アルビネットの静かな怒り
ダーク帝国の中央に不気味に建てられた国王の城、魔城。
ここに今、一つの影が戻って来た。
黒き光の中に包まれ、mirikoworldから連れ戻された、王子アージェス・サタンである。
mirikoworldとダーク帝国の距離は離れているため、旅の小舟よりスピードが早い光の玉でも、約一日かかる。
アージェスの意識は、まだ戻ってはいない。
アルビネットが、わざとそうしたのだ。
すぐに目覚めてしまうと、アージェスが美理子の下に戻るかもしれない。その懸念があったためだ。
王の間の、椅子に座ったままのアルビネットが、傷ついた息子を見る。
「ふう……」
深いため息が聞こえた。
王に呼ばれた邪兵士が、すぐさま駆けつける。
「アージェスを部屋に運び、少し休ませるのだ」
「はっ」
数人の邪兵士が、アージェスを丁寧に担ぐと王の間を後にした。
アルビネットは怒りが込み上げた目で、窓の外を見ている。
その国王の様子に、側に控えている番人もビクビクしていた。
「mirikoworldの女王美理子。わたしの息子をたぶらかした罪、その体で受けるがいい。大地の国に向かった仲間もろとも、皆殺しだ!」
目が殺気だって充血している。
ぐっと握られた拳から、強いエネルギーが出ているのが分かる。
身体中が、ぶるぶると震えていた。
ミシッ。
窓ガラスが揺れた。
外の景色が、王の怒りと呼応するように、砂煙を巻き上げ、嵐を呼んだ。
炎の池から火柱がボウッと上がる。
遠くで、雷が光った。
トントン。
ドアをノックする音がして、アルビネットが冷静さを取り戻す。
「入れ」
太い声で応える。
「失礼致します」
か細い声を上げ、中に入って来たのは綾乃だった。
美衣子との対戦で火傷を負ってはいるが、何とか動けるみたいだ。
「綾乃……」
国王が驚いた顔で言った。
「もう、怪我は良いのか?」
「はい。国王様のお気遣いと、心温まる看病により、何とか動ける所まで回復致しました。それより、アージェス様は、一体いかがなされたのですか?」
話がアージェスの事に移り、一瞬アルビネットの顔がこわばった。だが、全ての信頼をおいて側につけている綾乃に話さない訳にはいかない。
国王は、アージェスの身に起きた全ての出来事を、綾乃に聞かせた。
「まぁ……」
話を聞いて綾乃は言葉に詰まる。
「それは、大変な話ですわ」
「ああ」
どうしていいのか分からない。
時間だけが流れていく。
静かに、その時が一瞬、止まったように感じた。
「申し上げます」
突然、ノックも無しに扉が開き、邪兵士が部屋に入って来た。
国王アルビネットと綾乃が、同時にそちらを向く。
アルビネットの口が、わずかに動いた。
「何だ?」
「はっ。ただ今入りました情報によりますと、ウイングスにいたmirikoworldの勇者達が、大地の国グランバールに到着したという事です」
「そうか……」
国王の顔にうっすらと笑みが浮かぶ。
邪悪で不気味な笑顔だ。
「分かった。下がれ」
「はっ」
邪兵士が出て行った後、アルビネットが綾乃に向き直った。
綾乃の体が震えている。
武者震いだ。
美衣子達に負けた怒りと悔しさから、もう一度戦いたいと思っているのだ。
綾乃の真剣な目がアルビネットに向けられる。
「国王様、わたくしめに、もう一度チャンスを」
祈るような目で、彼女はアルビネットに願い出た。
「………」
「もうあんな敗北は致しません。もう一度チャンスをお与え下されば、必ずやあの者達を倒してご覧に入れます」
「綾乃……」
「国王様。わたくしめに、今一度チャンスを」
綾乃はアルビネットの足元にひざまづき、一心に願った。
アルビネットは黙ったまま、彼女をじっと見下ろしている。
やがて気持ちを察したかのように、静かに言った。
「分かった。あの者達はお前に任せよう」
「国王様……!」
綾乃が嬉しさのあまり立ち上がった。
しかし、アルビネットは冷静に付け加える。
「だが、もう失敗は許されない。それだけは心に命じておけ。もし、そのような事が起こったら、その時は、分かっているな? 綾乃……」
「は、はい……」
「では、行くがいい」
最後、綾乃は泣きそうになっていた。
彼女のように信頼ある者でも、失敗を繰り返せば見捨てられてしまう。強い者が勝つ。ダーク帝国国王として、時にそんな冷酷な判断を下せるのも、アルビネットの強さだ。
もう失敗は許されない。
彼女は、自分を倒した戦士達の顔を一人一人思い浮かべる。
特に、最後まで倒れずに自分を吹き飛ばした美衣子の顔を。
カッ。
憎しみで綾乃の顔が歪む。
目が見開かれ、頬もカッカと熱い。
美衣子の顔は忘れない。
アルビネットやアージェスもそうだが、綾乃も相当な負けず嫌いだ。
(あの小娘。今度会った時こそ、必ずあなたを仕留めて差し上げますからね)
魔城の片隅で、綾乃の心の中は、熱く燃えていた。
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