第29話 巣喰いの手
バールヴィランが秋津高校を襲撃する数十分前、特撮ヒーロー研究会では、部員の舜多、百瑚、想、永夢、真佑の五人が集まっていた。
「部長。俺、アキツフューチャーになりたいです。」
永夢は百瑚に藪から棒に言った。
「そう。なら私が引退した後に…」
「そうじゃなくて、今すぐになりたいんです!」
百瑚は、永夢のその言葉に驚いた。
「俺、あの生徒大会を見て、思ったんです。一刻も早く、こんな戦いを終わらせるべきだって。アキツフューチャーになれる人が多い程、きっと便利だと思うし、それに…部長みたいな可憐な人を、これ以上傷つかせたくない。」
永夢は百瑚の手を取り、頭をかいた。百瑚は頬を赤らめた。
「可憐だなんて…でもアキツフューチャーになるには、特訓が必要よ。」
「チョロ!!」
想は驚いた。
「分かってます。」
永夢は百瑚の目を真っ直ぐに見た。
「じゃ、早速屋上で特訓よ。その前にちょっとトイレ…」
そう言って、百瑚はトイレへ行った。
「ち、ちょっと永夢くん!!」
真佑は永夢の手を取り、部室の外へ連れ出した。
「あいつ…お前の同級生だったんだよな。」
想は舜多に聴いた。
「はい。」
「いつもあんな感じなのか?」
「うーん…まぁ、調子良い奴ではありましたよ。」
「そっか…友達は選べよ。」
「な、なんだよ。」
真佑に手を引っ張られ、部室がある教室の隣の無人の教室に連れて行かれた永夢は、ようやく真佑の手を振りほどいた。
「アキツフューチャーになるって…本気?」
真佑は永夢を問いただした。
「あぁ。」
永夢は素っ気無く答えた。
「無茶だよ!あのヴィランと戦うんだよ?永夢くんが危険な目に遭うのは見たくないよ…」
「嫉妬してんのか?俺が部長を誘ったから。」
「な…!自覚してたの?」
すると突然、永夢は真佑に壁ドンをした。
「ち、近い…」
真佑は思わず目線を逸らした。
「俺は力が欲しい。そのためなら何でもする。お前は俺に何をくれる?」
永夢は真佑を真っ直ぐに見つめた。
「私は…」
真佑は、顔は横を向きながら、目を永夢の方へ動かした。
「私は、永夢くんのことが好き。だから、私は、永夢くんのためなら何でもするよ。」
「…その言葉、信じてやるよ。死ぬまでな。」
永夢の口角が少し上がると、自分の舌を真佑の舌と絡めた。真佑は抵抗する術も無く、目を閉じた。
数分後、百瑚と永夢は屋上に出て、特訓を始めようとした。
「確かアキツライザーの特訓では…まず生身での戦闘能力と基礎体力を上げたっけ。じゃあ永夢くん。まずは君が今どれくらい戦闘が出来るか、見せてもらうわ。手加減無く、かかって来なさい。」
百瑚は構えた。永夢は、百瑚に向かって走り出した。永夢は膝蹴りを入れようとした。百瑚は咄嗟に手で抑えようとした。すると、永夢は手を地面につき空中で体を捻り、膝蹴りしようとした脚とは逆の脚で横から蹴りを入れようとした。
(まさか、身長の低さをカバーしようと、下から蹴りを…!でも甘いわ。身長が低ければ、身を引けば逃れられる!)
百瑚は一歩引いて攻撃を逃れようとした。
「そんなもんか、アキツフューチャー。」
「え?」
すると、永夢は両手で地面を思いっきり押し、百瑚に蹴りを入れた。
「流石に対男じゃ部が悪いでしょ、部長。」
永夢は体を起こしながら、倒れている百瑚に言った。
「ま、まぁ、そうね。じゃあ、次にフューチャーベルトを使うわ。」
百瑚は永夢にフューチャーベルトを渡した。
「装着。」
そう言ってフューチャーベルトを巻いた永夢は、アキツフューチャーへと変身した。
「あれ…?」
百瑚は、永夢が変身したアキツフューチャーに違和感を覚えた。アキツフューチャーの複眼が紫色だったからだ。
「兎に角、相手は想に任せて…」
百瑚がそう言った瞬間、校庭から爆音が聞こえた。
「何!?」
百瑚が校庭の方を見ると、ヴィランが居た。
「早速実践か…!」
そう言った永夢は校庭へ飛び降りた。
「あ、ちょっと!」
百瑚が呼び止めようとした時には、永夢はもう校庭に居た。
音楽室に現れたバールヴィランは、燦之嬢が変身したジョーカーヴィランによって、誰もいない広い校庭に移されていた。
「これ以上、部活動をめちゃくちゃにしないでほしいなぁ。」
燦之嬢がそう言うと、バールヴィランは、腕のバールを振りかぶって来た。
「ハンマーの時のようにはいかないぜ?」
すると燦之嬢は、杖から出した炎を一点に集中し、青い炎にした。そして、その青い炎をバールに目がけて放った。すると、バールが燦之嬢側に曲がり、燦之嬢までバールが届かなかった。バールが空ぶった隙に、燦之嬢はバールに蹴りを入れた。
「残念だったな。さぁ、早く退散し」
その時、燦之嬢の背中に激痛が走った。誰かが背中に蹴りを入れた。燦之嬢が振り返ると、そこにはアキツフューチャーがいた。
「だ、誰だお前は…!」
