過去~医者の入国
女王サンが死に、占い師オニキスも死んだ。
国王は笑った。狂ったように
「これで私が王となることに支障はなくなったわけだ…。」
パイル派の人間は国王と同じように笑った。
しかし、良い顔をしなかった者もいる。古株の貴族たちだった。
「恐れながら…国王。サン女王の娘アウルム王女はまだご健在です。我が国の法に従うならば、次期王にふさわしいのはアウルム王女では…。」
発言したのは武闘派で有名な貴族クリシス卿であった。もうかなりの年だが、足取りはしっかりとしていて、女王派の貴族のリーダー格の男だった。
「なるほど。クリシス卿の言う事も確かだな。」
「それでは…。」
「ああ…誰か、この男の首をはねろ。王への反逆罪だ。」
「そんな!!」
衛兵たちはクリシス卿を捕え、どこかへ連れて行ってしまった。
「国王!お待ちください」
「なんだ。お前も殺されたいのか?」
「…いいえ。しかし、国のきまりで王族の血を引かなければ国王にはなれないと決まっております。」
文官が怯えながらいった言葉にパイル王は、しばらく考え口火を切った。
「では、アウルム王女を私の息子に嫁がせよう。私はその間の子が生まれるまでの仮の王…というわけだ。これで文句はないだろう?」
「息子…!?」
ざわざわと騒ぎ出す面々。
「国王、息子とはいったい…?」
「何も不思議なことではないだろう?昔の恋人との間に息子が一人いる…そうだ恋人を新しい妃として向かい入れよう。息子を王子とすれば、アウルム王女との婚姻がしやすいだろう?」
賛同したのはパイル派の者だけで、他の者はじっと口を噤んだままだった。
この国がおかしくなってしまう。
皆、同じ言葉が過る。
悲しげに頭を振った。
―草原の国―
王の執務室にいるのは、国王フェーユ13世とある女性。
緑色の髪のお河童頭で、着慣らされた白衣が良く似合う。
女性の気品ある佇まいから、高位の人間であることが伺える。
「…お前が何をしようと私が口出しすることではないが…何故今、火山の国へ行こうと思ったんだ?」
「お義兄さん。安全だとかそうじゃないとか。私からしてみれば、そんなの何も関係ないわ。だって、私は医者。苦しむ人がいればそこに向かい、患者を癒すのが私の仕事よ。」
彼女の職業は医者。
そして、国王フェーユ13世の妃の妹である。
「だから、この私は、イチ・ポーレンは火山の国へ行く。そこに傷ついている人がいるから。」
イチの言葉に義兄は深く溜め息をついた。
「止めても無駄…というわけですか。」
「ご安心を。きちんと僕が同行しますので。ですから、公務に支障のないようにお願いいたしますよ。13世。」
名乗りを上げたのは、シラベ・ポーレン。イチの夫であり草原の国が誇る学者である。
「それでは、行ってまいりますね。」
シラベとイチは笑顔で草原の国を後にした。