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第32話 被虐者の哀

 舜多は、友祢のいる保健室に行った。丁度、友祢と斗織が保健室から出てきたところだった。

「あ、舜多!」

友祢は舜多の方へ走っていった。

「廉ちゃんは?」

友祢は首を傾げた。

「ご、ごめん、友祢。廉くんは…」

舜多は言葉が詰まった。

「ごめん斗織、先に行っててくれない?」

友祢は、斗織に向かって手を合わせて苦笑いした。

「あ、あぁ。まぁ、あんなことが起こったから部活は今日はないと思うが。」

斗織はそう言って体育館の方へ歩いていった。

「あの子…義足?」

舜多は斗織の後ろ姿を見て呟いた。

「そう!よく分かったね!流石舜多!」

友祢は舜多の肩を組んだ。そして、そのまま中庭の椅子に移動し、腰掛けた。

「廉ちゃん、助けられなかった?」

友祢は舜多の顔を覗き込んだ。

「…!ご、ごめん…」

「いいよ。あ、別に舜多のことを信じてなかった訳じゃ無くて、きっと舜多はベストを尽くしたんだろうな、って思って。」

「俺…凛くんや李杏くんに顔向けできないよな…人一人助けられないなんてさ。」

「確かにそうかもしれないけどさ、それは舜多が決めることじゃないよ、多分。」

「え?」

「でも、僕は舜多に何度も助けられてるけどね。舜多がいなかったら、今こうやって隣で話すことも無いと思うし。舜多は僕にとって恩人で大好きな人だよ。」

「友祢…」

舜多は目頭が熱くなった。

「ところで、最近どうよ?舜多。」

「まぁ…ぼちぼち。」

「そういえば僕、勇佑のコネ使って、僕のことを調べたんだ。そしたらさ、僕、胎内では双子だったんだって。でも、出産までに片方の子を吸収?したらしくて、それで僕の父さんと血液型が合わなかったんだって。」

「へぇ、そうだったんだ。」

「あと、僕の生みの親の名前も分かったんだけど、僕の名前の漢字、母さんの名前から取っててさ。なんか、ちょっと嬉しかったな。」

「そうなんだ!良かったね。そういえば、怪我は大丈夫?」

「大丈夫!この通り!」

友祢は服をめくった。蹴られたところがガーゼと包帯で押さえられている。

「友祢、相変わらず細いな。俺なんか、最近お腹が出始めてきて…」

「マジ?肉分けて欲しいわ〜」

「てか体重いくつ?」

「えっと確か健康診断では…」

二人は斗織が来るまで、しばらく話していた。



 会話の成り行きで友祢は舜多の家に泊まることになった。舜多は現在、自分の家に秀飛を住まわせている。帰りの道中、舜多は口を開いた。舜多は、秀飛の家にあった写真のこと、ヴィランに改造された七人の子どものことを話した。友祢は、真剣に聴いていた。

 舜多の家に着くと、もう家に帰っているはずの秀飛の靴が無かった。その代わり、秀飛の名前が書いてある上履きと思われる靴が片方のみ、酷く汚れてあった。舜多は嫌な予感がして、すぐに家に入り、秀飛の名を呼んだ。すると、自分の部屋に秀飛がいた。膝を抱えて座っていた。秀飛は泣いていた。

