第28話 激動の後で
全校の前でジョーカーヴィランへと変身した燦之嬢に、全校は再び騒然とした。
「そんな…燦ちゃんが、ヴィラン…?」
廉は戸惑った。
「本当にヴィランが悪だと思うなら、今ここで俺様を殺せ!殺せるものならな。」
燦之嬢は叫んだ。体育館は一瞬にして静寂に包まれた。
「他に質問、意見があれば挙手をしてください。」
議長が言った。もう挙手をする人も、発言する人もいなかった。
「それでは採決に移ります。第一号議案、『ヴィランに関する校則』に賛成の人は、挙手をしてください。」
議長がそう言うと、疎らに手が挙がった。評議員数名が挙手の数を数えた。その間、評議員の足音だけが体育館に響いた。評議員は、数え終わると議長の所へ行き、賛成数を報告した。
「結果を発表します。賛成数が過半数を占めたため、第一号議案は可決されました。」
議長がそう言うと、晴都が椅子から立ち上がった。
「ありがとうございました!!」
そう叫び深々と礼をした。しかし、賛成数は過半数ギリギリであったため、不満の声もあがった。
「どう見ても反対の方が多いだろ!!」
「ちゃんと賛成数を報告しろ!!」
廉は挙手をしなかったものの、燦之嬢がヴィランだった事実に呆然としていた。
生徒大会が波乱の内に終わった。舜多は体育館の入り口前にいた燦之嬢にお礼を言いに行った。
「あの、燦ちゃん!」
「ん?」
燦之嬢は舜多の方を向いた。
「あ、あの、ありがとう。」
「ふっ、なあに、これくらいのこと。」
「でも、これからとうするの?さっきの採決、賛成と反対が半々に見えたけど。もしかしたら反対の人が燦ちゃんを狙って…」
「心配すんな。俺様はそんなことで…」
「お、おい!」
すると、後ろから声がした。廉だった。
「燦ちゃん…今までおいらを…おいらたちを騙してたのか?」
廉の声は震えていた。
「いつ俺様が騙したのかは覚えてねぇな。」
「な、なんだと…!おいらを舐めやがって…!そうだ、アキツフューチャーだ!あいつがいつかお前を…」
「それは出来ないわ、御代田廉くん。」
すると、複数人の公安調査官を連れた桜子が来た。
「この五十嵐燦之嬢は、国及び地方公共団体、秋津高等学校長が登校を許可及び公安の保護対象だと通達した。五十嵐燦之嬢に敵意が無い限りね。」
「桜子先輩…あなたもあなただ!潜入捜査してたんなら、何でまっきーと付き合ってたんだよ!」
廉は桜子に言い寄った。桜子の周りにいた調査官たちが桜子を守ろうと彼女の周りを囲もうとしたが、それ以前に廉は前に進めなくなっていた。友祢が廉の肩を掴んでいた。
「な、何すんだよまっきー!あいつに未練でもあんのかよ!」
廉はすぐさま友祢の手を振り払い、友祢の顔を見た。すると廉は一瞬、今迄に感じたことの無い恐怖を感じた。いつも微笑んでいる友祢が、一瞬悪魔に見えた。廉の股間は濡れ、湯気が出ていた。
「流石親子、ね…」
その様子を見ていた桜子は呟いた。廉は我に返った。
「ご、ごめん、まっきー。」
「分かればいいんだよ。」
友祢は微笑み、廉の頭をさすった。
「御代田廉」。この名前に聞き覚えを感じた舜多は、秀飛の家にあった、秀飛の父の書類を見直した。
「やっぱり…!」
舜多は、若かりし日の秀飛の両親とテラファイトと思われる人物、七人の乳児が写った写真の下を見て確信した。
『人類進化の鍵になる七つの子
・日向現影
・五十嵐燦之嬢
・小畠李杏
・十六夜永夢
・御代田黎
・御代田廉
・真木友祢』
「やっぱこれ、改造された子の名前と写真だよな…まさか、こんなに知り合いがいるなんて…もしテラファイトの言ってたことが本当なら、この中で誰か、俺の代わりに改造手術を受けなかったってことだけど。でも俺みたいに改造されてることを知らなかったら、燦ちゃんみたいに協力してくれるかも…!」
しかし舜多は、廉どころか、友祢や永夢にヴィランか聴くことが出来そうになかった。聴くには勇気が必要だった。
「でも友祢も永夢くんも成長期過ぎてるっぽいし、あの廉くんはまだっぽいけど…もっとなんか、決定的なものはないのか!?」
舜多は頭を抱えた。すると、あることが閃いた。
「そうだ、血液型だ!」
翌日、生徒大会での衝撃が冷めやまらない中、舜多は友祢に改造されているかを聴くべきか、迷っていた。
「どうしたの?舜多。」
友祢は、席に座っていた舜多の顔を覗いた。
「え!?い、いや、別に…」
舜多は目を逸らした。
「本当?なんか悩んでるんじゃない?今日まだ僕と話してないし。」
友祢はしゃがんで舜多の顔を見上げた。
「ごめん…こんなこと言うと、俺がまるで友祢を信用してないみたいになるから…」
「…そっか。舜多は僕のこと、信用してくれてるんだ。じゃなきゃ、そんな深刻な顔しないもんね。」
「友祢…」
舜多には、友祢の微笑みが眩しかった。すると、自然と目から涙が溢れてきた。
「え、えぇ〜!?」
友祢は焦った。
友祢は舜多を屋上の入り口前の階段に連れて行き、背中をさすって側にいた。しばらくすると、舜多は泣き止んだ。
