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悪役放棄、更に自由人へ(仮)  作者: 平泉彼方
第一章 逸般人な悪役令嬢、好き勝手過ごす
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92 お嬢様の為なら火の中水の中

 読者の皆様、先週の週末は投稿出来ず申し訳ありませんでした。


 リアルがいつも以上に多忙だった事とTOEICテストを受けた為、原稿が間に合いませんでした。あ、結果はお察し、と言う感じで……もう少し頑張ります(~~;)


 さて、従魔サイドを続けず今回はルーナちゃんに仕える使用人視点にしてみました。それでは本編をどぞ!


……………(ハンナ・キリエル)……………



 お嬢様の柔らかな銀糸をそっと撫でながら、私はこれまでの多忙な時間を考える。

 そして、今日何度目になるか分からない溜め息を吐いた。



“お嬢様は働き過ぎです…”



 確かに貴女様の様に我々は万能ではないですし、それにお嬢様にしか出来ない事は多いと言う事実は認めます…力になれない事がとても情けなくて悔しいですが。


 ですが、少しは我々も信頼して下さい……



 そんな風に私が烏滸がましくも意見した時、貴女様は困った様な笑みを浮かべておりましたね…私をどう説得しようかと悩んでいるより何方かと言えば私を心配する様な、そんな笑みでした。



 ええ、そうでしょうね……知っていましたよ、割と最初から。


 お嬢様の御相手がとんでもない相手であり、お嬢様より長く生きていながらお嬢様の足下にも及ばない我々の手ではどうする事も出来ない強大な敵だと。


 そして、私達が手を出せば返り討ちにされた上でお嬢様を釣るための餌として使われる何て事も…



 ですが、私達はとても心配なのです…



 お嬢様が無理されて体調を崩される度に我々は思うのです……その内無理が祟って過労死してしまうのでは無いだろうかと。


 我々の住む世界から消えてしまうのでは無いかと。



 何故そこまで逝き急がれるのですか?



 時折遠くを眺めて何処か望郷の念に駆られた様な目を成されているのを私は見ています……ウォルターも気付いており、なるべくお嬢様のお側から離れない様に気を使っていました。


 隠しておられましたが、薄々気付いていました……前世の故郷を思っていらっしゃるのでしょうね。



 死して、そこまで生きたいと願っているのでしょうか?



