第18話 白い雪よ紅に染まれ
年が明けて、冬期休暇後のテストも終わり、スキースノボ教室当日。秋津高校に一年生と教師が集まった。各クラスで列になっている。
「あ、まっきー!インフルエンザ大丈夫かよ?」
先に来ていた勇佑は、やって来た友祢に聞いた。
「うん。心配かけてごめんね。」
「全く。副ルーム長の俺が、前日迄のルーム長の仕事をやったんだから。バスの席順とか部屋割りとか…大変だったよ。」
「ごめんね。僕も本当は二日位で治ったんだけど、出席停止だから家から出られなくて…」
後ろに並んでいた舜多は、友祢と勇佑の会話を聞いていた。
(そっか。インフルエンザだっていう連絡が来て一緒にご飯を食べに行かれなかったけど、本当だったんだ…)
舜多は、友祢が仮病で自分との約束を破ったのかと、心の何処かで思っていた。そして、そう思ってしまった自分に嫌悪感を抱いていた。
バスの中では、舜多は前方、友祢や勇佑、雅玖は後方に座っていた。舜多は、後方から聞こえてくる楽しそうな笑い声を他所に、友祢を助けたあの年末の日のことを思い出していた。
「おい、起きろ!」
燦之嬢は基の声で目を覚ました。
「あれ…ここは?」
燦之嬢は起きながら基に聞いた。
「ニビルのアジトの前だ。…もうアジト跡だけどな。」
基の後ろには、舜多と眠っている友祢を担いでいる想がいた。
「…そっか。俺様、サイキックに眠らされて…」
「無事で良かったよ、全く。」
想は呆れた様に呟いた。
「それで、本郷基さん。アキツフューチャーのことですが…」
「あぁ、そうだったな。ほら、立てるか?」
燦之嬢は基に手を差し伸べられたが、大丈夫だと手で合図をして、自分で立った。
「そもそもフューチャーベルトの設計図を描いたのはニビル幹部のテラファイトで、実際に作ったのは別の人なんだ。そして其の人は、ニビルの首領やテラファイトらとニビルを結成後、ニビルを裏切り、俺のサポートをしてくれていたんだ。天海陸という人なんだけどな。」
「そ、そうだったんですか…」
基の説明に、舜多はそう言った。
「それで、なんでアキツフューチャーの複眼が赤くなったり、体に赤い模様が出たかだけど、きっと照貴は強制装着解除されてから再装着したんだと思う。」
「そういえば照貴先輩、再装着してたなぁ…」
想は基の話を聞いて、照貴が再装着していたことを思い出した。
「再装着したレッドアイのアキツフューチャーは素早くなりパワーも上がる分、体への負担も大きい。あまり長時間レッドアイのままだと、身体機能に障害が生じるかもしれない。このことは照貴にも言ってあるはずだが…」
「ど、どうしてそんな危険なものを作ったんですか、その天海さんは…!」
舜多は基に聞いた。
「テラファイトが描いたフューチャーベルトは、元々もっと危険なベルトだったんだ。陸さんは其の危険なベルトを人間でも装着できる所迄改良したんだよ。」
基は舜多の質問に答えた。
「アキツフューチャーについては分かったが、此奴、どうするんだよ。」
想は友祢の方を指して言った。
「あ、じゃあ、俺が引き受けます。」
舜多は咄嗟にそう言ってしまった。
「舜多くん…舜多くん!」
誰かに呼ばれて、舜多は目を覚ました。いつの間にか寝ていた。
「スキー場に着いたよ。降りよう?」
窓側で隣のシートに座っていた凛は舜多が邪魔でバスから降りられない。
「あ、ご、ごめん…」
舜多は荷物を纏めて、素早くバスから降りた。
舜多は荷物を持ち、自分が泊まる宿の部屋に荷物を置いた。部屋にはまだ誰も来ていなかった。
「ったく、自分の部屋を覚えてないとか、其れでもルーム長か?」
廊下から勇佑の声と数人の足音が聞こえてきた。
「だってぇ、当日誰かに聞けばいいかなって。僕達が同じ部屋だってのは分かってたし。」
友祢の声が近づいてきた。
「ほら、此処だよ。」
勇佑の声がしたかと思うと、扉が開く音がした。
「あ、舜多くん。」
友祢は部屋に居た舜多を見て思わず呟いた。
「以前はごめんね、インフルになっちゃって。」
スキースノボ教室で、スノボの初心者クラスでも一緒になった舜多と友祢は、同じリフトに乗った。
「あ、いや、別に。また行けばいいし。」
舜多は聞こえるか聞こえないか位の声でそう呟いた。友祢はボードが付いた脚をブラブラさせながら、後ろのリフトに座っている友達に手を振っていた。
「もう直ぐ僕達二年生だけどさ、此の一年、色々あったよね。」
友祢は舜多に話しかけた。
「え?う、うん。」
舜多は気の無い返事をした。
「此の一年、無事に暮らせたのは、舜多くんのお陰だよ。」
「そ、そんな。俺は…沢山守れなかったものがあるよ…」
「今更悔やんでもしょうがないよ。それに僕は、何をしたかじゃなくて、舜多くん自身の話をしてるんだ。」
