第34話 それぞれの役割
「そもそも、私の心がそんな、いじめだなんて…心はね、心優しい子どもなの。あなたたちのような平気で嘘を吐くような人とは違うの。やっぱり公立校は、心には低レベル過ぎたかしら…」
舜多は、心の母親が何を言ってるのか分からなかった。
「ねぇ、はあとくん。君のお母さんはこんなこと言ってるけど、本当はどうなの?秀飛くんをいじめたの?」
舜多は心の顔を見て話しかけた。
「まぁ!私の言葉を信用していないんですか?私は誰よりも心のことを分かっているのよ?」
「俺はあなたではなく、はあとくんに聴いてるんです。」
舜多は心の母親に反抗した。
「心、いじめなんてしてないわよね?」
心の母親は心の肩を持って心を見つめた。心は母親と目を合わせず、沈黙を保った。数秒後、心は口を開いた。
「…やってません。」
「え…」
秀飛は驚いた。
「ほら!やってないって言ってるのだから、心はやってないわ!」
心の母親は得意気に叫んだ。
「う、嘘だ!」
秀飛は心を見つめた。
「私は、私の息子の言葉を信じます!親が子どもの言葉を信じなくてどうするんですか。」
心の母親は攻勢になったかのように胸を張った。
「お前が言うなよ…」
舜多は呟いた。
「だったら何で秀飛は今もなお、苦しい思いをしてるんですか?おかしいじゃないですか?秀飛は誰にいじめられたんですか?どうして、今ここに、この人たちが集まってるんですか!?」
舜多は声を荒げた。
「梨田先生も黙ってないで何か言ったらどうですか?」
舜多は梨田先生の方を見たが、梨田先生は俯いていた。
「全く…これだから公立は嫌だったのよ。さ、帰りましょ、心。」
心の母親は心の手を取って席を立った。
「あ、そうだ。賠償金、払って貰えますよね?梨田先生。息子を泣かせたのですから。」
心の母親は思い出したように梨田先生に言った。
「ば、賠償金だなんて…」
梨田先生は戸惑った。
「あら、いじめは立派な犯罪って、あなたたち教師はいつも言ってるわよね?ま、本当はあなたにも賠償金を払わせたいけど、まだお子ちゃまみたいだし。特別に許すわ。私はいい大人だから。」
心の母親は舜多の方を睨んだ。心と心の母親は退室しようとした。すると、舜多が席を立ち、心の方を向いて話し出した。
「はあとくん。君はもしかしたら、自分の行動が正しいのか間違っているのか分からないのかもしれないから言っておくけど、誰かを攻撃していいのは、誰を守る時だけだよ。それこそ、自分より弱い相手を傷つけるのは、本当に弱い奴がすることだ。そして、はあとくんのお母さん、梨田先生。子どもを正すのは、あなたたち大人の義務です。自分自身が間違えていたら、意味が無い。ちゃんと自覚してください。自分が大人だってことに。」
心の母親は心の手を握ったまま、無言で退室した。
「では私もそろそろ会議がありますので、失礼します…」
そう言った梨田先生は、舜多たちと目を合わせることも無く、そそくさと退室した。
「だぁぁぁ〜、疲れた…」
舜多は椅子に座り肩の荷が降りた。
「ありがとう、舜多お兄ちゃん。カッコイイよ!」
秀飛は舜多を褒めた。
「え、そうかな?」
舜多は素直に褒められて、赤面した。
「でも結局、根本的に解決してないような…」
「いいんだよ、舜多お兄ちゃん。」
「そうか…?でも、秀飛は強いな。俺なんか、あのババア共にイライラしっぱなしだったよ。さ、俺たちも帰るか。」
「うん!」
二人は席から立ち、家に帰った。
「おかえり、舜多、秀飛くん!」
舜多が玄関を開けると、友祢が出迎えをしていた。
「げっ、こいつを忘れてた…」
「ちょ、舜多!そんな反応は無いんじゃない?ちゃんとチャーハン作って待ってたんだから。」
「やったー!」
秀飛は喜んでリビングに走って行った。
「あ、おい!手洗いうがいしろよ!」
舜多は秀飛にそう言いながら靴を脱いだ。
「で、どうだったの?面談。」
友祢は舜多に小声で聴いた。
「あ、あぁ。まあ、全て解決、って訳にはいかなかったよ。」
「そんなもんなのかなぁ?でも、舜多が秀飛くんの心の支えになっていたなら、それで良いんじゃない?」
「あ、あぁ。」
三人は、友祢の作ったチャーハンを食べ、テレビゲームをして、お風呂に入って寝た。
数日後、秀飛のクラスは一変した。まず、心は母親の意向で転校した。そのため、今まで心を取り巻いていた児童たちは、今度は梨田先生をいじめの標的にした。授業中にわざと騒いだり席を立ったりして妨害したり、休み時間が終わっても、いつまで経っても教室に帰って来なかったり、先生の悪口を黒板に書いていたりした。その一週間後、梨田先生は辞職した。学年主任の先生が代わりの担任になり、いじめをしていた児童を一人づつ面談をした。こうしてクラス内のいじめはほぼ収束した。また、学年主任の先生は、秀飛のクラスの児童全員に、このような話をした。
