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運命のステージ

 ドキン、ドキン。


 心臓の音が高鳴っていく。

 周りに設置されたスポットライトが、中央の一行の姿を照らす。


(一か八か、やるしかない)


 パンパンの顔色が変わる。

 じっと、美衣子を見つめた。


「えっ? 何?」


 彼の視線に気がついた美衣子。

 パンパンは真剣な眼差しだ。

 唇が動く。


「みーこ、今日は妖精達の代わりに、君の歌声が聞きたいな」

「えっ?」


 美衣子は一瞬戸惑った。が、パンパンの真剣な目に何も言えなくなる。


「僕がドラムでリズムを、妖精達は笛で演奏して貰うよ。ね。いつもの僕らの演奏じゃ、ありきたりで駄目だと思う。君の歌声が入る事で、新鮮さが出ると思うんだ。ね、みーこ、お願い」


 妖精達も納得した顔で、美衣子に頼む。

 さらに、ワンメー、カン、リースも。


「大丈夫だよ〜みーこ。ぶっつけ本番でも〜〜、きっとパンパンと妖精達が〜〜、君の歌声に合わせてくれるから〜〜」

「そうそう。アタシ達もコーラスで参加してあげるヮ」

「うん。頑張るよ」


 みんなの励ましを受け、美衣子は覚悟を決めて頷いた。妖精達の歌声は、以前にも聞いた事があり、だいたい覚えている。だから、きっと大丈夫だろう。


「よし。じゃ、みーこ」


 パンパンがマイクを美衣子に渡し、歌う位置にエスコートする。

 観客と距離が近い。歓声がどっと響き、美衣子は一気に緊張した。

 それでも、演奏が始まると、精一杯声を出した。

 可愛らしく、どこか甘えた歌声。

 拍手が聞こえる。

 パンパンのドラムのリズム、妖精達の笛のメロディー、動物トリオのコーラスがステージいっぱいに響く。

 一緒に演奏している仲間との一体感。

 だんだん楽しくなってきた。

 気がつくと美衣子はノリノリで笑顔で歌っていた。


「ワーッ!」


 客席から溢れんばかりの歓声と拍手の嵐が押し寄せる。

 ステージは最高の盛り上がりを見せた。

 そして、演奏は終わった。


「はーっ」


 美衣子と仲間達は一礼してステージから降りる。

 その時、間髪入れずに国王様の声が聞こえた。


「いや、素晴らしい演奏だった。二組ともよくわたしを楽しませてくれた。本音を言えば、どちらかを選ぶなんてできない。だが、聖剣は一本のみ。わたしの判断だけで申し訳ないが、わたしは、最後に素晴らしい演奏と歌声を聞かせてくれたmirikoworldの戦士達に聖剣を送りたいと思う」

「えーーっ!?」


 驚きの声が観客の間から漏れた。

 みんな、最後に歌を歌った者達が、mirikoworldの戦士達だとは思っていなかったのだろう。

 国王は美衣子達を選んだ理由を述べる。


「えー。あのジェミィとかいう女性と男性二人のアカペラも良かったのだが、わたしは、ここにいる全員の心を惹き付け、盛り上がらせてくれたこの者達に聖剣を送りたいのだ。それでよろしいかな?」


 国王が客席の意見を聞く。

 観客達はそれに応えるように手を上げて、


「おーっ!」


 と威勢よく叫んだ。

 美衣子達は、嬉しさと照れ臭さが入り混じり、赤くなってうつむいている。

 国王が、もう一度ステージに上がるように誘った。

 ステージに上がると、観客と他の挑戦者達が一斉に拍手をしてくれた。そして、自分たちが負けたことも関係なく、美衣子達を称えてくれた。

 美衣子達は礼を言う。

 その後、表彰式ならぬ、聖剣の受け渡しが行われた。

 これで二つ目の聖剣を手に入れた。

 一行は、グランバールの地を後にする。

 次に目指すは、光の国ライトニングフィールド。

 だが、その地で待ち受ける運命の光を、一行はまだ知らなかった。



 窓からこぼれた風が、静けさを運んで来た。

 疲れた目をした戦士達が、優しい月の明かりに包まれて眠っている。

 一度アージェスが攻めて来てから、後は来客もないミリルークの城。

 真夜中の12時も過ぎたというのに、まだ寝付けない美理子の姿があった。

 彼女がねまき姿のまま、窓の側で月を眺めていた事に、気づいている者はいるだろうか。

 まんまるの月が、アージェスの顔に見えてくる。


「アージェス……」


 一度会ったきり、何も姿を現さないアージェスの事を、美理子は気にかけていた。

 あの時、敵味方を超えた果てしない絆が、生まれるかもしれなかったのに。

 アージェスに恋をしたのだろうか。

 それは美理子自身にも分からなかった。

 ただ、何故か彼の事が気がかりで仕方ない。


「はあ」


 また一つ、ため息をつく。

 さっきからこの繰り返しだ。

 夜の闇や月が何か語ってくれる訳でもないのに、見つめていたい気分だったのだ。

 心が少し、休まる気がして。


 ブルッ。


 体が震えた。

 少し寒くなってくる。


「もう、眠らなきゃね」


 ベッドの中に体をうずめる。

 後には、静かな月が、光を照らしているだけだった。






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