森のくまさん
ハッピーエンドで終わる物語から一番遠い物語。
ある日、森の中。
赤ずきんは、熊に出会った。
ちらほらと花の咲く道。
その熊は――よだれを垂らし、こちらを凝視しながら、唸り声をあげている。
赤ずきんはその場に立ち尽くし、熊を見つめている。
――過ぎていく時間。二人――正確には、一匹と一人の間に、少し肌寒い風が通り過ぎる。
「――――――」
赤ずきんは、熊に問いかける。ここはどこなのかと。
熊は――その問いに答えない。否、答えられない。
そして熊はしばらくして――動き始めた。
道沿いに、だんだんと奥に向かって。
もしかして、森から出る道を教えてくれているなどと考えた赤ずきんは、そのまま熊についていき。
すぐに道の幅も広くなっていき、出口だと思われたので、熊にここまででいいと伝え、赤ずきんは、時間的余裕も持っていたので、花を摘み、帰ろうとした。
花を摘む。
その後姿を、熊が見る。
ある程度花も摘み終え、帰ろうと立ち上がり、熊に手を振った瞬間だった。
――何かが、飛んだ。
何かが何なのかは分からないが――それでも、何かが飛んだことは確信できた。
その直後。
起こったことに、赤ずきんは一瞬――いや、一時、理解できなかった。
いや――理解し難かった。それとも――理解したくなかった。
熊の首が――飛んだ。
男たちが、熊に寄っていく。
幸い、というべきか、赤ずきんには気付いていなかった。
男たちは熊に――熊だったものに寄っていき、そして。
それを、切り刻み始めた。
見るにむごたらしい姿になるまで、原型を留めないまでに。
血が飛ぶ。肉が飛ぶ。
意識が――飛ぼうとする。
しかし、それを――許してくれない存在がいる。
赤ずきんはその場に立ち尽くし、それを見ていた。
飛ぶ血を。飛ぶ肉を。
初めて見る――生き物の、血を。肉を。
赤く、黒い、それを凝視して。視線を離せない。
離そうとしても、放そうとしても――はなせない。
誰かがそれを、許さない。
切り刻まれた全て。
切られ。切られ。切れる。
容赦なく。振り下ろされ。
やがて。
男たちは怪しい目で赤ずきんを見て。
顔を――歪めた。
大人数でこちらに向かってきて。
そして――醜いものを。
赤ずきんに向かって――さした。