第13話 すれ違い
「やっほ、元気?」
友祢は普段と変わらない様子で舜多に話しかけた。
「う、うん。」
久々に声を掛けられた舜多は、聞こえるか聞こえないかの声量で返事をした。
「シューズ忘れちゃってさ。」
そう言って友祢は自分の机の横に掛けてある、靴が入っている袋を持った。
「席替えしてからさ、全然話す機会無くなっちゃったよね。」
文化祭での巨大怪物の件は話さないのか、と舜多は思ったが、自分から話す気にはならなかった。
「そうだ、クリスマスイヴ、空いてる?」
「え?」
いきなりそう言い出した友祢に、舜多はどういう反応をすれば良いか分からなかった。
「今度の日曜だよ。」
「え、あ、空いてるけど…」
「ご飯でも食べに行かない?」
友祢にそう言われて、舜多は素直に嬉しかった。今迄外食は家族としか行ったことが無かったからだ。
「お、俺は良いけど…」
「分かった!じゃあまた連絡するね!」
そう言って友祢は教室を出て行った。舜多はとても嬉しかった。誰もいない教室で飛び上がって喜んだ。
「あの友祢くんが俺を…」
舜多は笑みを抑えられなかった。すると其処に凛がいた。
「あ…」
舜多はいきなり恥ずかしくなった。
「嬉しそうだね。なんかあったの?」
凛は舜多にそう聞いた。
「あ、いや、友祢くんにね…ふふっ。」
「へー。」
「あ、そうだ!凛くんも俺と…」
そう舜多が言い終わらない内に、其処に凛の姿は無かった。
友祢がギャラリーに来る頃には、体育館前は綺麗になっていた。公安調査官が掃除したらしい。
「あ、まっきー!」
友祢がギャラリーに来ると、廉が突進をして来たが上手に躱した。
「やっぱりアキツフューチャーは頼りになるな。」
斗織は体育館前を見ながら友祢に話した。
「そうだね。それに、この秋津高校にはもう一人ヒーローがいるし。」
「え、誰?」
斗織は友祢に質問した。
「あ、分かった!おいらのことだ!」
廉は今度は躱されない様に友祢の首に腕を、腰に脚を絡ませた。友祢はよろめいたが直ぐに体勢を戻した。
「廉ちゃんがヒーローとか。」
友祢は鼻で笑った。
「は〜??おいらだって銃持って戦ってやるし。」
廉は友祢の首を締めながら言った。
「廉ちゃん、意外と優しいから、そういうのは出来ないと思うよ。」
友祢は廉の腕を緩めさせた。
「それより部活のクリスマスパーティー、今度の日曜日になったから。」
斗織は友祢と廉に言った。
「え、そうなの?」
友祢は驚いた。
「あっれ〜まさか桜子先輩と性夜のズッコンバッコン大騒ぎするんすか〜??」
廉は友祢を煽った。
「違う違う!」
友祢は即否定した。
「じゃあ何だよ、おいら達より大事な用事って。 冠婚葬祭?」
廉は友祢に質問した。
「いや…そんなに大事でも無いかな…また今度でもいいかも。」
友祢はそう呟いた。
「まっきーがいると、場が明るくなるっていうか、皆の目の保養になる訳よ。…そうだよ!まっきーは皆のヒーローだよ!」
廉は思いついた様に言った。
「とにかく、パーティは日曜日だから。よろしく。」
斗織は友祢と廉に念を押した。
「う、うん…」
友祢は頷いた。
「お兄ちゃん、ランドセル欲しい。」
其の夜、自宅で秀飛が舜多にそう言った。
「え?…あぁ、そうか。来年は小学生か。」
舜多は思い出したように言った。
「夜になると光るヤツ、買って!」
秀飛は舜多に駄々をこねた。
「えぇ…高そうだな…」
「でもさ、お兄ちゃん。お兄ちゃんの部屋の押し入れに、いっぱいお金があったよ!」
「あれは、親戚の人から貰ったお金で、なるべく使わないようにしてるんだよ。」
「どうして?いっぱい貰えたなら使えば?」
秀飛は首を傾げて舜多に質問した。
「使ったらその分、俺が大人になった時に返さなくちゃいけないんだよ。」
「その親戚の人に言われたの?」
「いいや。でも其れが大人ってヤツなんだよ。」
「僕、よく分からない。」
「分からなくてもいいよ。其の内分かるから。さあ、もう寝る時間だよ。」
そう言って、舜多は秀飛を寝かしつけようとした。舜多は、秀飛と同じくらいの歳の頃を思い出していた。父の友則と母の祢愛と一緒に暮らしていた幸せな日々を思い出していた。そんな幸せな日々を秀飛から奪ってしまったと思うと、舜多は今でも悪夢を見たり、寝付きが悪くなったりする。せめて自分は此の子の側に居よう、と舜多は決意を改めた。そして舜多も、秀飛と一緒にいつのまにか寝てしまっていた。
「アジトにリベルライザーはいなかった。やはりアキツフューチャーの嘘だっか…」
ニビルのアジトに戻って来た、リベルライザーのお面を付けた白衣の人は、お面を外しながらそう呟いた。其の正体は、テラファイトだった。
「おいマルリカ、お前でも出来る仕事があるんだが…」
テラファイトは、近くにいたマルリカヴィランを呼んだ。
