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悪役放棄、更に自由人へ(仮)  作者: 平泉彼方
第一章 逸般人な悪役令嬢、好き勝手過ごす
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89 後悔、そしてそれぞれの道へ

 読者の皆様どうもこんばんは。何とか投稿間に合いました。


 さて、今回はルーナちゃんでて来ません!更にルーナちゃん以外の人達も出てきません……じゃあ誰が出るのかと言う事ですが、彼女と関係がある人と記しておきます。


 それでは本編をどぞ。


……………(???)……………



 ゴーン、ゴーン、ゴーン…



 寺院の鐘が厳かな音で刻を告げた。


 同時にバサバサと羽音を立てて飛び立つ白い鳩の群……空を一直線に進んで行く。


 それに釣られてふと空を見上げると、温かな陽光で白を混ぜた様な茜色に染まっていた。


 冬の夕日が人々の心をそっと温める…そんな光景。



 私はゆっくりと顔を上げ、去年亡くなった私の従姉妹をふと思い出した………数奇な人生を送った彼女の事を。




 私はずっと彼女に幸せになってもらいたかった……そして余計な事をして、彼女からここ最近ずっと避けられてしまっていた。


 思い出すのは正月、彼女と初詣に行った時の事…



 あの時何故、私は彼女へ結婚を強要する様な言動を取ってしまったのだろう……もしそんな事をしていなければきっと彼女は死ななかった。



 私から離れるために、結婚をしないためにきっと拠点を移動したのでしょ?


 思わず、もう冷め切ってしまった安いココアの缶を握り潰した。



 私の兄の様な存在と言えばいいのかな?彼女に勧めたのはそんな人だった……見てくれは悪いけどとても性格が良い人。そして自分や他人に厳しいけど身内には甘くて、特に彼女の事をずっと気に掛けていた。


 1人で大丈夫だろうか。辛くないだろうか……そんな風によく悩んでいた。


 けどしつこく接し過ぎて、逃げられてしまった…



 周囲の人達は彼がどう感じていたのか直ぐに感知して、生暖かい目で見ていた。出来れば2人とも幸せになってくれないかな、そんな望みをもって。



 彼女が死んだ事を知った後、彼は仕事と私生活のバランスを崩して1年経たずに病死してしまった…


 息を引き取った後の彼の表情は、彼女の居なくなった後の生前と比べてとても穏やかで安堵した表情だったのを良く憶えている。



 もし、私が余計な事をしなれば……



 後悔ばかりが押し寄せて来る……何で私は2人を放っておかなかったんだろうか。何故いつもそうやって介入したがるのだろうかと。



 どんどんドツボに嵌って行く。



 そう言えば私が勧め彼女が嫌がったものの1つとして、乙女ゲームもあったな……


 私は恋愛小説や乙女ゲーム、それから他人の恋バナとかが大好物だった……過去形なのは、彼女の死後から1つの事を除きそれらを絶っているからだ。


 彼女の生前、良く私は一緒にゲームしようと勧めたりしていた。



 無理矢理一緒に遊んだ唯一のゲームは『茨ノ王宮』。私が特に好きだったゲームだ。



 悪役令嬢ルーナが不憫過ぎる所を除けば、私的にストーリーはある程度面白い。そして何より声優陣が豪華でCGやイラストもまた美しく、使われているBGM等もクラシック音楽が多くて雰囲気が良かった。


 その他にもシステムもミニゲームが結構有ってRPG的要素が多いのがとても特徴的で、客層が結構幅広かったそうだ。


 彼女の評価としては、RPGの部分は本格的な狩りゲー要素があって面白かったとしても、内容がひど過ぎると酷評を頂いたな……特に貴族社会の在り方があり得ないと。



 何故彼女が貴族社会についてある程度把握しているかどうかは今いいとして、彼女の言う事にも一理あると納得はした。


 そして、同時に不憫過ぎる悪役令嬢ルーナの在り方に涙したのも事実だ。



 けど、これって遊びなんだしそこを気にする?



 その事で一方的な喧嘩をした事を憶えている……怒る私をいさめつつも、苦い様な笑みを浮かべて。


 少し泣きそうな表情をしていたな……



 原因は知っている……信じていた人物に裏切られた事だ。



 彼女の命と貞操の恩人であり、生き抜く上での大切な師匠だった存在だと一度語ってくれたっけ?


