購入不可避
冒頭から始まる音楽。
思わず釘付けになった。
その……「カッコイイ」に。
人によって感想は様々だろう。
私の第一印象はひたすら「カッコイイ」だ。
(すげえ……なんか……この音楽好みだ……)
好みなんてのも人それぞれ。
でも何故か、この映画が大ヒットしているという理由が分かるような気がする。
ちなみに映画が開始してまだ数分たらず。
私はその時点で、既に「ミュージカルには興味はない」という前言を撤回していた。
とんでもなくカッコイイ冒頭から、物語は紡がれていく。
時代的には……古き良きアメリカ、という感じだろうか。
(ふむふむ、ストーリーはどんな感じだっけ……確か実在した興行師の……)
ちなみにだが、私は映画を見る時……一回で理解できるようにかなり気構える。
字幕で表示される文字を一字一句逃さまいと……
(あれ? このストーリー……)
物語が進むにつれ、なんだか今まで見てきた映画と違う気がした。
本当にこれは私個人の印象だが……
(なんか……観るっていうより感じろ! って気がする……)
ちなみに映画が開始してまだ三十分も経っていない。
この映画のストーリーは至ってシンプルだ。しかし決して単純という意味ではない。
(お、また歌が……)
度々申し訳ないが、私にとってミュージカルは退屈な物だ、という印象があった。
歌が流れている間は物語が進行しない、と決めて掛かっていたからだ。大して見たことも無いくせに良く言う……と思われるだろうが……。
(……この歌もいいなー……なんか癒される……ぉ、次の展開が……)
私はこの時、まったく気にもしなかった。
後から考えれば、かなりの超展開の筈だったのだ。しかし違和感が全くない。
私が見たい場面を見せてくれる……そんな印象を持った。
(あー、男はそうだよな。いくら奥さんが幸せって言っても……納得できないよな……)
あまり言うとネタバレになるので、あらすじ的に言うと……一人の男が自分の家族を幸せにしてやるぜ! と奮起する感じだ。
(……どうなるんだろ)
先程も言ったが、この映画のストーリーそれ自体はシンプルだ。
しかしかといって、次の展開が余裕で予測できるシンプルとは違う。
あまり上手くは言えないが、予想は出来るが、そんなヒマはない! と言えばわかるだろうか。
そうだ、予想する時間など無い。
展開から目が離せない。そしてたたみかけるかのように、歌とダンスが始まり物語はさらに展開していく。
(ぁ、また神曲が……やば……サントラ買お……)
私がサントラを買うのを決意したのは……男がアイデアを閃いた時。
(あぁ、もう歌終わる? 終わりそう? 終わっちゃう?)
もっと聞いていたい、っていうかずっと歌だけでもいい!
ってー! また展開が……!
【注意:わけわからんと思いますが、ご容赦下さい……】
次の瞬間、私は先ほど猫が言ってきた注意事項がどういう事なのか理解した。
映画の中で観客が総立ちし拍手をした瞬間、私は……
(あぶねえ! 拍手しそうだった!)
リアルの映画館で突然拍手しようもんなら、異様な目で見られる事は必至だ。
しかし体はうずうずしている。今すぐ、映画の中の観客達に混ざりたい。そして感動を共有したい。
(いいな……映画じゃなくて普通のミュージカルだったら……拍手出来るのかな……)
既に私はミュージカルの虜になっていた。
歌が楽しみで仕方ない。かといってそれ以外の場面が退屈というわけでも無い。
本当にいい意味で休む暇がない映画だ。たとえ今日が徹夜続きの朝だったとしても、私は起きていられる自信がある。
そして物語は不穏な空気を醸し出しつつ、クライマックスへと。
何度も言うが、私はカッコイ物が大好きだ。そんな私に共感できる人なら、絶対この映画はハマる。
だって終始カッコイイ。歌もダンスも……主人公の生き方も、周りの登場人物達も。
(あぁ、そうか、こうきたか……)
いよいよ物語はラストに近づいていく。
主人公は様々な体験を経て、大切な物を思い出した。
私はその時、本当に感覚的にだが……自分の世界が広がるのを感じた。
大袈裟かと思われるかもしれないが、本当にそう思ったのだ。
※
映画が終わり、私と猫は映画館のホールに戻ってきていた。
ちゃこは大層ご機嫌で、さっきから映画の歌の一つを鼻で歌い続けている。
「ご機嫌だな……ちゃこ」
「当たり前にゃ。君はどうだったにゃ? 面白かったにゃ?」
うむ……面白かった。
だがその前に……いろいろと語りたい!
「おちつくにゃ。家に帰ったらどれだけでも……ぁ、とりあえず余ったポップコーンの袋貰ってきたらどうにゃ?」
むむっ……確かに。
映画に夢中でポップコーン全然食ってなかったもんな。
お姉さんにもらってくるか……。
「すみませーん、袋ください」
「どうぞー」
お姉さんは普通に袋をくれる。当たり前だが。
「さーって……じゃあ家に帰って語るとするかにゃ?」
「いや、ちょっと待ってくれ。映画のサントラ欲しい」
その時、私は確かに感じた。
腹の中で猫が震えるのを。
「にゃんてこった……き、君! 君は最高の友にゃ!」
何だいきなり……いや、でも売ってるかな……。
あれだけ面白かったら、もう皆買っちゃうから……
「い、急ぐにゃ! CDショップへ!」
「お、おおう」
私はお姉さんにもらった袋にポップコーンを入れつつ、CDショップへと早歩き!