 私は私に出来る事をして、なるべくお嬢様をこの世に引き止めようとしていました……けれど、毎度過労で病院へ運ばれる度に私は思うのです。


 このままだと儚くなってしまう、と。



 そして今回もお嬢様は我々の生命を優先しました。



 私はお嬢様の命の方が余程大切ですのに…私はいいのです、幾らでも替えの効く使用人です


 それに私は、かつてはお嬢様の家族を狙っていた暗殺者。


 現当主様…旦那様、そしてお嬢様によって私は生かされています。いえ、私の事実を知る御二人は私の生を否定された事がありませんでしたね…


 私がかつて孤児であり、娼館に売られた後出荷される前に暗殺者に身請けされて口にする事さえ憚られる様な事を散々仕込まれた汚れた身だと、知られているはずです。


 私がどれ程薄汚れた、お嬢様の目に入りたいと願う事自体図々し程泥まみれのゴミの如き存在だと言うのに……


 この様な命、幾らでもお嬢様の為でしたら…



 ですが、お嬢様の事です……そうなれば、とても悲しむのでしょう。



 お嬢様の悲しむ顔を私達使用人一同…いえ、家臣団一同は見たくありません!いいえ、領民達やルナライト社の皆様もお嬢様の悲痛な表情を見たいなどと思わないでしょう。


 だからこそ我々は必死で裏社会に居た頃以上に鍛錬しました。


 その結果、ウォルター師匠程では御座いませんがその足下には及ぶ様に何とかなったと思われます。


 ですが、まだその程度なのです。


 ルーナ様を御守りするにしても、相当力不足である事は自覚しております…それこそ今の状態では足手纏いにしかならないでしょう。



 しかし、そんな我々をお嬢様は信頼して下さりました…



 お嬢様からの指示を分身体より承った時、私達は歓喜と武者震いで全身が震えました……少しでもお嬢様のお力になれると、そう思って。


 日々鍛錬していた成果をここで披露しようと。



 常務をこなしつつ早急に指示された内容を準備して…先程全ての行程が済んだと使用人一同から連絡が御座いました。



 これより屋敷を中心に、巨大な結界術式を領内へと描きます。



 そしてその術式を描くものは、お嬢様の仰有る我々の鍛錬の成果を披露致しましょう……ご期待に添える為にも最大限努力致します。



 魔力・物理的干渉遮断の術式。


 今現在我々が失敗無く出来る防御術式の中で強力なのはこれです……本当は外的干渉遮断の方が強力だと思われますが、まだ魔力の流し方に斑が生じて発動が不十分になってしまいますから。


 ですがこの術式の特徴を考えれば此方の方がある意味強力になるとは思います。


 遮断するものを限定しているためその分遮断結界術式の保ちが良いでしょうし、元は補助用の術式でしたから主となる術式の補強効果が期待されます。


 何よりお嬢様考案の特殊な結界術式と相性の良い術式でしたから、相乗効果も期待で来ます。


 そして補助の術式を使って描いた術式は何より強力な効果を発揮する事をお嬢様自身が証明されていましたよね?


 更に効果を高める為、術式の素材は魔力石に致しました。


 魔物由来だと若干脆いですから、我々の魔力とも相性の良い魔植物由来の魔光石類に致しました。宝石ではリスクがある上勿体無いですからね。


 それに、魔光石類の硬度はダイアモンドを凌ぎますから。



 お嬢様の銀糸を梳かしていた櫛をそっと仕舞った。



 ではお嬢様、私も行って参ります。


 中央部となる公爵邸の魔術式は私が代表として発動させます。


 魔術式単体の使用はカールやウォルター師匠の足下にも及びませんが、複数の魔術式を他の者達と共同で初動させる場合は我々に分があります。


 だから安心して休んでいて下さい。



「それでは失礼致しました、お嬢様。」



……………(ウォルター)……………



 私はお嬢様が過労で少々病床へ着く事になると、約数ヶ月前に託かっておりました…勿論その際の対応等も。



「ウォルター……ジルヴァ殿下の生誕祝賀会を成功させるために暫く私は無理をするので、多分1ヶ月後には倒れると思う。」


 正直それがどのタイミングかどうかは分からない……シャドウとか腐敗貴族達の一件を片付けている色々忙しい最中になるかも知れないしね。


 故に、その時は私の身体は医療特区の連中に任せて家族や領民の保護を優先して欲しい。


 それから……」



 お嬢様曰く、成人でさえ2週間一睡もしなければ死んでしまうそうだ……それが若年、それも成長期ならば成長障害を場合によっては起こすとも。


 原理は一通り把握致しております。


 お嬢様監修、ルナライト出版の出した『本当は怖い〇〇』シリーズで紹介されていましたね……寝不足は万病の元だとも。



 お嬢様の体調不良の原因は明らかに我々の力不足。


 本当に……本当に申し訳が無いです。



 私達がもう少し、そう、ほんのもう少しでもお嬢様と並ぶ程の存在でしたらきっとお嬢様のお役にもっとたてたのでしょう。


 それは私が常々思う事。



“お嬢様と同人数分の分身体を作れれば…”



 責めて今現在もお嬢様に掛かっている公爵家の仕事の分の負担だけでももう少し軽減できていたでしょう……そうすれば、お嬢様はきっと胃に穴が空く事が無かったはずだ。


 今も、本人が倒れて入院しているのに分身体がずっと働いている……いつも以上の業務量をこなしつつ、各地で暗躍している事は知っている。


 そして、休んでいるお嬢様自身にもその影響が出ている事も。



 現在、頭痛がするのか時々苦しそうに呻き声を上げている。



 業務量が増えた為分身体の消えるタイミングが合わず、時々分身体が本体へ送る情報を吟味する前に消えてしまう事態となっているそうだ。


 こっそりとお嬢様の側で控えている私の分身体が逐一お嬢様のご様子を報告して来てくれている。



 私自身が行っているのは領内部の掃除だ。



 領内で発見された暗黒物質の置かれ方を見た限り今回内通者が居るのは決定と見ていいだろう……それが本人の意志かどうかは別として。


 何故なら、不審な点が多過ぎるからだ。



 まず、確かにお嬢様の仰有る通り我が領で毎年起こる自然現象を上手く利用しているというのは事実だろう。だが、その自然現象の起こる原理自体を正しく把握していなければそれを用いて術式を自在には描けない。


