#22 『独学の魔導士』
<R15> 15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。念のため。
あまりに突然の出来事にカフワは混乱していた。何故、こんな事になっているのか全く理解できなかった。あの杖の赤い魔力による攻撃でカロはどうなってしまったのか?どうしてカロの魔力を全く感じないのか?なんで自分の魔法が出なかったのか?
この数十秒の出来事が頭で処理しきれず、今自分が直面している危機も理解できていないカフワ。
「ふふふ。……夢だよこんなの。こんな辛い現実なんてあるものか」
「くそっ! この杖壊れてやがる。もう光らねぇし振っても何も出ねぇぞ!」
ブルンジが何か言っているが、カフワの耳には聞こえてはいない。
「……でも……夢ならなんで……こんなに……」
「もういいや、こんな杖売り払ってやる。おい! おまえら、誰か来ない内にあいつをぶっ殺せ! もう、あの不気味な本の呪いは使えないはずだ」
カフワを始末する為に部下をけしかけるブルンジだったが、カフワの様子が何かおかしい。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
何も分からず、狂ったように叫ぶカフワ。
黒い本を見つめて地べたにへたりこむカフワに、ナイフを持って近づいた部下のムンドとノーボが目にしたのは異常な光景だった。
「!? ぐぇっ!」
「!? がはぅ!」
水晶とおぼしきその棒状の宝石は一瞬にして地面から生えるように無数に伸び、カフワをとり囲んだ。その際に伸びた先端の尖った水晶は近づいていたムンドとノーボの2人に勢いよく突き刺さり、そのまま貫いて致命傷を負わせる事となった。
「なん……だと!? ムンド! ノーボ!」
少し離れていて助かったブルンジともう一人の男もこの異常事態に戸惑う。
「ブルンジさん! こんなの聞いてないですよ! 昔、仕事の邪魔をされた『ただのガキ』って言ってたじゃないですか! 悪いがヤバイのは御免だぜ」
そう言って、風貌からしてカフワから賞金を盗んだ男は一目散に逃げていった。
「くそぉ! この杖さえ使えれば……化物め! 悔しいが俺の手に負える相手じゃねぇな」
ブルンジさえも今なお、『パキパキ』と音を立てカフワの回りにある水晶の山が大きくなってゆく様子を見て恐ろしくなり逃げたしたのであった。
「ぁぁぁぁぁぁ……ぐっ……かはっ……はぁ、はぁ……はぁ」
しばらくしてカフワの魔力が底を尽き、光の粉となって消える水晶の山。
そして、そこに残ったのは物言わぬ黒い本と、握りしめた両拳を地べたにつけ、崩れ落ちる青年、無残にも胴に風穴の空いた2人の盗賊の亡骸だけであった――
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「ちょっと! なにこれ? カフワ君!?」
その後、まだ首都に残っていたアルーシャが近くの空を飛行しており、この異変に気づいた。そして、慌てて風を巻いて降りてくる。
「遠くで凄い光が見えたから来てみたら、カフワ君の魔法だったのね! これはいったい……」
「……」
魔力を使い果たした疲労と、極度の精神的負担でカフワの耳にはアルーシャの声は届かなかった。
「キャッ! 誰!? ……え!? やだ、死んでる?……」
近づいたアルーシャの足元に倒れていた盗賊はすでに息はなく、一目で人間と分からないほど変形出血しており、大量の出血の後がまだ乾かず赤い池を作っていた。
「ちょっと! カフワ君大丈夫!? 一体ここで何があったの?」
そのあとすぐ、あとから来た人にこの惨状を発見されて少しの騒ぎとなり、アラビカ国の役所から事件や事故を処理する法務執行官が派遣された――
カフワは法務執行官による取り調べに全く応えなかったが、アルーシャの知っているカフワの素性説明と魔導士ギルドから来たホンジュラスギルド長の弁護により、すぐに釈放された。
