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土曜の午前六時。僕は起床し食事を済ませ、いつでも家を出立できる準備も完了していた。ところが最大の問題が残っている。
──神垣麗衣の家の所在地がわからない。
まだ四時間あるから、なんとかなるかもしれない。でも、よく考えなくてもわかるのだけど、実は、もしも彼女の家に行けなくてこの間の話がその先に進まなかったとしても、僕が失うものは何もないのだ。爆睡の金髪が合格した謎がわからないだけ……だから、僕は彼女の家へたどり着けないのならばそれはそれでありだと思っていた。
とはいえ、やるからにはちゃんとやりたいので、まずはググる。今の時代、インターネットを活用できなくては一人前の大人になれないと言われている。不得意ではないけど得意って程でもないPCスキルで足掻いてみることにする。もしも僕がハッキングに精通しているのならば、織風高校から神垣麗衣のデータを抜き去ることも可能だろうが、僕にはそんなスキルはない。よって、別の方法をとることにしよう。少しは頭を使えばなんとかはなるはずだ。
そもそも神垣麗衣はお嬢様だ。筋金入りのお嬢様だ。(大切なことだから繰り返した。)なぜ大切か? それは、お嬢様である以上、彼女は豪邸、大きな家に住んでいる可能性が高いという推測が成り立つからだ。僕は家のプリンターの電源を入れ、織風高校に徒歩三十分以内で通学できる範囲の地図(住宅の大きさがわかるやつ)をほぼ全部印刷した。この中で明らかに豪邸と思われる建物をチェックし、それをインターネットで付近の様子を詳しく見ることで判断すれば、正解か不正解かわかる。一部あえて印刷していないのは、僕の近所や見知った場所で、そこに神垣の表札を見た記憶がないと断言できるからだ。あと、彼女が徒歩で通学しているというのは、『アルペジオ』に私服で来たことに基づく推測だ。昨日、彼女が登校するのを見た時は、彼女は自転車を使っていなかった(リムジンで送迎という線ももちろんなかった)。だから、徒歩か電車利用しか考えられないが、放課後そんなに時間が経っていないのに私服に着替えて『アルペジオ』に来たということは、学校から自宅が近くないとありえない。こういう推測だ。まあ、それでもほとんどしらみつぶし、しかも一人で行うわけだけど、まだ時間は十分にあるし、なんとかなるんじゃないかな。それに昔から僕はこういう地道な作業も嫌いじゃない。……ただ、無音は寂しいから、音楽をかけよう。僕はウォークマンの電源を入れ、シャッフル再生した。バッハのシャコンヌが流れだす……。
バッハのシャコンヌ。良い曲だ。大好きな曲の一つでもあるし、思い出深い曲でもある。だけど、朝から聴くには重い曲だった。とはいえ、曲を一々変えるのも面倒なので、聞き流す。それに、なにも聞こえないくらい集中すればいいのだ。
時刻は九時ジャスト。候補地は三箇所に絞られた。高校の最寄り駅《緑風駅》を中心とすると、一つは比較的北、もう一つは西、残りの一つは東だ。南にある僕の家からは、自転車を目一杯漕いでも、東西へは二十分、北へは三十分かかるだろう。だから、一つは候補から外さないといけない。さて、どれに賭けようか……。
僕が迷っていたそんな矢先、スマートフォンがバイブレーションとともに画面を光らせた。今や高校生で使わない人はほとんどいないと言われている、LINEの通知だ。
「タケル、暇か?」
相手は紫遠覇流斗しおんはると。夜露死苦みたいな漢字の当て方だけど、これが本名。普通なら、こんなキラキラネームなんて精神年齢の低い奴らにいじられるはずなのに、織風の貴公子として名を馳せる銀髪イケメンだから、むしろホストみたいに見えてしまう。というか、それが様になっているからすごい。特に女子からの人気は絶大で、次の生徒会長当確とまで言われている。イケメンのくせに僕にも構ってくれる優しいところがあるから、天は二物を与えるんだなあ、なんて思ったり。
