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第1話 発現

 

 それは中学校の制服を買うためにデパートに来た時のことだった。両親と逸れ迷子になってしまった舜多(しゅんた)は、デパートの中を彷徨っている内に、玩具売り場へ来ていた。そこには、舜多の知っているヒーローのおもちゃが沢山売ってあった。自分より年下の子たちが沢山いる中、舜多は自分と同い年くらいと思われる兄弟が体験コーナーでおもちゃをいじっているのが目に入った。俺の他にも、あんな大きな子でも好きな人はいるんだな、と舜多は思った。その時、放送が聞こえた。

「只今、当デパート2階に未確認怪物が侵入しました。物陰に隠れ、警察の指示があるまで動かないでください。」

隣の店舗から、男性が来た。

「この階にでっかい蜘蛛が出たらしい…!」

その慌てぶりと切迫した声に、どうやら大変なことが起こっていると、舜多は勿論、周りにいた子どもや大人も感じた。息もつかせず、警察と自衛隊が1階から上がってきた。怪物がいるであろう方向からは物が倒れるような音と悲鳴が聞こえた。

「一般人の救助と保護を優先しろ!」

「ねぇ、どうなってるの?」

「怪我人がいるのか!?」

「怖いよぉ、ママ。」

そうだ、父さんと母さんはどこだ。舜多は大人たちをかいくぐり玩具売り場の外へ出ようとした。すると、隣にさっきの兄弟がいた。

「なぁ、蜘蛛の怪物だって。見てみようぜ。」

「やめなよ、パパに怒られるよ…。」

「兄ちゃんが守るから、な?」

「に、兄ちゃん、上!」

その時、天井に怪物がくっついていた。その蜘蛛のような体と不気味な容姿から、一目で怪物だと分かった。その怪物が白いねばねばした何かを出したかと思うと足に飛んできた。足が動かない。周りの人達もだ。

「ジッケンタイ二ヨサソウナコドモガタクサンイルナ…」

怖い。次に何をされるかわからない。父さんと母さんはどこだ。舜多は混乱していた。次の瞬間だった。

 蜘蛛の怪物が消えた。

 正確には素早い何かに蹴られたようだった。蹴ったのは、漆黒のマントと仮面を付けた者だった。舜多は直感で分かった。この人はヒーローだ、と。

「「カッケー!」」

舜多と隣の兄弟の兄の方の子の声が合ってしまった。2人は顔を見合わせる。

「分かってるな、お前!」

「え、うん。黒って、カッコイイよね。それとあの黄色い複眼とか。」

「お前、さては特撮好きだな?」

突然軽い調子で話しかけられ戸惑うも、舜多は気持ちを共有できて少し嬉しかった。そして、その黒いヒーローは怪物に向かいパンチを放つ。

「ライザーパンチ」

怪物は爆発した。周りからは安堵の声が聞こえた。

 舜多たちは警察や自衛隊たちによって、怪物の白くてねばねばしたものから解放された。舜多たちや警察たちの方へ来たヒーローは、警察と何か話していた。

「あ、あの!」

舜多はヒーローに声を掛けた。

「助けてくれて、ありがとうございました!えっと…」

「アキツライザーだ。」

「アキツライザーって、秋津高校非公認戦士の…?」

「よく知ってるな!でも今は世界の平和のために飛び回ってるけどな。では、また何処かで逢おう!」

そう言って、アキツライザーは何処かへ消えた。

「なあ、アキツライザーって誰だ?」

さっきの兄弟の兄が聞いた。

「アキツライザーっていうのは、去年現れた秋津高校のヒーローだよ!ちなみに、秋津高校には特撮ヒーロー研究会っていうのがあって、アキツライザーはそこによく顔を出すらしいよ!」

