最終話 白日
九年後。
「…ということで、今から約十年前、この秋津高校には二人のヒーローがいました。リベルライザーとアキツフューチャー。そして、世界で活躍していたアキツライザーも協力して、愛と平和を脅かすヴィランを倒していました。君たちはその頃はまだ五、六歳くらいだから覚えてない人もいるだろうけど、当時はそれはそれは大変だったわ。世界中、特にこの国は酷かった。人間ヴィラン関係無く、殺戮が毎日至る所で起きた。しかし、それをヒーローたちが終止符を打った。」
秋津高校のとある教室で、社会科教師の百瑚は生徒に授業をしていた。
「先生!ヒーローのことなんて、教科書に載ってません!」
ある生徒が手を挙げて発言した。
「そう。教科書には載ってない。この国は、ヒーローのことやニビルのことを無かったことにしようとしている。もしこれらが白日の下に晒されれば、諸外国が黙ってない。なんせ、ニビルの首領は、日本人だったもの。」
教室が騒ついた。すると、百瑚はパソコンを起動し、プロジェクターにある映像を映し出した。そこには、三人のヒーローがヴィランと戦っている姿があった。
「これは九年前、ある人がツッタカターに投稿した動画よ。これを上げたせいで、今はアカウント自体凍結されて見られないけど。」
チャイムが鳴った。
「じゃあ今日の授業はこれでおしまい。ちなみに今話したことはテストには出ないから安心してね。」
そう言うと、百瑚は教室を出た。
「あの、先生!」
すると、百瑚は誰かに呼び止められた。
「あら、森月くん。どうしたの?」
百瑚は先ほどのクラスの男子高校生、森月秀飛に呼び止められた。
「あの、中林先生って、もしかして…アキツフューチャーですか?」
百瑚は驚いた。
「その名前で呼ばれるのは、いつぶりかな…」
百瑚は遠くを見て呟いた。
「ええ、そうよ。」
百瑚は秀飛の目を見た。
「なら、知ってるはずですよね?リベルライザーが誰か、今どこにいるか。」
秀飛の言葉に、百瑚は顔をしかめた。
「俺、小さかったからあまり覚えてないけど…俺は、あのリベルライザーを昔知っていた気がするんです。」
「私も…よく知らないわ。ただ、あの日以来、一度も会ってないから。」
「え…」
そう言うと、百瑚は去って行った。
秀飛が教室へ帰ると、教室は百瑚が見せた映像のことで話題が持ちきりだった。
「あれって、あそこの駅前だったよな?」
「建物が全部壊れてたぜ。」
「戦隊ものの映画かなんかじゃないのか?」
「にしては現実感が強かったよ。」
すると、クラスの中心的存在の海藤醇が言い出した。
「なぁ、知ってるか?ヴィランって、今もいるみたいだぜ。」
クラス中が騒ついた。
「えっ、怖〜い。」
「絶滅したんじゃないの?」
するとまた、醇が言い出した。
「だが、ヴィランの見分け方があるらしいぜ。ヴィランは、『普通とは違う』らしい。」
「それは違うよ。」
秀飛は、醇の言葉を遮った。
「はぁ?」
醇は秀飛を見下した。
「ヴィランは、人間に改造手術を施した生命体に過ぎない。それに、『普通の人』って、どんな人なんだよ。」
秀飛は醇に言い寄った。
「お前、ヴィランを擁護するってことは、ヴィランか?キッモ!」
醇は秀飛から離れた。周りの生徒も、秀飛に疑念の目を向けていた。
「あ、そういえば、昨日のレオイランの動画観た?」
すると醇は、近くの友達に違う話を話し出した。レオイランとは、今、世界中で大人気の覆面ダブルダッチユーチューバー、黎花魁のことである。秀飛は、そのまま席に座った。それ以降、秀飛に話しかける人は少なくなった。
それから数日後、秀飛はある変化に気づいた。最近、醇がおとなしい。昼休みも教室にいない。秀飛は、いつも醇を取り巻いていた生徒に理由を尋ねた。
「あぁ、海藤のことな。これが原因だろ。」
すると秀飛は、ある写真を見せられた。そこには、男性用トイレの個室である人とディープキスしている醇が写っていた。
「結局、『普通とは違う』のはアイツだったんだよ。」
秀飛は驚いた。そして、教室を飛び出した。
「誰もいないところ…そうだ、あそこかも…!」
秀飛は、かつて『特撮ヒーロー研究会』という伝説の同好会があったとされ、今は誰も近寄らない社会科教室の後ろ、本棚の裏に行ってみた。そこにあるロッカーをどかすと、広い空間があった。そこで醇が一人で弁当を食べていた。醇は驚いて秀飛の方を振り向いたが、すぐに向き直した。
「なんだ、秀飛か。俺を笑いに来たのか。」
「違うよ。その…」
「まさか、仲間意識を持ったんじゃねぇだろうな?」
「え?」
「お前も、両親がいない『普通とは違う』奴だから。実際、クラスで浮いてるからな、お前。」
「そんな…」
「俺は間違ったことを覚えてしまった。もうあれを上回る快楽は無い。だから嫌われてもいいんだよ。」
「そんなの…悲しいよ。」
秀飛は醇に近づいた。