「秀飛…!」

舜多は秀飛の背中をさすった。



「だぁ!また負けたぁ!」

「へっへーん!友祢お兄ちゃん、弱いね!」

「いや、次から本気出すから!」

「それもう何回目?」

舜多が夕ご飯の支度をしている最中、友祢と秀飛はテレビゲームをしていた。

「夕ご飯出来たよ!」

舜多は机に料理を置いた。

「ちょっと待って舜多!これ終わったら!」

友祢は画面の方を向きながら言った。

「うわ〜また負けた!じゃあもう一回…」

友祢がコンテニューしようとした時、舜多はテレビの電源を切った。

「あ〜ちょっと舜多!!」

友祢は舜多に文句を言った。

「続きはご飯の後でな。」

「ケチ」

秀飛は口を尖らせた。

「ケチ」

友祢も口を尖らせた。

「はいはい、ご飯食べるよ。あと友祢は子どもじゃないんだから。」

「これからケチ搗舜多って呼ぶぞ?」

「お前なぁ…」

友祢は仕方無く机に向かった。胡座をかいていた友祢の脚の上に乗っていた秀飛も、机に向かった。

「今日もカレー?」

秀飛は文句を言った。

「まだ残ってんだよ。ほら、食べるよ。いただきます。」

「いただきます。」

「いただきます。」



 カレーを食べ終わった舜多たちは、ゲームの続きをした。大人気ない舜多は常に勝っていた。

「さ、お風呂入って寝よ。」

九時前になると、舜多は秀飛に言った。すると、秀飛は友祢に抱きついた。

「友祢お兄ちゃんと入りたい。」

舜多は驚いた。

「懐かれちまったな、友祢。一緒に入ってきなよ。俺は夕ご飯の片付けしてるからさ。」

舜多はそう言って皿洗いを始めた。

「じゃあ、僕と入ろうか。」

友祢はしゃがんで秀飛に言った。



「舜多のこと、好き?」

湯船に浸かりながら、友祢は秀飛に聴いた。

「うん、大好き!時々厳しいけど。」

「ハハッ、舜多らしいね。そっか。大好きだから、心配かけたく無かった?」

「え?」

「舜多が心配してたよ。良かったら、僕に話してくれない?その沢山の痣も、きっと…」

友祢は、秀飛が服を脱いだ時から気になっていた沢山の痣を見ながら言った。しばらくすると、秀飛は学校であったことを話し始めた。



 秀飛が違和感を感じ始めたのは、先日、風邪で学校を休んだ後のことだった。久しぶりに教室に入り、朝の会の健康観察の時、担任の梨田(なしだ)先生は秀飛に声をかけた。

「森月くん、もう風邪は大丈夫?」

「あ、はい。大丈夫です。」

秀飛はそう答えた。すると、梨田先生は秀飛の席の前まで来た。

「何かあったら、何でも先生に言うのよ?森月くんは両親がヴィランで、殺されちゃったものね。」

「あ、はい。」

秀飛は少し戸惑ったが、相槌をうった。

 それからの日々、秀飛は梨田先生に贔屓されることが多くなった。梨田先生は、秀飛が給食当番の時、秀飛だけ教室に待っているように指示したり、秀飛だけ漢字テストの採点を甘くしたり、宿題の提出が遅れても他の児童とは違い咎めなかったりした。秀飛は梨田先生に贔屓される度に遠慮するが、梨田先生は、「森月くんは両親がヴィランで殺されたから」と言って贔屓し続けた。

 勿論、他の児童はよく思っていなかった。梨田先生の目が届かない掃除の時間、秀飛は教室で水の入ったバケツで雑巾を絞っていた。

「おい、秀飛。」

同じく雑巾を絞っていたクラスメイトの(はあと)は、秀飛に話しかけた。

「お前、梨田先生に気に入られてるみたいだな。」

「え?あ、うん。ちょっとやり過ぎだと思うけど。」

「ヴィランの子どもだもんな?」

「え…」

「そうだ、お前ヴィランなんだろ?だったらこれ、飲めるよな?」

心はバケツの中に入った水を指差した。その水は、雑巾を絞った後の為、黒く濁っていた。

「や、やだよ。」

秀飛は答えた。

「うるせぇ!」

心は秀飛の頭を持ち、そのままバケツの中に入れた。秀飛は息が出来なくなった。秀飛は力を振り絞ってバケツを倒した。

「こ、こえ〜!ヴィランだ!!ヴィランがここにいる〜!!」

心は秀飛を指差して後退りした。

「でも、ヴィランは退治しないとな!!」

心は秀飛の股間を蹴り、お腹を殴った。周りには他の児童も居たが、ただ見ているだけだった。しばらくすると、ある児童が梨田先生を連れて来た。

「何やってるの!やめなさい!」

梨田先生の甲高い声が廊下にも響いた。

 掃除の後の五時間目、授業は急遽自習になった。梨田先生は心を廊下に連れて行った。数分後、心は教室に戻り、次に秀飛が廊下に連れて行かれた。

「駄目じゃない、あんな騒ぎを起こしちゃあ。」

梨田先生の第一声は其れだった。秀飛は、てっきり事情を聴くか体の心配をしてくれるものだと思っていたため、少し戸惑った。そして、すぐに教室にいた心を呼び出した。

「はい、はあとくん、謝って。」

梨田先生は心に指示した。

「…ごめんなさい。」

心は頭を下げて言った。

「はい、じゃあこれで仲直りの握手。」

梨田先生は二人に無理矢理握手させた。

「二人とも、もうこんなことはしないのよ、分かった?」

梨田先生は二人に言った。

「はーい。」

心は気の無い返事をした。

「…はい。」

秀飛は不満そうに返事をした。

 五時間目が終わって帰りの会の準備の時、心は秀飛をあからさまに避け始めた。秀飛が水道で水を飲もうとすると、水道の前に居た心や他の児童は、急に別の場所に移動した。秀飛の向かう所に心たちがいると、必ず秀飛は一人になった。秀飛は不思議に思ったが、何もして来ないので、わざわざこちらから聴く必要も無いと感じた。

 しかし翌日の二時間目休み、秀飛は突然心に話しかけられた。

「お前も遊びに来ないか?」

「え?」

秀飛は驚いた。しかし、遊びに誘ってくれるのは初めてでとても嬉しかったので、誘いに乗った。心の他にも数名クラスメイトがついていた。心たちは校舎の隣の公園に来た。鬼ごっこをやろう、と言い出した心は鬼ごっこを始めた。じゃんけんで鬼を決め、他の児童は逃げ始めた。しばらくすると、秀飛に鬼が来た。秀飛は逃げた。すると、目の前に別の児童が居た。その児童は秀飛に足をかけて転ばせた。秀飛は何が起きたか分からず、ただそこに転んだ。

「次、お前が鬼な。」

いつの間にか鬼に触られていた秀飛は、そう言われた。秀飛は必死に他の児童を探したが、どこにもいない。どこかに隠れているのではないかと、公園をくまなく探した。しかし、他の児童を見つけられなかった。それどころか、公園には人がいなくなっていた。

「まさか…!」

秀飛は校舎に向かって走った。昇降口の時計は三時間目一分前だった。

 秀飛は授業に遅れ、梨田先生に怒られた。その様子を見ていた心は、周りの一緒に遊んだ児童とひそひそ話をしながら秀飛の方を見て笑っていた。その時、秀飛は、心たちはわざと自分を置いて行ったと確信した。

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