過去~母との出会い
「今日でお別れだな。」
アロットが悲しげな顔をして俺に言ってきた。
ここは、火山の国城内にある孤児院のような場所だ。
広い講堂のような場所で、親を亡くした13歳までの子供たちが生活をして里親に名乗りをあげた貴族や豪族がやってくるのを待っていた。
全て女王の政策だ。
先日病気のためになくなった国王の妃として、女王の身についたサン・ヴォルガンは、その美しさと優しさで国民皆に好かれていた。
そんな女王の政策に貴族たちは賛同し、次々と孤児たちを引き取っていったのだ。
アロットも今日、ある貴族の家に護衛見習いとして行くことになっていた。
「俺がいなくてもしっかりやるんだぞ、ロシェ。」
アロットは、ここに連れてこられてきた時から話があって、よく行動を共にしていた。
はじめての友人と呼べる相手かもしれない。
そんなアロットが居なくなるのは少し寂しかった。
にっこりと子供らしい笑顔でアロットは去って行った。
彼の赤い髪が陽光に照らされ、とても美しかった。
すぐそばにあった小さな鏡を覗き込む。
映るのは黒髪の少年。
皆と違う、劣っている象徴だと馬鹿にされた過去を思い出し、俺は鏡を割りたくなる衝動に駆られた。
広間にいるのは俺を含め三人しか子供が残されていない。
俺はこの黒髪のせいで、中々引き取り手が見つからなかったのだが、二人が何故残っているのかは分からなかった。
いつも二人一緒に行動し、めったに話そうとしない。
世界にいるのは自分たち二人だけだとでもいうように他人を拒絶していた。
確か名前はスウとテランだったと思う。
俺より年は下らしく、怯えたような目で俺を見ていた。
こいつらはきっとすぐに里親が見つかると思う。
でも、俺は…。
子供の高さに合わせられた椅子に腰かけ、興味なんてないのに、絵本をじっと読んで一日を過ごす。
ガチャ
扉が開いた。
孤児院の戸が開くのは限られている。
一つは食事の時間。
もう一つは散歩の時間。
あと一つは里親がやってきた時だ。
まだ食事の時間にははやく、散歩もさっき済んだところだ。
ないとは分かっていても期待せずにはいられず、扉のほうをみた。
入ってきたのは女だった。
黒いローブを身にまとい顔は見えなかったが、優しげな印象があった。
「こんにちは。はじめまして…私はオニキス・アディス。あなたたちを引き取りに来たの。」
そう言ってスウとテランの順に頭を撫で、最後に俺に優しく微笑みかけた。
「今までよく頑張ったわね…これからはずっと、私と一緒よ。」
そう言って、オニキスは自分のことを俺の母だと言ってくれた。