「いや、全然暇じゃないんだけど」
「何? 君が暇じゃないだと?」
「そんなにおかしい?」
「ああ。男性用トイレに入ったら女性がいた、並に驚いてる」
「どんな比喩だよ。それ」
「いや、君はいつも暇を持て余しているように見えたから、驚いただけだ。傷つけたのなら、すまない」
「別にそんなことはないんだけどさ。ところで、用は?」
「いや、忙しいのだろう? なら、今度でいい」
「あ」途中で間違えて送信してしまった。「そうだ」
「?」
「覇流斗ってどの辺に住んでるんだっけ?」
「高校の北の方」
これはもしかすると、僕はついてるのでは。
「北の方に大きい屋敷あるじゃん? あれってさ」
「ああ、一本鎗の大屋敷のことか。あれは見た目からして古臭いぞ。確か写真があったはず」
これははずれみたいだ。ということは、東と西のどちらかがあたりだ。
「こんな感じ」写真が添付されてきたが、僕は既読をつけることなく、家を出て、自転車に跨った。
東か西かで迷ったけど、西に行くことにした。東に向かって進むと、どうしても太陽光を正面から受けてまぶしい。自転車を漕いでいる間音楽を聴くことができないのが、音楽中毒の僕には痛いけど、そこは中毒末期患者らしく脳内再生で補完した。イヤホンをつけて、事故でも起こしてしまったら面倒だからね。
春から夏に代わる季節、ちょうどゴールデンウィークが間近に迫っている頃の晴れた日だから、こないだ彼女と会った時のように暑い(彼女とはSHEの意味でしかない)。漕ぎ始めて数分で汗をかいた。普段は通学以外に自転車を使わないから、スタミナの消費が思ったより大きい。正直、西がはずれで東に行く場合、体力に自信がない。
しかしながら、こういう時に限って運が悪いのが人生というものである。西の豪邸は二丸という名札が下がっていた。思わず悪運を呪い、雲一つない澄み切った天を仰いだけど、そんな時間さえ実は惜しい。時刻は九時半。約束の時間まであと三十分しかないのだ。それに加えて、運動不足の僕の両脚は、翌日筋肉痛になること間違いなしの疲労を蓄積していた。ほぼ確実にペースダウンするため、西へ要する時間より東へ要する時間の方が長くなりそうだった。
スマートフォンを取り出し、道順を確認する。ついでに、覇流斗のメッセージに既読をつける(が、返信はしない)。
さて、行くとするか。
結論から言うと、時計の針が六十度を作ろうとした瞬間、要は十時ぴったしに、僕は神垣の表札を見つけた。普通の住宅のような構造をしていない大豪邸。門があるけど、門から屋内に入るまでの距離もかなりある。とりあえず、インターホンを鳴らす。開門してもらわないと入りようがない。
「はい」
「あの──―」
「あら、ちゃんとここがわかったのね。歓迎するわ。園田、迎えに行って頂戴」
園田というのは執事の名前だろうか。さすが、お嬢様。まさかこのご時世に執事に会えるとは思ってもみなかったよ。
数秒後、開門とともに、いかにも執事執事してるいでたちの男が現れた。どれくらい執事してるかというと、容姿が執事のテンプレ街道まっしぐらで、白髪交じりで眼鏡をかけた燕尾服。これはもう、誰が見ても執事だ。
「ようこそ、いらっしゃいました。ハト様」
ハト様だって。さん付けじゃなくて様付けで呼ばれるのって、めったにないからくすぐったい。と同時に、テノールの朗々とした響きの声は僕になぜか安心感をくれた。不思議と心が温かくなった気がした。
「ああ、はい」
