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第8話 薬毒一体

 瞬は、その白衣の人を追いかけた。舜多と想も、瞬を追いかけた。しかし、中庭は人で溢れていた為、瞬は白衣の人を見失ってしまった。

「弟よ。やはり、見間違いだったのでは?」

「そ、そうだったのかな…」

「舜多く〜ん!」

頭上から舜多を呼ぶ声がした。舜多達が見上げると、特研の展示教室の窓から、百瑚が顔を覗かせていた。舜多達は特研の展示教室へ戻ろうとした。その時、廊下で凛と出会った。

「あ、舜多くん…」

凛に声を掛けられて、舜多は歩みを止め、鹿金兄弟も止まった。

「ちょっと、講堂に来てくれない?」

「え、何で?」

「今、先輩のライブやってて…客を集めないといけなくて。」

「へぇ。じゃあ、ちょっとだけね。二人は先に特研の展示教室に行っててください。」

そう言って舜多は、講堂へ行く凛の後についていった。

「俺達すっかり、特研の部員扱いですね、兄貴…」

「他にやることもないんだ。それに今は、彼処が俺達の居場所の様な気がする。」



 ダブルダッチ部の発表が終わり、友祢は部室棟跡の李杏の墓に来ていた。

「廉ちゃんにあんなこと言ったけど…僕も、君に見せたかったな…」

友祢は、李杏と初めて会った日を思い出した。

 友祢は生まれつき白髪のために黒に染髪し、光に弱いその赤い目の為に外出時はいつも帽子やサングラスを付けていた。他の子ども達から見て『異常』な友祢は、学校で虐められた。帽子やサングラスが隠されて、まともに目が開けられないまま校外授業を受けたこともあった。担任の教師も、最初の頃はちゃんと生徒たちに何度も説明していたが、いつしかしなくなり、友祢を無視するようになった。しかし、クラスのルーム長だった李杏だけは、友祢を他の人と同じ様に接した。

 シオンの花を供えてギャラリーに帰ろうとした時、照貴と逢った。

「…俺を恨んでるか?」

照貴は友祢に問いかけた。

「いえ。あれが、あなたの仕事みたいなものですから。」

「そうか…」

遠くの方から斗織が来た。友祢は照貴に会釈をした後、斗織の方へ行った。

「あれ、今の人が父親?」

「違う違う、知り合いの先輩だよ。父さんはさっきの発表を見た後、仕事に行っちゃった。」



 凛に連れられて講堂に来た舜多は、バンド部の演奏による、体に響く爆音に耳を塞いだ。音漏れ光漏れ防止の為か、講堂の中は真っ暗で暑かった。気がつくと周りに凛はいなかった。バンドのいるステージには光があり、しばらくして音に慣れた舜多は、ステージの方へ行こうとした。ステージのすぐ下にはバンド部が沢山いて、立ち見をしていた。その中には、八組で部員の勇佑もいた。

 凛も見つかりそうにない為、講堂から出ようとした舜多だったが、講堂内は暗闇の為、何処が出口か分からなくなってしまった。光のあるステージの方へ行くとバンド部のモッシュに巻き込まれ、舜多は息が上がってしまった。曲が一旦終わり、モッシュの輪の外へ出た舜多は、ステージの袖に隙間から光が漏れている扉を見つけた。これが出口だろうかと、舜多は扉を開けた。すると其処は出口ではなく、バンド部の部室だった。どうやらバンド部の部室は、講堂のすぐ隣にある独壇場にあるらしい。それよりも舜多が驚いたのは、三年生と思われるバンド部員達に囲まれて床に押さえつけられて、凛が服を脱がされていたことだった。扉が開いたことで舜多が入って来たことに気づいた三年生達は、舜多の方を向いた。

「舜多くん…!」

涙を浮かべている凛のか細い呼び声は、舜多の三年生への怒りを更に強くした。舜多は三年生達に立ち向かうも、変身していない舜多は、大人数の三年生達にあっさり倒されてしまい、凛のいる方へ飛ばされた。

