしましたの? わたくしのどこが汚れていますの? 黙っていては分からないでしょう!」
綾乃の怒りは収まらない。その彼女の様子を見て、目の前の女性がフッとため息をつく。
やがて、閉ざしていた口をようやく開き、話し始めた。
「あなたは、ダーク帝国の国王、アルビネット・サタンの秘書の方、とお見受けします。ダーク帝国は、この聖空間を支配し、闇の世界を創ろうとしている邪悪な国。そのダーク帝国に住んでいるあなたの心も、邪悪な力で染まっています」
「な、何ですって? 偉そうな事を言わないで! 一体、あなたは誰ですの?」
「この聖なる神殿に仕える、神官の、レナと申します」
「聖なる神殿?」
この頃になって、ようやく綾乃は気付くのだ。
この大地にたった一つだけある建物、聖なる神殿の存在を。
「う、うん」
気絶していたパンパン達が目を覚ます。
そして、神官レナの存在に気づいた。
「あ、あなたは?」
「気がつかれましたか、皆さん。もう、大丈夫ですよ」
レナは急ぎ足でパンパン達の所へ行く。
「わたしの名はレナ。さあ、美衣子さんが真の救世主としてお戻りになるまで、共に戦いましょう!」
綾乃の顔色が、急に変わった。
救世主、ですって?
「どういう事ですの? あなた達、一体、救世主って?」
綾乃はレナとパンパン達の話が気になって仕方がない。もしかすると、自分たちがこれからやろうとしている事の妨げになるのではないか。そんな不安な予感がする。
レナがサッと振り返った。
「そうです。美衣子さんは、初代救世主ミーアノーア様のお力を受け継ぐお方なのです。そして、女王美理子様と共に、素晴らしい楽園を、造って下さるでしょう」
「な、何ですって!?」
レナの話を聞いた綾乃の動揺は、激しかった。
パンパン達も微かに聞いた事がある、その伝説。
「選ばれし女王と、選ばれし救世主が創る国。それこそが、真の楽園」
パンパン達聖戦士が、一斉に呟く。
レナがコクンと頷いた。
「そうです。聖空間に伝わるその伝説が、今本当になる日が来たのです」
綾乃は、絶対にそんな事はさせないという勢いで叫んだ。
「あの小娘を、真の救世主などにさせませんわ! あの神殿の中ですわね!」
神殿に乗り込もうとする綾乃の眼前に、戦士達が立つ。
「邪魔をしないで!」
「そうはいかないよ! みーこの為にも、ここで僕らがお前を倒す!」
「分かりました。あなた方を先に倒しましょう。そして、あの娘が絶望に沈むのを、見るとしましょうか」
綾乃が鞭を構える。
パンパン達も、その時を待っていた。