「何だよ。水商売はやらねぇぞ。」
マルリカヴィランはテラファイトの方を向いて言った。
「この人を攫ってほしい。」
そう言って、ある人の顔写真を渡した。
「この人、さっきの奴じゃねぇか。」
「秋津高校には俺ちゃんが送ったスパイもいる。其奴と協力しろ。」
「今度はこいつを改造するのか?」
「まぁ、最後にはそうしたいところだが…」
テラファイトは、マルリカヴィランには聞き取れなかった程に語尾を弱めた。
翌日、授業が終わった放課後、燦之嬢は雅玖と一緒に部活に行くため、八組の教室前の廊下で待っていた。雅玖が教室から出て来ると、燦之嬢は雅玖の背中を押して部活へ行った。
「まっきーは文理、どうした?」
後ろから、勇佑が友祢と話す声が聞こえた。
「ん〜、僕は理系の物化にしたよ。」
友祢は勇佑の質問に答えた。物化とは、理科の中で物理と化学を取るクラスのことである。
「俺は文系にしたいんだけどさ、何せ数学が苦手だし。でも親父が家の病院を継ぐために理系にしろって…そんでもって大学は医学部に入れって…」
「そうなんだ、大変だね。まぁ、理系は文転出来るし、一回理系にしてみたら?僕もそんな感じで理系にしたし。」
「お〜い、まっきー!!」
すると、廊下から甲高い大声がした。廉が友祢を呼んだ声だ。
「おいうるせえ、皆こっち向いたじゃねぇか。」
其の後直ぐに、廉の隣に居た斗織が廉を注意した。
「こんなイケメンが居たら、誰もが振り向くのは当たり前だよなぁ!?」
廉は文字通り、胸を張って言った。
「『自称』を付けろ、褐色ムッチリ野郎。」
斗織が廉に突っ込んでいると、教室から友祢が出て来た。
「なんか用?廉ちゃん。」
友祢は廉に話しかけた。
「あ、まっきー!早く部活行こうよ!おいら、待ちくたびれちゃう!」
「勝手にくたばってろ。」
廉の言葉を斗織が遮った。
「何怒ってるの、斗織!おいら、なんかした?」
「別に〜、俺の本番用シューズに牛乳零したからって、怒ってねぇよ〜」
斗織は素っ気無く答えた。
「牛乳て、それはやばいて、廉ちゃん最高だよ。」
友祢は腹を抱えて大笑いした。帰りの支度をしている舜多の耳には、三人の会話が入って来ていた。
「そうそう、今度の日曜日、駅前のラーメン屋になったって。」
斗織は思い出したように友祢と廉に言った。
「楽しみだなぁ、今度の日曜。朝からダッチ、略して朝ダチ。昼はカラオケ、夜はパーリナイ!!」
廉は大袈裟な身振り手振りで喜んだ。
「もう何処から突っ込んで良いか分からねぇ…」
「ねぇ。」
斗織が呆れていると、舜多は友祢に声を掛けていた。
「今度の日曜って、俺とご飯行く日だよね?」
舜多は友祢に質問した。
「何だお前?其の日は一日中ダッチ部のクリパやるんだよ。勿論、まっきーも一緒にね!」
廉は舜多にそう言い放ち、友祢の腕に抱きついた。
「今度の日曜日って、友祢くんが俺に言ったんだよね?」
舜多は黙っている友祢に更に質問した。
「だから誰なんだよお前はよ。いきなりモブ顔がしゃしゃり出てくんじゃねぇよ。」
廉は舜多にそう言った。
「先に俺を誘ったんだよね?ダッチ部の方は断ろうとしてるんだよね?」
舜多はしつこく友祢に迫った。
「はぁ?なに訳の分からないことを言ってんだよ、クリパは前から予定されてんだよ、分かったらとっとと」
「2人とも落ち着いて…!」
そう言って友祢は、廉の言葉を遮った。
「確かにダブルブッキングしちゃったのは悪かったよ。だからさ、又今度一緒に…」
友祢は舜多の方を向き、そう言った。
「今度って、いつだよ。」
舜多は友祢に聞いた。
「行こうぜ。」
廉は友祢の手を引っ張って、ギャラリーに行こうとした。
「おい、待てよ!」
舜多は友祢を止めようと手を出したが、勢い余った手が友祢の目に当たってしまった。
「痛っ…」
友祢は思わず目を手で覆った。
「おい、大丈夫か?まっきー。」
斗織は友祢の目を覗き込んだ。
「だ、大丈夫?…友祢くん…」
舜多は友祢に手を貸そうとするが、廉が振り払った。
「しつこいぞ!!」
廉は舜多にそう怒鳴った。友祢と廉と斗織は、其のまま階段を降りて行き、舜多の視界から消えた。舜多は我に返った。
「そうか…俺にとっては数少ない友達でも、彼奴にとっては沢山の友達のうちの一人なんだよな。家族がいなくなって、絶対的に頼れると思ってた人と出会って、調子に乗ってたのかもな、俺…本当、何やってんだろ。」
舜多は、友祢は保健室に行っただろうと思い、保健室に行こうとしたが、あの二人が居るから、俺は要らないだろうと思った。
「舜多くん、大丈夫?」
舜多の背後から、舜多を呼ぶ声が聞こえた。その声の主は凛だった。
「凛くん…俺…」
「ううん。舜多くんは、何も悪くないよ。」
「…ありがとう。」
舜多は、溢れそうな涙を必死に堪えながら、特撮ヒーロー研究会の部室に向かった。




