隠密入国
―草原の国―
「ポーレン夫妻と連絡がとれない?」
王の執務室にて、その事実を知らされたアカンサスは、思わず声に出してしまった。
国王の前で不躾であったと、小さく咳払いをしたあと謝罪する。
フェーユ13世はこんな小さなことで、謝る必要はないのにと溜息をつく。
頭を垂れるアカンサスを無理矢理起こそうと、立ち上がると眩暈がおきた。
最近、どうも体調が優れない。
アカンサスはすぐにフェーユ13世の身体を支え、椅子に腰かけさせた。
「ありがとう…。イチとシラベの二人だが、20年ほど前、火山の国へ行ったきり、帰ってこないんだ。」
呼吸を落ち着かせ、話をもとに戻す。
アカンサスは水差しから水を注ぎ、フェーユ13世へ手渡した。
「だが、連絡はあったので深刻には考えなかった…。」
フェーユ13世は一つ頷き、また続けた。
「しかし、最近はその連絡も突如として絶えてしまった…火山の王政が悪化していることは理解していたが…不可解な点が多すぎる…王専属隠密部隊隊長アカンサス・モーリスに命じる。ポーレン夫妻の安否確認、そして火山の国を探ってきてくれ。」
「…分かりました。」
王の執務室を去り、自分の部屋に帰ったアカンサスを待っていたのは、特級指揮官である彼の部下だった。
「おかえりなさい、アカンサス殿。」
「…何のようだ小僧。」
「開口一番がそれですか…私の名前はフキノトウですよ。小僧なんて呼ばないでください。」
フキノトウの言い分をアカンサスは聞いているのかいないのか、鼻をならし火山の国へとむかう準備をはじめた。
「どこかへおでかけですか?」
「お前には関係ない…はやく仕事に戻ったらどうだ?」
一触即発の二人の間を壊すように扉が開いた。
「また喧嘩してるの?」
黄色の強い緑色の髪をした女が入ってきた。
淵のある色眼鏡は大きさがあってなく、今にもずれ落ちそうだ。
白衣を着ているところから見て、医者だろう。
「これは、レン殿。こんにちは。」
「こんにちは、フッキー。アーたんと喧嘩しちゃダメよ?」
「…気を付けます。」
フッキーと言われたことに苦笑いをする。
レンと呼ばれた彼女は、つかつかと靴を鳴らしてアカンサスに近付く。
アカンサスとフキノトウの二人のことを、綽名で呼ぶところから、親しい仲なのだろうか。
「…どうかしたのか?」
「アーたん、火山の国へ行くんですってね。…師匠、イチさんを探しにいくんでしょう?」
どこでそれを聞いたかは聞かない。
だが、肯定も否定もアカンサスはしなかった。
「国王様から聞いたの。わたしも少しこの国から出るから、ついでに教えてくれたのかな。」
「国を出る?」
「安心して、別に亡命するわけじゃないから…ちょっと人に呼ばれたの…。」
「…気を付けろよ。」
「アーたんもね。」
2人の会話を聞き、フキノトウは何とも言えない、気恥ずかしい感情を覚えた。
昨晩の炎はあたりいったいの村を全焼させていた。
村人の何人かは炎の中で息絶え、たくさんの村人が負傷した。
被害は俺たちの育った村にも及んでいた。
「…くそっ!!」
膝から崩れ落ち、ロットは自分の育った村の変わり果てた姿を嘆いた。
「誰が…こんな…っ!皆に罪はないじゃないか…邪魔なら、俺たちだけを狙えばいいのに…なんでっ…!!」
「落ち着け、ロット!!俺たちが取り乱してどうする…エーデの意志を継ぎたいんだろ!?」
俺はそう強くロットに言って聞かせた。
表面上は冷静に答えたつもりだったが、声が震えているように思えた。
国王への恨みは募るばかりだった。
「…誰がこんなことを?」
俺の叱責が聞いたのか、ロットは幾分か冷静さを取り戻して言った。
俺は一瞬これを、誰がやったことなのか、分かったような気がしたが、首を振り、その答えを否定した。
…アロットのわけがない…




