表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/55

切ない恋心

 美理子が、そんな風に眠れない時間を過ごしているのと同じ頃、アージェス・サタンもまた、募る思いに胸を焦がしていた。

 魔城の窓から見える景色も、何も語ってくれない。

 炎の池から上がる火柱は、休まず何度も吹き上がっている。昨日から鳴り響いている遠雷も、まだ止まない。

 少し眠ったら、体の調子も良くなった。


「あれから三日か。mirikoworldの女王は、どうしているだろうか」


 そう、アージェス達がmirikoworldに攻め行った日から、もう三日も経っていた。

 胸の奥が苦しい。

 美理子の事を考えると、夜も眠れなくなる。

 アージェスは大体分かっていた。

 自分が、美理子に恋をしてしまった事に。

 あの時、彼女が流した涙に惹かれた。

 完全に、一目惚れだった。


 だが、彼は生まれた時から戦う事を宿命とする魔の王子。そして、アルビネット・サタンという父の下で、聖空間を一つにまとめ、征服し、自分たちの国を創ろうとしている男。

 そんなアージェスが、正義を貫くmirikoworldの女王を愛してしまっていいのだろうか。

 考えれば考える程、その思いは募るばかり。

 正義と悪の愛の狭間で、アージェスは悩んでいた。


 コトッ。


 そんな彼の迷いを吹き飛ばすかのように、誰かが近づく足音がする。


「誰だ?」


 人の気配に驚いたアージェスが、慌てて振り向いた。

 そのアージェスの顔色が変わる。


「ち、父上」


 そっとアージェスの後ろに近づいた人物は、彼の父アルビネットだ。

 慌てている息子の姿を見て、アルビネットは静かな声で言った。


「何を慌てている。アージェス」


 父が全てを見透かしているようで不安になったアージェスは、さっと誤魔化した。


「べ、別に……」


 だが、その息子の態度が、逆にアルビネットにはおかしく感じた。


「別に誤魔化さなくてもいい。さぁ、遠慮せずにこの父に話してくれ」

「別に俺は誤魔化してなんか……」

「それは嘘だな。だったら何故、こんな時間にまだ起きている?」

「そ、それは……」


 父の言葉に、アージェスは何も言えなくなる。

 彼の心を揺さぶるように、アルビネットは話し続けた。


「アージェス。お前、mirikoworldの女王に恋をしているんじゃないだろうな?」

「えっ!?」


 この時、アージェスは気づいた。

 父は、全てを知っていると。

 アージェスはもう黙っている事はできないと、口を開いた。


「ち、父上、俺……」


 アルビネットは優しくアージェスを見つめる。


「アージェス、お前の気持ちは分かる。だが」


 ここで、アルビネット・サタンの表情が変わった。

 冷たく、息子に言い放つ。


「相手は我が敵国、mirikoworldの女王。憎むべき相手なんだぞ。倒そうと意気込むのならいいが、恋をするなど、わたしは絶対に許さん。分かったな、アージェス」

「父上、それは……」

「そうか。あの娘は、ここまでわたしの息子をたぶらかしたのか。ならば、それ相応の報復を与えてやらねばならんな」

「父上、それは違う! 俺はたぶらかされてはいない。俺が勝手に惚れただけだ!」

「そうか。それを聞いて、あの娘がますます憎くなったぞ」

「父上!」

「お前はわたしの大事な息子だ。mirikoworldの女王に渡す訳にはいかん。分かったな、アージェス」


 アージェスに反論を許さず、アルビネットはその場から去った。


「待ってくれ、父上!」


 このままではアルビネットが美理子に何かするかも知れない。それを止めさせようとアージェスは父親の後を追いかけた。


「父上、待ってくれ。確かに、mirikoworldの女王に惚れたのは、俺の過ちかもしれない。だけど、今は何もしないで欲しい。時間が欲しいんだ」

「アージェス……」


 アルビネットに追い付いたアージェスは、必死に懇願した。


「父上、お願いだ。それに、父上と母上だって」


 その言葉を聞いた途端、アルビネットの眉が、ピクリと動いた。


「アージェス。お前の母親の事は、忘れろと言ったはずだ」

「しかし……」

「分かった。今はmirikoworldの女王に手出しはしない。お前に免じてな。だが、敵である以上、いつかは倒さねばならぬ相手だ」

「父上。父上は何故、そんなにあの国の事を憎むんだ?」

「正義という物は偽善だからだ。それを振りかざすあの国を、どうも好きになれない」

「そんな事、あ……」

「スリープ」


 アルビネットは、アージェスに有無を言わさず、眠りの魔法をかけた。

 アージェスはぐっすりと眠りにつく。

 息子の体を抱き抱え、ベッドに運んだ。

 哀しそうなアルビネットの瞳。


「アージェス、耐えるんだ。もう、どうしようもない」


 優しく毛布を掛けながら呟く。

 静かに息子を見守る父親の姿を、月が映し出していた。


この小説を面白いと思ってくれた方、ブックマーク登録お願いします。

あと、感想を書いてくれたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