「え?」
「僕さ、『心から』っていうのがあまり無くてさ。でも舜多くんと居ると、何故か守りたいって思うんだよ。僕が守られる側なのにね。」
舜多は友祢の方を向いた。友祢も舜多の方を見ていたが、前を向き直した。
「僕、怖いんだ。舜多くんが遠くへ行ってしまうのが。こんな風に思ったの、初めてだよ。」
「…お、俺は、何処にも行かないよ!」
友祢は舜多の方を見た。舜多は友祢の方を見つめていた。
「…ふっ、ありがとう。」
友祢の舜多への微笑みは、心からの微笑みだった。
舜多が泊まる部屋には、舜多の他に友祢、勇佑、雅玖、凛が泊まる。就寝時刻迄の自由時間、八組の男子は其の部屋に集まって人狼をしていた。舜多はあまり乗り気じゃなかったが、友祢に誘われて参加することにした。
就寝時刻が近づき、山畑先生が見回りに来ると、男子達はそれぞれの部屋に戻った。
「俺、寝れる気がしねぇわ。」
寝転がっている友祢の上に載っている雅玖は、そう言った。
「じゃあ、恋バナでもするか。」
興奮冷めやらぬ中、男子達に脱がされて裸の勇佑は、提案をした。
「いや其れは却下。だってまっきーには彼女居るし、勇佑には妹がいるじゃん。てかまっきー、マジで細いな。身長と体重は?」
雅玖はそう言った。
「百七十五センチと五十キロだよ〜。」
雅玖の下にいる友祢はそう答えた。
「そんなことより凛は?」
ようやく服を着た勇佑は、辺りを見回した。部屋に凛の姿が無かった。舜多は眠ってはいなかったが、布団に入って横になっていた。すると、急に眠気が襲い、舜多は眠った。
舜多が目を覚ますと、朝だった。部屋を見渡すと、友祢と勇佑と雅玖は、昨夜と全く同じ場所で寝ていた。友祢と雅玖は同じ布団に寝ていた。そして何より、隣の布団には凛が寝ていた。
「なんか昨夜はヤケにぐっすり眠れたな。」
宿舎の食堂で朝食を食べながら、雅玖は友祢に言った。
「え、がっくんも?実は僕もなんだよ。いきなり眠気が襲ってさ。そのせいでがっくんと同じ布団で寝たけど。あ、これって、ラッキースケベってヤツかな?」
友祢は雅玖に言った。
「いや、多分違うぞ。ていうかお前ら、あれから一緒に寝たのかよ。」
勇佑は友祢と雅玖に聞いた。
「しょうがねぇだろ!?いきなり眠くなったんだから。」
雅玖は勇佑にそう反論した。
「そういえば凛くん、昨夜部屋に居なかったけど、何処に居たの?」
友祢達の会話を他所に、舜多は隣に座っている凛に質問した。
「ちょっと散歩に…」
「ふうん。俺、ちょっと心配したよ。」
「…そう。」
そう凛が言った後、凛は何かを呟いたが、舜多には聞き取れなかった。
心配してくれてありがとう。
凛は恥じらいを抑えて、舜多にそう呟いていたのだ。
スキースノボ教室が終わり、秋津高校迄帰るバスの中、殆どの生徒は眠っていた。其の中、舜多だけが起きていた。後方の席を見ると、一番後ろの席の真ん中に友祢が座っていて、眠っていた。其の顔はまるで、此の世のものとは思えない程美しかった。皆から「カッコイイ」とか「かわいい」と言われるのも納得できる。しかし舜多は、彼の優しさに惹かれていた。中学生迄独りぼっちで、虐められていた子も救えなかった自分のことを、他の誰よりも話しかけて心配してくれるからだ。舜多は、舜多にとってのヒーローは友祢だ、と心の中で思っていた。
スキースノボ教室も終わって二月になった。最近はヴィランの影も見なくなった。リベルライザーがテラファイトを殺している動画も、人々はもう忘れていた。
大学の二次試験に向けて受験勉強をしていた照貴は、二棟の教室から一棟の方向を見ていた。外には雪が積もっており、今も雪は降り続けている。其の時、照貴は一棟での異変を感じた。一棟三階の両端の教室、一年一組と一年六組の教室から生徒達が次々と走って出て来る。其の後、公安調査官が三階に集まったかと思うと、一棟の二棟側のガラスが赤く染まった直後、ガラスが割れて人が其処から落ちた。落としたのは、ヴィランだった。いつの間にか、一棟三階にはヴィランが十数体も居た。
「先生、皆を体育館に避難させて下さい!」
照貴はそう言い残すと、教室を飛び出した。そして、二棟二階の二年五組の教室へ行った。其処には、誰も居なかった。
「クソ、移動教室か…!!」
照貴は一棟を見た。ガラスは割れて、校舎や中庭に積もっている雪が赤く染まっていた。
ナイトメアヴィランは、二棟の屋根から一棟の様子を観察していた。一棟に居る人達は、それどころでは無く、ナイトメアヴィランに気付かない。
「ハハハハハ!!実験は成功だ…!さぁ、白い雪よ、紅に染まれ…!」
ナイトメアヴィランは高らかに叫んだ。