「秋津高校って、あの偏差値県内一の進学校か?お前、そこに行くのか?」

「うん、いっぱい勉強して入学して、部活でヒーローについてやりたいんだ!」

「じゃ、俺も秋津高校入ろうかな。」

「兄ちゃん、高校入れるの?」

兄弟の弟が口を挟んだ。

「兄ちゃんに出来ないことはない!金ならアテがあるし!」

その時、舜多の両親が来た。母親の方は、舜多に一目散に駆けつけ、抱きしめた。

「舜多…!大丈夫?怪我してない?」

「大丈夫だよ、母さん。」

「やっぱりおもちゃ売り場にいたか。元気そうで何よりだ。早く制服を買って帰ろう。」

舜多の父親も舜多のところへ来て、そう言った。

「うん。…あ、じゃあね!えっと…」

舜多は兄弟の方を振り向いて言った。

「俺は円山才智(まるやまさいち)。こっちの弟は空華(くうか)だ。」

「俺は餅搗(もちづき)舜多。円山くんたちは親は?」

「大丈夫だから心配いらないよ。」

才智の返答に少し違和感を覚えた舜多だったが、円山兄弟と別れ、その日は中学校の制服を買って帰った。舜多は両親に円山兄弟のこと、アキツライザーのことをとても楽しそうに話し、それを両親は興味深く聴いた。舜多はこの日を一生忘れず、そして心の何処かで、俺もあんなヒーローになりたいと思っていた。



「やめなよ。嫌がってるじゃん。」

舜多は前から、クラスに蔓延した特定のある人だけには無視しても省いてもいいというような空気が耐えられなかった。クラスの中でもカーストが上の人達が高校受験のストレス発散のために、家の仕事を継ぐため受験をしない人を虐めていたのだ。それを黙って見ている周りも、無いことにしている担任の先生も信じられなかった舜多は、虐めている人達に正面から言い放ったのだ。

 そんな日の放課後のことだった。虐められていた子が、舜多に話しかけた。

「今日はありがとう。」

「そんな、いいって。」

「俺だけだもんね、クラスで受験しないの。だから…」

「だからって、虐めていい訳ないよ。」

「…そうだよね。俺、頑張るよ。」

最近、成長期が来た舜多は、誰かを救えた実感がして、嬉しかったと同時に少し大人になれた気がした。二人は下駄箱に行き、靴を履き替えようとした。しかし、二人の靴はそこには無かった。



 その日の夜、舜多は夢を見た。今日助けたあの子が出てきた。しかし、その子は醜い怪物になり、虐めた子達を次々と倒した。その怪物が舜多に迫って来たところで目を覚ました。舜多は汗をかき、心臓は激しく脈を打っていた。

 眼鏡をかけてリビングに行くと、両親が何か話しているのを聞いた。

「夜中、酷くうなされてたから…」

「でも、どうやって舜多に言えばいいのよ?」

「どうしたの?」

舜多が二人に聞いた。

「おはよう、舜多。」

父親はその後少し黙ったが、意を決したような顔で舜多に話しかけた。

「今日、学校から帰って来たら、話がある。とても大事な話だ。」

「う、うん。」



 結局、舜多は自分の靴が無くなったことを両親に言えなかった。靴はいつも玄関の扉付きの下駄箱に入れるので、バレなければいいかと思った。しかし、いつもの靴がないと両親にバレるのは時間の問題だと思っていた。この日は、別の靴を履いて登校した。

 その日、舜多に、虐められていた彼が登校拒否をしているという噂が耳に入った。そして、虐めのターゲットは舜多に変わった。給食の時間は舜多の席の味噌汁がわざとこぼされていた。体操着が隠され、体育は仕方なく見学した。掃除の時間に集められたゴミが舜多の机の中に入っていた。そして、担任の先生の授業の時間には、黒板に舜多への罵倒と悪口が書かれていた。慌てた様子の担任が舜多に聞いた。

