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彼女は髪が綺麗だ  作者: シグレイン
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 キーンコーンカンコーン。放課後のチャイムが鳴った。僕は急いで片づけると廊下に出る。なぜか僕が廊下に出る頃には、レイは四条が今日来ているかどうか確かめ終わっていたようだった。

「ワトソン君、四条は今日休みのようだ」

「じゃあハルトを捕まえてこないと」

「お呼びかい?」

 背後から声がした。

「あら、ちょうどいいところにいるじゃない、銀色の」

「キミたちが嗅ぎまわっていることは知っていたが、こんなに早く見つかるとはね。真相を知りたければこっちへ来るといい」

 僕らは無言で銀色の後を追う。ハルトは何も言わず校舎の階段を上ったり廊下を渡ったり見たこともない階段を下りたりした。ぐるぐると連れまわされていくうちに方向感覚がなくなり、一か月はお世話になっている校舎なのに自分がどこにいるのかさっぱりわからない。五分ぐらい歩かされた後、ハルトはグレーの重そうな扉の前で止まり、僕らの方に振り返った。

「最後にもう一度だけ言う。この部屋に入ったらもう後戻りはできない。覚悟はあるか?」

「なかったら途中で帰ってるわよ。いいから早く入れなさい」

「タケル、君は?」

「ここまできたら部屋に入らなくても後戻りはできないよ」

「そうか。じゃあついてこい」

 ハルトはポケットからカギを取り出し開錠した。

 ギギギギという音ともに扉が開いた。


 扉の先は五月晴れだった。

「屋上?」

「そうさ、ここは織風高校の屋上の一部だ。この建物の屋上は今僕が通ったルートからでないといけない。で、まだゴールはここじゃないんだ。こっちへ」

 ハルトが指さしたのは屋上の上にある、謎の部屋。

「屋上にも部屋があるのね」

「ここが僕らの活動拠点だ。では、入ろうか」

 屋上の部屋に入った。六畳程度の広さで窓はない。出入りはこの扉一つだけだから、屋上にあるから雨が降ったら大変だ。ハルトが邪魔して見えなかったけれど、よく見ると中央にテーブルとイス、そして女子が一人。

「ハルト、彼と彼女は?」

 見知らぬ女子が口を開いた。

「トーチカ先輩、すみません。気づかれました」

 どうやら上級生のようだ。

「一か月でバレるとは、なかなかにやるわね」

 感心して興味を持ったのか、「トーチカ先輩」は僕とレイの顔を見比べている。

「さあ、全部話してもらうわよ」

 レイはいつでも自信過剰だ。その自信を僕にも時々分けてくれるとありがたい。

「どこから話そうか。あ、まず自己紹介から始めましょう。私は二年の遠近(トーチカ)。漢漢字はこれね」

名刺を渡された。高校生なのになんで名刺持ってるんだ?

遠近千鶴と書くらしい。

「僕は羽戸尊、彼女は――」

「神垣麗衣よ」

「羽戸尊と神垣麗衣ね。ところでお二人はどんな関係なの? 付き合ってるの?」

 いきなり何を聞いてくるんだこの人は。僕は何も彼女とやましいことはしてないぞ。一緒に防音室でプレイしたり一夜を共に過ごしたり……ってこの表現アウトじゃん。今頃気づいても時すでに遅しだけど。

「私が探偵(ホームズ)、彼は相棒(ワトソン)よ」

「なるほど、そういうことね。それじゃあ名探偵の解答を聞かせてくれないかな。あ、ハルト、あなたは全員にお茶入れて」

「了解です」

「あとお二人さんはこっちにでも座って頂戴」

「では、お言葉に甘えさせていただきます」

 僕とレイはテーブルをはさんでトーチカ先輩の正面に座った。こうしてみるとトーチカ先輩はレイに勝るとも劣らない美人だ。レイがかっこよさを感じさせる美だとしたら、トーチカ先輩はかわいい感じの美しさだ。

