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第6話 憂鬱な文化祭

「よっしゃ〜これで文化祭だ〜!」

期末考査最終日の最後の教科が終わると、勇佑がそう言った。彼方此方からも歓喜の声が上がる。

「ねぇ!友祢くん!」

舜多は思い切ったように友祢に声をかけた。

「ん?」

「あ、あのさ、今度、一緒に、ご飯をさ、食べに行かない?」

「あぁ〜…」

少し考え込んでから、友祢は答えた。

「これから部活で忙しくなるし、文化祭が終わった後でもいい?」

「う、うん!」

家族以外で誰かと外食をするのは初めてだった舜多にとっては、とても嬉しいことだった。

「しゃあ僕、早速部活へ行ってくるから。」

「うん!」

友祢は教室を出た。

「…やっぱりそうだよ。」

後ろから雅玖の声が聞こえた。勇佑と話している。

「まあ、出来るのも時間の問題だったよな。あいつも今年のミスター秋津候補だし。」

「でもまさかミス秋津二連覇の女と付き合ってるなんてね。その上、幹事長だもん。やっぱすげぇや。」

その時舜多は、誰のことを言っているのかが分かった。ホッパーヴィランの件以来、一学年の幹事長は友祢だからだ。ミスター秋津とミス秋津とは、毎年開かれる秋津高校の文化祭、通称秋津祭で行われる秋津高校一の美男美女を決める催しである。そのミス秋津を二連覇している女子と友祢が付き合ってると思うと、舜多はその女子を見たくて堪らなかった。

「きっと、友祢くんにお似合いの美人なんだろうなぁ。」



「クシュン!夏風邪かしら?」

「こんな時期にやめてよ〜。」

ギャラリーで友祢が、くしゃみをしたある女子と話していた。

「やっぱりまっきー、桜子(さくらこ)先輩と付き合ってるのかな?」

友祢とは遠い所で斗織と昼食を食べていた廉が斗織に聞いた。

「知らねぇよ。聞いてみたら?」

「分かった!」

「え、冗談だけど…」

廉は友祢と桜子の所へ行った。

「まっきー!斗織に言われたんだけど、桜子先輩と付き合ってるの?」

「あのバカ…」

頭を抱えた斗織を他所に廉は友祢に聞いた。友祢は一回桜子の方を見てから、廉の問いに答えた。

「うん。」

「うそん…」

「あっさり…」

廉と斗織はそれぞれ別の意味で唖然とした。

 昼食を取り終わり、斗織は友祢と廉に話す。

「考査期間で出来なかった、スピードをやるか。」

「え、早速やるの?」

廉が少し引きぎめに言った。

「あぁ。体もだいぶ怠けちゃってるからな。」

三人は所定の位置に着く。スピードは、縄を回すターナー二人と、縄を跳ぶジャンパー一人の計三人で行うダブルダッチの競技の一つである。斗織と廉はターナーで、友祢はジャンパーだ。三人はスピードだけでなく、フュージョンという、音楽に合わせてパフォーマンスをする競技の練習もした。

