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できる!独学魔導入門  作者: イズクラジエイ
第一章 独学の魔導士
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#21 『突然の別れ』


魔導闘技大会の賞金5千万リューズを盗まれたカフワは被害届けと、犯人の捜索、奪還依頼のために首都の魔導士ギルドを訪れた。


「魔導士ギルドってさ、闘技会場の隣だったんだね」


「重要機能のある施設が一箇所に固まってるのは良くあることでしょうが」


魔導士ギルドは道行く人に聞いたらすぐに教えてくれた。あんな有名な場所知らないのかと田舎者扱いされたが仕方ない。ここからかなり離れた小さな街から来た田舎者なのだから。


「うわぁー。中も広いねぇー」


「感心してないで早く手続き済ませるわよ。こうしてる間にも、犯人が遠くに逃げられちゃうかもしれないんだから」


首都の魔導士ギルドの中は白い塗装で綺麗に統一されており、中は広かったが、入った傍から受付は混雑していた。仕方ないので依頼受付の看板がある列に並ぶ。


「なかなか進まないなぁ。これじゃぁ、しばらく順番回ってこないよー」


「しょうがないでしょうが。恨むなら自分の不甲斐なさを恨みなさい。」


こうしている間にも盗まれた犯人はきっと遠ざかって行くだろう。そして、お金は何かに使われてしまうんじゃないだろうか。そんな不安に駆られながら順番を待ち続けるカフワのもとへ一人の綺麗に整った黒服スーツ男が現れる。


「あなた、カフワ・バジオラさんですよね?」


「はい? そうですけど……どうして俺のこと知ってるんですか?」


「ああ、大会見てましたからね。あなた、もうこの辺では有名人ですよ。そろそろ外部にも情報が出回りますからねぇ。おっと、申し遅れました私、ここのギルド長のホンジュラスと申します。ここに並んでるという事は何かお困りですか?」


「はい、そうなんです。実は……」


カフワは会場を出た後の経緯をホンジュラスに話した。場所はすぐそこの商店街の通りだった事、5千万リューズ全部取られた事、フードを深くかぶってて相手の顔が分からないこと。全部、ひどく焦りながら。


「なるほど、じゃあその件は私が手続きしておきますよ。安心してください」


この緊急事態に冷静かつ、その落ち度を全く咎められもせず、紳士的に対応するホンジュラス。


「え? いいんですか? 順番は……」


「いいんですよ。あなたまだ自覚が無いかもしれんが、大会優勝者の英雄はここではVIP客ですからね」


「有難うございます。でも俺、今お金持ってないんですけど……」


「その点もご心配いりません。その『英雄の腕輪』があれば交通機関もフリーパスですしね。ホテルもだいたい無料で泊まれますし、おそらく首都での生活には困りませんよ」


「えぇ!? そんな凄い価値あんの? コレ」


「ただし、有名人なりにそれなりの苦労はあると思いますがね。あと、そうだ! コレあなたにあげます。新型の念話魔道具ができたんですよ」


そう言ってホンジュラスは【念架魔具】(ねんかまぐ)をカフワに渡す。


【念架魔具】とは思念通信用魔道具で魔導の鍛錬をしていない人間にも扱うことができ、各本体固有の念架コードを入力することにより、別の念架魔具の持ち主と思念通信が可能である。このタイプの魔道具は総じて高価だが、連絡手段として非常に便利であり消費魔力が少ない事も理由に都市部では近年普及してきている。


「いいんですか? こんな高そうな道具もらっちゃっても」


「いいんですよ。丁度ユーザーテストもしたかったですし。私これの開発に携わってるんですよ。あと、これ私の念架コード。念架は初めてですか? 使い方はですね……」


その後、ホンジュラスに【念架魔具】の操作方法を教わり、重要な施設につながる念架コードも教えてもらった。


「それじゃ、あとはやっておきますので何か分かったら連絡しますよ」


「ほんと何から何まで、助かりました。ありがとううございます! 何かお礼を……」


「いえいえ、お気になさらず。……ですがもし、お礼をと言うなら腕利きの魔導士にお願いしたい仕事が山ほどありますので、気が向いたらそれも言って下さい。それなりの報酬は用意致します」


ホンジュラスの好意により、盗まれたお金の件でひとまず出来る事をしたカフワ。今から闇雲にあの街の中を探すのは無駄であろうことは承知していたので、今日は近くのホテルで泊まって休むことにした。


「はー。ほんとに無料で泊まれたよー」


「あんたには勿体無いベッドね。いつも野宿で慣れてるから床で十分でしょうが」


ベッドに座り一息ついたカフワ達。あったことを少し振り返る。


「ここ数日、めちゃくちゃ色んな事があったねぇ」


「ほんと。あんたと居ると退屈しないわ」


「……ねぇカロ。これからもずっと一緒に居てくれるよね?」


「何言ってんのよ。私はあんたの魔力ないと生きられないんだから、嫌と言っても絶対居座ってやるわよ」


「そう、だよね。良かった……」


「呪われて喜んでるなんて変な奴よあんたは」


――そして夜が明けた。


「うわぁー。これ全部食べていいの?」


「好きなの食べて良いって言ってたでしょうが」


そこには、ホテルの朝食バイキングで並ぶ料理と搾りたての果実ジュースが大量に置いてあった。カフワは食べやすくカットされたミッシュブロートに大きなソーセージとポテトサラダを挟んで『ウマウマ』と野生児らしくバイキング料理を食べまくった。