 誘拐された先で何度も助けてくれた……そして、自分に生きる術を伝授してくれた。


 そんな心優しい暗殺者だって言っていた。


 ……正直どこの乙女ゲームの攻略対象者だよ、などと即行で突っ込んだ憶えが有る。



 けどここは純然とした『現実』。乙女ゲームの様な生易しく甘い展開なんてあり得ない。



 彼女の愛していた兄弟子の死、そして彼女が第二の父親だと慕っていたマフィアのトップの死。


 立て続けに大事な人達を亡くしたが、何とか立ち直ったそうだ……彼女の葬儀で知り合った元同僚曰く。



 けど、彼女を育てた暗殺者に異性として見られていた事実を知り、更に強引な手段で手を出そうとした事が切っ掛けとなり全て崩壊したと……


 彼女はその時だけは泣いたそうだ………大声で、耐えきれない様子で。



 その後逃げる様に日本へ戻り、個人の持つコネと経歴からあっさりOLとしての人生を謳歌しようとしていた。


 結局死んでしまったけれど……




 今日は彼女の月命日………私は御墓参りに来ている。



 可愛らしくも凛々しい青と紫の牡丹菊を選んで、奇麗に洗浄した墓へと添えた。そしてお線香を上げて、合掌。


 今日も来ましたよ…どうか、次は幸せになって。



 それと、乙女ゲーム『銀糸ノ奇跡』は絶対に攻略するから。



 『茨ノ王宮』のスピンオフ作品で、悪役令嬢ルーナが主人公のゲームだよ。


 内政・冒険何でもありで、攻略が一部を除けば簡単であるだけに幸せな結末へ持って行くのが兎も角難しいゲームだよ。


 運営陣の新たな方針で逆ハーレム禁止になったからだ…


 まあどの道逆ハーレムは不可能だと思う…攻略対象の殆どが死亡エンド有りのヤンデレと言うガチな無理ゲーだから。



 けど、何故かこっちの作品の方が評判がいい。



 恐らく前作で不憫だったルーナを幸せに出来る事、そして何より乙女ゲームとは思えない程リアルなストーリーになっているからなのだろうね…特に攻略後もルーナの人生が終了するまで継続するゲーム。


 最初は斬新すぎて売れるか心配されていたっけ……結局懸念に終わった様だけど。



 更に、リセット機能を使わず全キャラを攻略すれば隠しキャラ、と言うより無理ゲーキャラを攻略出来るとか……



 確か、ルーナの本来の“運命”であり、唯一のトゥルーエンドだったっけ?



 運営陣が公式にそう発表して以来、その事について尋ねる質問に対して徹底的に黙りを決めているそうだ………ただ、”誰か攻略してくれた人は1つだけ望みが叶うかもしれない”と言う意味不明な言葉を残して。


 望み云々に付いてもそうだったが、隠しキャラ出現の無理ゲー具合を討論するスレッドが結構出ていたな…


 実際鬼畜な条件だったからね……攻略キャラ沢山居る上でヤンデレ怖いと言いたくなる様な展開も多かったし…



 けど、私は攻略します。



 願いを叶えたい事もそうだが、何よりやっぱり気になるのだ…どんな展開になるのかと。


 あのルーナがどうやって幸せになるのかと。



 公式に寄れば、ルーナの1番望んだ展開がまさにそれだと説明していた。攻略出来ればきっとアッと驚くと。



 私はどうしても知りたい……そしてそれを由樹へ伝えたい…




「う〜ん…やっぱり私はこのストーリー納得いかない……何と言うか、不自然に感じるんだよね…」



「どこが?」



「ルーナが全ルート不幸になっている所とか、後は何で攻略対象がこれだけチョロいのかって所とか……現実味が無さ過ぎだしまさかE○なのか疑いたくなったよ…特にルーナちゃんの体型と性格をヒロインと比べちゃうとね……」