コミュ障、いや、どちらかというとコミュ少(?)なので、こういう時にうまく対応できない。しかし、園田さんは特に気にすることもなく、僕を案内した。門から玄関まで遠い。ようやく建物の中に入ると、神垣麗衣の歓迎の言葉が聞こえると同時に、僕の家の全敷地が入ろうかという広い空間が目に飛び込んできた。
「さすがお嬢様。広い家だね」
「そうでもないわよ。無駄に広いから、部屋の移動にも時間がかかってものすごく不便」
「なるほど。(訳、庶民にはわからない贅沢な悩みですね)」
そんな会話をしながら神垣麗衣と園田さんに連れられて、二階のとある部屋に入る。てっきり普通の客間かと思いきや、僕の予想は完全に裏切られた。二台のグランドピアノと大量の楽譜。それに譜面台もある。
「ここは防音室?」
「そう。ここだと会話が漏れないのよね」
「誰かに聞かれたらまずいこと話すわけでもないし、わざわざこの家で盗み聞きする人なんていないんじゃないかなあ」
「そうやって甘く見てると足をすくわれるのよ」
こりゃあ前に何かあったパターンだな。深く突っ込まないでおこう。代わりにこっちでも突っ込むか。
「あれ、足元すくわれるじゃなかったっけ?」
「本来は『足をすくわれる』だったはずだけど、最近は『足元』の方が使われているらしいわ……って、そんなことはどうでもいいの。どうやってここを特定したのかしら?」
僕はハルトのことは伏せて説明した。まあ、よく成功したなと自分でも思う作戦だったが、これで成功したのだから文句は言われないだろう。
「へえ。てっきりグーグル先生に教えを乞うかと思ったのに」
「流石に個人情報だだ漏れってことはないでしょう。神垣のお嬢様が。もしあったとしたら、それは罠かもしれないしね」
その場で言い訳をでっちあげた。僕の常套手段。
「即席の言い訳ありがとう。まあ、言い訳は下手だったけれど、どんな手段にしろ、ここにたどり着けたってことは、貴方もそこそこ有能なのね」
あっさりばれてる。もしかして今までも僕の言い訳は看破されていたのか。しかし褒めてるのか貶してるのかいまいちわからない。
「で、なにするの?」
いつの間にか園田さんはいない。ということは二人きり。
「今、私たちは二人きりなの」
彼女はいきなり声のトーンと音量を落とし、シリアスに囁いた。一体何がしたいんだ? 嫌な予感が募る。
「そうだね。いつの間にか園田さんいなくなってるね」
「園田は有能なんだけど、うるさいから出てってもらったわ。だから……しよ?」
ちょうどお昼時になったので、ご馳走になる。
お嬢様とのプレイは楽しかったし、彼女のことが少しわかった気がする。いろいろあったのだけど恥ずかしいから詳細は後で語ることにする(現実逃避)。
「おいしい。神垣さんはいつもこんなおいしいものを食べられるなんていいね。うらやましいよ」
「そうでもないのよ。普通の食事に拒否反応が起きてしまうから、むしろ困るわね」
舌が肥えるってやつか。お嬢様も大変なんだなあ。あと、たぶん彼女は自分がお嬢様であることに不満があるようだ。今後はお嬢様関係の話題を降らない方が無難そうだ。
「『アルペジオ』のグリッサンドは拒否反応が起きないんだね」
「ええ。あれはネタのようでガチだから割と好きよ」
「見た目と中身、どっちもハイクオリティなんだよなあ」
「そうそう」
彼女と話すのもだいぶ慣れてきた気がする。これもさっきのおかげかな。
「どう? さっき連弾したおかげで緊張がとれたでしょう?」
防音室でしたことはピアノの合奏だ。別にやましいことではないので大事なところだけ伏せて言うと、僕らはモーツァルトのピアノソナタを弾いた。ただ、グリーグ(この人のピアノ協奏曲や朝は聞いたことが多いはず)が編曲した、二台ピアノ版。もともとモーツァルトが作曲した部分は僕が弾き、(これは有名なので僕も弾いたことがある)、グリーグが足した部分は彼女が弾いた。(蛇足だけど、これはリヒテルとレオンスカヤが録音したものが非常におすすめ。)