「君たちはまだ数年前に産まれたばかりの子どもに過ぎない。しかしこれから小学生として、やって良いことと悪いことの分別をつけなくてはいけない。もちろん、いじめは悪いことだ。しかし、それを見過ごして、クラスの当たり前のようにしてしまった君たち全員も、悪いことをした。声を上げなければ、いじめをしていることと同じだ。その自覚を持って、これからの小学校生活を送りなさい。」
それから数日後、秋津高校二学年は、クラスごとの遠足に行った。クラスごとにどこへ行くかを決めて行くのだ。しかし偶然にも、四、六、八組は行く場所が被った。FQアイランドという、秋津高校から車で一時間のところにある、遊園地だ。
バス内では、舜多の隣の席は空いていた。一番後ろの席には友祢、勇佑、雅玖などが座っていた。
「で、どうなの最近。」
雅玖は勇佑に聴いた。
「何が?」
勇佑は雅玖に聴き返した。
「妹とだよ!家出したんでしょ?確か。」
「あぁ、真佑のことか。あいつ、連絡しても全然答えてくれねぇし、LINEで時々『私は大丈夫だから、心配しなくてもいいよ!』って。ちょくちょく家には帰って来るけど、すぐどっかに行っちゃうし…一緒にお風呂にも入らせてくれねぇんだ。」
「え…一緒にお風呂に入ってんの?流石シスコン。」
雅玖は少し引いた。
「え、当たり前だろう?なぁ、友祢。」
「ぼ、僕は一人っ子だから、良く分からないかな…」
急に話を振られた友祢は、苦笑いした。
「さぁ、もうすぐ着くので、降りる準備をしてくださーい。」
担任の山畑先生は振り返って生徒たちに呼びかけた。舜多は眠れないまま寝ている振りをしていた。
三台のバスがFQアイランドの駐車場に停まった。バスを降りた雅玖は、燦之嬢を見つけた。
「あ、燦ちゃん!」
雅玖は燦之嬢の方へ向かった。
「あ、がっくん。そうか、お前八組だったな。」
「うん。バスケ部集めようぜ!」
二人はバスケ部を誘い出した。
「がっくん、燦ちゃんのこと好き過ぎかよ。」
遠くで見ていた勇佑が呟いた。
「そうだね。特に、燦ちゃんがヴィランと分かってから。がっくん、あれで燦ちゃんに惚れたらしいよ。」
友祢は二人の方を見て話した。
「へー。いいな、部活仲間がいて。俺には…」
勇佑は俯いた。すると、友祢は勇佑の肩を組んだ。
「クラスメイトが居る、でしょ?」
友祢は勇佑の顔を見て微笑んだ。
「…あぁ。ありがとな、まっきー。」
勇佑は友祢を見た。
先生から集合時刻が伝えられ、各自自由行動となった。
「よっしゃ、まずはあれだ!」
燦之嬢は、FQアイランドで一番大きなジェットコースターを指差した。
「ちょ、燦ちゃん!?いきなりあれ乗るの?流石に最初から飛ばし過ぎだって。」
雅玖はうろたえた。
「馬鹿野郎!俺様はアレに乗りたかったんだよ!結構待つみてぇだし、早めに行っても損はねぇだろ!!」
燦之嬢の一言によって、バスケ部はそのアトラクションに向かった。
「僕たちもあれに乗ろうか。」
「え」
友祢の一言に、勇佑は驚いた。
「ま、まぁ、いいんじゃない?」
勇佑は苦笑いをした。友祢は舜多の方を向いた。
「僕たちアレに乗るけど、舜多も乗る?」
「お、俺は絶叫系は苦手だから…友祢たちだけで楽しんで来なよ。」
「そう?じゃ、行ってくるね。」
そう言った友祢や八組の男子は、アトラクションに向かった。
「はぁ…」
舜多は近くのベンチに座った。
「お、餅搗くん。」
誰かに呼ばれて舜多は顔を上げると、そこには山畑先生がいた。
「あ、山畑先生。」
「最近、大変じゃないか?部活の方は。」
山畑先生は舜多の隣に座った。
「あ、はい。まあ…」
舜多は気の無い返事をした。
「結局、本当は我々教師が生徒を守るべきなのに、君たち特撮ヒーロー研究会が守っていた。」
「す、すみません…」
「いや、いいんだよ。君たちが無事ならば。それに、まだ子どもだ。余計な責任を負わなくていい。それは我々の仕事だからね。」
「先生…確かに俺…いや、俺たちは、ヴィランと戦ってきました。けど、ヴィランの中には良い奴もいて、人間の中には、自分で間違ってることさえ気付いてない大人もいる。俺、そんな大人の前では何も出来ない子どもだって思い知らされて…」
「そうか。そうだよなぁ。いくらアキツフューチャーとしてヴィランと戦っているとはいえ、まだ子どもだもんなぁ。あのな、先生はな、人間には役割があると思ってるんだ。」
「役割?」
「そう。先生という仕事も役割だ。役割は、自分で作るものだし、変えてもいい。餅搗くんに出来ないことは、きっと周りの誰かの役割なんだ。」
そう山畑先生に言われた舜多は、友祢の顔を思い出した。
「君たちは、思う存分、自分のやりたいことをやればいい。そして、失敗も沢山すればいい。その責任を負うのは我々大人の役割だからな。」
「山畑先生…あの。」
舜多は立ち上がった。
「ありがとうございます。」
舜多は深々と礼をした。山畑先生は舜多の肩を持ち、ゆっくりうなづいた。