どうでもいいが、映画を観た後って……なんか映画の影響とずっと同じ体制で座ってたのもあって……体を動かしたくなる。そう、私は今かなり踊りたい気分だ! 踊るスキルなど無いが!
この大型ショッピングモールには当然CDショップも健在している。
しかし目的のCDはあるだろうか……もし「売れきれましたー」とか言われたら泣いてしまいそうだ。
そっとCDショップ内へ。
私はその瞬間、こう叫びたかった。
(店員さん……神!!)
そう、目的のCD……今見た映画のサントラは平積みにされ、専用のコーナーが設けられていた!
なんてこった……しかも今は期間限定で少しお安くなっている!
「店員さんにお礼言うにゃ!」
「まあオチツケ、焦ったら負けだ」
私は一枚CDを取ると、そのままレジへ直行。
そこで私は気が付いた。今、この私の状況……店員さんにモロバレでは?!
なにせ手にはポップコーンが入った袋。そして購入するCDは映画のサントラ。
店員さんはこう思うに違いない。
『コイツ……絶対いまこの映画見てきただろ……』
うぅぅぅぅ! その通りさ! 今この映画みたさ! だから何だ!
ちょろい客だなんて言わせない!
「まあ、ちょろいにゃ。でもそれがどうしたにゃ! 僕たちはひたすら王道を行けばいいにゃ!」
ぁ、ハイ……いや、まあ……買うけども。
そのままレジでCDを提出。
その瞬間、店員さんの目が一瞬……私の持つポップコーンへと注がれ……
今……なんか一瞬店員さん笑った気がする! っていうか凄い笑顔だ! 微笑ましい物を見るかのように!
「お、おちつくにゃ……店員さんは基本スマイルにゃ……深読みしすぎるとドツボにゃ……」
「う、うむ……」
お金を用意しつつ、店員さんが商品を袋に入れてくれるのを待つ私。
「お待たせしましたーっ」
「は、はひ……」
やっぱり店員さん……なんか凄い笑顔……!
うぅぅ、悪かったな……映画見てすぐサントラ買って!
私の気のせいかもしれないけど、店員さんがいじめる!
「き、きっと気のせいにゃ……店員さん、ただスマイルをくれてるだけにゃ……」
そのままサントラを無事購入。
寄り道する事なく駐車場へと直行し、さっそくパッケージを開ける私。
うへへへへ、さっそく車のオーディオで聴こう、そうしよう。
エンジンを掛け、カーナビの中にCDを投入。
しばらくすると、あのカッコイイオープニングの曲が再生される。
お、おぉぉぉぉ、そうだ、この曲だ……この曲が好きだ!!
「ところで、君は気づいたかにゃ?」
「ん? 何を?」
猫はモゾモゾと私のお腹のポッケから出ると、助手席へと鎮座する。
「あの主人公、ウル〇ァリンの人にゃ」
「……ん?! ぁ、そうだ……あの人か」
マジか、今気づいた。
そういえばそうだ。え、メッチャ歌上手いよな……。
「基本的に皆上手いにゃ。それもにゃんだけども、ストーリーも良かったにゃね」
「うむぅ、確かにいい話だった」
主人公は最初、家族を守る為に奔走した。
でも物語が展開していくにつれ、主人公は……
「あんまりいうとネタバレになるにゃ。それに、彼が辿った人生を寄り道と言う人も居れば、きっと決してそうではないって言う人も居ると思うにゃ。君はどっちかにゃ?」
「んー……私はどちらかと言うと寄り道派かな……奥さんに寂しい思いさせたのは事実なんだし……」
「そうにゃね。でも彼は思い出したにゃ。自分が何のために夢を追いかけていたのかを……」
お前、いいこと言うな。
いや、それもなんだけど……なんかあの言葉が……凄い心に響いた。
「どのセリフにゃ?」
「それは……」
【注意:ぜひ映画を観てください!】
※
そのまま車を運転しつつ、映画のサントラを聞き続ける。
今なら鮮明に思い出せる。どの曲がどのシーンで流れた曲なのかを。
「初ミュージカル、どうだったにゃ?」
「面白かった……一気に好きになったわ」
「それは良かったにゃ。君の世界は確実に広がったにゃ」
うむぅ、それな。
私はあの映画を観てる時、それを感じた。
確かにあの瞬間、私の世界は広がったのだ。
具体的に何がどうなった、なんて言えないけども……。
「そういえばアンタ……猫だよね」
「何言ってるにゃ。当たり前にゃ」
いや、こいつは宇宙人だ。
決して猫ではないが……。
「猫の事も……少し考えを改めようと思ってしまった」
「ウフフ、映画の影響強すぎるのもどうかと思うけども、それで人生いい方向に行くなら……大歓迎にゃね」
なんだかいい事言って纏めようとしてる感は否めないが……。
「じゃあ次は何見に行くにゃ?」
「あー……次かぁ、次……」
って、ん?!
あんた……まさか住み着く気?
「ふふふ、君はまだ映画の入り口をノックしただけにゃ。映画の道はまだまだ……これからにゃ!」
そんなこんなで……私と奇妙な宇宙人の共同生活はまだ続くようだ。
私の映画ライフは……始まったばかりなのだから。
これにて入門編は終了です。
でも連載はまだ……いつかまた書き出します。
再び私の心が震えたら……奇妙な猫と共に映画ライフを送る事になるでしょう。
ちなみに実際この映画をオススメしてくださったのは「小説家になろう」のお気に入りユーザー様です。
いい小説ライフを……そしていい映画ライフを。
今回はこれで失礼します。ではでは!(*'ω'*)ノ