#30 『転送魔法と魔法結晶』
「こんなゴロツキに構ってる場合じゃないわ! 急がないと!」
カロは魔道具に魔力を奪われ、瀕死になったかフワを助けるためにどうしたら良いかを考えた。
こんな事なら回復魔法の鍛錬もしておくのだったと後悔したが、今更どうにもならない。
幸いカロの得意とする魔法アポーツは空間移動が可能であった。
だが、その魔法はコントロールが難しく魔力消費のはげしさ故、本の状態から戻ったばかりの今のカロの状態で上手く扱えるのかが疑問だった。
「ええぃ! 悩んでる暇はないでしょうが! 転送魔法!」
カロは記憶を辿って魔導士ギルドの前へ魔法で意識のないカフワと共に転送移動した。
そして、ギルド内へ駆け込み柄にもなく必死で助けを求めるカロ。
「だれか! 誰か助けて!」
年齢にして13歳の当時のままの小柄な少女はそう叫びながらギルド内で駆け回る。
焦っていたせいで注意が落ちていたのだろう。
よそ見をした瞬間にぶつかったスーツの男は幸運にもカフワの知り合いのホンジュラスギルド長であった。
「どうしたんですか? お嬢さん。そんなに慌てて」
「おもてで、カフワが死にそうなんです!」
「!? カフワさんが!?」
カロはそのぶつかった男ホンジュラスと一緒に急いでカフワの状態を確認しに行った。
「……これは……魔力枯渇で衰弱している。どうしてこんな事に?」
カロはホンジュラスに事の経緯を説明すると、ホンジュラスは困った様に顔を曇らせた。
「残念ながら、この状態を回復出来そうな魔導士はここには居ません。せめて高純度な魔法結晶でもあれば……」
カロはそれを聞いて間髪入れず質問する。
「その高純度な魔法結晶は今何処にあるの?」
「何処って……今結晶の在り処はウチのハンターとレジスタンスが交戦中で……」
「いいから場所教えて!」
少女の気迫に気圧され、ホンジュラスは止む無くカロに場所を念魔法で頭に直接場所の情報を送り込んだ。
そこにはグレインと後から合流したその他のハンター達とレジスタンス、それに機械の人形のような物が戦っている光景が見えた。
ホンジュラスの魔法は便利で光景だけでなく、その位置も感覚で伝えられた。
元々空間認識能力の高いカロはその位置を記憶して、転送魔法アポーツの準備にかかる。
(この距離ならあと数回は使えるか……)
魔法結晶の置かれた状況を見せてここで待つよう説得を試みるホンジュラス。
少女の素性を知らないホンジュラスにとっては当然の発言である。
「これで分かったでしょう? 危ないから彼らの帰りを待ちましょうね」
「……あんた、良い魔法持ってるわね。ちょっと行ってくるわ」
「えっ!? 何と?」
「カフワを助けるには、あの魔法結晶を持ってくればいいんでしょ?」
カロはそう言うと、、紫の亜空間を作り出しホンジュラスの前から消えてしまった。
――いっぽう、博物館から盗まれた魔法結晶を奪還に向かったグレインは……
グレイン達ギルドの魔導士は魔法結晶を盗んだレジスタンスと交戦していた。
「ダメだ! 僕の魔法が全然効いてない! 何なんだアレは?」
グレインの放った炎術の先には人の形をした大きな機械が立っていた。
炎は機械人形に複数張り付いて燃えていたが、ダメージは無い。
「はっはっはっ。そんな物かねギルドの精鋭魔導士とは」
機械人形の奥から男の笑い声がする。
「これは我々『ロブ』が開発した魔導兵器『トランスギア』そのプロトタイプだ」
「トランスギア?」
グレインは聞きなれない言葉に質問で返す。
「トランスギアは魔法を習得していない者でも簡単に扱える兵器だ。見ての通り魔法結晶をエネルギー源として動く! この性能で高等魔道具のようなリスクも全くない! 素晴らしいだろう?」
男は自慢げに語ったが、確かにこの機械は高性能で先程から魔法が全く効かなかった。