燦之嬢は瞬間移動魔法でアキツフューチャーと距離を取った。
「紫の複眼…ってことはヴィランか?あの特研の奴では無さそうだな。」
「悪い超人類は始末しないとなぁ。ジョーカー?」
「何!?」
すると、アキツフューチャーは燦之嬢を目掛けて蹴りを入れようとした。
「そんな簡単にいくかよ!」
燦之嬢は瞬間移動魔法でアキツフューチャーの背後を取った。そして、さっきの青い炎を出し、アキツフューチャーを貫こうとした。しかし、アキツフューチャーはすぐに回し蹴りをして、ジョーカーの杖を弾いた。
「あ…」
そしてそのまま、アキツフューチャーは燦之嬢に膝蹴りを食らわせた。
「ぐはぁ…!」
燦之嬢は倒れた。アキツフューチャーは、倒れているバールヴィランの方を向いた。
「俺が作った超人類の癖に、ジョーカーも倒せないなんて…」
アキツフューチャーはバールヴィランを担いだ。
「動くな!」
すると、いつの間にかアキツフューチャーたちは公安調査官たちに囲まれていた。
「一体これは…!」
調査官たちは戸惑った。人間の味方であるはずのジョーカーヴィランが、アキツフューチャーにやられ、バールヴィランを担いでいるからだった。
「永夢くん!」
その時、リベルライザーも来た。
「アキツフューチャー…いや、永夢くん!どうしてこんなことを…君は一体…?」
「ちっ…しょうがねぇ。」
すると永夢はフューチャーベルトを取った。
しらばくして桜子が校庭へ来ると、調査官たちや燦之嬢、舜多が全員倒れていた。詳しく調べると、全員眠っていた。
「まさか…」
桜子は、そう呟いた。
「永夢くん、どこに行ったのかしら。」
百瑚は、フューチャーベルトを持って行った永夢の帰りを、部室で待っていた。
「まさかあいつ、ヴィランにやられて…」
「そんなことはないよ、想。私より戦闘能力は高そうだったし。けど、何か違和感があって…」
「違和感?」
「うん。なんか、複眼の色が違ったような…」
その時、想がいきなり立った。
「おい、その色って、紫じゃねぇか?」
「あ、そう!紫だった!」
「どういうことだ?公安はちゃんと検査したのか?」
「オプファー…」
その時、部室に入って来た舜多は呟いた。
「オプファーなら、例えヴィランでも、血液型が変わらない。」
「マジかよ…」
想は脱力したように座った。
「まだ遠くには行ってないはず…俺、ちょっと探してきます!」
そう言って舜多は部室を出た。
「おい!」
想が追いかけようとした時、すでに舜多の姿は無かった。その時、百瑚のスマートフォンが鳴った。電話だった。
「あ、照貴先輩!」
相手は照貴だった。
『おいお前、特研の新入部員の写真、グループにあげたよな?』
「は、はい。そうですけど…」
『その中に、エムって奴、いるよな?』
「は、はい。永夢くんが、どうかしたんですか?」
『あいつは、ヴィランだ。しかも、凶悪な。俺の友達を殺したんだからな。』
「え…」
百瑚は呆然とした。
「ここを離れるぞ、現影。」
体育館裏へ現影を呼び出した永夢は、そう呟いた。
「え!せっかく入学したのに?それに、ハンマーやバールは?」
「あいつらなら、再改造するために、ニビルに運んだよ。」
「でも、これから一体…?」
「幸い、お前はまだ超人類だとバレていない。だからお前はここに残れ。俺は次の作戦に移る。」
「…!待て。」
現影は背後の死角に何者かの気配を感じ、振り向いた。永夢はその正体を確かめるため、角から死角を覗いた。そこには、真佑がいた。
「え、永夢くん…?部長たちが、心配してるよ?」
真佑は恐る恐る呟いた。
「今の話、聞いてたのか…永夢、こいつをすぐに」
「いや、待て。」
永夢は、現影の発言を制止した。
「真佑、お前は、俺のためになら何でもやると言ったな?」
永夢は真佑に言い寄った。
「え?う、うん。」
真佑は戸惑いながら答えた。
「なら、今から俺が言う通りにしろ。」
「う、うん。」
真佑は俯いた。
「ねぇ、永夢くんは、ヴィランなの?」
真佑は呟いた。
「だったら何だ?公安にチクるか?」
「違う。例えヴィランでも、永夢くんは永夢くんだよ。」
「そう、か。」
「つまり、十六夜永夢がナイトメアヴィランで、彼がフューチャーベルトを持って逃走した、ってこと?」
桜子が、校長室に来た百瑚と想に言った。
「はい。照貴先輩が、そう言ってました。」
百瑚はそう報告した。
「そして、桜子さんと照貴先輩の友達の、黎さんを殺したヴィラン…」
百瑚は語尾を濁して呟いた。
「秋津高校を中心に厳戒体制を敷いた。ナイトメアヴィランは現在、ニビルの幹部だと言われている。捕らえればこちらに有利になる。どちらにしろ、こちらにフューチャーベルトが無いのは不利。」
桜子は淡々と言った。
その後、舜多が永夢を見つけられることはなかった。永夢に連絡を取ろうとしても、繋がらなかった。
「永夢くん…」