「じゃあ、さくっと答えるわ。まず、どうして私が疑問を持ったか。まずはそこからね」

 レイは四月末、僕に説明した時とほとんど同様の説明をした。入試で爆睡した金髪の話だ。

「入試の前日はサイア、大仕事だったからね。ミスはミスだけど、あたしもあんまり責められないのよね。なるほど、事件はそこから始まったと、いいわ、続けて」

「私は絶対あいつは不合格だと思っていた。なのに入学後あいつを見かけた。だから入試の時に近くに座っていた彼(僕のことだ)に訊いてみたの」

「そこからは僕もこの事件に関わりました」

「で、二人はどんな調査をしたのかしら?」

 僕とレイは張込みの話をした。金髪と銀髪がマンションに入ったこと、金髪が運転していたこと。

「で、その証拠がこれです」

 僕はスマホで写真を見せようとした。しかし、

「あれ、スマホのデータが全部消えてる」

「私のも」

 どうやらレイのスマホもデータがぶっ飛んでしまったらしい。

「あら、証拠はどうしたのかしら?」

「ちょっと待ってください」

 僕は決定的な証拠=写真を見せる。

「印刷した……か。あー、彼はこれを撮られちゃったわけね。なるほど、で、結論は?」

 口を開こうとするとレイが制した。

「金髪――四条は実は『高校生』ではない、正確には十八歳以上で年齢を詐称して入学しているわ。運転免許が取れるのは十八歳。普通なら彼が無免許だと考えるけど、彼の長身は高一にしては高すぎるし、運転の様子を見た限り相当運転も手馴れていた。ということは、彼は十八歳以上だと考えるのも案外有力になるのよ。十八歳以上なのにどうして入学したか、そしてどうして入学できたか。それは、この学校で前から二つの派閥が争っていることと関係があるわ。そもそも織風高校は、日本有数のエリート養成機関で、OBOGは日本を牛耳る大企業の役員や官僚、そんな学校だから相当闇の手が伸びてて、右と左の二分法だけでは済まないほど勢力抗争が起こっているはずなの。それなのにこの一か月、何も起こらなさすぎる。普通の高校ならこれが自然なのかもしれないのだけれど、ここではそれが変なの。犬が吠えないことが不自然であるようにね。だから、私はこう考えてるの。二つに割れてるだけではなく、第三勢力あるのだと。そして、四条もあなたも紫遠もその勢力の人間だと思うのよ。で、多分先代から仕事を引き継いだ四条は建前上入試を受けないといけなかった。しかし、何らかの事情――あなたのさっきの発言からすると仕事が関係していたのかしら――で疲れていたため入試で寝てしまった。しかし、学校としては――というか理事長派でもアンチ理事長派でもない学校の人間だから――正確には学校の中立派は、なんとしてでも四条を合格させないといけないから、合格させた。ほとんど憶測なんだけど、おおかた真相もこんなものでしょう」ここまで言ってからレイはにやりとして、「この写真がばらまかれたらあなたたちはだいぶ困るはず、それだったら私たちに情報を提供する方がいいんじゃない?」

 レイの話を僕は驚愕の目をしながら、トーチカ先輩は頷きながら聞いていた。

「ご名答。ほとんど正解ね。でも、あなたの言いなりにはならないわ。こんなに優秀な人物を放っておくわけにはいかないもの。ねえ、私たちと組まない?」

 話の展開が早すぎる。レイはどこまで予測してたのだろう。というか、昨晩の作戦会議はほとんど無駄じゃないか。せっかく睡眠時間を削ったのに。

「メリットは? あなたたちと組むとどんないいことがあるの?」

「メリットというメリットはあまりないかもしれないけれど、きっと楽しい三年間になるわよ。どうする?」

 トーチカ先輩の問いに対しレイは即答した。

「乗ったわ」

「ワトソン君は?」

「ホームズが暴走したら止めるのはワトソンの役目ですからね、僕も乗りますよ」

「では、これから放課後はここにきて頂戴。さっき彼女が指摘した通り、この学校は、表では事件は起きていないけれど、裏ではいろいろ事件が起きているの。それを解決するのが私たちの仕事なの。明日から早速働いてもらうわよ」