「誰だか知らねぇけど、一年が俺達に刃向かうなんて、いい度胸だな。」

三年生達の内のリーダー格と見られる男は、舜多にそう言った。

「お前達がやってたことは、絶対に許されない…!教師や親に言ってやる…」

舜多はそう言い返した。

「は?証拠は?ソイツが勝手に脱いだんだよ。」

「ふざけるな…!」

最早手段を選ぶ暇が無かった舜多は、変身してやろうと体に力を入れた。しかし、変身する時に必ず腰に出て来るベルトが出て来ず、変身することが出来なかった。舜多は戸惑った。

「ど、どうして…」

「おいお前。動画を録ってあげるからソイツとヤれや。断ったら…どうなるか分かってるよなぁ?」

リーダー格の男はそう言って、ギターを肩に担いだ。凛は舜多の服の袖を掴んだ。その手が震えていることは、舜多にも分かった。

(俺は、変身出来なければ、人一人救えないのかよ…!)

その時、舜多は虐められていた時のこと、初めて変身した夜のこと、李杏が最期に舜多に言ったことを思い出した。

(違うだろ…俺は…!)

深呼吸を一回した舜多は凛に言った。

「大丈夫だから。」

凛は小さく頷いた。舜多は濡れている凛の体をティッシュで拭き、服を着させた。それを見ていたリーダー格の男は、舜多の頭を持っていたギターで殴った。

「テメェ、俺の言うことが聞けねぇのか!?」

舜多はその場に倒れた。

「しゅ、舜多くん!」

舜多に駆け寄る凛。舜多は殴られたところを押さえながら体を起こそうとしたが、三年生達に蹴られた。

「へ〜。最近はこういうプレイが流行かい?」

その時、部室の扉の方から声が聞こえた。三年生達が扉の方を見ると、照貴が部室に入っていた。

「其奴ら、俺の連れでね。連れて帰らなくちゃいけないんだ。」

照貴は舜多を指差して言った。

「照貴…!」

リーダー格の男は照貴に掴みかかろうとするが、照貴は避けた。

「やめてよ、穢らわしい。」

照貴は舜多を起こして、舜多と凛と共に部室を出ようとする。

「おい、何勝手に」

リーダー格の男が照貴に言いかける。

「そうやって寄ってたかって…一人で生きられないんだな。」

照貴はそう言い残して部室を出た。部室の外のステージは相変わらず爆音が響き、舜多の頭を余計に痛くさせた。



「あ、まっきーに廉ちゃんに斗織!」

友祢と廉と斗織は、燦之嬢に声を掛けられた。三人は、バスケットボール部が行うメイド喫茶に来ていた。

「いや、何でお前がメイド服着てんだよ!」

廉はメイド服を着ている燦之嬢にツッコミを入れた。

「だって、接客の人出が足りないし、服が余ってたから…」

燦之嬢は恥ずかしそうにしながら答えた。

「燦ちゃーん!遊んでないで、調理手伝ってー!」

奥の調理室から、雅玖の声が聞こえた。

「おい、呼ばれてんぞ。」

斗織は燦之嬢に言った。

「大体、お前みたいなデカブツが着るもんじゃねぇよ。まっきーが来た方が可愛いし。」

廉は胸を張って言った。

「あ、言ったな?よし、まっきー。こっち来い。」

「へ?」

友祢は燦之嬢に連れられて、調理室へ行った。

「え、何でまっきー行っちゃうん?」

廉が首を傾げた。

「燦ちゃんが廉の言葉を鵜呑みにしたんだろ。ほら、注文して待ってるぞ。」

斗織はそう言って、廉をメイド喫茶が行われている被服室に連れ込んだ。

「…まっきーの…メイド服…」

廉は咄嗟に鼻と股間を押さえた。

 廉と斗織が被服室に入った後、舜多と照貴と凛が被服室に入って注文した。三人は席に座った。

「先輩…本当のこと、言わなくて良かったんですか…?」