「めっちゃ美味しいよコレ。自分ではパンとか焼けないからなぁ。こんなの久しぶりー」


「……精霊体になってからお腹は減らないけれど、美味しそうに食べるあんた見てると私も食べたくなってくるわね」


そんな久しぶりの贅沢を満喫し、いつも通りの朝をカロと楽しく会話して過ごした。


「よし! それじゃあ泥棒の件なにか手がかり無いか探しますか」


「カフワさん。これからも当ホテルの事、宜しくお願いしますね」


ホテルのオーナーに愛想よくしてもらいお世話になったが、やはりそこはビジネス。カフワにはホテルの評価や宣伝を求める暗喩がそこはかとなく課せられた。


「はい。任せといて下さい!」(宣伝する知り合いなんてほとんどいないんだけどね)


そうして再び街へ繰り出した。


「さてと、どこから回ろうかなぁ」


「ああいうこそ泥のアジトはだいたい裏通りの汚い小屋と相場が決まってるわよ」


「すごい偏見だなぁ……」


「とりあえず、歩き回ってみるしか無いでしょうが」


カフワはカロの言われるがまま、街のあちこち回って、道行く人に盗んだ犯人の姿を言って聞き込みをしたりしていた。そして高い建物に囲まれた少し暗い路地裏にさしかかった時。


「……カフワ。あんた誰かに後をつけられてるわよ」


「えっ!?」


「振り返らないで。気づかれるでしょうが」


「どうしたらいい?」


「このまま気づかないふりして、人の居ないところに誘い込んで捕まえましょ。今のあんたの力なら男一人くらい、何とかなるでしょ」


そうしてカフワはそのまま後ろを気にかけつつ、振り返らないようにしてカロと会話を続けしばらくまっすぐ歩いて、広く誰もいない街の郊外までやって来た。


「ここなら、隠れる場所も無いから姿を現すしかないわ」


「そんな、うまくいくかなぁ」


結論から言おう。カロの言うとおり作戦はうまくいった。


「……なるほど、尾行はバレてたって訳か」


少し離れた物陰から低い男の声が聴こえる。


「誰? 泥棒の仲間なの? 出てきなさい!」


「お金返してぇー」


尾行している事を暴き見つける作戦はうまくいったが、予想外だったのはその物陰から出てきたのは一人では無かった。


「やっと見つけたぜ。カフワとかいう小僧」


「!? お前は!」


出てきた男の4人のうち3人の顔には見覚えがあった。その男は盗賊団ラーベのブルンジ達であった。


「腰下げの袋を盗んだら『とんでもない大金を持ってた小僧がいる』って言うから問いただしたら、まさかお前に辿りつくとはな……」


「お前は……ブルンジ!」


「ほーう? 名前を覚えてくれたか。俺の盗賊団も有名になってきたもんだな。そうとも、俺は盗賊団ラーベ棟梁のブルンジ。俺は普段あまり殺しはしないんだが、この俺様に2度も石をぶつけてコケにしたお前は絶対に殺す!」


(……やっべぇ。めちゃ怒ってるよ)


「あんたなんか今のカフワの敵じゃないわ。カフワ! やってしまいなさい!」


「おっと、そういう事だろうと思ってコレを用意してきたんだぜぇ」


そう言ってブルンジは先端に赤い宝玉の付いた長く白い杖を取り出した。


(あの杖どこかで……)


カロは何かに気づいたが、はっきりと思い出せなかった。しかし、天才魔導士としての感であればヤバイ物だという事だけはすぐにわかった。


「カフワ、気をつけて。あの杖、何かあるわ。特殊な効果のある魔道具かもしれない」


「うん。お金の事何か知ってるみたいだから、倒して吐かせよう」


カフワは手を前にやり宝石を錬成しようとする。その時、ブルンジの持つ杖の宝玉が一層赤く光りだした。


「あれ? 魔法が出ない? どうして?」


ブルンジは杖を振り、その赤い光の塊をこちらへ飛ばしてきた。


「俺を守れ! ルーン魔法!」


なぜか、カフワの魔法は発動せず、赤い光の玉はカフワに向かってくる。防ごうとした隙でもう光の玉はカフワの避けられない所まで来ていた。


「カフワ! 危ないっ!」


それを見かねたカロは咄嗟に赤い玉とカフワの間に入り、その魔力を身代わりに喰らって赤いオーラに包まれた。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「カロっ!」


「くくくっ。これは面白い。あの親父が言ってたとおりこの杖、魔法を消せるらしいな。呪いだか何だか知らんが、コレなら余裕だぜ」


「大変だ! カロ! この赤い光消えないよ」


「……これは……もう……ダメね……」


「どうなってんのコレ? 大丈夫? しっかりしてよカロ!」


「……カフワ、時間が無いから良く聞いて」


「何言ってんだよカロ! 時間? 意味が分からないよ」


「あんたはいずれ立派な魔導士になるわ……私が居なくても」


「だから何を!」


「聞いて! あんたならできる、自分を信じて……できるわ……私が教えたんだもの」


「カロ! どうやったら消せるのコレ!」


「……独りでも……きっと……で……き……」


その時、赤いオーラは徐々に無くなっていき、同時にカロの紫のオーラも全く見えず感じられなくなっていた。今までたとえカロが寝ている時も、自分の中にいる時でさえ、かすかに感じ取れていたカロの魔力を今は全く感じない。


「そんな! 嘘だろ!? ……嘘だって!」


「……」


さっきまで喋って浮いていた魔導書は力なくポトリと地に落ち、其処には今、物言わぬただの本が地面に転がっていた。







「……カロォォォォォォォォォォォォォォォ!」

次回『独学の魔導士』

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