心のお花
ある日、ミナちゃんが目を覚ますと、赤いお花が胸のところに浮かんでいました。まだ蕾のままの、小さなお花です。
ミナちゃんはふしぎに思って、手でつかもうとしました。けれど、手が通りぬけてしまってどうしてもつかめません。
お布団から出て立ちあがっても、お花は胸のところにありました。
「なんだろう、これ?」
ミナちゃんは、ママに教えてもらおうと思いました。
「ねぇ、ママ?」
ミナちゃんはママのところまで行きました。すると、ママの胸にも赤色のお花を見たのです。
「どうしたの、ミナ?」
「ねぇねぇ、これなぁに?」
「これって?」
ミナちゃんはママにお花を指さしましたが、どうやらママにはお花が見えないようです。
「わからないこと言っていないで、早く用意しなさい」
ミナちゃんは少し、さびしくなってしまいました。
小学校一年生のミナちゃんは、お家の近いお兄さんやお姉さんと、一緒に学校にいきます。
そのお兄さんやお姉さんの胸にも、一輪ずつお花が咲いていました。赤もあれば黄色もあり、青もあれば、紫色まで。
「どうしたの、ミナちゃん?」
「これ……」
ミナちゃんはお姉さんにもお花を指さして教えましたが、やっぱり見えないようです。
ミナちゃんは、またまたさびしくなってしまいました。
けれど、同じ一年生の男の子が転んでしまった時です。ミナちゃんは擦りむいた男の子の膝を、自分のハンカチで拭いてあげました。
「ミナちゃん、優しいね」
お姉さんが誉めてくれます。
「ありがとう」
男の子もミナちゃんに感謝します。
するとどうでしょう、ミナちゃんの胸のお花が、少しだけ開きました。
ミナちゃんも、うれしくなりました。
学校で隣の席の子が消しゴムをなくして困っていた時です。ミナちゃんは消しゴムを貸してあげました。
「ありがとう」
またお花が少しだけ開きました。
両手に物をもってドアの前で困っている子がいた時です。ミナちゃんはドアを開けてあげました。
「ありがとう」
またまた、お花は少しだけ開きました。
廊下にゴミが落ちていた時です。ミナちゃんは拾ってゴミ箱に捨てました。
「ミナちゃん、えらいね」
先生に誉められました。
だんだんとミナちゃんのお花は、きれいに咲いてきました。
ミナちゃんは、それを見ているのが楽しみになってきました。
お家に帰ってからも、ミナちゃんはママのお手伝いをしました。
「ありがとう」
と言ってもらえるたびに、お花はどんどん大きくなって、どんどんきれいに咲いていきました。
ミナちゃんはうれしくて、しかたがありませんでした。
けれど、ミナちゃんのお花がきれいになればなるほど、ママのお花がとても小さく感じられたのです。
ミナちゃんにはわかっていました。お花はうれしいことがあると大きく、そしてきれいに咲くのだと。
「ママはうれしいこと、ないのかな?」
と、ミナちゃんは心配になってしまいました。
夜、パパがお仕事から帰ってきました。
パパのお花も、とても小さいお花でした。
パパとママは、よくケンカをしました。
その日も、ケンカをしました。
ミナちゃんはひとりお布団のなか、パパとママの怒った声を聞いていました。胸のお花を見て、もっと仲よくしてほしいと思いました。そうすれば、もっときれいなお花になるのにと。
ミナちゃんは、パパとママのきれいなお花を見たいと思いました。
すると、なんだかミナちゃんの体が熱くなってきました。まるで熱いお風呂に入っているようです。
ミナちゃんは恐くなって、パパとママのところに行きました。
ミナちゃんを見たママは、ミナちゃんのおでこに手を当てると、驚いたようでした。
そしたらパパも慌てて、ミナちゃんをお布団まではこんでくれました。
パパとママが、ミナちゃんの側にいてくれました。
ミナちゃんは苦しかったけれど、うれしい気分でした。
「ねぇ、パパ、ママ?」
ミナちゃんはパパとママを見ると、お願いしました。
「ミナね、パパとママのきれいなお花が見たいの。だからね、ケンカはやめて」
パパとママのお花が、少しだけ開きました。
「ミナね、パパもママも好きだよ。だから、パパもママも好きでいて」
ミナちゃんは、パパとママがお互いに好きでいてほしかったのです。
すると、どうでしょう。パパとママのお花の蕾が開いて、とてもきれいで大きなお花を咲かせたのです。
「ミナ、愛しているよ。もちろんママも」
「ああ、ミナ。もちろんじゃない。好きよ、ミナ、パパ」
ミナちゃんは、パパとママに抱きしめられながら見ました。パパとママのお花を。そしてミナちゃん自身のお花を。
それは真っ赤な、とても、とてもきれいなお花で、そのお花を見ているだけで、ミナちゃんはとてもうれしい気持ちになるのでした。幸せな気持ちになるのでした。
次の日、ミナちゃんの熱は下がっていましたが、もうお花は見ることができませんでした。
でも、ミナちゃんにはわかるような気がします。
今でも、きれいな心のお花が咲いていると。