保健室で治療をしてもらい、頭に包帯を巻いた舜多は照貴にそう聞いた。照貴は養護教諭の先生に、舜多の頭の怪我は立ち上がった時に机にぶつけたものだと嘘をついたからだ。

「後でバンド部の顧問にちゃんと言っておくよ。」

照貴は舜多にそう答えた。

「でもまさか、照貴先輩も一年前迄はバンド部だったなんて…」

舜多は、保健室にいた時に照貴が話したことを思い出した。

「雰囲気が良さそうだから入ったんだけど、内輪ネタで盛り上がる事しかしなくてさ。それに、先輩もあんなだったから辞めたよ。後輩を甚振るのが伝統とか言ってるけど…それで、凛くんは、またあの部活に戻るの?」

照貴は凛に聞いた。

「いや、僕も…バンド部、辞めようと思います。」

「そっか。」

 三人は食事を終えた。すると、照貴の席に抹茶アイスが来た。

「まだ食べるんですか、先輩。ていうか、抹茶好きですね。」

舜多が呆れ顔で言った。

「彼奴が好きだったんだよ。」

 照貴がそう呟いたように舜多には聞こえた。しかし、聞き返す間も無く凛が口を挟んだ。

「あの…!本当に、ありがとうございました、照貴先輩。」

「ふぇ?ひひぃへ、へふひ。」

「食べるか喋るかどっちかにしてくださいよ…」

舜多は照貴にそう言った。

「それと、舜多くんも、本当にありがとう。」

凛は舜多の方を向き直し、礼をした。

「えっ、そ、そんな。俺はただ、自分でもよく分からないけど、兎に角助けたくて…。」

あまり褒められることが無かった舜多は、凛の予想外の発言に戸惑った。

「凛くん、これからどうするの?」

舜多は凛に聞いた。

「僕はもう、あの部活には行かない。だから…とりあえず、特研の展示、観に言ってもいい?」

「いいよ。」

舜多は凛にそう言った。

「さぁ、特研に帰ろう。」

そう言って照貴は立ち上がった。舜多と凛も立ち、被服室を出ようとした。すると、入り口の方の席に、何処かで見覚えのある二人と、メイド服を来た綺麗な人が座っていた。

「あ、舜多くん!」

その綺麗な人は舜多に声を掛けた。よく見るとその人は友祢だった。

「え、と、友祢くん!?どうしたの、そのメイド服?」

「着替えさせられてさ。…どうかな?」

「え、えっと…可愛いと思うよ。」

「本当に!?ありがとう!」

「だからおいらが言ったじゃん?」

鼻の穴にティッシュを沢山詰めている廉が口を挟んだ。

「てかその服、露出多過ぎねぇ?幾ら夏でも風邪引くぞ。」

斗織が友祢に言った。

「それな。ていうか女子用だから小さいんだよ。」

友祢は斗織に言った。

「あ、あの!と、友祢くん。」

舜多は友祢に声を掛けた。

「ん、何?」

「ダブルダッチ、良かったよ。格好良かったね。」

「…そっか、ありがと。」

そう言って友祢は舜多に微笑んだ。



 被服室から特研の展示教室へ帰る途中、舜多は、ありがとうと言われて心が温かくなるのを感じた。

「言葉の力は、ヴィランの力と同じなのかもしれない。」

「え、何で?」

舜多の呟きに照貴が反応した。

「言葉は、人を喜ばせることも出来れば傷つけることも出来て、使い方で薬にも毒にもなると思うんです。ヴィランの力も、人を傷つけるだけじゃなくて、人を救う力になるんじゃないかなって…」

「それはどうかな。」

照貴は舜多の言葉を遮った。

「ヴィランは人間に化けて人を傷つけ、殺すこともある。この世にいちゃいけない存在だよ。」

「でも」

舜多はそう言って照貴の顔を見た。その時、舜多の背筋が凍った。ヴィランを語る時の照貴の目は、冷酷で豪胆で、何処か哀しげだったからだ。

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