過去~母の死
「ロシェ。大変だ。女王とオニキス様が!!」
走ってきたのか荒い息でテランが俺に伝えた。
今、何が起こっているのか。理解しているつもりだ。
先日生まれた王子のことを、皆、不気味に思っていた。
両親ともに赤髪であるのに、姉は赤髪で生まれてきたのに、何故、この子だけが金髪なのだ?
生みの親であるサン女王も側近のオニキス様も気にしていなかったが、他の者たちの目は厳しかった。
そして、国王の一言「呪いの子、不幸の象徴」堰を切ったように、王子を殺そうと皆行き込んだ。
「二人はどこに?」
「オニキス様の塔にいる、王子も一緒だ。」
俺と一緒に育てられたせいか、二人は女性らしく育たなかったようだ。
口調が似てしまった。
「お前はスウとともにアウルム様を守れ…俺はオニキス様たちを助ける。」
俺はまだ小さな子供だが、負けない自信があった以前女王が俺にくれた剣を担いだ。
まだ大きく感じ、大人たちがしているように腰にさすことはできなかった。
王家の紋章が刻まれている俺のお気に入りだった。
「…分かった。ロシェ。無事でいろよ。」
テランの言葉を背にし、俺は塔へと急いだ。
「サン女王。はやく王子をこちらに渡してもらおうか。」
「あなたなんかに渡す理由がないわ。」
窓から顔を出し、そう言ったのはオニキスだった。
パイルは舌打ちし、声を荒上げる。
「お前に言ったのではないぞ、オニキス!!女王を出せ!」
オニキスは答えず窓を閉めた。
「くそっ…こうなっては仕方ない。火を放て。女王とあの黒い女占い師諸共、王子を殺す…。」
塔めがけて、火矢が放たれた―――。
「何?」
「あの馬鹿王。火を付けましたね。」
「そんな…オニキス、お願い。私はどうなっても構いません。この子を…ジルベルを助けて。」
サンがそう言い、オノキスへジルベルを渡した直後、何かに引火し、爆発音が聞こえた。
サンへと塔を形作っていた材木が落ちる。
煙が充満し、火が赤々と輝いた。
「女王…!!」
オニキスは叫んだが、サンからの返事はない。
唇を噛みしめ、火を避けるように裏口へ急いだ。
「ついた…。」
俺は裏口にいた。
正面には兵士たちで溢れていて、近寄ることができなかった。
倒すと意気込んでいたのに、何もできずに逃げてしまった。
その事が悔しくて涙がでた。
燃え盛る塔の前では、子供の力など無力だ。
「ロシェ。」
名を呼ばれ、急いで涙を拭いた。
そこにオニキス様が赤子を抱いて立っていた。
ゆっくりと俺に近付き、赤子を渡す。
美しい金髪、ジルベル・ヴォルガン様だった。
「ロシェ。王子を守りなさい。それがあなたの使命よ。」
オニキス様の言葉、一つ一つが直接、俺の心に響いてきた。
「ごめんね…ロシェ。母親らしいことをしてやれなくて…。」
オニキス様は俺の額に手を当て、涙を流した。
綺麗な涙で本当の母のようだった。
ここから記憶は途切れる。
ただひたすら、がむしゃらに走ったことは覚えている。
気付いた時、俺はジルベル王子を抱き、国境付近の村にいた。
空から灰が降っていた。
いつも山から降るような灰とは違う。
塔から舞い上がっただろう灰に、俺は悲しくて涙があふれた。