国王秘書、綾乃襲撃
美衣子達の周りは、いつの間にか邪兵士の一団に囲まれていた。そして、目の前の壁の隙間から、ある女が現れた。
髪は長いウェーブのロングヘア。色白でスタイルが良い。その上、ヘソ出しで露出度の高い衣装を着ている。唇に紅い口紅。アイシャドウは薄い青。年は20代後半と言ったところか。
女は喋り出す。
「わたくしは、ダーク帝国国王、アルビネット・サタン様の秘書をしております、綾乃と申します。国王様の命により、あなた方を抹殺する為にやって参りました」
綾乃の綺麗で丁寧な口調の裏に、妖しげな殺意を感じ、美衣子達は身構えた。
「まあ。さすがはmirikoworldの勇者さん達ですわね。やる気充分ですこと」
綾乃が鞭を取り出し、地面をバシッ、と叩いた。
それが戦闘開始の合図になった。
邪兵士が一斉に襲ってくる。
光と闇。二つの心の塊が、ビリビリと火花を散らした。
ドコドコドコ。
パンパンのドラムの音が響く。
そのドラムの音色に合わせて、フェアとリィが歌いながらダンスを披露する。
「ラブリー・ダンシング!」
何と、妖精達の頭上に、大きな音符が現れた。
それも、リズムに合わせてどんどん具現化していく。
「フィニッシュ!」
最後、妖精達がポーズを決めると、その音符が敵に向かって舞い降りた。
ドドドドドドッ。
思いがけない音符の攻撃に、敵は次々ダメージを受けた。
これが、パンパン&妖精達の新技、ラブリーダンシングだ。
「凄いよ! パンパン、フェア、リィ!」
美衣子が興奮のあまり叫ぶ。
「よ〜〜し。ボク達も〜〜!」
「オーーー!」
ワンメー、カン、リースにも火がついたようだ。
邪兵士の回りを素早く動き回って撹乱する。
美衣子の魔法も炸裂した。
ドッカーン。
ビシビシビシッ。
絶叫と怒声と悲鳴が入り交じって、騒がしくなってきた。
敵も見方も、互いの夢の為に必死だ。
洞窟の天井が、戦いの影響で、ガラガラと崩れ落ちてきた。
「うわーー!」
「キャアアアアッ!」
一旦その場から離れる一同。
洞窟自体が、崩れようとしていた。
こうなってしまっては戦いどころではない。
邪兵士達は、我先にと逃げ出す。
「こ、こら! お待ちなさい。あなた達!」
綾乃の言う事も、邪兵士達にはもう聞こえないようだ。
全員居なくなってしまった邪兵士を追うのは止めて、彼女は美衣子達を見た。
その顔には、不気味な笑みが浮かんでいる。
「はっ」
美衣子が何かに気づいたが、その時はすでに遅く、その技は発射されていた。
「ウェイビーストーム!」
綾乃の操る鞭の動きが、まるで海上を走る波のようだ。気流の波といった所か。
それが美衣子達の頭上の岩を砕いていく。
ドカカカカッ!
そのまま、美衣子達めがけ落ちてきた。
避ける暇もなく、下敷きになってしまう。
「フフフフフフ。この洞窟と一緒に、砕けてしまいなさい!」
綾乃はかろうじて逃げた。
洞窟が、岩と土の破片となる。
美衣子達の気も感じない。
「フフフフフフ」
ゆっくりと綾乃が近づく。
小石が、岩の上から転げ落ちた。
周りを包んでいた砂ぼこりが、ようやく晴れる。
「あの者達は、この下敷きとなって、死んでしまったようですわね。我が国王様の為、それも仕方のない事。どうか、ゆっくりお休みなさい」
そう綾乃が呟き、立ち去ろうとしたその時、
ビュッ。
たった今そこにあった大きな岩の塊が、飛び散った。
強烈な光が現れる。
「えっ!?」
驚く綾乃の目の前にいたのは、美衣子達だった。
「あ、あなた達……」
ファイヤーストーンのバリアーが、戦士達を包んでいた。美理子が、これは救世主である美衣子が持つにふさわしいと、首にかけてくれたのだ。
「生きていらっしゃいましたのね」
綾乃は、落ち着きを取り戻しそう言った。
美衣子達が彼女に近づくと、光がスッと消えた。
美衣子達は、怒りが混じった表情で武器を構える。綾乃も笑みを浮かべ、鞭を手に取った。
「いいでしょう。もう一度、わたくしの実力を見せて差し上げましょう。ウェイビーストーム!」
鞭は巧みな動きで、近くにある木の枝を絡み取って美衣子達に迫る。
パンパンが叩くドラムの音の振動で、枝がパラパラと落ちた。
「今度は、こっちの攻撃よ! フレィムガン!」
美衣子の両手の指から、幾つもの炎の玉が放たれ、飛んで行く。ウェイビーストームが、それらを一つ一つ砕いていった。
「ううっ」
「くっ」
両者とも、一歩も譲らない激闘が続く。
ビュッ。
綾乃の鞭に当たり、カンとリースが吹き飛ばされる。とっさに、その鞭に食らいついたワンメーだが、これも弾かれてしまった。
「ワンメー、カン、リース!」
だが、気絶したのか、三匹とも動かない。
「くそッ!」
パンパンが二本のバチを持って飛びかかる。綾乃の右手を叩いた。彼女の顔が苦痛に揺らぐ。
だが、それもつかの間、すぐに必殺技で吹き飛ばされた。
「パンパン!」
美衣子の叫び。妖精達もすでに鞭の攻撃により、気を失っていた。
「さぁ、残りはあなただけですわよ」
綾乃の武器が美衣子に迫る。
避けるのが精一杯で、反撃のチャンスがない。
(一体、どうすれば……)
必死に鞭を避けながら、美衣子は考えていた。
(はっ、そうだ!)
