過去~学者の発見
イチとシラベの二人は無事に火山の国へ到着していた。
イチは何も隠そう、国王フェーユ13世の妃の妹である。
王族とも等しい貴族の一人である彼女が医者としてこの地に降り立ったのは、夫であるシラベの存在が大きい。
貴族と一学者の大恋愛の末の結婚。
シラベが学者業の傍ら行っていた医者としての仕事をイチが受け継いだのだ。
ここは、火山の国が二人に用意した診療所である。
この場所を用意させるため、イチとシラベの二人は火山の国側の『兵士などを引き連れず、二人で来ること』という申し出を飲んだのだった。
イチは診療所で、平民たちの怪我や病気の診察を、シラベは昨今、三大国それぞれに生まれ始めた、金色と紫色の子供たちのことを調べようとしていた。
「シラベ。草原の国で生まれた金色を持つ子供のデータ、ここに置いておくわね。」
「ありがとう…草原の国のデータだけではまだ少ないから、火山の国にこれて本当に良かったよ。」
「何か分かったことはある?」
「大海の国、ヴァッサー家の長子は紫色の瞳を持って生まれている。生まれつき目が悪く、眼鏡をかけないと、全く見えないそうだ。」
シラベは草原の国から持ち寄ったデータと大海の国の情報屋から仕入れた情報を見比べる。
シラベの読んだ情報にイチは驚いた。
「ヴァッサー家の長子って…もしかして、フォグくん?目が悪いなんて、全然気づかなかった…そういえば、いつも杖をついていたわね…。」
イチが驚いたのには理由がある。
ヴァッサー家のフォグは、少年ながらもその天才的な頭脳で軍を統率していたからだ。
兵法や策略といった知識も大人顔負けである。
「火山の国では、ある国境付近の村で紫色の髪をした殺し屋の姿の目撃情報が少なからずある…。」
殺し屋という不穏な言葉にイチは身震いする。
「草原の国のロータス家のご令嬢…金色の瞳で生まれたため、気味悪がられていたが、非常に頭が良く、幼いながらもお前の弟子となり、医師としての将来を約束されたのも同然…。大海の国のエストレザー家の分家に生まれたローレライ姫も美しい金色の瞳を持って生まれ、美しい声とカリスマ性で、次期王の座はほぼ確実と言われていたしな…。」
「彼らに何か共通点はあるの?」
「あるとしたら…才能だな。」
ヴァッサー家のフォグの卓越した軍事の才能。
火山の国、国境付近の村の紫の髪の殺し屋。
ロータス家のご令嬢の天才的な頭脳。
エストレザー家のローレライ姫の美しい声とカリスマ性。
皆、才能に恵まれているものが多かった。
「…そういえば、城下町で数年前生まれた王子の噂を聞いたわ。」
「王子って、パイル王の実子ベルク王子のことか…?」
火山の国に着いたときに、城内で見かけた目付きの悪い王子のことを思い出す。
「いいえ、生まれてすぐに事故にあい亡くなったそうなの。噂によると、金髪だったって…。」
「亡くなったのが悔やまれるな…俺の見解が正しければ、その王子も類まれなる才能を持っていただろうに…。」
王子の死を残念に思い気持ちは本物だった。だが、それと同時に、自分が新しい知を世に生み出したのではないかという興奮にも包まれていた。
すぐに、書物にまとめよう。
題名は…『色彩民族論』。
「なに…『色彩民族論』だと…?」
「はい。火山の国の赤色、草原の国の緑色、大海の国の青色と共に、金色と紫色を他の色を持つ者よりも優れた才能を持つ者として紹介するそうです。」
火山の国の城内、自室として使っている趣味の悪い執務室でシラベとイチ二人の監視につけていた兵士からの報告をパイル王は受けていた。
一時の間思案する。
不味いことになった。
数年前、彼は金髪の王子をその母である女王諸共焼き殺した。
『呪いの子』だといわれもない悪評をつけて。
金髪は呪いだと言ったのは自分である、『色彩民族論』が世に出回れば、パイル王の指示を知る者たちの中から、彼の行動を批判する者が現れるだろう。
『色彩民族論』が出る前に存在を、それを知るもの諸共、この世から消してしまおう。
この地位を脅かしたくはなかった。