 そしてこれが1番おかしな話しだが、何故このタイミングかと言う事。


 その自然現象は確かにこの季節の風物詩ではある……だが、他の時期に一度たりとも起こらないという事は無い。


 実際、年に数回似た様な気候となれば時々起こるのだ。


 それをわざわざシーズン中に行う意味合いとは一体……他の時期に行えばまず発見される事も限りなく少ない上発見した場合であっても相手へ少なからず動揺を与える事が出来る。


 不信感を互いにもたせて潰させるのは、戦略としては定石と言える。


 領内で不和が起こったタイミングでお嬢様をどうにかすれば、この領は割合簡単に落ちるだろう……増して、相手が『影』ならば。



 寧ろ『影』は汚い事で有名だったはず。



 正々堂々など糞食らえと言わんばかりに手段を選ばずいともえげつない行いを今までしでかして来た連中なのだ……それなのに今更なんだろうか。



 どうも此の度の一件、私の目には不気味に写っている。



 元々得たいの知れない連中だったが、今回の行動はそれに拍車を掛ける様に意味不明だ……そもそも何故お嬢様が席を外していた時行動を起こさなかったのか謎である。


 舞踏会に出席していた時に襲撃していたならば、精霊結界があったとしても果たして耐えられていたかどうか……



 故に私は考えた……目的は別に有る、と。



 そしてそれを知るにはシャドウの手下を捉えて拷問して吐かせるのが手っ取り早いと思った。だからこそ、現在私は自分の極細魔力ワイヤーを領内へと張り巡らせた。


 魔力の消費が半端無い上、同時に処理する情報量が多くて脳が沸騰しそうだ。



 だが、これを耐えて私は実行役を探し出す。



 探し出して、相手諸共シャドウをこの手で始末出来れば尚の事良し……例えこの命と引き換えとなったとしても。


 何としてでも、お嬢様へ指一本髪毛一本触れさせん。



 お嬢様、私もまたお嬢様の為なら命の1つや2つ何時でも投げ出します。いざその刻がやって来たら、私はお嬢様の身代わりに喜んでなりましょうぞ。



 きっとそんな事は頼んでいないとお嬢様ならお怒りになるのでしょうね……ですが私の命は私自身のものですから、その使い道をお嬢様は決められません。


 なに、老兵(執事)若輩者(御主人様)の為に骨を折るものです。


 まあもっとも、まだ私には死期が来ていませんけどね……お迎えが来るのはもう少し先だと確信を持てます。



 さて。


 丁度目的の連中は見付かりましたし、折角後輩達の張った精一杯の結界が壊される前に処理してしまいますかね。



 二人ともルーナちゃんへの感想はほぼ同じですが、それに対する自身の対応と言うか思考は対照的です。


 一方はルーナちゃんを精神的に傷付けたくない、もう一方はルーナちゃんの命を何としてでも守りたい……


 多分この違いは老成しているかどうかと言う所ではなく、ルーナちゃんへの思い方なのでしょう……ウォルターはルーナちゃんを娘の様に、また密かに奥さん以外の愛しい者として見ていますから。


 番外編(現在作成・執筆中)でifとしてウォルター編も載せる事は決定として、本編でもルーナちゃんへ複雑な感情を抱いておりますから。


 まあ無理も無い……何せ、大体精神年齢は同じですから。


 さて、次回は多分また別の視点を描くかと思っております。それが従魔になるか、それとも領民になるかはまだ秘密です。


 それでは宜しく御願い致します。

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