美衣子は突然、動きを止めた。
「……!?」
綾乃が戸惑っている隙に飛び上がり、ライディンスピリッツを打ち出した。
つまり、わざとタイミングを遅らせ、相手の隙を作り、攻撃に転ずる。だが、綾乃はそれさえも読んでいた。
ビュッ。
鞭が風を切って迫る。
ライディンスピリッツは、綾乃の技により消された。
美衣子は鞭に当たり、下に落とされる。
「ううっ……」
上半身だけを起こし前を見ると、綾乃の不気味な笑顔があった。
「フフフフフフ。甘いですね。あなたの魔法など、すでに全部調べさせて頂きました。もうわたくしには、何の魔法も通用しないと思いますよ。今頃、mirikoworldも我がダーク帝国の猛攻を受けていると思います。さぁ、あなたも楽にお眠りなさい」
「な、何ですって!?」
mirikoworldにも魔の手が。美衣子の目に怒りが増した。
「さぁ、今楽にして差し上げます。ウェイビーストーム!」
綾乃の技が近づいてくる。
美衣子は、胸のファイヤーストーンを見た。
(はっ、そう言えば、美理子が……)
彼女は、何かに気づく。美理子が、彼女達の出発前に言っていた言葉を。
「みーこ。ファイヤーストーンは、光のバリアーを作れるし、いざという時は炎龍を呼べると、水仙人様がおっしゃっていたわ。攻防どちらにも使えるなんて、本当に、優れた宝石よね」
(炎龍、炎の龍か……)
美衣子は、サッと立ち上がった。
その瞳は、熱い闘志で燃えている。
彼女の体から出る気で、ウェイビーストームは消え失せた。
「な、何!?」
驚く綾乃をじっと見つめて、美衣子は右手を空に捧げた。体から出るオーラは、どんどん大きくなっていく。その巨大なオーラを浴びて、仲間達が目を覚ました。
赤い気に包まれたまま、美衣子は叫ぶ。
「ファイヤーストーンよ、我が心の叫びを聞け! 来たれ炎龍! 来たれ炎! そして、あの黒き闇を吹き飛ばしたまえ!」
彼女の体を赤き炎が包む。
炎はめらめら燃え上がり、大地はオレンジ色に輝いた。
「みーこォォォォ!」
仲間達の絶叫。だが、彼女は気づいているのかいないのか、何も答えない。
右手を下ろし、胸のファイヤーストーンを前に出す。
「ファイヤードラコン!」
燃え上がる炎が炎龍の姿となり、綾乃に向かって行く。
ゴゴゴゴゴゴ。
「嫌あああああっ!」
綾乃の体は空の彼方へと飛ばされ、見えなくなった。
仲間達が、美衣子の下に来る。
「みーこ、凄い」
あんまりパンパンが褒めるので、彼女の顔は赤くなる。それでも、悪い気はしない。
そして、一行は次の目的地、大地の国グランバールへ向けて出航した。
その頃、同じ空に、黒き闇が浮いていた。
綾乃を腕に抱いたアルビネット・サタンが言う。
「憎き勇者達め。この恨み、必ず聖空間を征服して晴らしてやる……!」
戦いの波は、憎しみを込めて、どんどん広がりつつあった。