「やっぱりどうしても引っかかっちゃうなぁ、引っかからなければ百三十回行けそうなんだけどなぁ。」

練習の後、斗織が呟いた。

「でも凄いよ!三十秒で百十回超えは!まっきーは天才ジャンパーだね!おいらもトリック頑張るぞい!」

廉は友祢にそう言った。

「ぞいってなんだよ。」

友祢は笑ってそう言った。



 秋津祭初日。開祭式が終わり、友祢がギャラリーへ行くと、廉が壁に飾ってあった写真を見ていた。

「これって、去年の秋津祭の時の写真だよね?」

廉の隣に来た友祢はそう言って、廉の顔を見た。廉の目は、涙で潤っていた。

「兄貴が生きてれば、おいらのパフォーマンス、見せられたのにな…」

廉は震えた声で言った。

「…兄貴って?」

「この人だよ。」

そう言って廉は、写真のある人を指した。

御代田(みよた)(れい)。おいらの尊敬するダッチャーだよ。」

「もしかして、去年の秋津祭で、百二十三回跳んでた人?」

友祢は、去年行った秋津祭でのことを思い出していた。

「うん。スピードだけじゃなくて、トリックも、目にも留まらぬ速さで縄と縄の間を自由自在にすり抜けるし、空中で何回転も回ったりとかね、えっとね、それとね…」

「ふふっ、よっぽどお兄さんのことが好きなんだね。」

「勿論!」

しばらく黙ってから、廉は呟いた。

「……なんで死んじゃったの…兄貴…」

友祢は、我慢できなくて泣いてしまった廉を励ますように、そっと抱いた。

「大丈夫。廉ちゃんのお兄さんも、きっと見守ってるよ。」

「…グスン。」

しばらくして廉は泣き止んだ。

「そういえばまっきー、金髪にしたんだね。文化祭だもんね。」

廉は突然思い出したかの様に言った。

「え?うん。」

「おいらは赤で斗織は緑…って、信号機やないかい!」

悲しみを紛らわすかの様な廉のよく分からないツッコミに友祢が笑っている時、斗織が来た。

「廉、まっきー、此処にいたのか。明日に向けて、早速練習しよう。」

「えぇ!?朝に練習したじゃん!おいら、展示とか屋台とか回りたい!」

廉は駄々をこねるように斗織に言った。

「でもまだスピードで引っかかるし、フュージョンも細かいところを」

「おいら達、結構うまくなったじゃん!」

廉は斗織の言葉を遮って言った。

「廉……気持ちは分かるけど、改善出来るならした方が」

「何も分かってない!斗織のバカ!」

斗織の言葉を遮ってそう言った廉は、ギャラリーを走って出て行った。

「ちょ、廉ちゃん!…斗織、ちょっと連れ戻してくるよ。」

そう言って友祢もギャラリーを出た。

「…言い過ぎたかな…」

そう呟いて、斗織は筋トレを始めた。



 中庭で友達と屋台を回っている桜子の所に、友祢が来た。

「桜子!廉ちゃん、見なかった?」

友祢は桜子に聞いた。

「さぁ…見てないけど?」

「そうか…どこ行ったんだろう…電話も出てくれないし…」

「なんかあったの?」

 友達と離れ、二人になった友祢と桜子。近くのベンチに座り、友祢は桜子に、廉が行方不明になった経緯を説明した。すると桜子は失笑した。

「どうしたの?」

「いや、黎のことを思い出してね。」

「黎って、廉ちゃんのお兄さんの?」

「えぇ。黎と私は、かつては同じチームだったの。で、たまに喧嘩して。」

「ちなみに、どうやって仲直りしたの?」

「彼、無類の抹茶好きでね。抹茶のお菓子をあげたの。勿論、ちゃんと謝ったんだけどね。」

「へぇ〜。」

「それより、こんな所に居ていいの?」

「あ、そうだね。廉ちゃん、探さないと。じゃ。」

そう言って友祢はベンチから立ち、校内に入ろうとすると、誰かとぶつかった。

「あ、ごめんなさい!」

人混みの中で誰とぶつかったか分からないまま、友祢は通り過ぎた。

「兄貴…あいつ、一年の幹事長で、今年のミスター最有力候補の人ですぜ。」

友祢とぶつかった人と一緒にいた人は、彼にそう囁いた。

「指を差すんじゃねぇ、弟。俺たちとは決して相容れない立場の人だ。」

その兄弟は、中庭に出た。

「うお、眩し…!日の光だけじゃなく、秋津生も輝いてるぜ、兄貴!」

「フン…俺達は決して日向に出ることは出来ないのさ。でも今日、その日向にいる者に反撃をする時が来た。」

「あ、兄貴!あそこ!」

兄弟の弟の方は、中庭にいる桜子を指差した。

「あれは、朝比奈(あさひな)桜子…!二年連続でミス秋津となり今年も最有力候補、ツッタカターのフォロワー数は四桁、彼氏がいなかった時期が殆ど皆無の、正に日向者として相応しい人物だ…!」

「く、詳しいすね、兄貴。」

「偶々知っていただけだ。さぁ、少し脅かしてやろう。」

その兄弟は桜子の目の前へ来た。そして目の前で、ヴィランへと変身した。桜子は悲鳴をあげた。

「大成功ですぜ、兄貴。このまま身包み剥がして」

弟の方が呟いたその時、中庭の北側にある二棟校舎の二階から中庭に、アキツフューチャーが飛び降りて来た。アキツフューチャーは人混みを掻き分け、桜子の所へ来た。

「二体の半魚人のようなヴィランが二階から見えたが、何処へ行った!」

アキツフューチャーに変身している照貴は、中庭にいる人達に呼びかけた。

「さっきまでいたんだけど、何処かに逃げちゃったみたいなの。」

桜子は照貴に言った。

「そうか。逃げ足の速い奴だ。」

アキツフューチャーはその場で目に止まらぬ速さで跳び上がり、姿を消した。

「はぁはぁ…なんとか逃げ切れやしたね、兄貴。」

「いや、逃げ切れてませんよ。」

兄弟の背後には、屋台で買ったかき氷を持った舜多が立っていた。

「貴様…俺と弟をアキツフューチャーに売るつもりか?」

「でも兄貴、アキツフューチャーは神出鬼没。何処にいるかなんて、ただの高校生がそんなこと」

「知ってます。」

舜多は真顔で言った。

「知ってます。」

「いや、二回言わなくていいから。…兄貴…」

「フン、どうせハッタリだ。気にするな。」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」

立ち去ろうとする二人を舜多は引き止めた。

「どうしてあんな所でヴィランになったんですか?」

「貴様には分かるまい。この文化祭という、日向者がより日向者として輝く日が、俺達兄弟を苦しめていることをなァ!だから、日向者を少しだけ驚かしてやろうとしただけだ。」

兄弟を代表して言うかの様に、兄が言った。

「だったら、一緒に回りませんか?」

「な、何だと?」

「あ、嫌だったら良いんですけど…」

「兄貴!」

兄弟の弟の方が、兄を後ろに向かせた。

「あいつ、よく見てくださいよ。冴えない顔、絶望的に似合ってない眼鏡、センスの無いコーディネート、俺達が怪物と知ってもあの態度、おまけにぼっちでかき氷を一つ持っている…もしかしてあいつも、俺達と同じ側の人間なんじゃ…」

「何話してるんですか?」

舜多が二人にそう言ってからしばらくして、二人は舜多の方を向き直した。

「貴様に付き合ってもいいだろう。なぁ、弟よ。」

「じゃあ、俺が所属している特撮ヒーロー研究会の展示教室に行きませんか?」

舜多は二人に提案した。

「まぁ、特撮は子どもの時に観ていたから、知らないこともないから、行っても構わないが。なぁ、弟よ。」

「兄貴…俺以外の人と話すのが久々過ぎて、話し方がぎこちないすよ。」

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