あと、最後に一言。普通の家に防音室にグランドピアノ二台あるってやばくないですか。
昼食後、いよいよ例の金髪の話に移る。場所は防音室だ。
「あれから少し聞き込みをしたんだけど、金髪の男は四条しじょう才亜さいあっていうみたい」
「ハーフっぽい名前だね。んー、なんか聞いたことあるなあ。何組?」
「七組。貴方は八組だったわよね?」
「うん、そうだけど」
「体育って、二クラス合同じゃない? そしたら金髪ってすごく目立つし、きっと見たことがあるはずなんだけど」
言われてみればその通りだ。
「確かにそのはずなんだけど、見た記憶がないなあ。名前に聞き覚えがあったのは、欠席してた」からかな」
「とりあえず体育の授業で八組の男子に探りを入れてくれないかしら? 私はその間に体験入部を繰り返して八組の女子と接触してみるわ」
「報告はどうする?」
「そうね。スマートフォンで一日ごとに連絡、でいいわね?」
「了解。で、電話、メール、それとも……」
「電話がいいわ。テレビ電話で」
「わざわざテレビ電話なの?」
「その方がいろいろ便利だから。はい、これ番号と、一応メアド。……あ、個人情報売らないでね。いちいち変えるの面倒だから」
彼女ともあろう人になると、個人情報が売買されるのか。ファンクラブみたいなものは確実にあるだろうし、冗談と笑い飛ばすことはできない。
「その点は安心していいよ。僕、基本ぼっちだから」
「まあ、情報リークしてもすぐ貴方が犯人ってわかるんだけどね。私が高校で連絡先教えたの、貴方だけだし」
僕は意外と信頼されているのかもしれない。いきなり声かけられて、彼女の家の場所を特定して、一緒にピアノを弾いて……いや、それしかしてない。どこで僕は彼女の信頼を勝ち取ったんだ?
ピンポーン。
「今の音は?」
「ああ、防音室にノックしても聞こえないから、インターホンをつけたのよ。たぶん、園田ね。悪いけど、ちょっと鍵を開けてちょうだい」
扉の鍵を開けると、彼女の予想通り園田さん。
「お嬢様。夕方のパーティーのご準備をなさってくださいませ」
「そういえばそんなものがあったわね」
わざと忘れてたみたいだ。
「じゃあ僕もお暇するよ。今日はいろいろありがとう」
「こちらこそありがとう。御礼に園田、彼を送ってあげて」
「承知いたしました。私が戻るまでに準備を終えてください」
「わかってる。じゃあ、また月曜日にお会いしましょう」
「じゃあね」
神垣麗衣に玄関まで見送られ、僕は彼女の家をあとにした。
「すごく大きい……ですね」
黒く大きな車は、見るからに高級車。ちゃんと僕の自転車も載せられている。自転車を持っていける時点で普通の車ではない。
「タケル君と言ったかね?」
園田さんはいきなり真剣な声でおっしゃったが、まったく僕の発言とかみ合ってない。
「はい」
「君はどういうつもりでお嬢様に近づいたのかね?」
「え?」
「なぜ君はお嬢様と親しくなったのかね?」
「ええとちょっと質問の意図がわからないのですが……」
「わからないか。ならば、単刀直入に訊こう。君はどっちの人間だ? 国か理事長側か」
ここまできて、ようやく僕は把握した。織風高校は、かつての国営公園の跡地にある。しかし、最近になってどういうわけか国が公園を復活させようとしているらしく、織高は移転するよう国の圧力を受けている(一説には地下にとんでもないものがあるのだとか)。もちろん理事長の八幡京子はこれに断固反対──余談だが、この織高には校長はおらず、その代わりに理事長がいる。これらは外部にはあまり知られていないが全生徒は知っている事実であり、表立って立場を表明するものもいれば、表向きは中立としながら裏でどちらかの味方をする者もいる。園田さんは僕がどっちの味方かを尋ねているのだ。
