第10話 都合の良い神様
「まさか…全員ヴィラン!?」
舜多は、ヴィランの姿から人間の姿に戻った燦之嬢と鹿金兄弟を見て驚いた。
「舜多くん、君がリベルライザーだったのか…それにしても、どうしていきなり人間の姿に?」
燦之嬢も驚いていた。すると、舜多は恐怖が迫り来る思いをして、体が動かなくなった。燦之嬢と鹿金兄弟も同じ思いをしているようだった。舜多が辺りを見回すと、明らかに今迄出会ったヴィランとは比べ物にならない程禍々しくて恐怖を覚える、一体のヴィランがいた。
「ユニバースヴィラン…どうして…こんな所に…」
燦之嬢は恐怖を堪えて声を絞り出した。ユニバースヴィランは瞬に何かを注射した後、何処かへ消えた。
「待て…!弟に何をした…」
想も恐怖を堪えて言った。ユニバースヴィランが消えると、皆の恐怖も消えた。
「兄貴…!俺、文化祭なんてもん楽しんだから、こんなことに…」
瞬は注射された箇所を押さえて、痛みに耐えながら言った。
「お前も理解したはずだ。日向者にならなくても、俺達日陰者は日陰者なりの意義があることを。」
想は感情を抑えて、瞬に言った。
「…そうだな。兄貴との文化祭、楽しかった。…兄貴、俺、駄目かもしれねぇ…俺もう思い残すことないか」
その瞬間、瞬はアプカルルヴィランになったかと思うと、巨大な半魚人に変化した。
「舜多くん、説明は後だ!兎に角今はこの巨大化したヴィランを…大丈夫か?」
燦之嬢は舜多の所へ行き、声を掛けた。舜多はかなり弱っていた。
「ハァハァ…俺は大丈夫です…秀飛くん…安全な所へ…」
秀飛は頷き、講堂とは反対側にある校庭の方へ走って行った。
「半端な力で戦えば足手纏いだ。暫く休んでろ。」
燦之嬢は舜多にそう言った後にジョーカーヴィランとなり、浮遊魔法で空を飛んで巨大化したアプカルルヴィランに立ち向かった。燦之嬢はアプカルルヴィランの足を凍結魔法で凍らせようとするが、歩みが止まることは無かった。
「クソ、ならば…!」
次に燦之嬢は、持っていた杖を地面に叩きつけた。すると地面が隆起し、アプカルルヴィランは転んだ。その拍子に中庭のステージや屋台は、アプカルルヴィランの下敷きになった。さらに燦之嬢は、杖をアプカルルヴィランに向け、重力魔法で潰そうとした。すると、アプカルルヴィランの背中の鱗がひび割れ、今にも潰れそうになったその瞬間、アプカルルヴィランは咆哮をし、燦之嬢はその衝撃で飛ばされてしまった。
「クッ…重力魔法でも駄目か…」
燦之嬢はジョーカーヴィランのまま、力尽きようとしていた。すると、倒れてうつ伏せになりながらも咆哮するアプカルルヴィランの顔の前に、想が立った。想には、その咆哮が苦しみの声に聞こえた。
「…このままというわけにはいかない。弟よ、せめて楽になっておくれ。」
そして想はイプピアーラヴィランになり、アプカルルヴィランを攻撃する。手から血が出る程殴るが、アプカルルヴィランはビクともしなかった。
「助けて、誰か…」
昇降口を挟んで中庭の向こうにある校庭に避難している生徒や教師、来校者が次々に助けを求め出した。
「そうだ。俺が…俺が倒さなきゃ…」
リベルライザーの姿の舜多は、近くに落ちていたジョーカーヴィランの杖をついて立ち上がった。するとその時、持っている杖から力が溢れて自分の体の隅々に行き渡るのを、舜多は感じた。
「何だこれは…!」
舜多は両手で杖を持ち、力を込めた。
「超変身!!」
自然と出たその言葉によって、青いリベルライザーは赤くなり、リベルライザージョーカーとなった。
「…え?あ、赤い、え…」
戸惑っていた舜多だったが、目の前のアプカルルヴィランをどうにかしないといけないと思い、さっきのジョーカーヴィランの魔法を、見様見真似で使おうとした。
「浮遊魔法!」
すると舜多は浮き上がった。そのまま舜多はアプカルルヴィランの方へ行った。膝の裏や首など、鱗が無いところを狙おうとしたが、アプカルルヴィランの手や脚によって阻まれてしまった。すると舜多は、さっき燦之嬢がひび割った背中の鱗の隙間を見つけた。
「ここだ…!」
舜多は、アプカルルヴィランの手と脚が届かないその隙間に杖を射し込んだ。
「凍結魔法!」
アプカルルヴィランの体は内側から凍っていく。暫くすると、凍結したアプカルルヴィランの動きが止まった。しかし、その時には舜多も力が尽きようとしていた。地面に着いた途端、目眩がした舜多は杖を落とした。すると、赤いリベルライザージョーカーは、青いリベルライザーに戻った。そして、舜多は力果て、後ろに倒れた。
倒れるはずだった。
舜多は、誰かが自分の右手を掴んだことで、自分が倒れなかったことを理解した。その手の主は、舜多の目の前にいた。目の前には、友祢がいた。
「うっ…おい!…この場所から離れろ!」
ジョーカーヴィランは力を振り絞って声を出し、友祢を避難させようとした。 それを無視して、友祢はリベルライザーを起こした。殆ど力が抜けていたリベルライザーは、友祢に寄りかかった。それを友祢は静かに抱きしめた。