「もう、いきなり泣き出すから、びっくりしたよ。」
「ご、ごめん…」
「で、なんか僕に言いたいことがあるんでしよ?」
舜多は黙ってしまった。
「た、単刀直入に聴くよ。」
舜多は切り出した。
「うん。」
「友祢は、ヴィラン?」
「…違うと思うよ。」
「け、血液型は?」
「僕、O型だよ。」
「そ、そうか…」
舜多は少し肩の荷が下りた。
「実は…」
舜多は、秀飛の家にあった写真のことを話した。そして、友祢がヴィランで無いのなら、廉がヴィランかもしれないことも話した。
「…そっか。でも廉ちゃんは、ああ見えて良い奴だと思うよ。だから、ヴィランでも敵にはならない気がする。」
「う、うん…」
「そんな深刻にならなくていいよ。ヴィランかどうかなんて、些細なことだよ。僕にとっては、ね。」
「友祢…ありがとう。」
「さ、教室に帰ろ。」
放課後、斗織がリハビリを終えて退院すると聞いた友祢と廉は、斗織に会いに斗織が入院していた藤沢病院に行った。
「すっげぇでっかい病院だな。」
廉は体を反らして言った。
「それな。僕のクラスメイトの親が院長なんだけど、内科から小児科、耳鼻科に眼科…何でもあるんだよ。」
友祢は答えた。
「詳しいね、まっきー。」
「うん。行きつけってのもあるけど、ここで産まれたんだ、僕。」
「へぇ〜!ここで産まれたんだぁ〜!」
廉は興味深そうに病院と友祢を交互に見た。
斗織の病室に来た二人は、ベッドの上に座っている斗織を見つけた。
「斗織〜!」
廉は斗織に抱きついた。
「おい相変わらずだな。けど、なんか声低くないか?背も伸びてる気がするし。」
斗織は廉の様子を見て言った。
「え!?やっぱりそうかなぁ〜!おいらも遂に大人の階段上り始めたかなぁ。」
「しみじみするのは良いが、服が背に合ってなくて腹が出てんぞ。」
斗織は廉の腹を摘まんだ。廉は自分の腹を見て目玉が飛び出る程驚き、斗織の手を振り払い、シャツを伸ばして腹を隠そうとした。
「明日、退院するんだよね。」
友祢は斗織に質問した。
「あぁ。これでダブルダッチも出来るぜ。」
「でもさ、斗織…脚…」
廉は斗織の脚の方を指差しながら呟いた。
「これのことか?」
斗織は布団を捲り、無くなった脚を見せた。
「義足をつけてのリハビリは終わったし、もう歩けるよ。心配してくれてありがとうな。」
斗織は廉の頭をさすった。廉は少し恥ずかしくなった。
「で、どうだ?新入部員は入ったか?」
斗織は二人に質問した。
「うん!沢山ね。廉ちゃんったら、いろんな後輩に好かれて。」
友祢は廉の肩に触れた。
「べ、別においらは、教えてって言われたから教えてるだけで…」
廉は再び恥ずかしくなった。
「ごめん廉ちゃん!僕、用事があるから先に帰ってて良いよ!」
友祢と廉が病院を後にする時、友祢は廉にそう言った。
「え、おいらも行くぅ!」
「え、まぁ、いいよ。」
友祢が来たところは、産婦人科だった。そこに居たのは、藤沢病院長の息子の勇佑だった。
「ごめんね、勇佑。無理言って。」
友祢は勇佑に向かって手を合わせて頭を下げた。
「いいよ、別に。はいこれ。」
勇佑はある紙を友祢に渡した。
「ちゃんと見たら返せよ。」
「分かってるよ。」
秋津高校の校長室では、松竹校長と小中教頭、そして晴都と桜子が会議を開いていた。
「最近、ハンマーヴィランとバールヴィランが、秋津高校に出没しています。そして二体とも、放課後の部活動の時間に出没しています。素性は未だに謎ですが、今まで襲われた部活には、共通点があることが分かりました。」
桜子は他の三人に話した。
「それは…?」
校長が聴いた。
「まず、最初が野球部、次にテニス部、そしてつい最近、バスケ部が襲われました。これらの部活動の共通点は、球技の運動部であることです。そしてまだ襲われていない球技の部活動は、サッカー部、バレー部、卓球部です。我々はそこを重点的に警備しています。」
桜子が説明した。
「しかし、それだけで球技の部活動だと決めつけるのは早計では…?」
教頭が聴いた。
「…ヴィランの考えることは、私たち人間には分かりません。」
桜子は素っ気無く答えた。
「あの…もしかして、ヴィランは音について苦情を受けた部活を狙ってるのではないでしょうか。」
晴都は恐る恐る発言した。
「そういえば、近隣住民から部活動の音がうるさいと、苦情が来ていたな。」
校長は言った。晴都は、持っていたファイルを開いた。
「今まで苦情が来た部活は、窓を開けて部活動を行っており、部員の声やバスケットボールの音がうるさいと言われたバスケ部、同じく部員の声がうるさいと言われた野球部、校舎の外周をランニングしており、部員の掛け声がうるさいと言われたテニス部。そして、楽器の音がうるさいと言われた吹奏楽部…」
晴都が苦情の内容を読んでいると、桜子の携帯電話が鳴った。
「失礼。」
桜子は携帯電話の画面を見た。するとすぐに立ち上がった。
「吹奏楽部がいる音楽室に、バールヴィランです!」




