#20 『盗まれた賞金』
闘技大会の会場を後にしたカフワ達はとりあえず、貰った賞金のチケットをを換金しに首都の大きな魔導銀行へ向かった。
「よしよし、これで当分お金には困らないよね」
「あんたなんか大金持っててもどうせ、くだらない事にしか使えないでしょうが」
「そんな事ないよ! ポテトサラダお腹いっぱい食べれるじゃん」
「……だから、それがくだらないって言ってるんでしょうが!」
ここアラビカ王国の通貨は、小さな宝石の粒に微弱だが特殊な識別コードを埋め込んだ永続魔法がかけられており、不正な複製に対策をしている。というより宝石の価値と加工の労力を考えたら複製する事自体、面倒なので誰もやらないのだが。
通貨単位はリューズ。一般的な家庭の月の収入が10万リューズくらいであることを考えると、カフワの貰った賞金5千万リューズはかなりの大金だった。
「ところでさ、カロ。気になったんだけど、あのたまに出す腕ってカロ自身のの手なの?」
「違うわよ! 私はこれでも元天才魔法少女なのよ! あんなゴッツい手なワケ無いでしょうが!」
「どんな見た目かも分からないからさ、アレみたらとんでもない筋肉少女想像するじゃん」
「そこまで気になるなら、私の姿みる?」
「え? 見れんの?」
「本の中にいる姿なら映せるわ。ただし、体は疎か私の手さえ外には出れないんだけれど」
「そんな事出来るならなんで、今まで見せてくれなかったんだよ」
「別に興味ないでしょうが? 魔導書の中の人なんて」
「いやいや、興味ありありだよ。むしろずっと気になってたんだよ。早く見せてよ」
「しょうがないわねぇ」
結論から言うと想像以上の美少女だった。カフワの想像した筋肉魔法少女の姿はそこには無く、桃色のショートカットに、アホ毛とつり目、口を開くと微かに見える八重歯が可愛らしい少女の姿がそこにあった。
「めちゃめちゃ可愛いじゃんか!」
「だから、初めから言ってるでしょうが。元天才美少女魔導士だって」
「そんな事いってたっけ?」
「まったく、あんたの中で私はどんなキャラになってたのよ」
この高飛車で気の強い性格じゃ無ければ完璧なんだけどなぁ。あと、本の中の人じゃなければもう少し魔導の修行もやる気が出たに違いない。カフワはそう思った。
「……すると、あのムキムキの手は何なの?」
「さぁ? 私にも分からないわ。あんたに会ってから、あんたに干渉しようとすると出せる奇跡的な力としか言いようが無いわね」
「えー? カロ自身も分からずに出してたのあれ?」
「そうよ。もしかしたらここから出る手段の足がかりになるかも、と思って色々試したけどダメみたいね」
「その浮いてる丸いのは?」
「ああコレ? 私の魔法よ。時空間転送魔法『アポーツ』この球体を通して別の場所に物を運べるんだけど、何度試してもダメね。どこにも繋がらない」
「……ほんとに凄い魔導士なんだ」
「疑り深いわね! だからそう言ってるでしょうが!」
「カロはもし、そこから出れたらどうするの?」
「もし、出れたら……ありえないけど。……たぶん妹を探すわ。双子で同じ能力があるの。元の世界に戻る事が出来るかもしれない」
「へぇー。妹もその時空間移動できるんだ」
「妹【ティピカ・ロッティ】の『アポーツ』はもっと強力だけど不器用で大雑把だけどね。可能性があるとしたら、そこに賭けるしかないわ」
そんな、カロの新たに判明した情報と、謎の深まった筋肉魔法にカフワは内心複雑な気分だった。もし、本から出られたなら、そのままカロは居なくなってしまうんじゃないかと。
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「よーし! お金も手に入ったし、せっかく首都に来たんだからお買い物しないとね」
「……ちゃんと物の価値分かってない所が怖いわね」