「僕はどっちでもありませんよ。そういうの、あまり興味ないので」
「今は君を信用しておこう。ただ、お嬢様を利用するような愚かな真似はしないことだ」
これは園田さんなりのアドバイスなのだろう。
「ご忠告感謝します」
「きついこと言って悪かったね」
「いや、別に大丈夫ですけれど」
「君がお嬢様の友人になってくれるのなら私も嬉しいのだが、近ごろお嬢様は何やら悪巧みをなさっているようだし、そろそろ嫌な虫が来そうな感じがしていてね。私も神経質になっていたのだ。どうやら君は変だが、悪い虫ではなさそうだ」
「あなたの方が変ですよ」
とは言えないので、
「僕は小心者なので神垣に逆らおうなんて思ってもいないので安心していいですよ」
「その言葉通りなら良いのだが。ところで、防音室で二人っきりで何をしていたのかね?」
「それはお答えしかねます」
面倒。結局僕を信頼しているのかいないのか、よくわからない。
「そうだ。お嬢様とのことは他言してはならぬ。たとえ私であっても開示する情報は取捨選択することだ」
「はい」
この人、どうも普通に会話ができないタイプみたいだ。深く関わらないでいこう。
僕はこの日そう決意したのだが、現実は真逆の方向に行くから面白い。
現実は面白い。予想の斜め上をいく。園田さんとの関係以外にも、想定外の事態が発生した。
体育の授業で金髪男子について調査するはずが、ペアワークで金髪と一緒になったのだ。珍しいことに彼は今日登校していた。そして、ペアワークをする相手のいない僕と彼は、残った者同士、組むこととなったのだ。これを奇遇と言わずして何と言おうか。
「やあ、四条君だったよね」
準備運動が終わり、ペアで体力テストなるものをする中、僕は人一倍大きな背中に声をかけた。
「ああ。お前は?」
機嫌が悪そうだ。
「羽戸尊」
「なあタケル、お前はどっち派だ?」
自己紹介の次がこの質問。やはりこの金髪、只者ではない。
「中立」
「そうか。奇遇だな。俺も中立をジニンしている」
自認なのか自任なのかわからないけれど、彼も僕に近い考えを持っているのかもしれない。
「奇遇と言えば、今日は体育の授業休まないんだね」
「体力テストは受けないといけないからな、そんなに奇遇でもないぞ」
「じゃあ、来週からまた来ないの?」
「ああ。今日だってなんとか予定を開けてきたんだぜ」
意外と話せる。園田さんよりはずっと話しやすい。気難しいタイプかと思ったけれど、フランクなタイプだった。
「予定? 学校に通ってるのにそんなに忙しいの? バイト?」
「まあバイトに近いものだと思ってくれていい」
「そんな調子で単位取れるの? 出席点の分もテストで点とるの大変だと思うんだけど」
「心配はご無用。俺が単位など落とすものか」
「どうして?」
「俺は天才だからな」
ここで僕は言うか言わないか迷った末、思い切って行ってみることにした。
「入試の時もすぐに解き終わって余裕そうだったもんね」
ここで四条君の表情が変わった。それまでは無警戒に僕と接していたのに、今は完全に見えない壁を張っている。
「あんな選択式の問題、消去法ですぐに解けるからな。五分もあれば充分だったさ」
可笑しい。彼は矛盾している。これはあとで神垣さんと話し合う必要がありそうだ。
「すごいなあ。僕は時間ぎりぎりだったよ」
「受かれば、あんま関係ないんじゃねーの。だから早く解き終わったとか解き終わんなかったかなんてどうでもいいと思うぜ」
「確かにそうだね」
それからは、僕らはたわいもない話をしながら体育の授業を共に戦った。四条君のことを気に入ったのが誤算であり収穫だった。ただし、その代償は大きい。
僕にシャトルランは辛すぎたのだ。