94 山椒は小粒でもピリリと辛いもの。
読者の皆様どうもこんばんは。今週は無事投稿出来ました。
さて、今回はまあタイトル通りです……山椒ってちょっとまぶすだけで風味代わりますよね(※本編には関係ないです)
それでは本編をどぞ。
……………(???)……………
トントントン。ノッカーを3回鳴らした。
すると、カチャリと鍵の外れる音が聞こえる…直ぐさまそっと扉を開き、内部へと侵入した。
そしてなるべく音を出さない様に閉めた。
玄関に入って直ぐに目に入るのは、外見に似合わない豪華な内装。
奇麗な白い壁に掛かっている湖を描いた絵画は見事であり、その近くの黒檀製の質素だが品の良い高いテーブルの上には薄紺色をした切子硝子製の花瓶が1つ。
何一つとってもこの世界のこの時代では相当な値打ち物だろう。
そして、そこに飾られている花は黒百合、莢蒾、ヤドリギ、アネモネ、クロッカス、オダマキ、アイビー……そして忘れな草。
全て事恋愛では恐ろしい意味合いを持つ花だ。
そこで思い出すのはあの野郎の不気味な笑顔と言葉。
“ここに飾る花は、ボクの彼女へ捧げる花だよ♥…︎本当、邪魔がなかったら今直ぐこの花達のベッドで彼女と寝るのに★”
アイツは完全に少女へ向ける愛に狂っていた。
……リアルにヤンデレが居ると言う事実に内心ビビっていた事を未だに憶えている。
無駄な事を考えつつも、目的の場所へと向かう。
それにしても改めて……アイツはあの花の意味を全て1人の少女へと向けているのだから恐ろしい。
思われている相手はある意味気の毒だ。
だが、同情は一切しない。
同情していたら私の身が持たない…だから私は彼女の身に起こるこれからの事を知っていても放置する。
しかも、傍観者ではなく私は手を下す方。
コトリと音を立てて、薄暗い部屋の中央に有る丸テーブルの陣の上へ魔力結晶を置いた。
私は私の身が可愛いのだ……家族やその他関係者が巻き込まれると脅されれば動かざるを得まい。
ヤツの脅しは本物だろう…
何せ、“何処にでも居り、何処にもいない”反則だと言える存在なのだから。
本当何なんだよあのチートは……
しかもそれを別の方向に向けるならまだしも、あんな下衆な事に散々使う何て……それに理由はもっと気色悪いし。
例え彼女が同郷の転生者だったとしても、まして現在進行形で主に経済面で相当な借りがあったとしても、それでも私は我が身可愛さで彼女へと敵を導く。
……私の家族が文字通り消されるのは嫌だから。
仕様がない、とは言わない……これは私の決めた事なのだから。
けど、最大限私の裏切りに気付けるチャンスは渡したし、あからさまにならない程度態度でもって伝えた。
“私は裏切っていますよ。”
だから気付かないのならそれは私の責任ではない……気付かなかった鈍感な己を恨む事だ。
さてと、恐らく不完全だろうが指定された陣は粗方出来ている。
後は魔力結晶をもう数ヶ所場へここ同様届ければいい…それだけで家族が全員無事帰って来る。
約束は違えないだろう。
それだけは確信を持って言える……ヤツは此方がちゃんと仕事をこなせば家族は返してくれる。
理由?
