第30話 夕焼けの追憶
「教えてください、桜子さん。永夢くんは…ナイトメアヴィランは、どんな奴なんですか?私たちは、それを知る権利があります。」
百瑚は桜子に訴えた。
「…そうね。いいわ、教えてあげる。十六夜永夢…ナイトメアヴィランは、かつての幹部、テラファイトの弟子で、ヴィランを造れる数少ないヴィランよ。テラファイト亡き今、ナイトメアヴィランが幹部に昇格している、と我々は考えているわ。」
「そんなことを聴きたいんじゃねぇ。あいつは、照貴先輩の友達を殺した、人殺しらしいじゃねぇか。」
想は口を挟んだ。
「え、ええ。御代田黎っていう人よ。彼は…そう、私と同じ部活で、同じチームだったわ。」
「御代田黎って、ダッチ部の友達から名前は聞いたことあります!ダッチ部始まって以来の凄いダッチャーだったって。でも確か、死因は心不全だった気が…」
百瑚は桜子に言った。
「心不全なんて、本当の死因を誤魔化すための言い訳よ。本当は、ナイトメアヴィランに殺された。しかも、照貴の目の前で。」
「え…!」
百瑚は驚いた。
「じゃあ、照貴先輩がヴィランをかなり恨んでるのって…」
百瑚は呟いた。桜子は小さく頷いた。
舜多は秋津高校を中心に、永夢を探していた。すると、公安調査官たちが通行規制を行っていた。
「まさか、ヴィランが…!」
舜多は物陰に隠れた。
「変身!」
舜多はリベルライザーへと変身し、規制線の中へ入った。そこでは、ハンマーヴィランとバールヴィランが公安調査官たちと交戦していた。
「いいか!ある程度負傷させたら掃滅弾を撃て!」
調査官たちは前衛と後衛に分かれ、ハンマーとバールに攻撃をしていた。
「答えろ!お前たちは何が目的だ!!」
調査官の一人がヴィランたちに問いかけた。
「俺たちは、秋津高校の騒音に生活を害されてきたんだよ!」
ハンマーが叫んだ。
「ニビルっていう所で改造したら、ガキどもを黙らせることができるって言われて、改造してもらったんだよ!」
続いてバールも叫んだ。
「なるほど、秋津の騒音問題にも関係ありって訳か。」
すると、舜多の背後からジョーカーヴィランが来た。
「さ、燦ちゃん!!」
舜多は驚いた。
「さ、とっとと終わらせようぜ!」
そう言って燦之嬢は杖を舜多の方に投げた。それを空中でなんとか受け取った舜多は、杖に意識を集中した。
「超変身!」
舜多がそう叫ぶと、青いリベルライザーの体は赤くなり、リベルライザージョーカーへと変身した。まず燦之嬢は氷魔法で二体のヴィランの足元を凍らせ、動けなくさせようとした。しかし、二体のヴィランは高く跳んだ。するとすぐさま、舜多は重力魔法で二体のヴィランを地面に這い蹲らせた。
「今だ、掃滅弾を!」
調査官の一人がそう叫ぶと、掃滅弾を二体のヴィラン目掛けて発射した。しかし、バールヴィランが氷を抉り、自身とハンマーを自由にした。すぐにハンマーヴィランは自身の腕のハンマーで身を守ろうとした。掃滅弾がハンマーに当たり爆発すると、辺りは閃光と爆風に覆われた。しばらくして辺りが鮮明になると、ハンマーヴィランの腕のハンマーはおろか、片腕が無くなっていた。
「ひ、ひぃぃぃ!」
ハンマーは腰を抜かした。バールも驚き、その場に立ち尽くした。すると、舜多が二体のヴィランの方へ歩み寄った。
「これでもまだ、続けますか?」
舜多は仮面越しに二体のヴィランに言い放った。
「自ら進んで改造したってことは、それなりに覚悟があったんですよね?それこそ、死ぬ覚悟が。…一体、生徒たちにどれだけ迷惑がかかったか…!」
舜多は更に歩み寄った。
「お、おい、まさか、舜多…」
燦之嬢は舜多の様子に何かを察した。
「う、うるせぇ!」
バールが舜多に向かって走り出し、舜多も杖を構えたその時、バールの歩みが止まった。そして、そのまま倒れた。バールが倒れると、その後ろにいた紫の複眼をしたアキツフューチャーの姿が現れた。
「雑魚が。」
そう呟いたアキツフューチャーは、倒れたバールの四肢を、関節とは逆に折り曲げちぎり、体にバールヴィランのバールで穴を開けた。バールに体と四肢を刺すと、アキツフューチャーはそれを放り投げた。しばらくするとバールは爆発した。
「なんて酷い…」
調査官の中には嘔吐した人もいた。
「やっと会えたな…ナイトメアヴィラン。」
すると、声がどこからか聞こえた。一同が声のした方を振り向くと、照貴が歩いて来た。後ろからは桜子が照貴を追いかけていた。
「ちょっと照貴!」
桜子は照貴を止めようと肩を掴んだが、照貴は振り払った。そして、近くの調査官が持っていた掃滅弾を奪い取り、アキツフューチャーに向けた。
「黎の敵だ…!」
照貴は思わず笑みがこぼれた。
「悪いな。殺した奴のことなんか覚えてねぇ。」
アキツフューチャーは照貴に言った。
「ハッ…!貴様に覚えてもらわなくて結構…」
照貴は笑った。狂気と悲哀に満ちた顔だった。
「照貴!掃滅弾を返しなさい!それはあなたが使える代物じゃないわ!」
桜子は照貴を説得した。
「あぁ…こいつを殺した後でなぁ!」
照貴は掃滅弾を撃った。
