3・ナンヤ寮の約束
「ここが皆で集まる部屋だよ」
玄関を入ってすぐの大きな部屋が自由部屋。
暖炉が奥にあり、ソファーや大型テレビなど皆が寛げる空間が広がっていた。
「基本的に皆ここにいつも居るんだ」
ボクは部屋でやれっていうんですけどね
そういうセンさんの表情は少々嬉しげだ。ソファーに勧められるがままに座る。
「そうだね。それじゃあまずはナンヤ寮の約束」
シュウ、言えるよね?
センさんが無言で立っていたシュウを見つめた。
「言えるし。ナンヤ寮の約束
第一条 皆で仲良くすること
第二条 差別、いじめはしない
第三条 本人が言わない限り、突っ込んだ質問はしない
第四条 自分の役割をこなすこと
第五条 門限は守る
第六条 何かあれば親に報告してからやること
第七条 この寮に入った以上家族の関係を意識する
第八条 苗字の変更を守ること
だったかな?」
「そうだね。もっとあった気もするけど、それはまた今度で良いかな」
センさんは穏やかに微笑むとそう言った。
にしても、ちょっと気になる内容があるな。
「何か質問ある?」
「あっ苗字って変わるんですか?」
そう、ナンヤ寮に入ると苗字が変わるのは驚きだ。戸籍などの問題はよいのだろうか。
その考えを汲み取ったようにセンさんは話し出した。
「ああ、無理に変えなくても良いんだよ。戸籍上、仮苗字というのが新たに認められるようになったからね」
知らなかった。仮苗字というのが存在するのか。
どうやら、戸籍上、生まれ持った苗字と今家族として暮らしている人との苗字の二つ、つまり本当の苗字はあるが今はこの苗字を使っていますという仮苗字が認められるようになったのだ。そうすると、前の苗字に戻すことも可能で苗字で繋がる関係を改める必要がありそうだ。
「その時の苗字は……?」
「ああ、そりゃあ」
シュウがニヤリと笑う。何か想像がつく。
「南矢だよ」
ああ、それは……
「単純だな」
「ハル君、正直過ぎ。ボク、自信無くすし」
確かに単純だし、少しあれだが……何だか
「暖かい……」
胸に広がるこの気持ち。既に諦めていたはずだけど……
「やっぱり、良いな」
思わず零れた言葉をシュウが拾った。
「ん?どうした?」
「ううん。何でも。……でも、南矢で」
良いよ
そんな僕の言葉を遮るようにシュウが歓声を上げた。
「じゃ、俺ら兄弟だな」
「まあー、戸籍上そうなるね」
センさんが微笑む。
「ボクのことセン兄で良いからね」
「あっ……」
嬉しい
ただそう思った。
「改めてよろしくお願いします!」
分かっていらっしゃると思いますが、実際には仮苗字というものは存在しません。
わかりずらい表現でご不快になられた方がいらっしゃったら申し訳ございません。