第26話 シンニュウ
公安調査事務所襲撃事件から二カ月、新年度を迎えた秋津高校には百九十人の新入生が入った。定員の三分の二以下の人数となったのは、ヴィラン関連の事件によるものだった。新入生には公安調査事務所が、ヴィランかどうかを調べる血液検査を一人ひとりに行った。ちなみに、陽性と判断された新入生は一人も居なかった。また、これもヴィラン関連により、転校した在校生も多く、全校生徒数はかなり少なくなった。
信幸の計らいにより、公安調査事務所に予算が多く入り、掃滅弾を軽量化したものを、秋津高校を警備している調査官一人につき一つ持てるようになった。
世間でのヴィランの評価は二つに分かれており、舜多や友祢のようにヴィランにも被害を加えない者も居るという考えを持つ人々と、照貴や廉のようにヴィランは人類の敵という考えを持つ人々がいた。
新年度に入り、公安の特例で、燦之嬢は秋津高校に通えるようになった。舜多達は進級し、入学式から一週間後、展示や発表などで新入生に部活を紹介する『縮小秋津祭』が行われた。新入生の十六夜永夢は、中庭で行われているダブルダッチ部の体験に来ていた。
「ここがダッチ部か…」
永夢が中庭に来ると、既に多くの新入生が来ていた。すると、永夢の方に走って来る人が居た。
「永夢くんだよね?」
その人は息を弾ませながら永夢に話しかけた。永夢は首を傾げた。
「ひっどーい!私、永夢くんの隣の席なのに…」
「で、誰なんだよ。」
永夢は面倒臭そうに質問した。
「私は藤沢真佑よ。で、永夢くんもダッチ部に入るの?」
真佑は少々腹を立てながら質問した。
「いや、見学だよ。」
「私と一緒に入ろうよ!」
「お前、話聴いてたか?」
「入部したい部活が無いけど何か部活に入りたいって言ってたの、永夢くんでしょ?」
「それ、誰から聞いたんだよ。」
「現ちゃんだよ。だからさ、一緒に入ろうよ。」
「あいつ…」
永夢は真佑に手を引っ張られ、部員の方へ行った。
「すみません!私達、入部したいです!」
真佑は、その場にいた友祢に話しかけた。
「え、マジ!?ありがとう!じゃあ、今度の部活説明会に来てくれない?」
そう言った後、友祢は二人に説明会の日時と場所を教えた。
「まっきー!新入部員?」
すると友祢の背後から、廉が友祢の背中に乗ろうとやってきた。
「君も新入部員?」
真佑は廉に質問した。
「はぁ〜?!おいらは二年生ですけど〜!?廉先輩と呼べ!!」
廉は友祢の肩から真佑に指を指した。
「あ、すみません!てっきり、一年生かと…」
真佑は謝った。
「よくあることだから、気にしなくていいよ。」
友祢は真佑に言った。
「はぁ〜?!よくないし!おいらは」
「はいはい、新入生の案内しましょうね〜」
友祢は廉をあやした。
「なんか滑稽だな…色々。」
永夢は呆れた。
「でしょ?だから今度の説明会、一緒に行こうね!」
「なんで入ることになってんだよ…」
永夢は再び呆れた。
「おい、現影。」
永夢は、講堂の前に居た日向現影に声を掛けた。
「あ、永夢。俺、バスケ部に入ることにしたよ。それにしても、講堂、もう完成してるね。」
現影は講堂を見上げながら言った。
「あぁ。」
「何々、二人共。バンド部に興味あるの?」
すると、永夢と現影の間から真佑が出て来た。
「わぁ!」
現影は驚いた。
「お前、付いてきたのかよ。」
永夢は真佑に言った。
「いいじゃん!それよりさ、私のお兄ちゃん、バンド部なんだよ!観に行こう!」
真佑はそう言って永夢と現影を講堂に入れた。講堂の中は真っ暗だった。窓は光も音も通さない目貼りと暗幕があり、ステージからの光が頼りだった。
「あ!あのギター持ってる人がお兄ちゃんだよ!」
真佑は、ステージ上に居る勇佑を指差して言った。
「…皆も知ってる通り、昨年度は、ヴィランによって、沢山の秋津生が犠牲になった。」
勇佑は、語り始めた。
「そして、このバンドのボーカルも…俺は今、世界で何が起こってるのか、何が正しいのか、分からない。ただ、あいつの代わりに歌うことは出来る。言葉にならない思いを音にすることが出来る。…部員には、退学した人もいる。俺がこの学校を退学しなかったのは、ヴィランに殺されたいからじゃない。生きたいからだ。この学校で。今日は本当にありがとう。」
そう言って、勇佑のバンドは、演奏を始めた。
「永夢はなんで、この高校に入学しようと思ったの?」
勇佑のバンドの演奏を観終わって講堂から出た真佑は、永夢に質問した。
「そりゃ、俺の偏差値に合ってたからだよ。」
永夢は答えた。
「ヴィランは…怖くなかったの?」
真佑は再び永夢に聞いた。
「そう言うお前はどうなんだよ。」
「私は…お兄ちゃんが、お兄ちゃんの友達がヴィランに殺されて…家に引き篭もるようになって…私が秋津高校に行けば、お兄ちゃんも外に出るようになるかなって、思って…」