「うわ〜、シナリオとキャラ全否定されちゃっているよ…」



「イヤイヤイヤ、男って基本出しゃばりで自分の事情に介入し過ぎる女は嫌うものだよ?これって一時期男社会で少年として生きて来た私が言うんだし間違いないと思うよ?その点私が攻略対象者だったらヒロイン大嫌いになるね……こんな自分を理解した気になって相手の懐へずかずか入って来る図々しいヤツ。」



「ギャ〜止めて〜!!!夢を壊さないで〜!!」



「それに比べてルーナは控えめでお人好しで……私が異性だったらこんな女のコが目の前に居れば直ぐ様ロックオンするだろうね。あんなヘタレや不○野郎なんざ似合わないし。


 真面目に何故彼女がどのシナリオでも悪役、もしくは生贄にされちゃうのかね?


 私が彼女だったらきっと全部フラグをへし折るだろうな…絶対シナリオ通りに動かないし全力で自分の幸せを求めちゃうだろうね。まあもしそれでも世界補正とか動いたならば、早々に周囲を見限って自由気侭なぶらり冒険譚になるかもね。」



「………じゃあその、世界補正がなかったら由樹がルーナになれば死亡フラグを全て折れるってこと?どんな展開になるの?」



「さあね?けどまあ、そんな話しも見てみたい気もしないではない……まあ制作者達が続編でそんなものを出したら貸してもらうかも知れないな。」




 今は亡き私の憧れだった由樹ちゃん……彼女はそんな風に薄く笑いながら言っていた。


 優しそうに目を細めていたのでルーナというキャラが相当気に入っていた事も知っている……何度かバッドエンドにわざと入ってルーナが幸せになる展開を探していた事も。


 まあ結局『茨ノ王宮』で幸せ展開は1つもなかったが。



“私が幸せな展開へ導くよ。”



