過去~王子の誕生
オニキスに引き取られてから、俺たちの人生は一変した。城の南西側に位置する。オニキスが家代わりに使っている塔で生活した。
そこで俺は簡単な武術を、スウたちはメイドとして働くための知識を教えられた。
母のように接してくれるオニキスのことを俺たちは大好きだった。
「ロシェ!今度、森へ行きたいわ!連れてってよ。」
俺の腕を振り回してはしゃぐのはアウルム王女だ。
俺は年が近いということもあり、アウルム王女の付き人を任された。
姫はとても賢く、様々なことを俺に教えてくれた。
もうすぐ生まれる弟へのプレゼントとして、可愛らしい黒髪の人形が贈られたとか。
国民の不安を取り除くためにやってきた新しい父が嫌いだとか。
神器がどこかへ行ってしまっただとか…。
主に義父への愚痴がほとんどであったが…。
「行けませんよ、アウルム様。今は勉学の時間です。すぐにお部屋に戻らなくては、先生が心配しています。」
「つまらないな…ピクニックに行ったら素敵だと思ったのに。」
「あなたは将来女王になる身なのですから、しっかりと勉学に励みませんと…サン女王が悲しみますよ。」
アウルム様は口を膨らませる。
「私、勉強嫌い!特に読書が嫌いなの。一日中どこかに閉じ込められない限り、本なんて読まないんだから。」
子供らしい、わがままな口ぶりである。
こんなものの言い方を俺はすることができないので、憎らしくも思うが、どこか羨ましくも、微笑ましくも思っていた。
膨らませた口のことを忘れたのか、手を叩き、俺に笑顔をみせる。
「ねぇ、聞いてロシェ!母様にね。弟の名前を私が付けてもいいと言われたのよ。」
アウルム様は嬉しそうに、これから生まれてくる弟の名前を口にした。
「ジルベル。良い名前でしょ?」
色々な人に話しても嬉しくて仕方がないのだろう。
姫の表情はとても輝いていた。
そして月日は流れ、アウルム様の弟ジルベル・ヴォルガン王子が誕生した。
だが、この王子の誕生がこの国の波乱の幕開けだったのだ。
「金髪の、王子が生まれただと…!?」
国王パイル・ヴォルガンは側近の言葉に驚愕した。
パイルは王家と遠縁の存在で、前王が先の災害の巻き添えに死してしまったあと、王の地位へとついた。
この火山の国では、王位は王族本家の長子に継がれることとなっている。
それは、男でも女でも変わらない。
今は、アウルム王女が幼いため、二人の母のサンと仮の国王パイルが国王の任についていた。
いずれ、パイルの地位は元に戻る。
彼にも自分の一族を王家にしたいという野心はあった。
しかし、正式な王家の血を引く子供の存在は彼の地位を、野心を脅かす。
「それは…お祝いしなくてはな…。」
口ではそう言いつつも、焦りを感じていた。
―何とかしなくては、私こそが王なのだ…
先日、前王の部屋で見つけた緋色の石が埋め込まれた指輪を取り出した。
三大国に伝わる、三種の神器の一つで、火山の国では王権の象徴である。
パイルはそのことを知らなかった。ただ、前王がよく、この指輪をつけていたのを思い出し、思わず持ち出してしまったのだ。
緋色の石の魅惑的な輝きに魅了され、パイルはその指輪を指に嵌めた。
そうすると、自然と落ち着くことができ、ある考えが頭をよぎる。
―王女と王子がいなければ、王は私のままじゃないのか。
にやりと微笑む。
すぐに自分を支持するものたちへ指示を出した。
「王子を殺せ。あの金髪は呪いだ。不幸の象徴だ。」