「働くって給料でも出るんですか?」

「結構出すわよ。もともと三人だけじゃ足りないから、生徒のうち使えそうな人間は協力者として登録して、働いてもらうごとにお金出す予定だったし。結構贅沢な学校生活ができるわよ。そんな暇があるかどうかまでは保証しかねるけど。さて、今からあなたたちの歓迎パーティよ! もうすぐサイアも来るわ。今日はいっぱい飲むわよ」

「飲むって……そうか、トーチカ先輩も十八歳以上なのか。何歳なんですk」

「レディに(とし)は訊かないの」

 トーチカ先輩に酒ビンで殴られた。もうビン一つ飲み干してる。というか先輩というのもなんか変だなあ。

「あの、なんて呼べばいいですか? レディをトーチカ先輩と呼ぶのは違和感があるんですが……」

「そうね、下の名前で呼んでくれていいわよ」

「では、チヅルさんでいいですか?」

「……」

 チヅルさんはもう寝息を立てていた。

「よお、タケル。まさかここで会うとはな。想定外だぜ」

 このタイミングで四条がやってきた。

「ああ、僕も予想してなくて驚いてるよ」

「ねえ、四条。あなたでしょ? スマホのデータ消したの?」

 レイにはいつも驚かされる。今思えば、初めに話しかけてきた時も突然ンを抜かれたんだっけ。

「よくわかったな」

「だってこういう組織に情報処理系に強い人間いないの可笑しいし、残りの二人がそうとは思えないもの。放課後に入ったときにはスマホのデータがあったのにあの場面でスマホのデータがないのは、誰かにハッキングされたから。でも、ここにパソコンは見当たらないし、紫遠も遠近もそれらしいしぐさをしていなかった、ということは、残る一人が情報処理担当でしょ」

「大した推理力だ。今直すから許してくれ。間に合えばな、証拠隠滅するつもりだったから消しといたんだ。すまないな」

「いいや、それは嘘ね。もともとあなたたちは何らかの理由で私に目をつけていたんだわ。実は全てはシナリオ通りなんじゃない? 大体予想はついているの。中立派の主要メンバーが私の祖父なんでしょ」

「そこまで見破っていたのか」

 レイと四条の会話は続いていた。レイは僕よりもはるかに多くのことを分かっていて、知っているに違いない。チヅルさんだとはぐらかされるから四条相手にその確かめをしているに違いない。

ハルトは雑用係なのかパーティーの準備に勤しんでいる。恐らく最も若いのがハルトなのだろう。おそらく、最年長はチヅルさんだろう。彼女は飲みすぎて、もう口からよだれを垂らして寝ているけど。気持ちよさそうだ。写真に撮りたいけど、あとで思いっきり怒られそうだからやめておこう。

 ふと尿意を感じ、僕はトイレに立つことにした。ここでズボンのポケットにボロボロになった紙切れがあることに気づいた。ここで思い出す。洗濯する前に見るのを忘れたが、姉さんからメモを渡されていた。もう復元できそうにない。いったい何が書かれていたのだろう。

 姉さんに直接訊いてみるか。スマホをいじるとデータが戻っていた。姉さんにメールした。そのうち返信が来るだろう。大切なことだったらメモじゃなくて直接言うはずだし、そんなに重要なことではないはずだ。

 これからの三年間、僕の高校時代はどうなっていくのだろうか。ここでの選択が本当に正しかったのだろうか。将来に対してぼんやりとした不安を抱きながら、僕はハルトが入れてくれたオレンジジュースを飲んだ。

 窓のない部屋の中にいた僕らは、この時、織風高校に伸びていた悪の触手に気づくことができなかった。

最後の方が強引なので書き直したい

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