ここバンブルグはアラビカ王国の首都だけあり、物資の流通が盛んだった。闘技会場の周辺だけでも、沢山の商店や住居用の大きな建物もあり、お金さえあれば生活には困らない便利な街である。真っ直ぐに伸びた商店街。そして進んだ先には煌魔鉄道の駅も目立つところに構えており田舎育ちのカフワにとっては全てが楽しく綺羅びやかで目移りする夢のような環境であった。
「カロ、あそこ入ってみようよ」
カフワの指差した先には狭く薄暗い階段が地下へと伸びている。
「なによ、あそこは地下じゃない。土の下に潜るなんてごめんだわ」
どうやら地下にも商店があるようである。ただ、カロもこのような環境であちこち入ってみるのは初めてなようで、土の下という閉塞的な場所に嫌悪感を抱き臆していた。
「いいじゃん。楽しそうだし、いってみようよ」
「嫌だって言ってるでしょうが! ……唯でさえ、こんな狭いところにずっといるのに……」
「あっ……ごめん。……そりゃ、狭いところ嫌いだよね。俺、馬鹿だから気が付かなくて」
「今、私の世界はこの本の開いたページから届く光が全て。カフワに出会うまでその光も閉ざされているようだったわ。だって、下手に動くと魔力を消耗するし、私の魔力は自然回復しない。……もし、このまま魔力が尽きたらどうなるんだろう? って思うと怖かった。……怖かったのよ」
柄にもなく悲しみ落ち込むカロに、さすがのカフワも自分の行動が軽率であった事に気づく。
「……わかった、わかったよカロ。もう地下へは行かないから、大丈夫。それにもう、魔力なら俺から吸えるから平気なんでしょ?」
「……えぇ、魔力の件は解決したわ。あの時は生き残るために必死だったけど、今は少し心に余裕ができたかな。あんたがバカで本当に助かったわ。愚か者の魔力で生きながらえるなんて私も落ちたものね」
「ホント素直じゃないなぁ。ここはあの時、拾った俺に感謝しておくところでしょうが?」
カロの口癖を真似ておどけてみせるカフワ。そんなに地下が怖かったのかちょっと涙声になっていたカロだったが、気づいてもそこには触れないであげるのが優しさなんだろう。そんなワケで、首都での買い物は地上のなるべく明るい開けた店を選んで回ることにした。
「おっ、あそこなんか人がいっぱい居るよ?」
「まぁた、そんなのに興味もってぇ。野次馬決め込んでると、いつぞやみたいに酷い目にあうわよ」
「大丈夫だって。ここの街は随分と治安が良いみたいだしさ」
「そうやって油断してる奴ほど、すぐトラブルに巻き込まれるんでしょうが」
そんな人が多いバンブルグの商店街で悲劇は起こった。
「あ痛っ!」
「あーゴメンよぉ。急いでるんでな」
後ろから走ってきたフードを深く被った男が勢いよくぶつかって来て、謝られるカフワ。その後すぐにカロが何かに気づいて叫ぶ。
「あいつ! 泥棒よ!」
「えっ!? あっ! さっき換金した宝石袋が無い!」
「急いで追うのよ! アレに5千万リューズ全部入ってるんでしょうが?」
カフワはお金の入った袋が無いことに気づいた後、すぐに男を追ったがこの人混みの中、盗んだ相手にはあっさりと逃げ隠れられ、捕まえることは出来なかった。
「あぁ、油断してたぁー。もっと固く紐縛って体に結んでおけば良かったー」
「……だから言わんこっちゃないでしょうが! 英雄になったのはいいけど、その最初の伝説が『賞金5千万リューズを当日に盗まれる』なんて、残念魔導士の極みよ」
「……そんな伝説残したくないなぁ」
「とにかく、もう無駄でしょうけど魔導士ギルドに被害届出しに行くわよ」
魔導士ギルドは常時魔導士の仕事を斡旋しており、逆に報酬を提示する事によって、悩み事を聞いてくれたり様々な問題を解決してくれる情報集積機関である。この各職ギルドの運営と商売によって国の資産収入の大部分が賄われており、また組織の構成員がその報酬で治安維持に貢献しているのだ。
「バカよ、バカ。ここまで来るともう通り名『バカの極み』で良いんじゃない?」
「……まだ、何も買ってないんですけどぉー!」




