第39話 おおみそか
「天海さんが、舜多の父親…?」
基は驚いた。
「でも俺の父さんは、餅搗友則で…」
舜多は混乱した。
「君たちに聴いて欲しい。ニビルの誕生、そして、リベルライザー誕生の話を…。」
十七年前のクリスマスイヴ。
真木信幸は藤沢病院の産婦人科に来ていた。
「産まれたぞ。」
病室の前に来ていた信幸の友達の寺田は、やって来た信幸に言った。
「そうか!これでついに七人の子が揃ったね!」
信幸は嬉しそうに言った。
「…なぁ、信幸。」
寺田は恐る恐る信幸に声をかけた。
「ん?何?」
「お前、友則と陸には言わなくていいのか?昔からの仲だし…やっぱり、二人にも全てを言って協力してもらった方が…」
「何言ってんだ。これは人類を新たなステージに進化させる計画だ。それに僕は、君のことを本当に頼りにしてるから、君だけに言ったんだよ。」
「信幸、本気か?」
「僕は本気さ。」
信幸は自慢気に言った。
それから数日後、信幸の家に寺田が来た。
「信幸!どういうことだ、祢愛と絶縁した上、あの子どもも手放すなんて…」
「さえずるな、寺田。…浮気してたんだよ、あいつは。」
「どういうことだ?」
寺田は質問した。
「僕の血液型はAB型だから、僕の子どもでO型は産まれて来ないのは、お前だって分かるだろ?」
「あ、あぁ。ま、まさか…!」
「そう。あの子どもの血液型は、O型だったんだよ!祢愛の奴、浮気しやがって…」
信幸は拳を握りしめた。すると、信幸の家の電話が鳴った。信幸は受話器を取った。
「…あぁ。分かった。」
信幸はそう言って受話器を置いた。
「陸らが改造手術法を確立した。すぐ向かうよ、寺田。」
信幸はそう言って支度を始めた。
「あ、あぁ。」
寺田は頷いた。
信幸と寺田がとある研究所に着くと、友則と陸が出迎えていた。
「やぁ、信幸。それに寺田も。」
友則は二人に挨拶をした。
「なぁ、改造手術法、遂に出来たのか!?」
信幸は友則の両肩を掴んだ。
「あ、あぁ。まぁとにかく、中へ入ろう。」
友則らは研究所の中へ入った。そして、友則と陸は信幸と寺田に『改造手術法とそれによる医療革命』という論文を見せた。信幸と寺田はしばらくそれを読んだ。
「…素晴らしい!もしこれが実現すれば、まさに医療革命だ!!さすがだ、友則に陸。」
寺田は感嘆の声を上げた。
「いや、この四人で頑張ったからだよ。秋津高校から医学部に合格した仲じゃないか。」
友則はそう言った。
「でも、これからだよ。これを発表した後、この改造手術法をどう広め使っていくか…」
「いや、発表はまだにしよう。」
陸の言葉を信幸が遮った。
「…え?」
陸は信幸を見た。
「僕はそんなことより、もっと大きな夢を見てる。それのために使わせてもらうよ。」
そう言うと信幸は論文を破いた。
「あー!何すんだ!せっかく書いたのに!原本はそれしかないんだぞ!」
友則は信幸を怒鳴った。
「大丈夫。内容はさっき読んで全て覚えた。じゃあな。行こう、寺田。」
信幸は研究所を出た。
「お、おい待て!」
寺田は友則たちの方を少し見たが、すぐに信幸を追った。
「…一体、信幸は何を考えてんだ…友則、俺は何か悪い予感がするよ。」
陸は膝から崩れ落ち、破れた論文に目を落としていた。
「…あいつのことだ。きっと何か考えがあるに違いない。」
友則はいつまでも信幸の方を見ていた。
それから数日後、友則と陸は駅前のカフェにいた。これからのことを話していた。
「あれから信幸からも寺田からも連絡が無い…やっぱり、悪い予感がする…」
陸は怯えていた。すると、結婚指輪が友則の左手薬指に見えた。
「友則、お前、結婚したのか…?」
陸は友則の左手薬指を指差して言った。
「あ?あぁ、実はね。高校時代の、秋津のマドンナの祢愛、覚えてるか?」
「あぁ。でも確かあいつは信幸と結婚して…」
「それが、離婚したらしいんだ。それで祢愛の話を聴いたら、どうやら浮気の冤罪をかけられたらしいんだ。産まれた子どもの血液型が親と合わないって。もちろん、祢愛は浮気してない。」
「まさか、信幸から離婚を切り出したのか…?もったいない…あ、ま、まさか、お前、それで…?」
「うん、その…」
友則は少し顔を赤らめた。
「祢愛と結婚したんだ。」
その言葉に、陸は固まった。
「いやさ、陸も最近離婚したから、なかなか言い出せなくて…」
「…なんだよぉ、そういうことは早く言ってよ〜。でも羨ましいなぁ。あの祢愛と結婚かよ〜。俺の元妻なんか『こんなはした金じゃ私の心は踊らないわよ、このハゲー!!』とか言って毎日パチンコ、おまけにぶくぶく太ってったしさ。」
「その話、もう百回くらい聞いた気がする。」
「でもまぁ、おめでとう。大事にするんだよ。」
「分かってるよ。」
友則と陸は拳を互いに突き合わせた。
「これで全員だ、信幸。」
研究所の地下の講堂に研究員を集めた寺田は、壇上に立っている信幸に言った。そして、信幸は話し始めた。
