1・ナンヤ寮へようこそ
本編です!
楽しんで下さい!
ぽつぽつと降り始めた雨。
暗く曇った空はまるで僕の心を表しているみたいだ。
「……はぁ」
零れたため息は雨音に掻き消される。
「くらっ何でため息何かついてんの?」
人懐っこい笑顔を浮かべた少年が覗き込んできた。
思わず、肩を揺らす。怖い……一瞬浮かんだ感情を殺すように僕は少年を睨んだ。
少年は笑顔を浮かべながら、言った。
「君、帰る場所ないんでしょ」
まるで全て分かっているように言ってくる少年に怒りが沸く。
「お前に俺の何が分かるんだよ!」
小さく、叫ぶ。
「……全て理解することはできないけど、君の居場所を与える事はできる」
だから、一緒に来ない?
「……っ」
何故、一緒に行こうとしたのかは分からない。ただ、彼なら僕のことを変えてくれる、そんな気がした。
少年は嬉しげに笑って僕を見つめる。
「オレのことシュウって呼んで!」
シュウは笑みを浮かべながら、僕に手を伸ばし、
「よろしく」
力強く手を握り締めた。
「俺は……ハル、で」
「うん!」
★☆☆☆★
どんどん先に行くシュウを追って、僕は駆け足で進んだ。
街灯に照らされた彼の横顔は綺麗で、ふわふわの茶髪は光に当たり、金に輝いていた。
僕と同じくらいの年齢だろうか。
華奢な僕に比べ、幾分か背は高いものの大人びいた印象はない。
「……ゎ」
ドンッ
突然、足を止めたシュウに思いっきりぶつかる。
「痛つぅ」
鼻頭を押さえて、涙目で顔を上げるとシュウが申し訳なさそうに謝ってきた。
「ごめんなぁ。それより、着いたよ」
「えっ」
気付かないうちに着いていたらしい。
木造の柔らかい印象の家で思わず笑みが零れる。中からガヤガヤと声が聞こえてきた。
「それでは、改めて」
くるっとシュウが振り返る。満面の笑みを浮かべ、両腕を広げた。
「ハル、ナンヤ寮へようこそ」
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