第45話 最後の晩餐
「舜多、わざわざここまで来てくれたの?悪いじゃん。」
友祢は起き上がり、欠伸をしながら伸びをした。
「友祢。今、外がどうなってるか、分かってるか?」
「分かってるよ。一応ツッタカターは見られるし。」
「ならユニバース…お前の父さんが帰って来る前にここから逃げないと!」
「大丈夫だよ。どうやらあの人は、僕を生かしたいらしいんだ。とっとと改造すれば良いのにね。」
「いや、恐らく…友祢を改造するんじゃなくて、友祢の髄液が目的なんじゃ…?」
「あ、そう?」
「やっぱ、友祢もオプファーなんだよな…?」
「うん。あ、服着て良い?」
「え、あ、良いよ。」
友祢はベッドから降り、箪笥からパンツを出して履いた。続けて、服も着た。
「あの人が言うには、僕の脊髄にはユニバースの遺伝子が七十五パーセントあるらしいんだ。普通のオプファーなら、ユニバースとその配偶者の子どもだから、ユニバースの遺伝子は半分の五十パーセントだけだけど、僕の場合、母さんの腹の中で双子の兄弟を吸収しちゃったから、遺伝子や血液型は、その吸収した子とユニバースの間の子として形成されたんだよ。」
「だから、友祢だけは大事に育てた…」
「うん。でもさ、今更だけど…あの人に愛情が無かったとしても、僕の人生の大半を一緒に過ごした家族に変わりないんだよね。」
「友祢…」
「ま、覚悟は決めたよ。だから、思う存分倒しちゃって良いから!」
「…友祢。」
「ん、何?」
「実は、友祢に協力してもらいたいことがあるんだ。」
「何なに?なんでも言ってよ!」
「…あのね、友祢の髄液を少し貰いたいんだ。手術は天海陸さんがする。友祢の髄液を飲めば、俺は確実に強くなり、誰にも負けなくなる。あのユニバースにも。」
「へぇ〜。良いよ!」
「あとさ…この戦いが終わったら、FQアイランド、一緒に行こう!」
「ふふっ。そんな恥ずかしがりながら言わなくても。やっぱ面白いね、舜多は。でも大丈夫?死亡フラグじゃない?」
「あ、いや、た、多分大丈夫。…いや!」
舜多は自分の両頬を叩いた。
「絶対大丈夫。俺が守る。」
舜多は友祢の両肩を掴んだ。友祢は微笑んだ。
「ふふっ、ありがとう。」
友祢は舜多を抱きしめた。
廉と斗織が外へ出ると、外見は人間の姿の人が争っていた。ある人は包丁やカッターを持ち、ある人はトンカチやバールを持って他人を殴っていた。
「地獄絵図だな…」
斗織は眉をしかめた。
「どうして…どうして同じ人間同士で殺し合うんだよ…」
廉は涙を浮かべた。
「斗織、お前はおいらが守るからなっ!」
廉は涙を拭き、斗織の方を振り返って言った。
「…一応さっき、掃滅弾を盗ってきたから大丈夫だよ。」
斗織は無愛想に掃滅弾を廉に見せた。
「んだよ、そういう時は頬を赤らめてデレるのが定番だろぉ!?」
廉は斗織に言い寄った。
「漫画の読み過ぎだ。」
斗織は一歩身を引いた。
「とにかく、秋津高校へ帰るぞ。まっきーは必ずあそこへ戻って来る。俺たち[BiAS]の三人で、ダブルダッチ世界一を目指すために。」
斗織は、交通も麻痺して死体が転がる国道十九号を歩き出した。
「あ、ちょ、待ってよ!」
廉は斗織の後をついていった。すると廉は、周りからの視線を感じた。周りの人の誰もが、廉を見ていた。
「ねね、斗織。ここらの人たち、なんかちょっとおかしくない?」
廉は斗織に耳打ちした。
「そりゃあ、こんなことになったらどうかしちまうよ。」
「そうじゃなくて!皆、おいらの方を向いてる気がして…」
「まさか。」
斗織が前に向き直ると、すぐ目の前で子どもが倒れそうになった。
「おい、大丈夫か?」
斗織は今にも倒れる子どもを抱き抱えた。その時、斗織は体が熱くなるのを感じた。腹に包丁が刺さっていた。
「パパ〜!!悪者をやっつけたよ〜!!」
子どもは無邪気に道路の端にいた父親に手を振った。
「まさか…廉と脱出した時から…見張られてた…?」
斗織は血を流しながら、その場に倒れた。
「斗織!!」
廉は斗織の方へ走るが、どこからか飛んできた矢が脚に刺さり、転んだ。
「殺せー!!ヴィラン共を殺せー!!」
するとどこに隠れていたのか、百人近い人間が、武器を持って廉と斗織のところへ走っていった。
「やめろ…」
転んだ廉は精一杯匍匐前進して斗織に手を伸ばした。目の前では、斗織が血を流して倒れていた。
「斗織を…殺すな…!」
その時、斗織は義足を使って周りに集まって来た人間に脚をかけて転ばせた。
「俺は…俺たちは世界一になるダッチャーだ…!舐めんな!!」
斗織は必死に抵抗したが、次第に多くの人間に埋もれていった。廉も、体に誰かが乗っており、身動きが取れない。廉は斗織がどうなっているのか、それだけが心配だった。廉はいつの間にか、服を引き裂かれていた。脚も切り裂かれた。肛門に陰茎を挿し込まれた。
