第42話 偽悪者
「ねぇ、約束して。もうこれ以上、舜多や秋津高校に手を出さないって。その代わり、僕を連れて行ってよ。僕は本当はお父さんの息子なんだ。お母さんのお腹の中までは双子だったんだ。この意味、医学部だったお父さんなら分かるよね?」
「と、友祢!何を言って…」
舜多は友祢の所に駆け寄った。
「舜多…ごめんね。また今度、一緒にFQアイランドに行こうね!」
「違う!友祢は真木信幸の息子じゃない!友祢は…オプファーなんかじゃない!」
舜多は喚いた。
「舜多!やっと分かったんだ。僕が君を守れる方法を。」
そう言うと友祢はいつもの微笑みを舜多に見せた。信幸は再びユニバースヴィランになり、友祢と共に姿を消した。
「くそおおぉぉぉー!!」
舜多は地面を叩きつけた。
『世界中の皆さん、こんにちは。私は、真木信幸です。世界では今、ヴィランと呼ばれる未確認怪物が問題になっているようです。しかもその未確認怪物は人間の姿になるため、見た目では判断しづらいとか。しかし、そんなことはどうでも良いのです。未確認怪物…そう称される彼らは超人類といいます。超人類はホモ・サピエンスに代わる新たな人間です。そして私こそ、その超人類を束ねる未来の王なのです。いきなりのことで困惑してる人も多いことでしょう。しかし、私は超人類がこの世界を征服するとは盲信しておりません。これは、超人類と現人類の、生存を懸けた戦争なのです。超人類は現人類と違い、圧倒的な力と能力を持っています。人を殺せる程の力と能力を。皆さんの周りにも、普通とは違う人はいませんか?普通と体が違う、普通と性が違う、普通と趣味が違う、普通と思考が違う、普通と利き手が違う…普通と違う人はいるはずです。それこそ、超人類の特徴です。…さて、現人類の皆さん。昨今、超人類の犯罪が後を絶ちません。このままでは超人類がこの世界を征服するのも時間の問題です。これが最後のチャンスです。あなたは今、狙われている。超人類によって…。』
「電波ジャックによる全世界への各国公用語字幕付き放送、完了。」
信幸にテレビ撮影用カメラを向けていた現影は、撮影を終えた。
「しかし、嘘をついて良かったんですか?バレるかもしれないのに…」
現影は信幸を心配した。
「嘘をつく時はね、真実の中に紛れ込ませるのが一番良いんだよ。…私は友祢に会う。サイキック、お前は裏切り者のジョーカーを殺せ。」
信幸にそう言われた現影は、目を見開いた。
「は、はい。」
現影は驚きながらも返事をした。
信幸の演説を観た舜多は、陸に電話した。
「もしもし、餅搗舜多です。」
「あぁ、舜多か。」
「あの…陸さん。信幸さんの演説、観ましたか?」
「あぁ、観たよ。まさか、超人類との戦争を誘発させるとは…。」
「陸さん、ニビルの本拠地を教えてください。先日から友祢に連絡しても繋がらないし、友祢の家にもいなくて…。」
「それは私にも分からない。しかし、これから信幸…ユニバースと戦うというなら、気をつけた方が良い。彼は、ただ恐怖を与えるだけではない。オプファーの脊椎を食べ、髄液を飲むことで、驚異的な力を手に入れている。」
「髄液を…。」
「しかしもちろん、デメリットもある。オプファーの髄液が強力なものほど、寿命を縮ませ、五感や感情を鈍くさせる。だからこそ、ユニバースは寿命が来る前に人類の『おおみそか』を迎えさせようとしている。彼にも時間が無いのだろう。」
「そうなんですか…教えてくださって、ありがとうございます。」
「…すまなかったな。」
「え?」
「私は、お前の父親として失格だ。」
「…そうかもしれません。でも、一人の人間としては、あなたは素晴らしいと思います。」
「…ありがとう。くれぐれも体調には気をつけて。」
「はい。それでは。」
「あぁ。」
通話が切れ、舜多は再び決意した。
藤沢病院に入院した燦之嬢は、未だ感覚が戻らない両脚をなんとかしようと、病室のベッドから起き上がろうとしたが、不可能だった。すると、病室の扉が開き、現影が入って来た。
「現影…」
燦之嬢は俯いている現影を見つめた。
「俺様は貴様のことが大嫌いだ。何度も俺様を洗脳した。ナイトメアやユニバースの言いなりにしかなれない。でもな、きっとあいつなら…舜多ならこう言うだろうぜ。『助けたい』、ってな。あいつが俺様にしたように、俺様も現影の居場所を作りたい。だからさ…」
「遺言はそれで終わりか、ジョーカー。」
現影は燦之嬢の話を遮り、燦之嬢を睨んだ。
「全く変わったな。以前はそんな歯の浮くような台詞を言う人じゃなかったはずだ。俺の憧れたジョーカーは…」
「貴様が俺様をどう思おうが勝手だが、勝手に憧れて勝手に失望されるなんて、俺様もまだ落ちぶれちゃいねぇな。」
「覚悟しろ!ジョーカー!」
