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過去~別れ

ジルベル―ロットはすくすくと成長していった。

俺が名前を偽ったのには理由がある。

王子の名前がジルベルというのは、火山の国民の大部分に知らされていた。

ジルベルという赤子がいると国王に知られれば、国王はこいつを殺しにやってくるかもしれない。

こいつを守るため、唯一の友といえる存在アロットの名から、ロット・フェルゼンと名を付けた。

エーデは18歳だったが、給料は良いらしく困ったことは、あまりなかった。生活を続けるには、だが…。


「ちょっとおじさん、これだけの木の実がそんな高いなんてどういうこと?ぼったくりも良いとこよ。」


「仕方ないだろエーデちゃん…また税金が上がったんだよ。」


「今年に入って何度目だろうね…全く…。」


エーデとロットと三人で買い物に出かけたとき、そんな話を耳にした。

あの馬鹿王が好き勝手やっているらしい。

気に入らない。


「エーデ…ちょっと。」


買い物をしていると、見知らぬ大人達がエーデに耳打ちする。

そうされると、エーデは一瞬悲しそうな顔をしたあと、その大人に小さく「分かった。」と呟く。

大人達はそれを聞いて嬉しそうに去って行くのだ。

一体何を言われているのか、聞いたことがある。

エーデはまた、悲しそうな困ったような顔をして、いつものように俺の頭を撫でる。


「…なんでもないよ。ちょっと仕事を頼まれたの。」


そういった日の夜は決まって、エーデは何処かへ出かけていく。

何をしているのか。仕事とは何なのか。

この問いにエーデから答えは返って来なかった。




夜、エーデが家を出るのを俺は寝室から見ていた。

良くない予感がしたからだ。

エーデに助けてもらったのは恩に感じている。

しかし、もしも彼女があの馬鹿王と繋がっているとしたら…。

一村人と、国王が内通しているなどという考えは滑稽でしかないのだが…。

もしも、繋がっているとしたら、すぐにこの村を出て行こうと、心に決め、俺は眠たそうに目をこするロットを背負い、エーデのあとを追った。

人気のない裏路地。

月に照らされる中、エーデは光り輝く剣を持ち、赤々と輝いていた。

彼女の側で、人が倒れていた。

周りには赤黒い液体が広がっている。

鉄の臭いが辺りに溢れている。血だ。

エーデの仕事は人殺しだった。

俺がいることに気づいたのか、エーデは眼を大きく見開きわなわなと震えた。


「…見たのね?」


俺は声を出すことができず、ただ頷いた。

俺の顔を凝視したあと、俺が背負っているロットの顔を見た。

先程無理矢理起こしたため、睡魔が襲ってきたのか、よく眠っていた。

エーデは俺たちをみて悲しげに目をふせ、力なくしゃがみ込む。


「この人たちは?」


「窃盗を働いた者たちよ。村の外の人間ね…こいつらを殺せと依頼されたの。」


もう隠し事はやめよう。

エーデはそういわんばかりに次々と話してくれた。


「私はね。人とは違うのよ。人を傷つけることに長けて生まれてきてしまったの。生んでくれた人とは丁度あなたくらいの時に別れた。その後両親にあって、もう誰も傷つけないですむって思ってたのに…やっぱり私にはこれしか能がない。こうやって生きるしかないんだ。」


そう言ってエーデは涙を流した。

先程、エーデを馬鹿王と通じていると勘ぐってしまったことが恥ずかしかった。

エーデは最初からとても優しく、俺たちを迎えてくれた。

エーデを最初見たとき、どこか俺たちと似ていると思っていた。

エーデは人と違っている自分のことが嫌いなんだろうか。エーデが自分のことを嫌いになる必要なんてないのに。

この村の人たちは優しいが、どこかで泣いているような気がしてならなかった。

皆、苦しんでいるんだ…あの王のせいで…

俺の小さな身体で何かが固まったように思えた。


「エーデ、泣くな。…頼む俺に武術を教えてくれ。」


俺は王を倒す。

ジルベルのために、皆を泣かせないために。

なんて、正義気取りで俺は思った。




エーデの指導はとても厳しかった。

オニキス様から教わった武術のおかげで、俺は基本的なことは大体できるようになっていた。それが役にたった。

そして俺たちは成長する。

ロットも遊び半分で武術を習っていた。

ロットが10歳になった年。

つまり、愚王が王権を握って10年がたった年のことだ。


「…二人に話しがあるの。」


エーデはそういって俺たちに話し出した。


「私は…村を出る。」


とても驚いた。

エーデの瞳は決して判断を変えない。そう語っていた。


「どうして?俺たちを捨てるの?」


泣きそうな顔をしてエーデを見つめるロットをエーデは愛しげに頭を撫でた。


「大丈夫よ、ロット。私は決してあなたを捨てたりしない…でも、私はあの男が許せないの。」


エーデは眼を細め憎しみの表情を露わにした。

あの男とはもちろん、王パイル・ヴォルガンのことだ。

この10年間で奴の暴君ぶりは凄まじいものになった。

何人か、そんな王に反旗を翻した者もいたが、その者はすぐに捕まり、見せしめに殺された。

年をおうごとに税は上がり、貧しい者が増えて行く。

町は腐った臭いで溢れていた。


「村を出て、どうするつもりだ?」


「…国際治安維持委員会という組織が発足されたのよ。私はそこへ行く。そこならパイル王に対抗することができる者がいるはずだから…だから、待ってて。必ず迎えにくるわ。」


エーデはそう言って家を出て行った。

数日後、大量の血で汚れたエーデのローブが見つかった。






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