試験の開始
コトコトコトコト。
長い通路を二人の影が歩いて行く。
黙ったままの二人の唇が、少し緊張して震えているのが分かる。
それは、前を歩く神官の女性より、後ろにいる美衣子の方が凄かっただろう。
この大地に来て、真の救世主への試験を受けなければならない事と、その試験の結果次第で、聖剣が手に入るかが決まるのだから。
美衣子は、心の中で祈った。
(美理子、みんな、わたしに力を貸して)
女性の足が止まった。
小さめの扉がある。
その扉を背に立ち、女性は言う。
「さぁ、美衣子さん。この扉の奥にお入り下さい。わたしが案内できるのはここまでです。後は、ご自分の目でお確かめになって下さい」
さらりとそう告げ、扉を開けた。
ギイイイイイ。
明るい。
中は広く、部屋の各所に設置されたステンドグラスに、外の光が反射している。
美衣子が中に入ると、神官は扉を閉めた。
「あ……」
部屋の中に、美衣子はたった一人。
部屋を良く観察してみる。
壁も天井も、全部白で統一されていた。
その天井には、誰が書いたのか、壁画が描かれていた。
ふと、前の方をみる。
そこに掲げられていた物に、美衣子は目を奪われた。
大きな木の板に、文字が彫ってある。ただ、古代文字らしく、読めない。
それでも気になった美衣子は、側に近づき、板に触れてみる。
すると、不思議と文字が読みとれた。
〈選ばれし女王と、選ばれし救世主が創る国。それこそが、真の楽園〉
意味は、彼女にも分からなかった。
グラッ。
「えっ、な、何!?」
突然、床が揺れ出す。
まるで海の上で踊る波のように、盛り上がった。
「キャッ」
そして、目の前の景色が一瞬にして変わった。
ゆっくりと目を開ける。
「こ、ここは……?」
ガラッと場面は変わり、外の広い野原みたいな場所に立っていた。
前方から人が歩いてくる。
美衣子は、その人物を見て驚きの声を上げた。
「み、美理子!」
それは、ミリルークの城で留守を守っているはずの美理子だった。
安心した美衣子は、美理子に近づく。
が、彼女の態度は、いつもと違っていた。
「アクアビーム!」
目の奥がギラッと光ったかと思ったら、いきなり美衣子を攻撃したのだ。
間一髪、その攻撃を避ける美衣子。
体勢を立て直し、美理子を見つめる。
「美理子、何故!?」
美衣子は、美理子の攻撃を避ける一方で、反撃できない。
頭の中は混乱していた。
(何故、何故美理子がわたしを攻撃するの? 一体何故なの?)
美理子は一向に攻撃の手を緩めない。
美衣子はたまらず叫んでいた。
「止めて! 美理子!」
彼女の肩を掴むが、アクアビームで飛ばされてしまう。
ドカッ。
「うっ……」
後ろにあった太い木にぶつかった。
「止めて、美理子」
徐々に二人の間合いが近づき始めている。
美衣子は、祈りを込めて叫び続けるしかなかった。
「アクアビーム!」
間合いを詰めた美理子の必殺技が、美衣子に迫る。
ドッカーン。
鈍い音と共に、木の回りから砂ぼこりが舞っていった。