「餅搗くん、これはどういうことか説明して!」

「…知りません。」

怒りと悲しみを堪えて、舜多はそう答えた。

 放課後、担任の先生に呼び出された舜多は、酷く怒られた。もっとみんなと仲良くしてだとか、周りに合わせる力が無いと将来困でしょだとか言われたが、舜多は何故俺が怒られるのか、何故向こうが拒否してるのに仲良くしなければいけないのか、訳が分からなかった。でも今は年末で、あと3カ月すればこんなところから卒業する。舜多は、変に抵抗するより3カ月我慢する方が良いと思った。それが良いかどうかは別として。

 担任の先生の説教が一通り終わった後、舜多は担任の先生に聞いた。

十六夜(いざよい)くんが登校拒否って、本当ですか?」

「あんな子の心配より、まずは自分の心配をしなさい!卒業までにちゃんとみんなと仲良くなるのよ。」



 今日は靴を履いて下校することができた。しかし、いつまで経っても両親が仕事から帰って来なかった。両親の会社の電話番号が分からなかったので携帯電話にかけたが、出ることはなかった。

 舜多は家を飛び出して走った。怒りや悲しみや寂しさが込み上がり涙となって流れた。夜空の流れ星のように、暗闇を裂いて走った。息が上がり、一面が田んぼの中に迷い込んだ。手を腰に当てると、ベルトのようなものが腰に巻かれていた。

「何だ…これ?」

正面にあるボタンを押すと、自分の体が更に熱くなるのを感じた。手や脚が白くなったかと思うと、直ぐに青くなり、体の熱さも治まった。体中が青い鎧で覆われ、脛や腕など所々が黄色い。それにどうやら触角みたいなものも生えていた。舜多は、今自分がどうなっているのか分からなかった。ベルトはあまり弄らない方が良いと思い、まず家に帰り鏡を見ようと思った。すると驚くことに、走ると今までよりはるかに速く走れ、跳ぶと二階建ての家よりはるかに高く跳べるようになっていた。舜多は、夢でも見ているのかと思ったが、この身軽さが心地良かった。景色は何故か重なって見えたが前から背後まで見えた。

 何処からか助けを求める声が聞こえた。聞き覚えのある声だった。声のする方へ行き塀の影から覗くと、舜多たちを虐めていた人たちのうちの一人が、怪物に捕まっていた。その怪物は姿こそ違うが、三年前に見た蜘蛛の怪物と同じく、白い体に赤い目と気味の悪い模様の体をしていた。怪物はその虐めっ子の頭を持ち、潰そうとしていた。

「そこにいるのは誰だ!」

仕方なく塀の影から出た舜多。

「お前の出る幕では無いわ!!」

怪物は意識を失った虐めっ子を放り投げ、舜多にパンチを喰らわせた。

「う…あれ、意外と痛くない。この青い鎧のおかげか?」

舜多は立ち上がり、怪物の脚を目掛けて跳び蹴りを放った。怪物は転び、そのまま顔から地面に叩きつけられた。

「な、何故だ!このメフィスト様が…」

舜多は思った。例え虐めていた子が襲われていても、見過ごすことはできないと。それは、舜多自身が理不尽なことを憎んでいたからだ。メフィストは舜多にパンチをしようとするが、舜多はそれをかわし、メフィストの背中を目掛けて肘鉄砲を食らわし、そのまま頭と背中をを両足で踏み付けた。舜多は、夢なのに自分の思った通りに動けたので、興奮した。

「お前は誰だ?こんなところで何をしている!」

舜多がメフィストに聞く。

「お前こそ誰だ!このメフィスト様に楯突くなど…!」

メフィストは舜多を跳ね除け起き上がり、張り手チョップを食らわせた。舜多は脚に力を込めて、メフィストの方へ走った。そして、メフィストを足蹴にしてジャンプして、そのままメフィストに蹴りを入れた。

「馬鹿な…この私が…お前は…まさか…私の」

メフィストは爆発した。意識の戻らない虐めっ子のため、舜多は救急車を呼び、救急車が来たのを確認したら家へ帰った。家に帰り鏡を見ると、其処にはヒーローが立っていた。

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