あの男にとって私の家族等どうでもいい存在だからだ。
そう、取るに足らない存在だと思わせられたからだ。
実際私は転生者なのに何の才能も知識も無いまま、或いは活かせない様な知識ばかりを持ってこの世界で生まれ変わった。
無力なのに歳ばかり喰っている私を私の家族は優しく迎い入れてくれた。
中には転生したと分かったら捨てたり殺したりした物騒な過去だってこの世界の歴史上あった事は既に知っている……知った時は覚悟したものだ。
けど彼らは私が言うまで黙っていてくれたし、言った後で何も態度が変わらなかった。
今だって貴族としての地位はあるけど特段優れた統治を出来る訳でも宮廷内で官僚として秀でている訳でもない。
剣術だって出来ない……ダンスもトークも今一つ。
臆病で無力で矮小な存在。
前世の“俺”と変わらなかった点はそこだろう。
その事をアイツは何故か知っていた……いや、恐らく彼女に関わる事以外全ての事が“見える”のかもしれない。
だから恐らく目を付けられたのだろう。
私は恩人であり仕事の同僚を裏切るしか自分の家族や自分自身を守る事も出来ない……人間として最低な存在に成り下がるしかそう出来ない。
済まないとは思っているし、何とかブロックしてほしい。
それに、恐らくあの野郎に捕まれば必ず成人向けの同人誌並に酷い事をされるに決まっている。
恐らく前世の俺なら興奮していただろう。
だが、現実となってみるととてもではないが無理だ……怖くて、内心ガクブルで、正直今も萎縮している。
…ナニがとは言わないが。
同時に前世そう言うジャンルへ興奮していた“俺”自身を殴り飛ばした上で爆発の魔術式を撃ってやりたくなる。
貰った認識阻害のマントを被り、私は家を後にした……
ルーナちゃん、どうか逃げてくれ……全力で。
……………(???)……………
怖い。
恐ろしい、恐ろしい……
ああまただ…また君を失ってしまうのかな。
それはいやだな……君が居なくなったらボクが死んでしまう。俺の心が駄目になる。私が狂気に飲まれてしまう。
無理だ……君がいないとか。
凍えてしまうから…今みたいに。
そう、ここは寒いよとても。
冷え過ぎる……身体と心が凍ってしまう。
痛くて苦しくて暗い…そしてそこには何も無い。
そんな所に大罪人である私は今も居る。
無力にも、暴走を止められないでね。
責めて君を傷付けずに消えて行こうと思っていたのに、ボクは(私は){俺は}望んでしまった……
“私を(ボクを){俺を}温めて”
そして再び君と出会った時、不覚にも願ってしまった……永遠にその温もりで包んでいてくれたまえ、などと。
君は{俺を}優しく温めよとしたのに、死んでしまった。
君はボクを受け入れようとしたのに、踏み躙ってしまった。
そう、(ボクは){俺は}君を再び何度も傷付けた………その度に君は嘆き悲しみ心の痛みに喘いだ。
そして、また(ボクは)君を傷付けようとしている。
私はそれを止める為に頑張ってはいるけど、大事な所が欠けた私が(ボクに){俺に}敵うはずもなく、きっと盛大に傷ついて壊れてしまうだろう。
そうして君を私も傷付ける。
何故かはっきりとした記憶は欠如しているけど、理解は出来る…きっとそれは君のお陰であり、この世界のお陰なのだろう。
……けど、自分を追い込んでもう手遅れである段階で気付く何て本当に救いようが無い。
何故もっと早く、それこそもっと訓練出来たはずの幼少期に思い出さない?
何故これ程無駄な時間を過ごしてしまったのだろうか……
それとも君と隣に立って一緒に戦いたいと望むのがそれ程傲慢な事なのだろうか。
本当は君にも戦わせたくない……大事に包んで仕舞っておきたい。
誰にも君が見られない様、誰も君が目に入らないように私と二人気の空間に閉じ込めて永久の刻を過ごしたいとも思う。
……それは君が望まない未来だと言う事を重々理解した上でだ。
けど何故か、私は君が大空で羽ばたく姿も見たいと思える。
君が気ままに好き勝手旅している姿を間近で見たい、出来れば一緒にそうしていたいと思っている。
君自身も私を誘ってくれた。
だから頑張った。
だが………頑張った結果知ったのが君の1番望まない最悪の未来だった。
私はそれに対して一体どうしたらいい?どう動けば君の望んだ『最善の未来』へと近付くか。
試練が終わった後も、私はそれを永遠とグルグル考える。
その事が解決出来なければきっと私は後悔する……後悔して、今度こそ彼女を深く傷付け永久に彼女を苦しめる事になる。
それを少なくとも(ボクが){俺が}やるだろう。
そうして考えていると、過去の私の記憶…いや、これは記録が正しいか……そんなものが蘇って来た。
それらを閲覧して行くと見えて来る私の目指すべき場所。
確かに彼女は悲しむが、これが最善か……
そして私は決意する。
例えこの身がどうなろうと必ず達成しようと……彼女の幸せの礎に私がなろうと。
そう、弱小な私が出来る事など限られている。
幾ら足掻いた所で結果が同じになるならば、一縷の望みに賭けをする事だって別にいいと思う。
それに完全に私が無くなる訳ではない。
ただ、私の事を時折思い出してくれたら嬉しい……私と言う存在は無くなる事は無いだろうけど今の『私』は無くなってしまうかも知れないから。
だからその前に1つだけ言わせてくれ。
ルーナ………
愛している、永遠に。
そんな分けで、また訳分からん伏せん回でした。
まあでもこの話しで粗方この後の展開がばれてしまったかもと、ちょっと内心ビビっていたりします……ネタバレしたらつまらないけどこの回挿まないとこれからの展開訳分からん状態になるので。
あとお知らせですが、ブックマーク2千人突破大感謝祭の閑話は土曜日の夜アップする事にしました……交通事故とか急病とか、或るいは何かしら急な予定が入らなければ今週の土曜日にアップされます。
どうぞ宜しく御願い致します。
さて次回はいよいよ事件の直前……視点がまた代わります。それでは宜しくお願い致します。