この事件の容疑者であった青年は魔導大会で優勝し、賞金で大量のお金を持っていた事、盗賊に賞金を盗まれ被害届を出していた事、事件現場で即死していたのは法務省の犯罪者リストにもある凶器を手に持った盗賊であったこと。
すべてはカフワの身の潔白と正当防衛を証明するに十分な理由であった。
カフワはその英雄たる立場とホンジュラスの計らいにより、殺人の罪には問われなかったが、カフワの心にはカロを守れなかった事と、苦しみながら語り、消えてゆくカロを助けられなかった罪の意識が強く刻まれる事となった。
――翌日。
「カロ? まだ寝てるの? もう朝だよ」
土で汚れた黒い本を布でやさしく丁寧に拭き取り、ただの本に語りかけるカフワの姿があった。
「ほら、今日は朝食のバイキング新メニューがあるんだってさ。行ってみようよ」
「……」
そっと机に置かれたその本は空いた窓の風があたり静かにそのページがめくれてゆく。
カロはずっと独りで生きてきたカフワにとって、初めて出来た家族のような存在であった。この数ヶ月、毎日語り合い、怒られ、罵られ、それでも楽しい時間を過ごした喋る魔導書は今は返事をしてはくれない。
それでも、必死で本に語りかけるカフワが痛々しくアルーシャの目に映る。
つらい現実を受け入れられないカフワを見て、その日宿泊したホテルへカフワを連れてきたアルーシャもまた、事情を察し影に隠れて涙するのであった。
――それから1周間がたった。
「ありがとう、アルーシャ。もう大丈夫だよ」
「ホントに? ろくにご飯も食べてないし、少し痩せてない?」
明らかに強がっているカフワに対し心配が隠せないアルーシャ。
「大丈夫だよ。今日はちゃんと食べたから……俺、もう行くよ」
カフワもそれに感づきアルーシャに気を使わせまいと嘘をついていた。
「……そう……念架持ってるんだっけ? 何かあったらうちに連絡してよ?」
「わかった。ありがとうアルーシャ」
あれからカフワは落ち着きを取り戻し、しばらく面倒を見てくれていたアルーシャと別れ、旅立つことにした。この一週間、カフワなりに考えぬき目的を持って。
「……ホンジュラスさんですか? 俺ですカフワです。先日はありがとうございました。はい……はい……そうです。……実は仕事を紹介して欲しくて……はい、なんでもやります」
カフワはホンジュラスに【念架魔具】を使って相談し、魔導士ギルドの依頼で賞金首ハンターとしての仕事を引き受けることにした。本来、信頼のおける実績のある者にしか紹介されない仕事を大会優勝者である立場を考慮して特別に紹介してもらえたのだ。
「あと、すいません。もう一つお願いが……えぇ。……探してほしい人物がいるんです」
カフワがこの一週間で悩み抜いた末、旅立つ前にやろうと決めたことが2つあった。
一つは手元の黒い魔導書、これに書かれていることは全て覚えて出来るようになること。まず、カロが今まで丁寧に説明してくれたおかげでカフワ自身は殆ど読んでいない魔導書であったが、この機会に全部読んで覚えようと誓った。すべて、独学で出来るようになろうと。
「カロ、そこにいるんだよね? 今はきっと何かの理由で喋れないだけなんだよね?」
「……」
カフワは毎日、同じように語りかけているが相変わらず黒い本は答えてはくれない。
「……だったら、カロがいつか帰ってきた時、自習サボってたんだろって怒られないように……俺、全部独学で出来るようになってみせるよ」
もしも、カロがいたなら『あんたなら独りでもできるっていったでしょうが』って。そう誉めてもらいたくて自分で決めたこと。
それと、あともう一つ決めたことは……
(カロ、絶対に俺が仇は取るからね……きっと俺ならできる!)
そう、その手に握りしめた本のタイトルは『独学魔導入門』
次回『追憶の旅』