「助けを求めるなら誰でもできる。でも、そんなフラフラになっても立ち上がって、知らない誰かの為に何でもやって…まるで必要とされる時しか必要とされない、都合の良い神様じゃないか!君がみんなを助けるなら、僕は君を救いたい。何の力も無いけど…君は…無愛想でも優しい、僕の隣の席の友達じゃないか…」
「…友祢くん。」
やっぱり気づいていたのか、と舜多は心の中で思った。
「…確かに、神様仏様と変わりねぇな…でもそれは友祢くんのエゴだ。俺は…」
舜多はそう言って友祢を体から離し、アプカルルヴィランに向かって歩き始めた。
「神様でも仏様でもなってやるよ…!理不尽を見過ごすことは出来ないんだ、この力がある限り…」
舜多は、最後の力を振り絞ってジャンプして、アプカルルヴィランにパンチを入れた。
「…ライザーパンチ!」
すると、凍結されていたアプカルルヴィランは粉々に砕けた。そして舜多は力尽き、そのまま落下した。しかし、リベルライザーは地面に叩きつけられることは無かった。友祢は、リベルライザーの行方を探した。そして、中庭の北側にある二棟校舎の屋根の上にいる人影を見つけた。それは、アキツライザーだった。リベルライザーの体は、アキツライザーの腕の中にあった。
「実験は成功、ということにしておこう。」
校庭に避難した人々の中に紛れていたテラファイトはそう呟いた。
「しかし、バットとコブラが…」
隣にいた、サイキックヴィランに変身する男子が、テラファイトに聞いた。
「代わりなんていくらでも作れる。さて、計画を次の段階に移そう。」
二人は校庭から立ち去り、姿を消した。
「アキツライザー…」
ようやく秋津高校に来た照貴が、正門前から校舎の方を見て呟いた。
舜多が目を覚ますと、ベッドの上だった。どうやら保健室のようだ。
「お、目ぇ覚ましたか。このまま起きなかったら、病院送りになってたぞ。」
カーテンの向こうから、燦之嬢が入ってきた。
「俺、一体…」
舜多は困惑した。
「まぁ、言いたいことは沢山あるのは分かってる。まずは、俺様のことを言わなきゃな。」
そう言って燦之嬢は、ベッドの隣にあった椅子に座った。舜多は体を起こそうとしたが、燦之嬢はそのままでいいと言い、舜多を寝かせた。
「俺様は五十嵐燦之嬢。以前、記憶喪失になって、お前の家に泊まったことは覚えてるよな?」
舜多は頷いた。
「あれから記憶が戻って、俺様がジョーカーヴィランだったことを思い出した。ジョーカーヴィランは、組成式を理解していれば、あらゆる物質を生み出せるヴィランだ。そして以前、火炎魔法で部室棟を燃やしたのも俺様だ。」
舜多は驚いた。
「だが、あの時の俺様は、上司の言う通りに動いてただけなんだ。っつっても、言い訳にしかなんねぇよな…。だから俺様は、これから贖罪として、この力は人を助ける為に使おうと思ったんだ。」
「…そうだったのか。」
舜多はそう呟いた。
「にしてもお前さ、俺様の杖持ったら急に色が変わるし、何者なんだ?」
燦之嬢は舜多に質問した。
「それは俺にも分からない。けど俺は、リベルライザー、この秋津高校の自由と平和を守るヒーローだ。」
「リベルライザーって、ヴィランなのか?」
「俺にも分からなくなったよ。でも、ヴィランでも人を助ける奴はいる。もしかしたら、ただ青い仮面を被ったヴィランなのかもしれない…」
「ま、お前が何者にしろ、俺様と同じ側の人間だってことは分かったよ。そうだ、舜多。お前に会いたがってる人がもう一人いるぞ。」
そう言って燦之嬢は立ち上がり、カーテンを開けた。其処には、知らない人がいた。
「貴方は、誰ですか?」
舜多は体を起こして、その人に問いかけた。
「俺は本郷基。閉祭式が終わったら、アキツライザーの話をしようか。」
その人は舜多にそう答えた。
「あ、まっきー!こんな所にいたんだ!」
ギャラリーにいた友祢に声を掛け、廉は友祢の方へ走る。
「皆、心配してたよ。大丈夫だった、まっきー?…泣いてるの?」
座り込んでいた友祢の顔を覗き込んだ廉は、友祢に聞いた。赤い瞳を持つ友祢の目は潤っており、白目も赤くなっていて、涙が溢れていた。
「え、なんで?…なんで僕、涙なんか…泣いたことないのに…」
「ほら行くよ。怪物騒ぎも収まって、閉祭式が始まるんだから。おいら、寂しかったもん。」
廉は、座っている友祢の手を引っ張って立ち上がらせた。
「そういえばさっき、ツッタカターに載せた巨大怪物の動画、さっき千いいね突破したんだよ!!」
廉は友祢に自慢気に話した。友祢は微笑んでその話を聞いていた。
「松竹校長!!」
校長室に入って来た小中教頭は、校長の所に走って来た。
「先程、警察と消防が来て、凍結して粉々になった巨大怪物を回収したのですが、その怪物の破片を全て、公安調査事務所が持って行ったらしくて…。さらに数日後、公安調査事務所から公安調査官が、秋津高校の調査と防衛に来ると…」
教頭は、校長に耳打ちをして知らせた。
「そうか。生徒達に危害が及ばないと良いが…兎に角、生徒と教師に知らせなければな。」
校長は、腕を組み唸った。