「俺は両親のことはよく覚えてないけど…でも、感謝してるんだ。俺を産んで育ててくれたから。それに…おぼろげだけど、なんか、大切な人がいた気がするんだ。」
秀飛は、スマートフォンに付いているパンダのぬいぐるみのストラップを握った。
「俺は色んな人の愛で育てられた。それで十分じゃないか、って思ってる。」
「愛…?欲望が満たされればそれで良いんだよ。」
「それじゃあ、十年前のようなことが起きちゃう。俺、あの映像を見て、確かにあそこにいた気がしたんだ。あまり思い出せないけど。」
醇は、秀飛の方を向いて、苦笑いした。
「お前…不思議な奴だな。」
その苦笑いは、少し悲しそうだった。醇は、秀飛の手を取った。
「…あんなこと言って、ごめん。」
醇は、そう呟いた。秀飛は嬉しくなって、醇に抱きついた。醇も、嬉しくなった。
その後、醇は秀飛の一生の友達となる。
「はぁ〜今日も疲れた〜。」
その夜、百瑚は残業を終わらせ、帰ろうとしていた。
「お疲れ様です、中林先生。」
社会科研究室で百瑚の隣の席の梨田先生は言った。
「あっ、お疲れ様です、梨田先生。」
「中林先生が持ってるクラスにいる森月秀飛くんって、施設から通ってる…?」
「ええ、そうですけど。」
百瑚は、梨田の質問を不思議がった。
「…実は、彼が小学生の時に、担任だった時があったんです。」
「え、そうだったんですか!」
百瑚は驚いた。
「私もその時は若くてね、何せ幼稚園から高校までの免許を計四つ持ってたから、調子に乗ってたんですよ。でも学級経営は免許が多いからできるわけじゃなくて。あの時、森月くんの保護者に諭されて。『子どもを正すのは大人の義務。自分自身が間違えていたら、意味が無い。』って。あれ以来、私にとって教師とは何か…?自分を見つめ直してきて、今に至るのです。」
梨田は懐かしそうに話した。
「そうだったんですか。」
「森月くん、両親も兄弟も身寄りもいないみたいだけど、あの保護者は一体誰だったのかしら…?」
梨田は疑問に思った。
「あ!先週の研修の報告書、山畑校長に出さないと!梨田先生、これで失礼します!」
百瑚は勢い良く立ち上がり、梨田に素早く礼をした後、そそくさと社会科研究室を出た。
「さようなら、中林先生。」
梨田は微笑み、小さく手を振った。
その夜、黎花魁が一本の動画を上げた。『重大発表』というタイトルで。
「今日は皆さんに発表があります。単刀直入に言います。おいらは、ヴィランです。」
レオイランはそう言ったかと思うと、シャウトヴィランの姿になり、人間の姿に戻った。そこには、大人になった御代田廉の姿があった。
「おいらは今まで、世界中を回って世界中の子どもとダブルダッチをしてきました。それは、『ダッチで世界を制す』という、おいらの尊敬する兄貴、そして、おいらの大好きなチームメイトのまっきーと斗織の夢を叶えるためでした。そして今おいらは、世界に名を轟かせるダッチャーになった。そんなインフルエンサーになった今だからこそ言いたいことがある。世界を回って分かったことは、未だに『ヴィラン差別』があるということ。ヴィランとは、かつて秘密結社ニビルにより改造手術を受けた人間のことだ。おいらも、産まれてすぐに手術を受けさせられた。ヴィランは圧倒的な力故に人間に恐れられる。しかし今、自分がヴィランのため殺人やテロを犯す人もいる一方、そのことばかり報道され、普通に生きているヴィランの力を持ってしまった人たちが苦しんでいる。いじめや社会的差別に心を痛めている。おいらがヴィランとカミングアウトしたのは、そんな苦しんでいる人たちを、ダブルダッチを通じて助けるためだ。今だに、ヴィランは殺しても良いという間違った考えを持っている人がいる。カミングアウトをしたことで、おいらの命が狙われるかもしれない。しかし、時代は変わった。おいらは、ヴィランの力を持ってしまった人たちにも生きやすい世界を目指す。例え、おいらの命が危険に晒されようと。…これが、おいらの答えだ。リベルライザー。」
廉のカミングアウトから九年前。
「…冬の空って、綺麗だよね。雪もこんなに積もって…まるで別世界みたい…。基さんからさっき連絡があってね、どうやらニビルは完全に消滅したみたい。…君のおかげだよ。本当にありがとう。…君はどう思ってたか知らないけど、僕は君のこと、ずっと大好きだったよ。君は一人じゃない。これまでも、これからも。離れ離れになっても。きっと君のことだから、向こうでもヒーローやってるんだろうね。…君が倒れるまで、色んなところを旅したね。もちろん、FQアイランドも。楽しかったよ、とっても。だってさ、今、幸せそうな顔してるもん。いつもは無愛想な顔だったのに。その顔を見るとさ、僕も幸せになるんだ。心が温かくなる。きっとこれが、『愛』ってヤツなんだよね。君に教わったことだよ。…本当にありがとう。舜多。」
舜多の遺体の横に一緒に寝転がっている友祢は、そう呟いた。白日の空の下、友祢は舜多の最期まで、愛と平和を味わった。