「あっ…や、やめ…ろぉ…ぉあ…あん…!」
廉は激しく体を動かされた。その時、ようやく脚と尻の激痛に気づいた。そして地面に、斗織が盗んできた掃滅弾があった。それを手に取った廉は、自分の上に乗っている人間目掛けて撃った。廉からは見えなかったが、廉をレイプしていた男の首が破裂し、周りにいた人間も火傷をした。
「人間共がぁ…!!死ねぇぇぇえ!!」
廉は叫び声と共にシャウトヴィランに変身した。その叫び声は一層大きくなり、周りにいた人間全員の鼓膜を破り、気絶させた。廉は激しく息切れをしながら、斗織のところまで来た。斗織の腹に刺さっていた包丁は抜かれ、服も破かれていた。そして、五体がバラバラになっていた。
「ハッ…ハハッ…ふふ、ははは。」
廉は笑いだした。
「あーっはっはっはぁ!!お前はまたぁ!お前はまた守れなかったんだよ!!はははっ。どうして怪物のお前が生き残ってよぉ!!人間の斗織が死んじまうんだよ!!なぁおい!!死んじまえよ!!お前もぉ!!あはははっ。」
廉は近くに落ちていた包丁で腹を刺そうとしたが、シャウトヴィランに変身していたため、その硬い皮膚によって包丁は曲がった。その時、廉は呆然とした。そして、泣き出した。
「…なんでだよ…なんで死ねねぇんだよ…ぅうわあぁぁん。」
その声は、誰もいない国道十九号にこだました。
舜多と友祢は、舜多の家に帰った。帰る途中で襲って来た人間は、舜多がリベルライザーに変身して気絶させた。家には、秀飛と陸がいた。
「お兄ちゃん!」
舜多が家に入ると同時に、秀飛は舜多に抱きついた。
「心配かけてごめん、秀飛。」
すると、陸も部屋から出て来た。
「準備はできた。いつでもできるよ。」
陸は舜多たちに言った。
「ありがとうございます。」
舜多はお辞儀をした。
「ちゃんと友祢くんにも説明したか?」
陸は舜多に訊いた。
「は、はい。」
「そうか。しかし、友祢くんもよく承諾したな。舜多が死ぬかもしれないのに…」
「あ、ちょっ、ちょっと!」
舜多は慌てて友祢を見た。友祢は舜多を見ていた。
「死ぬかもしれないって…どういうこと?」
友祢は驚いたような、寂しそうな顔をしていた。
「…実は、オプファーの髄液を直接飲むと、凄く強くなる代わりに、オプファーの髄液でしか栄養を摂取できなくなる。近い将来、ニビルが壊滅してヴィランやオプファーが絶滅する時、俺の人生が終わる時でもあるんだ。」
「そんな…そんなことを舜多はやろうと…?」
「ごめん!でも、言ったら絶対やってくれないだろう、って…世界の争いを止めるためには、一刻も早く終わらせなきゃいけないんだ。だから…」
「そんなことはどうでもいい!」
友祢は声を荒げた。
「と、友祢…?」
舜多は驚いた。
「どうしてさっき、正直に僕に言ってくれなかったの?」
「え、それは、その…」
「僕は舜多がしたいことなら、地獄にでも付き合うつもりだよ。それが例え、死ぬことでも。だから、少しと言わず、全部飲んでいいよ。僕の髄液。」
「そんなこと!できるわけない!!友祢は生きてよ!」
舜多は必死に否定した。
「僕だけ置いてかないでよ…!」
友祢は舜多の手を取って握りしめた。
「一緒に生きるか死ぬか、二択だ。これが一生のお願いと言ってもいい。僕、覚悟は決めたって言ったでしょ?確実に倒してくれ、ユニバースを、ニビルを。」
舜多は友祢に圧倒され、言葉が見当たらなかった。
「…少し、考えさせてくれ。」
舜多はうつむきながら呟いた。
「いいけど、今もこの街のどこかで、罪の無い誰かが死んでることを忘れないで。」
友祢は舜多に言った。
陸は舜多の寝室で、いつでも手術ができる体制を整えている。舜多はご飯を作っている。友祢と秀飛はリビングで話していた。
「友祢お兄ちゃん。さっき、何を話してたの?」
秀飛は友祢に訊いた。
「実はね、僕も秀飛くんと同じように、明日、親戚の家に避難するんだ。」
「そうなの?じゃあ、舜多お兄ちゃんが寂しくなるね。」
「…そうだね。」
カレーライスを作った舜多は、リビングの机に持って来た。
「またカレーライス?レパートリー少な過ぎでしょ。」
友祢は舜多に文句を言った。
「別にいいだろ。スーパーもコンビニも機能してなくて、ろくなもの買えないんだから。」
舜多は友祢に言い返した。
「これが本当の最後の晩餐、か…」
舜多は呟いた。すると、陸がリビングに来た。
「天海さん。ご飯食べ終わったら、友祢の手術、お願いします。」
「あぁ。腹は括ったのか?」
陸は舜多に訊いた。
「…はい。俺は…」
舜多は、陸に話し始めた。