 そっと墓石へと語りかける……すると、何処からとも無く白い花びらが舞った。ふわりと香るは薔薇の香。


 葬儀の後、雪見草と共に墓へそっと添えられていた白薔薇をふと思い出した。



……………………………………



 帰り道、ふと振り返って見るとそこには憔悴した様子の年上の女性が居た……それも、突然道に倒れてしまた。



「!!大丈夫ですか?」



 慌てて私は駆け寄り、彼女を近くのベンチへと誘導した……見ると顔色が悪く、今にも死んでしまいそうだ。



「……ええ、大丈夫。ありがとう。」



 彼女の手は氷の様に冷たく、血の気も殆どない様な状態だった……慌てて先程買い直したホットココアを渡したのは言うまでも無い。



「救急車、呼びましょうか?」



「……大丈夫。具合が悪い訳ではないので…ただ、ちょっとだけ……」



 そこで彼女の顔を見て思い出す……ああ見覚えが有ると思ったら、報道されていた人だったと。


 確か、闘病中だった彼女の一人娘が最近死んでしまった女性だったと思う。



 曰く…


 生まれてからずっと病院で暮らし、外の世界を知らなかったとか。いつも美味しいご飯を食べたい、人並みに学校へ行ってみたい。そう言いつつ全てを諦めていたと。


 そして死因だが……自殺だそうだ。



 更にマスコミに寄れば、確かに現代医学では不治だとされている難病を患っていたそうだが、それでも周囲のサポートが有る場合は通常通り生活が送れると。


 実際、同様の病気に掛かりながらも普通に学校へ通い大学出て就職して結婚してと、周囲の助けを借りつつもちゃんと日常生活を送っている人も居る。



 けど、彼女は違った……



 母子家庭、しかも母親の就職先も破綻し掛けの会社のしかもパート……当然お金が無く、サポートを満足に受けられなかった。


 病院に掛かる費用も馬鹿にならないため、なるべく安く済ませなければ。


 そんな事情から大学病院の研究所の治験対象として治療を受ける事となった……予め病状が悪化する可能性についても同意するサインを母親はしたそうだ。



 しかし、そこから地獄が始まった……



 通常より少し安い治療費用も馬鹿にならないのに、娘の病状は文字通り悪化した……日常生活に支障を来すレベルに。


 そして結局病院の一室で彼女は生涯過ごす事となったとか…



 報道陣はここぞとばかりに大学病院の関連研究所を叩いた。更に聞かれたくないと言っている患者にまで手出しして逆に世間的に叩かれているのはまた別の話しだが……



「………全部私が悪いの。私があんな事を言わなければ……」



 憔悴しきった女性は、涙は既に涸れている様で静に諦めた様子で語った。


 ……恐らく自分が心無い事を言ってしまったんだろうと。



「……御免なさいね。」



「いえ……実際、私も余計な事を言って大事だった、姉の様な人を去年無くしています。」



 だからどうしたとも言えなくないけど、何となく共感してしまう。



 お互い少しの間黙っていた……けれど、同時に立ち上がった。



 その拍子に彼女の持っていたバッグが落ち、中身が散撒かれた……幸い夕日が沈んだばかりでまだ明るかったので、慌てて拾って上げた。


 そして目に入って来たのは乙女ゲーム『茨ノ王宮』。



「………このゲーム」



「娘…由良が生前好きだったそうです。このゲームのヒロインの様に元気で活発になりたいと、いつも語っていたと彼女と友人だった男の子が教えてくれたんです……」



 切ない表情で、懐かしむようにそう言いながら、大事そうにゲームのパッケージを抱えた。



「そのゲーム、最近続編が出ていますよ。」



「そうなのですか……娘の仏壇にお供えしましょうかね。きっと天国で喜んでくれるかな…」



 そうぽつりと呟いた。



「では。」 「ええ、ありがとう御座います。」



 私達は別れた。



 彼女は駅のある明るい繁華街へ、私はまだ電灯の灯っていない暗い駐車場へ。



 彼女は弱々しくも、足取りはしっかりとしていた……きっと大丈夫なのだろう。ショックは大きくても、母はやはり強い者なのだろう。



 私は……やっぱり駄目だな。


 こんなんだと、きっと由樹に笑われちゃうだろうな……何をそこまで気にしているのかって。



 頭で分かっていても、まだ彼女の死は受け入れられない。



 直接的には私の責任ではなかったけど、彼女を生前傷付けて我が家を彼女が避ける切っ掛けを作ったのは紛れも無く私。


 彼女の事情を元同僚達から聞いて知った、私の知らなかった彼女の姿。


 敏腕な傭兵や交渉役として各地で働き、様々な事を行っていた……そして彼女には愛する者達が沢山居たと。


 けど、次々と愛した者達は死んで逝った……戦場で。


 そりゃ、生温い御都合主義の乙女ゲームが嫌いにもなるかも知れない……或いは人の恋路を野次馬するのも辛かったのかも知れない、自分の事を思い出して。



“もう恋愛とかしない、したくない”



 …彼女が師匠と慕っていた男性に媚薬を飲まされ手出しされそうになってからは、きっとそんな風に思っていたのだろう。



 もう過ぎた事だと分かっていても、私はやはり押し寄せる後悔の波に苛まれた。



 ゆっくりとした少し弱い足取りで、私は暗い帰路を歩んだのだった。



 一応色々不安なので、記しておきます。


 この物語はフィクションです。故に、出て来る役職や施設、組織等は筆者の空想と妄想とちょこっと真実かどうか怪しい事をブレンドさせてそれっぽく書いている事もあります。故に、現実とは関係ないです。


 そんな分けで、大学病院関係者の皆様御免なさい……そして重要なのでもう一度言いますがこの話しはフィクションです。


 さて、今回登場したのは地球です。


 プロローグに一瞬だけ登場しただけでしたので、実質初めて登場した事になるのでしょうか……そしてでて来た登場人物もまた初登場です。


 今話に関しては、多分賛否両論あると思います……特に最後の部分等は。


 けど、この話しは重要です。閑話っぽい感じですが、とても重要な話です。


 ただ、私は伏せんの張り方がまだまだ未熟なのでこの話を読んだだけでこの章のオチを大体予測出来てしまった人も居るかも知れないです…申し訳ない……


 まあでもまだ話しは続きますし、とても分かりにくく隠された(実際自分でも一瞬忘れた…)伏せんのうちまだまだ回収されていないものが結構あります。


 回収されたとき、一体どんな展開になっているのか…


 次回は謎が解決される部分と深まる部分が出て来るでしょう。どうぞ宜しく御願い致します。

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