そう叫ぶと、現影はサイキックになり、ベッドの上に横になっている燦之嬢の上に跨り、首を締めようとした。しかし、現影は力を入れなかった。
「どうした現影。まさか、今まで他人を操って間接的にしか人を殺したことが無いから、自分で殺すことに躊躇してんのか?ハッ、傑作だな。」
「黙れ!!」
「俺様が死のうと、リベルライザーやアキツライザーがユニバースを倒す。その前に、貴様の生き方を決めんだな…」
そう燦之嬢が呟くと、病室の扉が開き、現影が元の姿に戻った。二人が扉の方を見ると、ユニバースの姿の信幸がいた。
「それは楽しみだね、ジョーカー。」
そう呟くと、信幸は現影を蹴飛ばし、燦之嬢の胸を貫いた。
「グハァ…!!」
信幸は燦之嬢の脊椎を取り出し、噛み砕いて飲み込んだ。そして、人間の姿に戻った。
「ど、どうしてユニバース首領が…」
現影は腰が抜けて動けなくなっていた。
「私はね、他人を信じないんだよ。そうすれば、裏切られることも失望することも無い。もしサイキックが裏切るかヘマをすることを想定して、私自ら手を下しただけさ。まぁ、他にも用があったんだけど。」
「…!」
腰の抜けた現影に、信幸が手を差し伸べた。現影は信幸の手を掴み、立ち上がった。目の前に横たわる燦之嬢の死体から目を背けながら、現影は病室を出た。
五年前。円山兄弟がデパートでアキツライザーと出会う前。円山才智は、正義感の強い少年だった。曲がったことが大嫌いで、疑問にはすぐに答えを出したがる性分だった。思春期になると、自分の家庭が他と違うことに気づいた。才智は、「父親は家族に暴力を振るってでも、家族を従わせるもの」という円山家の常識は、常識ではないと気づいた。
そんなある日、才智は思い切って父親に抗議することにした。才智と空華の部屋にいる父親に会いに行こうとすると、部屋の扉の向こうから殴る音と弟の空華の喘ぎ声が聞こえた。才智は扉をノックした。
「入れ。」
部屋の中から父親の声がした。才智は扉を開けて中に入ると、裸で体中が赤くなっている空華が倒れこんでいた。
「何の用だ、才智。」
父親は才智の方を見ずに空華を見下ろしていた。
「…お言葉ですが、今やっているその行為は、その…良くないと思います。」
才智は言い淀んだ。
「才智、何が言いたい?」
父親は才智を見ない。
「そ、それは…」
才智は空華を見た。汗か涙か分からないほど濡れた顔、華奢な体が赤く腫れ、股間は誰のものか分からない白い液体で濡れていた。見るに耐えない哀れな姿に才智は拳を握りしめ、覚悟を決めた。
「あなたが俺やお袋、空華にやってることは犯罪だ!!」
そう才智が叫ぶと、父親はようやく才智の方を見た。
「どこでそんなことを覚えたのか…」
父親は才智の方へ歩き出し、才智の顔を殴った。
「いいか?お前らは俺が仕事をして金を稼がなきゃ生きられないことを忘れるな。それに、未成年が親を訴えても、親がどうとでもできるんだよ。」
父親は才智の首を絞めた。才智は身動きが取れず、意識が遠のいた。
才智は目が覚めると、服が脱がされ、体の節々が痛いことに気づいた。特に、肛門が痔のように痛かった。
「兄ちゃん、大丈夫?」
側には空華が座っていた。
「空華、お前こそ…あいつは?」
才智はやっと起き上がった。
「パパなら、出かけたよ。」
「そうか…」
時計の針は十二で重なっており、外はもう暗かった。
「くそ…!俺にもっと力があれば…」
才智は床を叩いた。
「兄ちゃん…」
空華は心配そうに才智を見つめていた。
父親が仕事に行っているある日、一人のふくよかな女が円山家を訪問した。才智や空華は、その女が玄関先で母親に何かを言っている様子を聞いていた。その後、その女は何度も訪問に来た。その度に母親に追い返されていた。
母親も出かけ、才智と空華で留守番をしていた時、またあの女が来た。才智は、インターホン越しに応対した。
「あら、今日は子どもだけなのね。」
その女は才智に言った。
「お前が誰だか知らないが、お袋を困らせる奴は許さないからな。」
才智は女を追い返そうとした。
「あらそう…でも、そのお袋さんを守れる力、欲しくないかしら?」
「何?」
「強くなりたくないかしら、って聴いてるのよ、坊や。」
才智は考えた。才智は空華の制止を振り切り、玄関の扉を開けた。
「ありがとう、坊や。私はこういう者です。」
その女は名刺を才智に渡した。名刺には、『株式会社ニビル 武者桃子』と書かれていた。
「私は武者桃子。セールスウーマンよ。」
「さっきの、強くなれるってどういうことだ?」
才智は桃子に質問した。
「それはね…ある実験の被験者になってもらうの。もちろん、お金はたくさん出すわ。」
「胡散臭いな。」
才智は疑った。
「なら、これでどう?」
すると桃子は、白い怪物に変身した。二人は驚いた。
「さぁ、どうする?」
桃子は才智に問いかけた。