「へぇ。お前も大変だな。」
永夢は素っ気無く言った。
「ねぇ、永夢。彼処にはもう行ったの?」
現影は永夢に言った。
「特研か?未だだよ。」
「え、特撮好きなの!?」
真佑は永夢達に聞いた。
「いや、俺はリベルライザーに用が…」
永夢は言った。
「リベルライザー良いよね!世間ではあまり良く思われてないけど。じゃ、特研に行こうよ!」
真佑は二人の背中を押して、特研の展示が行われている教室へ向かった。
「舜多くん、秀飛くんの看病で遅れるって。」
特撮ヒーロー研究会の展示教室に居る百瑚は、舜多から送られて来たメッセージを見ながら想に言った。
「あいつも色々大変だな。」
想が呟くと、教室に永夢と現影を連れた真佑が来た。
「らっしゃーせー!」
百瑚は元気良く言った。
「ったく、だからここは居酒屋か何かかよ。」
想は百瑚に突っ込んだ。
「うわぁ、凄い!ベルトやフィギュアや合体ロボ…」
真佑は展示品の数々に見惚れていた。
「あの。部長は誰ですか。」
永夢は百瑚に聞いた。
「部長は私だけど。」
百瑚は答えた。
「特撮ヒーロー研究会は、リベルライザーやアキツフューチャー、アキツライザーと関係があると聞いたんですが…本当ですか?」
「もしかして、リベルライザーとかのファンかな?アキツライザーは特研の初代部長ってだけで、そんなに関わりなんかないよ。」
「そうですか。」
「すみません!私達、特研に入ります!」
すると真佑が、永夢の手首を掴んで挙げた。
「は?何でだよ。」
永夢は真佑を睨んだ。
「だって永夢、特研に入りたいんじゃなかったの?」
そう真佑に言われ、永夢は暫く黙り込んでいたが、その後、口を開いた。
「まぁ、いいよ。」
「おい、永夢。」
現影は時計を見るように永夢を促した。
「あぁ、もうそんな時間か。悪い、俺ら用があるから抜けるわ。」
永夢は真佑の手を振りほどいた。
「え、ちょ…まぁ、別にいいよ。」
真佑は少し寂しそうにした。永夢と現影が教室を出て行くと、百瑚は口を開いた。
「あの永夢って子、かなり格好良いね。」
「そ、そうですよね!」
真佑は急に明るくなって話し出した。
「私より背が低い所もまた可愛いっていうか、生意気な弟って感じで。」
「へぇ、入学してもう彼氏作るなんて、凄いね。」
「いや、か、彼氏なんて、そ、そ、そんな、違いますよ!ただ隣の席ってだけで…!」
真佑は顔を赤らめた。
「そう?それにしては仲が良くない?」
百瑚は質問した。
「それは…わ、私は永夢くんのことが好きだけど…永夢くん、ああ見えて優しいから…」
「へぇ〜青春してるね〜」
百瑚はしみじみと言った。
「なんか、廊下が騒がしいな。」
想は、廊下に居る生徒や調査官たちが、慌ただしいことが気にかかった。
「体育館にヴィランが出たって…!」
「え、マジ!?」
廊下の生徒たちは口々に話していた。
「想、店番は任せたわ。」
百瑚は体育館に向かった。
「え、あの先輩、どこに行ったんですか?」
真佑は想に聴いた。
「…まぁ、正式に入部したら教えるよ。」
想は答えた。
「一応、あいつにも伝えておくか。」
想はそう呟くとスマートフォンを取り出した。
「ジョーカーヴィランには、こちらに攻撃してこない限り、こちらから攻撃するな。今はハンマーヴィラン及びマルリカヴィランを殲滅せよ!」
体育館の入り口で、桜子は公安調査官たちに指示をした。生徒たちの避難が完了した体育館では、ジョーカーヴィランに変身した燦之嬢が、二体のヴィランと戦っている。
「あのハンマーの奴…脚を凍らせてもハンマーで砕いてきやがる…炎も過重力も効いてないみてぇだし…厄介だな。」
燦之嬢は苦戦していた。
「ほらほらどうしたジョーカー!!手も足も出ないかぁ!?」
マルリカは燦之嬢を煽った。
「うるせぇ!貴様もハンマーの後ろに隠れてないで正々堂々と戦え!!」
燦之嬢はマルリカに叫んだ。
「撃て!!」
すると、桜子の掛け声と共に、ハンマーとマルリカに銃弾が撃たれた。しかし、ハンマーには効いていなかった。
「ならこれはどうだ…!『磁力魔法』!」
燦之嬢が杖を振ると、体育館の外に向かってハンマーが飛ばされた。
「どうやらその右手の大きなハンマーは鉄製みてぇだな。」
燦之嬢も体育館の外に出た。
「今よ!掃滅弾!」
すると桜子は懐から掃滅弾を取り出し、ハンマーに向かって撃った。ハンマーは右手のハンマーで守ろうとしたが、そのハンマーは粉々に砕けた。
「よし…!もう一発ぶち込めば…!」
桜子がもう一回掃滅弾を撃とうとした時、燦之嬢は空から何かが来ているのを発見した。
「あれは…!」
咄嗟に燦之嬢は重力魔法でハンマーを浮かせた。すると、空から来たその何かは、ハンマーに向かって蹴りを入れた。その正体は、リベルライザーだった。