「ちっ…」
アキツフューチャーはその場を立ち去ろうとした。
「ま、待って!君には話したいことが…」
舜多はアキツフューチャーを、永夢を止めようとしたが、永夢は聞かなかった。
「…ジョーカーグラビティ!」
舜多は過重力魔法でアキツフューチャーを地面に叩きつけた。すぐそこには掃滅弾が来ていた。するとアキツフューチャーは近くにいたハンマーヴィランを盾に逃げた。
「そんな…」
ハンマーは掃滅弾を受け、爆発した。
「おい、俺様たちも逃げるぞ。」
燦之嬢は舜多に言った。二人は瞬間移動魔法でその場を後にした。
「あのアキツフューチャーは、フューチャーベルトを奪ったナイトメアヴィランよ!各方面に通達しなさい!また、安全確認の後、撤収!」
桜子が調査官たちに指示すると、調査官たちは動き始めた。その後、照貴の所に歩み寄り、照貴が持っていた掃滅弾を取り、照貴の頬を平手打ちした。
「馬鹿!何やってんのよ!」
桜子は照貴に怒鳴った。照貴は俯いて黙ったまま、その場を後にした。
「全く…揉み消すのは私なんだから…」
桜子は呟いた。
「あ、燦ちゃん!もう部活終わっちゃうよ!トイレ長過ぎない?」
体育館に戻った燦之嬢は、雅玖にそう言われた。
「はは、がっくん、めんご。でも俺様はそう腕は鈍らないから。」
燦之嬢は雅玖の肩を組んで言った。
「どうかな?エースの座は俺が貰うかもよ?」
「そう簡単に俺様は譲らないぜ?」
燦之嬢は床に転がっていたバスケットボールを投げ、ゴールに入れた。
「あ、先輩!」
現影は燦之嬢の所へ走って行った。
「お、現影!どうだ、筋トレは終わったか?」
「はい。あの、ヴィラン退治ですか?」
現影は口の横に手を当てて燦之嬢に囁いた。
「ど、どうして…?」
「いや、勘ですよ。先輩、ヴィランだし。」
「お前は怖くないのか?他の後輩は俺様のことが怖くて退部したけど。」
「いえ。それより、次は何をすれば良いですか?」
「そ、そうだなぁ…」
舜多が部室に帰ると、部員が誰もいない代わりに照貴がいた。
「なんだ、お前か。」
照貴は玩具を弄っていた。
「あの…照貴先輩。」
「ん?」
「御代田黎さんって…もしかして、ヴィランだったんじゃないんですか?」
舜多の言葉に、照貴の手が止まった。
「それ、どこで知った?」
照貴は呟いた。
「桜子だな。」
「え?あ、はい…」
舜多は桜子に申し訳ないと思いながら、反射的に頷いた。
「友達がヴィランだったんなら、どうしてヴィランを一体残らず殺そうとするんですか?ヴィランにも良いヴィランは…」
「なぁ、舜多。」
「は、はい…」
「黎は良い奴だったんだよ。アイツはクラスで浮いていた俺と友達になってくれた。特研に入ってるって言えば笑われたが、アイツは笑わなかった。弁当も一緒に食べてくれた。ダブルダッチで新技が出来たらすぐに俺にその動画を送ってきた。休日もしょっちゅうカラオケに行った。勉強を教え合った。先生とうまくいかないって悩みも、アイツは聴いてくれた。俺がテストで良い点を取れば、アイツは自分のことのように喜んでくれた。アイツが俺の家に泊まった日は、夜通しスマブラをした。」
照貴はそう言うと、黙って俯いた。
「アイツは…ヴィランだった。アイツを殺したのも、ヴィランだった。訳わかんねぇよな。あの日、帰り道で黎が漏れそうって言うから、近くのコンビニに行って、俺は外で待ってた。そしたらアイツがコンビニから出てきたかと思うと、誰かについて行っていた。人目のつかない裏路地に行ったら、その誰かはヴィランになって、黎もヴィランになって、そのヴィラン…ナイトメアヴィランは黎を殺した。俺があの時、裏路地に行く前に強引に連れ戻していれば…黎は生きていた。今も俺の隣にいた。でも、何よりショックなのは…黎がヴィランだったことだった。裏切られた気がした。いや、それより、きっと、黎は悩んでいたのかもしれない。望んでヴィランになった訳じゃないかもしれない。でも、今になって分かる訳ない。アイツはもういない。…もし、黎が人間のままだったら…ナイトメアヴィランなんて居なかったら…ヴィランが存在しなかったら…誰も悲しむことなんて無かったんだ。」
「だからヴィランを…」
「ヴィランを全員殺せば、少なくとも被害は無くなるし、こんな悲しい思いをすることもない。」
「照貴先輩…」
しばらく沈黙が続いた後、舜多が口を開いた。
「照貴先輩がヴィランを憎む理由は分かりました。でも、やっぱり俺は、照貴先輩は違うと思います。人間にも人間を悲しませる人がいるし、ヴィランにも優しいヴィランかいる。先輩は、人間かヴィランかで区別してるんじゃない。差別してるんだ。」
「綺麗事でどうなかなる世界じゃねぇよ。俺はこれからも、ヴィランを殺す。そのためにも、一刻も早くフューチャーベルトを取り返す。」
照貴は立ち上がり、部室を出ようとした。
「綺麗事だから…そうありたいと努力できるんです。よりよくできるんです。」
「努力は報われなきゃ意味無いよ。」
照貴はそう言い残して部室を出た。夕焼けの淡い光が部室に入り込んでいた。