機械人形の胸の中心で力の源と思われる盗まれた魔法結晶が光っている。
「しかも、だ。見よ! 魔力を動力源にするだけでなく、『機械による魔法の再現』が可能になったのだ!」
男はそう言うと『トランスギア』とかいう機械人形の口からグレイン達目掛けて炎の弾が連射された。
「まずいっ! みんな避けろっ!」
「ぐわぁぁ!」
グレインの呼びかけも虚しく機械人形の攻撃に倒れていくギルドの仲間たち。
――数分後。
グレインはレジスタンスと機械人形『トランスギア』の攻撃に一人追い詰められていた。
「あとはお前だけだな」
「はぁっ。はあっ。……くそっ! あの機械、動きも結構早い」
逃げ足には自信があったグレインだったが、疲れを知らない機械とその口から放たれる無尽蔵とも思える魔法弾の猛撃に打つ手を無くしていた。
「お前ら魔導士は全員死ねば良いのさ! やれいっ! トランスギア! はっはっはっはっ!」
自らは戦わぬレジスタンスの男の高笑いが鼓弾する。
「くっ! これが僕の限界なのか……」
と、その時だった。
「だらしないわね。グレイン」
「なにっ!?」
突如、グレインの前に黒い球体が現れその後に出てきた魔法少女カロ。
「久しぶりね。魔導大会以来でしょうが」
「君は? それに、いったい何処から?」
グレインがわからないのも無理はない。
グレインがカロと会った時はカロの姿は魔導書の姿だったのだから。
「あの機械に埋め込まれてるのが魔法結晶のようね」
「危ない! 逃げて! あの機械は魔導士を殺すために作られたんだ」
グレインは事情を知らないであろう少女に危険を知らせる。
「どうやら魔法結晶の魔力を使って動いてるようね。でも、弱点の動力丸見えなんて作ったやつのセンスを疑うわ」
機械に手をかざして前に出る少女の行動に戦いに来たんだと察するグレイン。
「やめるんだ君! あいつには普通の魔法は効かないんだ!」
止めに入ろうとするグレインだったが、その少女は自信に満ち溢れていた。
「私のは普通の魔法じゃ無いのよ。 転送魔法!」
アポーツとは本来、望んだものを術者の元へ引き寄せる魔法である。
カロはこの魔法を応用し、引き寄せ元の座標を制御して瞬間移動していたのである。
よって、見えている物体を手元へ転送するなどカロにとって容易い事であった。
カロが魔法を詠唱すると、機械の胸に見えていた光る蒼い結晶はカロの手元にあった。
「問題無かったでしょうが?」
その間、ほんの数秒であった。
振り返りグレインの顔を見てドヤ顔で八重歯をのぞかせる少女。
「……思い出した。その声、その喋り方、カフワさんの師匠の魔導書?」
そこでようやく聞き覚えのある声の正体に気づくグレイン。
「やっと、思い出してくれたようね」
動力源を失った機械は膝をつきあっさりとその場にガシャンと大きな音を立て倒れこんだ。
(そんな! 馬鹿な! トランスギアがこんなに簡単にやられるなんて!)
驚きつつもいきなりの形勢逆転に身を隠すレジスタンスの男。
すると、その奥からパイプを加えた初老の紳士が歩いてくる。
「なに? あんた。あんたもやる気なの?」
初老の男は機械に手を触れるとこう言った。
「私は只の時間旅行者。お嬢さん。この機械ちょっと借りても構わんかね?」
「知らないわよ。勝手にすれば? 私、忙しいからもう行くわよ」
そう言ってカロはすぐさま亜空間を作り出し、魔法結晶を持って転送魔法で消えてしまった。
「ありがとう」
初老の男も礼を言うと機械と一緒にスッと何処かへ消えてしまった。
レジスタンスもいつの間にか逃げてしまい静かになる。
そして、そこにはグレイン以外誰も居なくなった。
いきなりの出来事にあっけにとられるグレイン。
「……何だったんだ一体?」
次回『英雄の閉眼』