「新世紀になり、人間は進化する。自らの手で。私はその方法を見つけた。そしてこれからは『秘密結社ニビル』として、私の計画のために動いてもらう。」
研究員たちはどよめいたが、信幸は話を続けた。
「私は、脊髄移植による改造手術法を手に入れ、独自に人間を超人類へ進化させる改造手術法へと改めた。そして、その超人類へ進化させる脊髄液は、私から作られる。私は自らを改造し超人類へ進化し、ユニバースとなった。私の子どもたちはオプファーと言い、オプファーの脊髄を人間に移植することで、その人間は超人類へ進化する。無論、欠点もある。第二次性徴期前に改造した場合、第二次性徴期に分泌される性腺刺激ホルモンにオプファーの脊椎が反応するまで、超人類の力は発現しないと考えられる。この仮説は、立証のために『七つの子』を超人類にして実験する。また、自分の強さ故、超人類は自殺出来ないし、女は不妊になる。超人類は、人それぞれ特殊能力が使えるようになる。私の能力は、これだ。」
すると信幸はユニバースヴィランに変身した。白く硬い体に赤い線と目の禍々しい姿に、研究員たちは恐怖で動けなかった。
「私に逆らえる者はいない。ニビル首領、もとい世界の覇者に相応しい能力だろう?そして、この計画を『おおみそか』と名付ける。人類はおおみそかを迎え、新たな超人類となる。逆らう反乱分子は殺してでも捨て置け!私たちの手で、世界を変えよう。以上だ。」
信幸が人間の姿に戻ると、恐怖から解き放たれた研究員たちは、悲鳴に近い歓声を上げた。すると、講堂の扉がこじ開けられた。
「やっと見つけたぞ、信幸!寺田!」
そう叫んで講堂に入って来たのは、友則だった。陸もいた。二人は研究員たちを掻き分け、信幸の前に来た。
「どういうことだ!?俺たちが開発した改造手術法を悪用しようとして…」
友則は信幸に言った。
「悪用…?誤解だよ。私はこのために改造手術法を開発したんだ。」
「何だと…?」
「私に協力するならすれば良い。ただ、しないのなら無駄な抵抗はしない方が良い。私は、人間一人くらい簡単に殺せる。」
信幸はそう言うとユニバースに変身した。友則も陸も恐怖で動けなくなった。信幸は片手ずつに友則と陸の首を持ち、講堂の入り口まで投げ飛ばした。友則と陸はそのまま意識を失った。
友則が目を覚ますと、藤沢病院のベッドの上だった。まだ頭が痛かった。隣のベッドの上に置き手紙と鍵があった。
『俺は信幸らの計画を止める。息子を頼んだ。』
「陸…」
友則は、ただ窓の向こうの曇り空を見ることしか出来なかった。
「『七つの子』の方はどうなってる、寺田。」
講話が終わり、研究室に戻った信幸は寺田に聴いた。
「オプファーから二名、藤沢病院から四名、連れて来ました。それともう一人…」
寺田は語尾を濁した。
「祢愛の子か。」
「祢愛の奴、俺ちゃんとすら会ってくれねえ。」
「なら、陸の子だ。」
「で、でも、それこそ難しいんじゃ…」
すると信幸は鍵を取り出した。
「その鍵は何だ、信幸。」
「陸の家の鍵だ。講堂で会った時、盗んだ。」
「の、信幸、お前…」
寺田は驚いた。
「やることは…分かるな?」
「あ、あぁ。…なぁ、信幸。」
寺田は恐る恐る聴いた。
「なんか信幸…雰囲気変わったよな。今までは感情豊かでうるさかったのに…今は静か過ぎるというか…心が無いみたいだ。」
「…それが、ユニバースの、首領の宿命さ。感情も五感もほぼ無い。だからこそ情に流されずに『おおみそか』を遂行できる。」
「何だよそれ…」
寺田は体の力が抜けた。今まで気張っていたのが馬鹿らしくなった。
寺田が天海家に行くと、友則がいた。
「友則…」
寺田は歩みを止めた。
「お前、本気で信幸のやろうとしてることに賛同してるのか?」
友則は寺田に聴いた。
「だが信幸は俺ちゃんたち四人の中で成績も良かったし、おまけに人望もある。俺ちゃんは、あいつについていく。それに、もしあいつが間違ったことをしようものなら、俺ちゃんが止める。そのつもりだ。」
「そうか…」
友則はそう言ってうつむいた後、口を開いた。
「俺もニビルに入らせてくれ。」
「何?」
「今、陸がおおみそかへの対抗策を練っているらしい。俺も、ニビルに入って信幸が間違えないように支えたい。」
「…どうなっても知らんぞ。」
そう言うと寺田は鍵を取り出して天海家に入った。
「その鍵…」
友則が困惑しているのを他所に寺田は家の中に入って行く。そして家から出て来ると、寺田は赤子を抱えていた。
「こいつ、名はなんて言うんだ?」
「…天海舜多だけど。」
「そうか。」
「その子をどうするつもりだよ。」
友則は寺田を引き止めた。
「改造手術する。」
「そんな…!まだ産まれたばかりなのに…」
「だからだよ。第二次性徴期後にしか超人類になれないから、赤子を改造してその仮説を立証するのさ。」
「…なら、俺に考えがある。」
友則は舜多を見つめた。




